第十二夫人の称号、効果あったんだ
エマさんが王様の部下になると宣言した後、私達は宿屋に帰された。まあ元々賊を捕らえてっていう依頼だったしこの先は王様達とスノードロップでの話だもんね。私達完全に部外者。その上大分日も暮れてるからそろそろ帰るようにと言われるのは当然の事だろう。
そんなわけで帰りにギルドに寄って依頼クリアしましたよと報告し、現在は借りた部屋の中である。
「えーと……」
ローランと向き合いながら、まず何から話すべきかと考える。
「……ローラン、実はちょっと、私の従魔兼嫁になるにあたって、色々と言っておかないと駄目な事が多くてですね」
さてどう言ったものか、と私のメンタルの為にハニーを膝の上に抱き上げて蜂蜜色のふわふわな髪に顔を埋めながら思考回路を動かしていると、口布を下ろしたままのローランは「あ、もしかして」と口を開いた。
「ミーヤが異世界出身って事とかに関してか?」
「そう……えっ?」
「ん?」
……あれっ?私ローランに言ったっけ?
ローランに視線を向けると、ローランはきょとんとした顔でこっちを見ていた。
「何で知ってんだ?」
首を傾げたヒースの問いに、ローランは「ああ」と頷いた。
「ミーヤがファフニールと交渉に行く時さ、近距離だったろ?」
「確かに近距離でしたね」
私の膝の上でそう言ったハニーに同意し「うん」と私も頷く。
「馬車で片道二時間だった」
日本に住む現代人としてそれを近距離と言えるのかはわからないが、少なくともこっちの世界では近距離だ。日帰り可能だし。
「で、ミーヤが王都に居る時は基本的にミーヤの影に俺が居るわけだろ?」
「…………あっ」
言葉の意味を察し、私は他の皆に視線を向ける。
「……ファフニールとの交渉の時、私の影の中にローランが居るの……気付いてた?」
ラミィ、アリス、ノア、ヒース、マリンが首を横に振った。が、イース、ハニー、コン、アレク、ハイドは首を縦に振った。
「ローランの性格ならミーヤの出身を知っても言わないでしょうしねぇ」
「私は正確には気付いていたというよりも影に居る可能性があるのでは?と思っていただけですが、イース様達が何も言われないので居ても居なくても問題は無いのだろう、と」
「俺は匂いでわかってたけど……万が一の時にミーヤを守ってくれそうだしって思って」
「コンに同じく。僕も魂で影の中にローランが居るのはわかってたけど、保険にはなるだろうしって」
「影からミーヤ以外の気配がするから嫌でもわかる。が、ファフニールの方も何も言ってなかったからな。口には出してないが許可が出てるようなものなんだろうと思って何も言わなかった」
「なぁーる……」
まあ確かにいざって時のボディガードとして、って考えたら何も言わないよね。その結果ファフニールとの会話を聞いて私が異世界人って事を知っちゃったわけだけど。
「ちなみにローラン、誰かに話したりは」
「姫様でも知らないだろうミーヤの特別な秘密を誰かに漏らすと思うか?」
あー、そういう。そういう感じね。大事な秘密は独り占めして大切にするって事なのね。いや意味はよくわかんないけどローランの目がそう言ってるからそうなんだろう。多分。
まあでも、うん、
「ローラン」
私はぬいぐるみのように軽いハニーを左手で抱き上げつつ、長い髪を右の指で梳くようにしてローランの頭を撫でる。
「内緒にしててくれて、ありがとね」
「……ああ」
目を細めて微笑んだローランは私の手の平に頭を押し付けて「もっと撫ーでて♡」と甘えてきた。可愛い。
言われるがままローランの頭をわしゃわしゃ撫でるとローランは甘えるように目を瞑り、それにより右瞼に描かれた桜がしっかりと見えた。
「……ローラン」
「うん?」
「つい無断で従魔契約とかしちゃったけどさ、やっぱ嫌だったりする?」
「いや全然。最高の気分」
ローランって本当によくわからんタイミングで即答するよね。
「でも印の場所とか、希望聞かずにやっちゃったしなーって」
瞼に印を刻んだの事に関しては特に深い意味は無い。ただ見やすいかなって思っただけである。
「だから一旦契約解除して印の場所を変えるとか」とローランに言うと、言い切る前に「え、絶対ヤダ」と遮られた。
「一時的だろうが何だろうが俺とミーヤとの繋がりが切れる感覚とか味わいたくない。ミーヤ俺の執着の強さわかってる?一旦だろうが一瞬だろうがそんな感覚を覚えた時点で病むからな」
「病むな病むな」
最初の頃は相当闇が深かったのを思い出すにローランのそれは洒落にならん。気を紛れさせるようにローランの髪をわしゃわしゃ撫でて、「じゃあ印に関してはオッケーって事で良いね」と納得しておく。
無駄に病ませるのはローランのメンタル的にも良くないだろうからね。子供からライナス毛布を取ってはいかん的なアレだ。このライナスの毛布はフェロール家のライナスとは無関係であります。
「あーとーはー……あ、私達ちょっとマリンとロンの肉食べてるから不老長寿状態なんだけど」
「待ってそれ知らねえ!どういう事!?」
流石に驚いたらしいローランに、それぞれ寿命などが違うから、というところから詳しく説明をする。
「で、現在全員が不老長寿状態」
「えー……それって俺もロンの肉食わせてもらえんの?」
「勿論」
ローランの呟きにそう返し、ロンはにっこりとした笑みを浮かべながら「嫁仲間だからな」と言った。
「なら良いや」
「あ、良いの?」
「だってミーヤとずっと居る為なんだろ?てかもうミーヤも不老長寿になっちゃってるわけだし。そうすると俺はこのままだと置いてかれるって事だ。嫌に決まってるだろそんなの」
まあ確かに、と私は頷く。他の皆は歳取らないのに自分だけ歳取っていくって嫌だよね。
「じゃあ、一緒に生きるって事で良いかな」
「勿論。俺の全部はミーヤの為に」
「もうちょい自分の為にも使いなさいね」
うっそりと目を細めたローランにそう返してうりうりと頭を撫でておく。こういう感じの言動は重く受け止めない方が吉。軽く受け流しつつも肯定しつつ、って感じで緩く扱った方が良い。
「んー……じゃ、ステータスの確認ってして良い?私鑑定持ってないけど、従魔のステータスは見れるから」
「もっちろー………あー……えー……」
元気に返事をする途中でローランの言葉が尻すぼみになっていく。
「……ローラン?」
声を掛けると、ローランは少し口の端を引き攣らせながら「嫌わない?」と笑った。
……別に無理に笑わんでも良いんだけど。まあでも日本人ってどんな時でも笑う癖付いてる事が多いから私が言う事でもないか。
「ハニーちょっとごめんねー」と言って、私は今まで左手で抱きかかえていたハニーを降ろす。ハニーも察してくれたのか「いいえ」と答えて降りてくれた。
そして両手を空けた私は、両手でローランの頬をぐりぐりと揉む。ふむふむ丸みのある女性的な顔かと思いきやそれなりに硬い。
「え、ちょ、ミーヤ!?」
「ローラン、ついうっかり言い忘れてたけどね、うちのイースって淫魔なのよ。サキュバスとかインキュバスとかの先祖的存在」
「え!?」
私の言葉にローランが思わずといったように視線を向けると、視線を向けられたイースはにっこりとした笑顔でひらひらと手を振った。
「んでハニーは知っての通りキラービー。ラミィはラミア、コンは狐獣人。アレクは最近まで生きた人間だったけど死んでアンデッドのリッチになって、ハイドは猛毒スパイダーが変異した闇毒スパイダー。アリスはデリートゥノール山に本体がある氷水晶で、ノアは人間に子供として作られた生き人形。ヒースは元奴隷で実験台だった人間。マリンは人間との交流がほぼ絶たれてた人魚で、ロンはニーラクス学園で守護神的存在だった上級ドラゴン」
「待って何か今までプライバシー的なアレで聞かずにスルーしてた情報が一気に来てて混乱する。え?後半ちょっとおかしくない?」
「ちなみに儂は上級ドラゴンの中でも見た目が少し違うレアドラゴンだったりするぞ」
「より混乱させないで一番混乱する存在!」
あっはっは。一緒に過ごしてて知ったけど、ロンって意外と誰かをからかうのが好きっていうお茶目なトコがあるよね。
でもねローラン、まだラストが残ってるんだわ。
私は「ローランローラン、ラストだけどね」とパンドラの方を指差す。
「彼、パンドラ」
ローランがパンドラの方に視線を向けると、パンドラはにっと笑ってピースをして見せる。
「数万年前に自分を封印したという初代魔王。正体は神が切り捨てた全能」
「ねえ人間に理解出来る言語で喋ってお願い」
縋りつかれた。
うん、そうなるよね。私もパンドラの時は頭がくらくらしたからよくわかる。
「まあ何か、人間レベルで考えると何でも出来る凄い嫁って感じで。以上がローランの嫁仲間です」
「そんな凄い嫁が居るんだったらそりゃ俺が多少アレな過去持ってても気にしないよな……」
「うん、多分そこまで気にしないと思う」
私の言葉にローランは少し考え、
「……人間なのに人食いの称号持ってても、嫌わないか?」
と言った。
「私なんて嫁食ってるよ」
「いやまあそうだけど」
正確には盛られた、って表現だろうけどね。でもあの後もちょいちょい料理に混ぜ込まれてるんだよね。食べ続けた方がダメージを受けた時の皮膚の硬度が上がるとか何とかで。
美味しいから良いけど嫁の肉でドーピングしてるのかって思うとちょっとブルー。いや美味しいし肉提供してくれる嫁二人は嬉しそうだから良いんだけど。良いんだけどね。まだ微かにある人間的な思考がブルーになるんだよね。どうせすぐに日本人特有の慣れが発動するんだろうけどさ。
「でも、人間が人食いだぜ?俺の場合は孤児の時に腹減ってたからちょっと齧ったくらいだし、あんま美味くなかったから食人のケはねーけど……」
気にしているらしいローランに、そんな気にする程の事でも無いと私は控えめに挙手して口を開く。
「ローラン以外に人間食べて人食いの称号持ってる人、手ー上げてー」
イース、ラミィ、ハイド、ロン、パンドラが手を上げた。
「……あ、私ラミィとハイドが人食いの称号持ってるのしか知らなかったけどやっぱ三人共称号持ってたんだ」
「私は単純にぃ、昔精気を奪い過ぎて殺しちゃってた時期があったからよぉ。腐らせたりどこかに捨てたりするよりは食べて魔力として吸収する方が効率的でしょう?」
あー、まあ、人間が獣を生け捕りにする為に罠を仕掛けたら思ったより獣の皮膚にガッツリ食い込んじゃって致命傷状態だったからその場で捌いて食べました、みたいな事なんだろうね、多分。そのくらいの感覚だろう。
「儂はー……その、違うぞ?昔ヤンチャであった頃にその辺の人間を摘まんでスナック感覚で食べておったくらいでな、その後は食っておらん。時々体内から儂を殺そうとして腹の中に飛び込んでくる人間もおったが人間の武器程度では儂の胃酸に勝てるはずもなく、まあ、つまり、向こうが飛び込んで来たから結果的に食う事になったという事もあってな」
「ロン、別にそんな数万年前に起きたんだろう事を攻めたりしないから」
だからそんな気まずそうに顔逸らしながらキセルを吹かさなくて良いよ。今は普通にのんびりしたお爺ちゃんなのわかってるから。
「俺様は正直言って食事を必要としないからな。単純に恐怖の演出、パフォーマンスの一種として食っただけだ」
「え、あれ、パンドラってご飯要らないの?」
「でも普通に一緒にご飯食べてたよね?」と言うと、パンドラは「それはそうだろう」と目を伏せながらもきょとんとした顔で返す。
「必要ではないが不可能というわけでもない。それにミーヤ達との食事は同じ食べ物を食べて喜びを分かち合う大事な時間だ。食えないならともかく、食える以上は一緒に食う」
「成る程」
つまりは仲間外れになるのが嫌だったって事ね。食べれないから仲間外れになるのはしょうがないけど、食べれない事はないのに仲間外れになるのは嫌だった、と。
「……ローラン、うちの嫁達って大体こんな感じで結構デタラメなんだけど」
「ああ、俺のステータスは好きに見てくれ。人間に理解出来る範疇を超えてる存在を嫁にしてるミーヤなら問題ですら無いだろうと理解した」
あはは、まあそうだろうね。その上SAN値もMAXだよ。
さておき、私はローランのステータスを表示して読み上げる。
名前:ローラン(25)
レベル:96
種族:人間
HP:3040
MP:4830
スキル:無音、無臭、魅了、一撃必殺、隠蔽
称号:孤児、人食い、人狩りの緑色、暗器のプロ、惚れっぽい、変なのホイホイ、ストーカー、従魔、第十二夫人、愛の加護
ふーむ……。
「ローランめちゃくちゃレベル高いね」
「……あんま驚いてるように見えねえんだけど。ちなみにミーヤの嫁仲間の中で一番レベル高いの誰?」
「ロンとパンドラが計測不能だったからどっちか」
視線を向けると、ロンはドラゴンの指でパンドラの方を指していた。そしてパンドラは笑みを浮かべながら自分自身を指差している。
……うん、
「初代魔王の方がレベル上だって」
「ミーヤってその辺不透明でも普通に受け入れてんの?」
「まあ何かレベル高いんだなあ以外にコメントも無いからね」
私の返答に、ローランは首を傾げながらも「まあ……そう、か……?」と呟いた。うん、納得出来ないなら出来なくても別に良いよ。私はただ考えるのが苦手だからスルーしてるだけだしね。
さて、と私は次にスキルの詳細を読み上げる。
無音
動きによって発される音を無音にするスキル。このスキルがあれば音で感知はされない。ただし魔法では無いのであくまで人間相手の場合。獣人には半分以上の確率でばれる。魔法で強化すればセーフ。
無臭
自らの体臭が無臭になるスキル。ただしあくまで体臭だけなので香り付きの石鹸を使えば普通に香る。
一撃必殺
一撃で対象を仕留めれるスキル。ただし種族やレベルの差で仕留めれるかどうか、致命傷になるかどうかは変動する。
隠蔽
自分の存在や情報を隠蔽する事が出来るスキル。認識阻害の下位互換。人間相手には充分効く。
うん、凄く暗殺者って感じだ。
「でも俺の場合、スキルが決め手に欠ける感じだからな。基本的には魔法使ってるぜ」
「あー……うん」
確かにちょっと決め手に欠けるかも。というか人間相手には普通に効くっぽいスキルだと考えると獣人とかエルフとかが鋭過ぎるんじゃないだろうか。それとも人間が鈍いのか。
次に私は称号の詳細を読み上げる。
孤児
親の居ない子に贈られる称号。この場合は親に捨てられた事で贈られた。
人狩りの緑色
緑の髪をした子供が人を狩って売っているという事実から付けられた呼び名によって贈られた称号。この称号を所持していると狩られる条件を満たした人間が近寄り難くなる。
暗器のプロ
暗器の扱いがプロ並みの者に贈られる称号。この称号を所持していると暗器を自分の手足のように扱う事が出来る。
惚れっぽい
惚れっぽい者に贈られる称号。条件揃った相手を一目見たらキュンとしちゃう。ただし現在は第十二夫人の称号により無効化されている。
変なのホイホイ
変な存在をホイホイしちゃう者に贈られる称号。この場合は変な性格、または変な性癖の相手をホイホイしていた。惚れっぽいの称号効果が重なる事で効果が倍増していたが、惚れっぽいが無効化されている為変なのホイホイも殆ど無効化状態。
ストーカー
対象をストーキングする者に贈られる称号。この称号を所持しているとストーキングがやめられない止まらない。ただし相手の出方と自分の性格次第では緩和する。
第十二夫人
十二人目の嫁。
えーっと……、
「第十二夫人の効果、あるんだ」
今まで完全に私の嫁であるという証明としか思ってなかったけど、効果あったんだアレ。
「ミーヤの嫁だからよそ見はしない、って事でしょうねぇ」
「成る程」
イースの言葉に頷き、ローランの頭を撫でておく。確かに浮気されたらヤダもんね。まあ夫としては浮気されないように頑張りたい所存でありますが。
んでまあ、孤児とか人狩りとかは詳しく聞いてもどうにもならんからスルーするとして、
「ストーカーの称号、多分これ緩和っていうかほぼ無効化だよね?」
「だろうな」
「……ん。……意味、無い……」
コンの同意とラミィの言葉にだよねーと私は頷く。
だってもう嫁だもん。確実にほぼずっと一緒だからね。ストーキングする必要無いってレベルで行動一緒状態だからね。
「俺結構称号がアレだからミーヤに引かれるんじゃないかって怖かったけど……全然引かねえのな」
「引く程えげつない称号ってわけじゃないしね」
一般人だと引く人も居るかもだけど、少なくとも私は引かん。大体嫁相手に夫が引いてどうすんじゃいって感じだからね。それに正直言ってロンとパンドラの方が酷かったし。大陸消滅させてたり神から切り離された全能だったりと反応に超困るからね。それに比べりゃ良心的ですわ。
「んーと、まあ、そういう事でさ。ローランは後ろめたいとかちょっと思っちゃってるのかも知れないけど、別に気にしなくて良いからね。よっぽどの事じゃないと私も動じないし」
「ミーヤってどんな時に動じるんだ?」
え?えーと……。
「あ、邪神の肉食わされた時とか?」
「待ってミーヤ一体どんな経験してんだよ」
私にもさっぱり。
本当はそこまで動揺してなかったという事実。多分上級ドラゴンの内臓で造られた酒飲んだ時の方が動揺大きい。




