ローラン視点
多分シリアス、というか少しだけカニバ表現あり。
俺は幼い時、母親に捨てられた。
ヒイズルクニとバーバヤガの国境付近。どちらかというとヒイズルクニ側で、ツィツィートガルに似た気候のミドリ、の端っこにある村での事だった。
「あのねローラン、わかる?お前が居ると邪魔なのよ。私の子なら私の邪魔をしないで」
生まれてからまだ二桁にもなっていない俺に、母親と呼ぶべきその女はそう言った。
うっすらとある記憶からするに、母親は恋多き女だったらしい。俺と同じように。故に俺には父親なんて居なかった。いつかの誰かとの間に出来た子なんだろう。俺は特にそれに対して何も思わなかったから、詳しい事なんて知らないけれど。
そんな恋多き母親は、惚れた男と共に居たいと思ったらしい。その為にはコブである俺が邪魔だ、とも。だから母親は俺を捨てて男の元へと行った。その後どうなったのかは知らない。利用されるだけされてのたれ死んでいるかもしれない。そう思うと何だか少し楽しかった。
しかし、そんな妄想では腹は膨れない。
俺が捨てられたのはヒイズルクニでもかなり治安の悪い村だった。孤児や行くところの無い奴等が集まる所。そして罪を犯して生計を立てている奴等の住む村だった。
犯罪者達が暖かい屋根の下で暮らしているのを見ながら、俺は路地裏でボロ布を被って身を隠していた。奴隷が認められているバーバヤガの近くにあるせいで頻繁に孤児が攫われるからだ。幸いミドリは温かい気候だったから孤児には優しい。着ている服とボロ布一枚で充分だった。
もし俺が捨てられたのが暑いアオバや寒いシラユキだったら、きっと一週間も持たなかっただろう。そう考えると気候が丁度良い暖かさのミドリはありがたかった。クレナイは少し肌寒いらしいから、ボロ布が二枚は必要だっただろうしな。
「借金返せっつってんだろうがボケ!」
「だからもうちょいで纏った金が手に入るっつってんだろうが!」
「その台詞は何度目だ?ああ!?」
「うっせえ!足よ魔力を纏え!そして走れ!走れ!走れ!」
「またかテメェ!」
見ていた。ボロ布を被ってそこらのガレキと同化して、路地裏を利用する奴等をじっと見ていた。見て、色々な事を覚えた。
喋り方を覚えた。走り方を覚えた。戦い方を覚えた。逃げ方を覚えた。
掃き溜めのような村だった。だから住んでる奴等も掃き溜めから生えてきたような奴等ばかりだった。つまり馬鹿しか居なかった。けれど馬鹿でも馬鹿なりに術式を組んで魔法を使う事は出来る。魔力や方法が効率的で無いだけで、使用出来ないわけじゃない。
少なくとも、真っ当な魔法を習うような余裕は無かった。けれどその分命の危機は常にあった。それだけで魔法を使えるようになるには充分だった。いつだって人間は命の危機で進化する。理解出来ないままでも多少使えるくらいには、成長出来る。
「う~い~……ひっく!……ああ?なーんでこんなところにガ~キがいやがんだ~あ?おー、ちょーどいいからこっちこいやあ。ツラはよさそうだからうってやるよお。さかだいにはなりそうだしなあ」
「……闇よ、闇よ、闇よ、集まり重なり固まって」
「…………んあ?」
「そこの命を奪ってしまえ」
「ウガァッ!?」
逃げるのが遅い酔っ払いなんかをターゲットにして、見よう見まねの闇魔法で仕留めた。魔法はとにかく同じ言葉を重ねればどうにかなる。その分魔力の消費も激しいが、出来ないよりは生存率が高い。だから使う。
掃き溜めのような村には闇の魔力が多めにあった。だからそれを魔法で集めて刃物のような形にして、酔っ払いを斬り殺した。
幼い子供の力では少し斬るくらいしか出来ないが、ここで重要なのは闇魔法だ。闇の魔力は命を奪いやすい魔力。だから、刃物で少し斬るだけで良かった。少し斬るだけで、相手の命を肉体から切り離す事が出来るから。
そして殺した死体から身包みを剥ぎ取る。髪も服も飲みかけの酒も売れるからだ。そして残った死体も、俺が捨てられた村では充分に価値があった。
「栄螺鬼、また肉持って来た」
「あ~いよ」
返事を返した、恐らく一般的に美女と評されるのだろう見た目の女は俺が渡した死体を受け取って匂いを嗅いだ。
「ふんふん、良い匂いだね。また酔っ払いかい?嬉しいねえ、酒好きの人肉は芳醇な匂いがするから高値で売れるんだ。お駄賃多めにしてやろうねえ」
「どーも」
ヒイズルクニは何でも食う。四足のものは椅子と机以外、二本足なら家族以外何でも食うという言葉があるくらいには何でも食う。
そしてヒイズルクニは妖怪が居る。他国では魔物と呼ばれる存在だが、人間の法律で生きる事が出来て共存が可能な魔物は魔族と呼ばれるらしい。だから妖怪は基本的に魔族寄りが多いと目の前の栄螺鬼は言っていた。特に興味は無かったから聞き流した。
何でも食うヒイズルクニの国民。そして人肉が主食な妖怪も存在してるヒイズルクニだ。こういう法の目も掻い潜りやすい端っこの方ではそんな奴等の為、人肉料理の専門店があったりもする。
しかし料理を出す奴が人を殺すのは駄目らしい。客を殺しかねないから、と。故にこういった料理店は誰かから死体を購入する。
昔一度空腹から食べてみた俺からすれば、人間の肉なんて美味しくない。脂っこかったり筋っぽかったり。だからこんなのが本当に売れるのだろうかと思っていたが、意外と物好きは居るらしい。
「あっはっは!まあ確かに人間てのは雑食性だからねえ。基本的に肉ってのは草食性で筋肉が少ない奴が美味い。肉食で筋肉質な奴の肉は不味いもんだ。けれど、それを美味しく料理するのが私らさ」
「つーかそもそも人肉しか食えないって奴も居るわけだし、要するに好みの話なんだがねえ」と栄螺鬼は死体をバラしながら笑った。
「まあでも意外な奴がこういうのを好んだりするからねえ。金持ちな人間とかは道楽でこんな馬鹿みたいなのを好む。特にバーバヤガの奴等はねえ。お陰で商売繁盛、料理する時に出た切れ端を摘まんだりも出来るから最高の仕事だよ」
「人肉が主食の奴等も、ここなら人を殺さずに食事が出来るってねえ。喜ぶから」と栄螺鬼は続けた。
人肉が主食なのに人を殺したくないと思うようなのが居るんだろうか。よくわからなかった。けれど殺した死体が金になるのは事実だから、似たような料理店によく持って行った。金になるから。時々おやつにと干し肉をくれるのは嫌だったが、まあ食えない味じゃないから時々齧った。でも多分アレは人肉が原材料だったんだろうな。
そんな生活を続けて数年が経ち、年齢が二桁になった頃。いつも通りに死体を引き摺っていった栄螺鬼の店で、銀髪の男に出会った。
「よう、坊主。酔っ払いをメインに人狩りをしてる緑のガキってのはテメェだな?ちょっと良い話があるんだけどよ」
「は?」
怪しさ満載のその男こそが、暗殺組織スノードロップの頭、エマだった。
念の為にお前は人肉愛好家かと聞いたら、どうも俺の噂を聞きつけスカウトの為に立ち寄ったらしい。少なくとも俺を食う用の肉と認識しているわけでは無さそうだと判断し、話を聞いた。
魔法の使い方を教える。そして鍛え上げる。最終的には凄腕の暗殺者になってもらう。
確かそんな感じの事を頭は言っていた。俺は頷いた。地味に噂が広まっていたせいで良いカモが少なくなっていたから。
俺をアジトまで連れて行った頭は、まず俺に風呂の入り方を教えた。
「良いか?暗殺者は清潔感第一!泥臭いとか鉄臭いとかは人間の鼻でも結構臭う!つまり居場所がばれる!風呂は真面目に毎日入れよ!あとその石鹸は無臭だから安心しろ。暗殺者たるもの、匂いは消しておくもんだ」
あの村では泥と血の匂いがある方が紛れやすかったが、家の中に住んでいる奴からするとそうじゃないらしい。匂いで居場所が見つかるのは馬鹿がする事だから、俺は大人しく従った。
「そこのデカい筋肉達磨の馬鹿がブレイス、文字が読めない。その隣に居るお前くらいの歳で本読んでるのがオースティン、頭が良い。壁の方で背景に溶け込んでるのがマール、影が薄い」
仲間の紹介をされた。それぞれ割りと個人個人の色が強かったが、頭はそいつ等を上手に使いこなしていた。正直頭がめちゃくちゃフォローに回っているのを見て頭一人でやった方が良いんじゃないかとも思ったが、まあ俺が困っているわけじゃないから良いかと思った。
そして一年くらいスノードロップの一員として働いていたある日。依頼の下見にバーバヤガへ行った時、俺は名前も知らない女に接触した。単純に走っていた女が俺にぶつかっただけだったが。
「ご、ごめんなさい!大丈夫?」
それだけの言葉。謝罪と心配。けれど、たったそれだけで俺は恋に落ちた。
「今私、追われていて……!」
女はそう言っていた。後で知ったがその女は複数の男と関係を持ち、相手に高級品を買わせるタイプの女だったらしい。
でも、良かった。
それでも良かった。だってそんな事は関係無いから。重要なのは俺に優しくしてくれたかどうか。俺に謝罪をしてくれた。俺の心配をしてくれた。それだけで俺が恋に落ちるには充分だった。
もっとも、そんな初恋はすぐに彼女の死という形で終わったが。
「何で殺したんだよ頭!」
「だーかーら!依頼が来たからに決まってんだろうが!」
そんなやり取りを、その後何回もした。
「またかよ頭!何度俺の好きな人を殺せば気が済むんだよ!」
「こっちの台詞だ馬鹿野郎!何回暗殺依頼を出されるような奴に惚れてんだ!学べ!」
「大体なあ」と頭は言った。
「テメェ、好きだ好きだ言ってる癖に相手が死んだ途端に冷めるのは何なんだよ」
「は?」
俺は頭の言っている意味がわからなかった。
「死んだらそれは俺が愛した相手じゃないだろ。もう俺に優しくしてくれないんだから。もう俺を見てくれないんだから。死んだらそれはただの廃棄物で、ゴミだ」
「テメェいい加減マジでその考え改めろや。死者には敬意持て」
暗殺者は人を殺すが、一般人には手を出さない、死者に対する敬意も持つ。それでこそ一人前の暗殺者だと頭は言った。死んだらそれはただの可燃物か肥料でしかないだろうに、と思ったが、言ったら怒られそうだったから言わなかった。
途中でエイダが仲間になった。初めての女メンバーだった。頭はどうやらハニートラップ要員として拾ってきたらしい。確かにそれまでハニートラップが必要な時は対象の好みに一致しそうな奴が相手をする、というような形で俺達が行っていたから、いい加減担当の奴が必要だと思ったんだろう。
しかし結局男が好きだというような相手の時は相手の好みそうな見た目の奴が選ばれるから、あまり変わらなかった。頭は「エイダ以外だとオースティンが一番ハニトラ上手だが、アイツ毒を仕込みやがるからな……」と唸っていた。
エイダが仲間になってからしばらくして、エステルが仲間になった。適当な材料を与えるとあっという間に顔の皮を作り上げる才能があった。しかし残念な事にエステルはそれ以外出来ず、その上変装した際のキャラ作りも下手くそだった。頭は「天よ、二物くらい与えてくれ……」と頭を抱えていた。
その頃には既に恋愛禁止というルールが作られていたが、俺には関係なかった。俺に対して作られたルールだろうが、俺は優しくされたらすぐに相手に惚れてしまう。惚れたら後はその人しか見えなくなる。だからルールは破り続けていた。
そしてある日ツィツィートガルの王を殺してほしいと好きな人に頼まれて、失敗して、何故かスカウトされて。敵に回るなら容赦なく切り捨てるが恋愛は自由に行っても良いと言ってくれて。
だから俺は王の剣のメンバーになった。スノードロップに対する未練は無かった。だって好きな人じゃなくて、仲間だった人達でしかないから。王の剣も好きな人じゃなくて、今の仲間である人達だ。だから俺は王の剣に入ってからも、好きになった人の方を優先した。何故か必ず好きな人は逮捕されてしまうけれど。
「なあ聞いたか?あの宿屋で今ミーヤちゃん達が食事中らしい!見に行こうぜ!」
「えー、一般客も食えるとはいえ高いだろアソコ」
「複数の種族が飲み食いしてきゃっきゃしてる光景だぞ!?金払ってでも見るべきだろうが常識的に考えて!」
「いやそれ確実にニーラクス学園的な常識だよな?お前あの学園通ってからマジでキャラ変わってる気がするんだけど」
「案ずるな親友よ、俺はただ真実の萌えに気付いただけだ」
「萌えって何?」
武道大会の翌日、そんな話し声が聞こえた。
ミーヤ、って確か一般部門でめっちゃ目立ってたあの子か。確かリーダーとルークも話題にしてたな。ちょいと情報集めるか。
そんな程度の気持ちだった。
そのくらいの軽い気持ちで俺は宿屋に行って、めちゃくちゃ目立っているミーヤ達のテーブルに近付いて声を掛けた。ミーヤ達は心配になるくらいさらっと同席を許してくれた。
おいおい、俺が悪人だったらどうすんだよ。
ミーヤとの会話は普通に楽しかった。まさか王の剣のメンバーを知らないとは思わなかったが、その分話はしやすくて良いと判断したから無難な辺りでその話を終わらせた。
酒に強いのも嬉しい事だ。俺は気を緩めないと酔えないから、うっかりすると飲ませすぎて相手が会話不能なくらいベロベロに酔ってしまう事がある。だから酒を沢山飲みながらも普通に会話出来るのが嬉しかった。
そんな事を思いながら飲んでいたら、ミーヤがこっちをじっと見ていた。
「ミーヤ、酒を飲む手が止まってるぜ?何か考え事か?」
「ん、いやローランってイケメンだなと」
「へえっ!?」
慌てて落とし掛けた酒入りのコップをキャッチする。
「……か、顔が?」
「そりゃまあ、顔だね」
当然のようにそう言われ、俺の心はドクリと音を立てた。
褒められた!
ミーヤの言葉に、俺の心はそれだけになった。ミーヤだけになった。ミーヤが俺の顔を褒めてくれた。ミーヤは俺に、俺のままで良いと言ってくれた。嬉しかった。
惚れた相手の前だからか、久々に酔った。思いっきり好きな人相手に愚痴ってしまったけれど、ミーヤは嫌がらずに聞いてくれた。だから俺は珍しいくらい完全に酔った。
ミーヤはそんな俺の愚痴を聞いて、とんでもなくレアなプラチナ鉤爪をプレゼントしてくれた。使わないから、と。
俺が今まで惚れた相手は、不要品を誰かにあげようとは思わない人間ばかりだった。不要なら売って金に変える。そういう人間達だった。実際プラチナで出来た鉤爪なんて、売れば相当な金になる。二年くらいなら働かなくても遊んで暮らせる額だろう。
なのに、ミーヤはくれた。俺が鉤爪を壊してしまったと愚痴っただけで。使わないから使う人にどうぞ、と。もう着なくなった服を譲るかのような気安さで、会って数時間しか経っていない俺にくれた。
その後も、俺はミーヤを盗撮したりした。ミーヤに必死に縋りついて迫ったりもした。
でも、ミーヤは俺を嫌ったりはしなかった。盗撮の許可をくれた。俺は俺のままで良いと言ってくれた。変わったらそれはもう俺では無いと、言ってくれた。
好きな人の為に毎回姿を変えていたから、俺はもうこれが自分の本当の姿で合っているのかという自信が無かった。本当の姿のはずなのに、どこか違うんじゃないかと違和感を持っていた。でもミーヤはこれが俺だと言ってくれた。その言葉のお陰で、俺の中にあった違和感は払拭された。
けれど、その後ミーヤは魔王国に行ってしまった。ストーキングの許可は王都内だけだったから付いて行けなかった。好きな人とこんなに離れるのは初めてで辛かったけれど、でもその分ずっとミーヤの事を考える事が出来た。うん、距離があるのもまた幸せだ。
戻って来たミーヤは海からやって来たらしい。海上からではなく海中から。本当にミーヤは想定外だらけで、大好きだ。
ミーヤには嫁が増えていた。人間の嫁まで増えていた。羨ましい。俺もその位置に行きたい。でも表に出したらミーヤに嫌われるかもしれないから、我慢。いつかミーヤが俺を嫁にしてくれた時に嫁仲間になるかもしれない相手だから、我慢。
例えそんな日は来ないんだろうなと冷静な俺が囁いていても、聞かない振りだ。恋に夢見るくらいは良いじゃないか。
『貴様、異世界人だろう。それも日本人』
そんな事を思いながらミーヤの影に潜み続けていたら、衝撃的な言葉が聞こえてきた。
ドラゴンとの交渉。王都を出るから影から出るべきなんだろうが、数時間程度の距離なら誤差だろう。そう思って潜み続けていた。それだけなのに、とんでもない情報を聞いてしまった。
きっとこの上級ドラゴンは俺の存在に気付いているだろうに。
……でも、良い。きっとこれは俺のミーヤへの思いが本物だから聞けたんだろう。ミーヤの許可も取らずに王様達に報告するような俺じゃないから。
まあ実際は俺の性格上、好きな人の命令通りに動く癖があるから大丈夫だと判断されたんだろうがな。ミーヤに言われない限りは誰にも言わない。そういうトコがある俺だから、存在を無視してもらえたんだろう。
ミーヤがニーラクス学園に行った後も、俺はその情報を大事に大事に仕舞う事にした。だってミーヤの秘密なんだ。宝物のように大事にしなくちゃいけないよな。
少しの間、ふわふわとした幸せな気分だった。
けれど王族の誘拐未遂があって。やっていたのは俺が昔所属していた組織で。でもミーヤは気にしなくて良いと言ってくれて、ミーヤの新しい嫁であるパンドラは頭が来るのを未来予知して、ミーヤの嫁であるハイドは頭をしっかりと捕らえて。
そして捕まった頭と昔のように言い争ったりしていたら、突然ミーヤに声を掛けられた。
「まあそこの頭に喋らせる為という理由もあるわけだけど、ローランに好印象を抱いているのも事実なわけで。そして私は娶る以上は相手の人生を貰うという事だから全力で幸せにするっていう気もあるわけだ」
ミーヤは優しくて正直者だ。俺なんて愛人枠か、それ以下で良いのに。なのにミーヤは、ちゃんと俺を幸せにすると言ってくれた。俺からすれば、俺なんて無理矢理俺を押し付けて好きなように尽くすような害なのに。ミーヤは俺を貰うのだから幸せにすると言ってくれた。
「で、私の場合は従魔兼嫁って形になるけど、基本的に従魔ってよりも嫁として扱うつもり。従魔契約をするのは契約による繋がりが欲しいって感じでもあるわけだしね」
ミーヤの嫁という位置に立てるだけで良いのに。それだけで、俺は自分の心臓を抉り出してミーヤに渡せるくらいには幸せなのに。
今までの奴等と違って、ミーヤは俺に誠心誠意向き合ってくれる。
「私の嫁になる気はあるか、ローラン」
「ある!」
即答した。即答以外なかった。こんな一世一代のチャンスを逃すわけにはいかなかった。
だって、逃したらもう二度とチャンスが無いかもしれないから。
そしたらミーヤは俺の右の瞼に印を付けた。押しが強くて強引なミーヤなんて珍しくて、ちょっと嬉しかった。俺を確実に手に入れようとしてくれてるんだ、と思って。
印を付け終わった後、すぐに目を開いた。だってミーヤが俺の口布を下ろしたのはキスする為じゃなくて印を付ける為だったから。キス!?と思って目を瞑っちゃったけど、あれはそう思わせて目を瞑らせる為だったんだろう。
そう思っていたら、唇に軽いキスを落とされた。
「よろしく私の嫁。幸せにしてみせるから任せとけ」
「……よ、よろしくお願いします……」
そうとしか返せなかった。寧ろ言えただけ褒められる所業だと思う。俺は褒められるような存在じゃないからどっちにしろ褒められはしないだろうけれど。
「良かったぁ~……」
そう言ってイケメンな雰囲気からいつも通りの雰囲気に戻ったミーヤに体重を掛けられ、俺は初めて、ミーヤが本気で、そこまで気合を入れて俺を求めてくれたんだと理解して、今までに無い程激しく心臓が脈打った。
エマによって情操教育こそちゃんと施されたけど、残念な事に根本的な人格とかはあまり変わらなかったローラン。変な所が人間味薄い。




