痛そう
ローランが嫁になり、一週間程が経過した。勿論盃は嫁になった当日に交わしてますとも。
「私は、皆と共に歩いて行きたい」
「俺はミーヤに、俺の全部を捧げよう」
「私は、三岡美夜は、皆と共に生きていく」
ローランの考え方はちょっと改めた方が良いんじゃないかとも思うけど、まあそれは追々で良いだろう。下手に指摘すると悪化しかねないし。
あ、そんなローランだけど口布で口元を覆うのを止めた。何でも「口布付けるとミーヤに口布下げられた瞬間とか思い出して悶えるから無理」との事。可愛かった。
さてそんな感じで一週間だけど、もう何か気付いたら王都がホーム状態になってるよね。宿屋無料だし食事無料だし、ギルドはあるし顔見知り多いし。ちなみにエヴァンさんとケインさんの店だけど二日前にオープンした。賊に狙われてたからオープン出来なかっただけでオープン準備は既に終わっていたらしい。
「……来てくれたのはありがたいけどさ、お前らめっちゃ食うよな」
「これでも宿屋で食べる量の五分の一程度ですよ」
「嘘だろ」
……うん、オープン初日に食べに行ったらエヴァンさんにそう言われたよね。でも本当の事なんです。
私、イース、ハニー、アリス、ヒース、マリン、パンドラ、ローランは食べる量も平均的。しかしそれ以外、ラミィとコンとアレクとハイドとノアとロンは大食いだった。でもそれぞれ燃費が悪かったりするから仕方ないんだよね。
「見た目一番小さい子なのにあのノアって子、凄い食べるね。おじさんビックリしちゃう」
「ああ、ノアってしっかり食べないと魔力不足で活動停止しちゃう危険性があるから。だから空腹を満たすっていうよりも動力源として摂取してるって感じ?」
「へえ。というか俺、アレクの食欲にもビックリなんだけど。腕骨だしローブのシルエットからして背骨までしかないでしょ?内臓どうなってるの?」
「恥ずかしいから見せられないけど内臓は無いよ。骨だけ」
「えっ、その場合食べ物はどこ行くの?」
「さあ?」
ブラッドさんとアレクの会話は……うん、何か、そういやその辺って疑問を持つトコだったよねって思ったよね。何か魔力に変換がどうのこうのって言ってたし、いつも普通に食べてるから内臓とか気にした事も無かったわ。いやまあ気にしてもどうにもならないだろうから良いんだけど。
「つかさ、ミーヤ」
「はい?」
「お前ら目当ての客のお陰でオープン初日に満席になったのは良いけど……」
「ああ、はい……」
どうもエヴァンさん達の中では、ケインさんの事はあんまり公言するつもりじゃ無かったらしい。まあ第一王子だしね。
なので完全に厨房担当の予定だったらしいんだけど……うん、私達を見にお客さんが来て、満席になって、つまり配膳の手が足りなくなって、
「……すまん……待たせたな」
「ヴォワッ!?第一王子!?」
「第一王子に配膳されるとか俺明日死ぬの!?」
「……そんな事では、死なないだろう」
「あっ、駄目俺ケイン様と会話成立しちゃったさよならブラザー」
……うん、店内で一部カオスが巻き起こってた。主に配膳もやり始めたケインさんを見た人達によって。
いやまあ、うん、その、変に騒いで迷惑掛ける感じのカオスじゃなくて、はわわわわ!って感じのカオスだったけどね。あちこちで生ケインさんに被弾する人達が居てちょっと面白かった。
エヴァンさんには「ケインの事はそこまで広める気は無かったのに」って言われたけど、同時に「まあ、どうせすぐに広まるだろうから良いか」って言ってたから良いって事にしておく。
ブラッドさんも「最初っから客が多い時だけ見れる王子様って扱いの方が客引きにもなりそうだし、良いんじゃない?」って言ってたし。付き人のブラッドさんがそう言うなら問題は無さそうで安心した。
そんな事がありつつも普通に依頼をこなしたりして日にちが経過したわけだけど、ふと思い立ってアイテムポーチの中を確認していたら、ある事に気が付いた。
「……あー……」
「どうした?ミーヤ」
ベッドの上に座り、その膝の上に私を乗せて椅子のようになっているハイドが私の顔を覗き込んだ。
「……なあ、近くね?アレ近くね?」
「デフォルトだから慣れろ」
「俺らは結構早く慣れたけど、ローラン中々慣れねえな」
「だって今まで好きな人にあんな近距離で身を許してもらえる事なんて無かったし!」
「…………そうか」
「ローラン、蜂蜜入りのお茶をどうぞ」
「え、何その気遣いの目。複眼でもわかるくらいのその気遣いの目は何」
上からローラン、コン、ヒース、もう一度ローラン、ロン、ハニー、最後にまたローランの順である。
あれかな、人間だからちょっと距離感とか気にしちゃうのかもね、ローランの場合。ヒース?ヒースは魔王城で色々学んだらしいから感覚は結構魔物寄りなんだよね。
それはさておき、私は背後のハイドにもたれ掛かって言う。
「上級ドラゴンの集落でお土産に貰ったアイテム、セレス達に渡すの忘れてたなーって」
「……そう、いえば……確かに……」
「ギルドのメルヴィルには渡していたが、その後いきなり依頼だったからな」
「だね!依頼だったし賊だったからお土産渡し忘れちゃっても仕方ない!」
ラミィ、パンドラ、マリンの言葉に笑みを零しつつ、「皆王城に居るかなー」と私は呟く。
「渡しに行くのぉ?」
「うん、折角だし。あ、でも依頼とか無いから流石に王族には会えないかな」
門番さんとはそれなりに仲良く……うん、本当に何故か仲良くさせてもらってるけど、相手が王族なのは揺るがぬ事実なんだよね。何故か頻繁に会話したりしてるけど。
こないだなんてハイドの希望で服屋さん寄ったらセインとアディさんに会ったし……デパートで偶然知り合いに会うくらいの気安さで会っちゃう王族ってどうよ。いやまあ庶民の暮らしもちゃんと見て回ってる王子って事だから良い事なんだろうけどね。
「……エルピスで確認すると、今から王城に行くとケインは店の厨房、セインは海で砂遊び、セレスとアランは勉強時間で抜けれないから会えない、という未来の確率が一番高いな」
「それセイン一人だけ理由おかしくない?」
「今から海に行った場合の未来に砂浜で落とし穴と城を作ってアディに埋められるセイン、という未来が見えるから仕方ないだろう。俺様に言われても困るぞ」
パンドラの未来予知で見た光景なら多分確実にそうなるんだろうな……セインに合掌。いやまあ未来の光景だから今はまだセーフかも知れないけど一応ね。気分気分。
「んー……王族には会えないとして、パンドラのエルピスで他に誰か会えるかどうかって見れる?」
「ああ、王の剣には会えるぞ。獣人部隊は丁度遠征中で居ないらしいがな」
「あらー」
あれから王族に会いに王城へ、っていうのが多かったからあわよくば久々に会ってお土産渡そうかと思ったのに。残念。
……まあでも王の剣メンバーの誰かに渡しておいてって預けておけば良いかな。
「んじゃ、王城行こっか。お土産だけ渡しに」
「……ミーヤ、ミーヤには自覚が無いかも知れないんだけどさ、普通の一般人は土産を渡しに王城に行ったりはしない」
「あ、やっぱ門番さんにも何か渡した方が良いかな?上級ドラゴンの牙とか」
「門番の手には余るよなソレ!?てかわざと言ってるだろミーヤ!」
「あっはっは」
だってローランの反応が良くてつい。それに色々と今更過ぎるよなーって。
「まあ、うん。お土産にする予定で貰って来た物だから早めに渡して手放したいんだよね」
多分途中でいつも通りおっちゃんがジュース売ってるだろうから、門番さんにはそのジュースをお土産に渡そうかな。
そう考えていると、ローランが眉を顰めて言う。
「……手放したいって、どんな土産渡すつもりだ?」
「いや何かレアなアイテムとか上級ドラゴンの抜け殻とか角とか牙とか」
「本当に何でミーヤはまだEランクの冒険者やってんだよ」
「まあまあ」
「よくある事よくある事」と言うと、ローランは「ミーヤがそう言うなら慣れるけど……悪人に目を付けられないように気をつけろよ?」と心配そうに言った。うん、心配掛けさせてごめんね。
でも目を付けられても平気な気はするよね、と返すと、ローランは「わかる」と即答した。だよね。
そんな会話の後宿屋を出て王城に向かい、門番さんに途中で買ったジュースを差し入れるとあっさり王の剣が居る場所を教えてくれた。王の剣用の訓練場に居るらしいけど……。
「あの、凄いあっさり教えてくれますけど良いんですか?」
「ミーヤ達には恩があるから基本的に出入りフリーって指示されてんだ」
「王城の警備が心配になるんですけど」
「そこで心配出来る子が相手なら問題ねえよ。ホラ、行った行った。王の剣は向こうの方な」
「……ありがとうございます」
思わず苦笑しちゃったけど、確かに私達はセレス達に対して何かする気は無いわけだしね。それに内部に侵入されても使用人さん達の三分の二は事情持ちの方々だから余裕で対処は可能なんだろう。
……うん、スノードロップのメンバーが手出し出来なかったくらいだもんね。そりゃ余裕か。
「こーんにーちはー」
「ミーヤ!?」
訓練場でそれぞれ矢を射ったり短剣を投げたりテーブルに向かっていたりする皆に声を掛けると、「え、何で!?」と驚かれた。はっはっは、まあ私も驚くだろうから当然の反応だわね。
「ミーヤさん!お久しぶりです!」
「おっと」
と、思っていたら最年少のリーンちゃんは硬直からの復活が早かった。飛びついてきたのをしゃがんで受け止める。
「うん、久しぶり。って言っても一週間だけどね。……あれ、髪飾り変えた?」
「わかりますか!?こないだお店で見かけて気になってた髪飾り、アボットさんがプレゼントしてくれたんです!」
「そっか、良かったね」
嬉しそうなリーンちゃんの頭を撫でながら、私はアボットに「どういう意味を込めてのプレゼント?」という視線を向ける。あ、「いや純粋にプレゼントだよ。欲しがってたし同じパーティに所属する魔術師仲間だからね。含まれてる下心はモチベーションの為ってくらい」って目で返された。ロリコン的な意味が無いなら良いや。
……いやまあ、私が気にする事じゃないけどね。でもやっぱりアボットは前科がある上にニーラクス学園出身だからちょっと警戒しちゃうんだよね。うっかり越えちゃいけない線を越えかねないって意味で。前科あるし。大事な事だから二回言いました。
そう思っていると、ニコラスさんが「久しぶりだな、ミーヤ」と話しかけてくれた。
「今日は何か用か?」
「ニコラス、その言い方じゃまるで用が無いなら来るなって意味に聞こえるわよ?」
くすくすとニコラスさんの背後で笑いながらそう言ったロロさんの言葉に、ニコラスさんは少し無言になってから再び口を開いた。
「……よく来てくれた。用があっても無くても自由にしていってくれ」
「いや、あの、お気遣いなく」
というかニコラスさんリーダーなのにロロさんに頭上がらないんだね。裏ボスなのかなロロさん。
「というか普通に用はありまして、渡しそびれてたお土産を渡しに来たんですよ」
「土産?」
「はい」
頷き、一旦リーンちゃんに離れてもらって私はアイテムポーチから中身がパンパンに詰まった袋を取り出す。
「えーと、この袋の中には上級ドラゴンの鱗が入ってます」
「待ってくれ」
ニコラスさんに頭を抱えられてしまった。
「……鱗?」
「はい。あ、脱皮殻はサイズが大きかったんでロンの保存空間?に入れてもらってます。こっちは脱皮前にちょっと捲れたりしたから剥がした鱗らしいです」
「まあ、人間にわかりやすく言うならささくれだな」
「ささくれ……ドラゴンのささくれ……?」
ロンの言葉にニコラスさんが完全に頭を抱えてしまった。
そんなニコラスさんに大丈夫ですか、と声を掛けようとした瞬間、
「脱皮殻も上級ドラゴンのものか!?」
アンナさんがキラキラな笑顔でニコラスさんを押し退けてそう言った。
「……あ、はい。あと生え変わった角とか牙とか爪とかもありますよ。要ります?」
「是非貰おう!上級ドラゴンは百年に一度しか脱皮しない上、そういった物は殆どが勇者や冒険者の装備に加工されてしまっていたからな!隅々まで調べるまたとないチャンス!」
「感謝するぞミーヤ!」と、喜色満面の笑みを浮かべたアンナさんに思いっきりハグされた。あ、思ったよりアンナさんのおっぱい大きい。これは着痩せするタイプだね。
「いや正直言って一週間でローランの面倒臭さに耐えかねて返品しに来たのだろうかとも思ったがまさかこんな素晴らしい土産を渡しに来てくれるとは!ローラン!お前の旦那は良い旦那だな!」
「当たり前だろミーヤなんだから!つか俺ミーヤの嫁の中では面倒臭さそこまで高くねーし!」
いや多分今は安定してるから大丈夫ってだけで、不安定状態だと結構面倒臭さ上位だと思う。言わないけど。
「というかアンナさん、私嫁を返品するような奴だと思われてたんですか?」
「いや、ミーヤならしないだろうとは思っていた。……が、ローランの面倒臭さが上回ったらその可能性も無くはないな、と」
「そんな可能性はありませんて。返品する気無いし」
「ミーヤ大好き!」
ローランに後ろから抱きつかれたので腕を回してわしゃわしゃと頭を撫でておく。うん、甘えたがりなのは良い事だね。甘えたいのに甘えられないよりは、甘えたいがままに甘える方が私からも甘やかしやすいし。
「んで、ロン。脱皮殻出してくれる?」
「ああ、構わない……が、十体分以上あるのだが……どうしたら良い?」
「十体!?」
驚かれてしまった。
いやでも、ボスが持ってけって言ったんだよ。一体で良いって言ったのに、
「嵩張るから邪魔臭えんだよ。人間で言ったら日焼けで剥けた皮みたいなモンだから小生らにはゴミでしかねえし。なら欲しがる人間にくれてやった方が無駄がねえだろ」
……と言われてしまっては仕方が無い。実際サイズがデカくてめちゃくちゃ場所取ってたのも事実だったからね。
「この訓練場は広いが、恐らく一体出すだけで場所が埋まるぞ?」
「流石は上級ドラゴンなだけはあるな……!とりあえず一体分出してくれ!」
「うむ、わかった」
頷き、ロンが誰も居ない空間にドラゴンの手を翳すと、空中からドザァッと上級ドラゴンの脱皮殻が落ちて来た。
「…………とんでもなく状態が良いぞ!?」
「邪魔臭いからと岩壁の中に掘った穴の中に詰め込まれていたからな。森などで数百年以上野ざらしにされた脱皮殻とは違うだろう」
ロンの言葉に、アンナさんは瞳を輝かせて「素晴らしい!」と脱皮殻に夢中になってしまった。
「……なあ、アンナ?上級ドラゴンの鱗や牙から武器や防具を」
「リーダー、これは私が受け取った私の研究材料だ。かつての冒険者達は上級ドラゴンの鱗や牙と見るや否や即座に武器や防具にし、私達研究職の者にまったく渡してくれなかった。そして私は同じ研究職の者と共に研究する気だ。恨みを買いたくないなら、後はわかるな?」
「……はい」
ニコラスさん弱い。アンナさんの鋭い眼光と圧のある声に即負けした。でも理由が真っ当だから頷く以外無いのも事実というね。
「あの二人の事は置いといて……もしかして、他にもあったりするんですか?」
「あ、はい」
ロロさんの言葉に頷き、私は貰って来たアイテムを取り出し始める。
「えっと、この辺はアクセサリー系ですね。シンプルなのが多いからセレスにどうかなって」
「そうですね、姫様のお勉強が終わったら渡しますよ」
「お願いします。あ、セレスの趣味じゃないのとかは捨てるなり売るなり好きにしてどうぞって言っておいてください」
「ええ、わかりました」
こうして話してる時の笑顔や口調は凄く聖女っぽいのに、ニコラスさんに対しては結構容赦無いんだよね、ロロさん。
「あとは武器とか防具とかがあるんで、好きなのどうぞ。残ったのは獣人部隊の人達に渡してもらえると嬉しいです。あ、幾らでも書ける白紙の本なんてのもありますけど要ります?」
「幾らでも書ける!?」
「うん」
反応したリーンちゃんに無限に書けるノートを手渡す。
「全部白紙だから好きなだけ書けるの。で、閉じるとまた全部のページが白紙になるんだって。でもあの時書いたあのページ!って念じながら開くとそのページが現れたりするんだって」
「……!こ、これ!貰って良いですか!?」
「勿論、お土産だからね。お好きにどうぞ」
「やった!ありがとうございます!」
白紙の本を大事に抱えたリーンちゃんは、そのまま駆け足でアボットの方に向かってハイタッチした。
「アボットさん!これで術式作成の時に紙消費し過ぎって怒られる事も無くなりますよ!」
「式を考える時はありったけの式を書かないといけないから普通に何枚も紙を消費するもんね。最近では地面に書いたりもしてたけど、やっぱり紙の方がしっくり来るし」
「はい!それにこれならかなり複雑な式を使う術式も開発しやすくなりますし、術式を簡略化する用の式を書く時も助かります!」
「うん、あのページをって念じない限りは白紙なら盗み見られたりもしないだろうからありがたいね」
「はい!」
魔術師同士で仲が良いのは良い事……うん、見てる限りアボットも暴走さえしなければまともっぽいし、大丈夫だと思って微笑ましく見ておこう。前科があるからって疑い続けてたら何にもならないもんね。
そう思いつつ、他の人にも渡して欲しいアイテムなんかをザラザラと出していると、ふと違和感に気付いた。
「……あれ、ギルベルトは?」
「ギルベルトなら今実家の方から手紙が来たとかで部屋に居るが、ギルベルト用の土産でもあるのか?」
「うん」
アーウェルの言葉に頷いて返すと、噂をすればというようなナイスタイミングで建物の中から「だからって俺に一体どうしろと……」と唸りながら長い金髪をたなびかせたギルベルトがやって来た。
困ったように頭を掻いていたが、こっちに気付いたらしく「……ん?」と目を細めた。
「……は!?ミーヤ!?何故居る!?」
「ハロー、ギルベルト。ちょっとお土産渡し忘れてたから持って来たの」
「土産?」
眉を顰めながら首を傾げたギルベルトに、私は魔石を仕込める作りの弓を見せる。
「これ、弓に開いてる穴の部分に魔石とかを仕込めるんだって。術式刻んだ魔石も仕込めるらしいからエルフのギルベルトには丁度良いんじゃないかなって」
「思って」と言い切る前に、ギルベルトの手が私の持っている弓をしっかりと掴んだ。
「くれるのか?」
「え?うん…………あの、ギルベルト?」
「何だ」
「目が怖い」
「別にアーウェルがミーヤに弓使いとしてとても羨ましい性能の弓と矢と矢入れを貰っていたから体が勝手に動いたわけではある」
「あるんかい」
正直か。まあでもギルベルトって見た目は大人に見えなくもないけど、まだ未成年だもんね。
前に起きたニコラスさんがロリショタコン云々の時にアーウェルを庇ってた様子から見るにアーウェルとは仲良くやれてるみたいだし、そう考えると友達が最新ゲーム持ってるから僕も欲しい!って言ってる子供みたいな感じなんだろう。うん、納得。
それでアーウェルと喧嘩したり弓とかを奪おうとしたりの下種行動はしてないっぽいし、元々ギルベルトに渡そうと思ってた弓だしね、と思い私は弓から手を離す。
「ソレ、ギルベルトに良さそうだなって思ってたお土産だったから良かったらどうぞ」
「良いんだな?返さんからな?」
「うん、それは見たらわかる」
めちゃくちゃ大事そうに抱えて後退ったもんね。別に取り返したりせんっての。
「私達に弓使い居ないし、なら大事にしてくれる人の方が良いって事で。大事にしてね」
「……ああ、ありがとう」
あ、笑った。笑顔は結構子供らしい感じだね、ギルベルト。
「ところでギルベルト、さっき小声で唸ってたけど何かあったの?」
ふと思い出した事を聞いてみると、ギルベルトは「ん、ああ……」と弓を抱き締めたまま歯切れ悪く返事をした。
「……少し実家の方で面倒事が起きててな。それを解決するにはある相手と協力する必要があるらしいんだが、とある条件をクリアしないと会話すらまともに出来ないらしい」
「ただエルフの若い奴は殆どが人里に出てるし、それなりに少子化問題も出てるし、辛うじて居る若い奴らは若すぎるしで……」と、ギルベルトは再び唸り始めた。
……エルフにも少子化問題ってあるんだ。
そう思っていると、ギルベルトはハッとした様子で私を見た。
「ミーヤ、少し聞きたい事があるんだが答えてくれるか?」
「え、あ、うん?」
多分その条件云々に関してだろうけど、どういう条件なんだろう。若い奴が居なくて辛うじて居るのは若すぎるって言葉から察するに、年齢とかかな?成人になってからそこまで時間が経ってないとか?
ギルベルトは至極真剣な表情で口を開いた。
「ミーヤは処女か!?」
「何を聞いてるんだギルベルト!」
うわ、アーウェルの蹴りが綺麗にギルベルトの鳩尾に入った。




