怖い人には怖いらしい
無事にローランが嫁に来てくれたところで、私は「さて」とローランの肩を抱いて抱き寄せながら頭と向き合う。
「貴方はローランを関係者扱いしてましたよね。で、たった今ローランは私の嫁になった。つまり私はローランの夫であり、伴侶であり、何より深い関係者だ」
「……はっ」
「だからどうした」と頭は私の言動を鼻で笑った。
「僕は「ローランがスノードロップに戻って来るなら関係者だ」って言ったんだ。戻って来る気がねえなら関係者じゃねえよ」
……ふーむ。
「一応言っておきますけど、早めに全部ゲロった方が良いと思いますよ。こっちは嘘が見抜けるだけじゃなくて心読んだり記憶読んだり、後何かもう色々と反則だろって感じの嫁も居るんで」
「ああ?随分と直接的な脅しに出やがったな」
「脅しじゃなくて純然たる事実ですんで」
うん、マジでマジな事実である。私はミサンガがあるし、イースは心読めるし、コンは五感で大体察せるし、ロンは記憶読めるし、パンドラは反則だし。ついでに言うとノアなんて洗脳も出来ちゃうから早めにゲロってもらいたい。穏便に済ませれる内に。
「そうかいそうかい。にしてもさっきまでとは随分雰囲気違うじゃねえか、あ?」
拘束されたまま、頭は「さっきまではもうちょいこっちの顔色を窺ってたように見えたがな」と煽るように言う。だがしかし残念だったな私はSAN値MAXだ。
私はローランの肩を抱く手の力を強めながら頭に答える。
「そりゃ一緒に暮らしてる嫁相手には色々諸々駄目なトコばれてるからアレだけど、新しい嫁相手にゃ格好良いトコ見せたいのが夫ってモンでしょ。嫁を持った夫ってのは嫁の為なら幾らでも踏ん張れる。そして女は惚れた相手の為なら何でも出来る。強いに強いを合わせりゃ最強なんだよつまり疾く吐け」
「テメェ言ってる事めちゃくちゃだって自覚はあるか!?」
おっといかんイケメンモードの後遺症でいつも以上のポンコツに。会話が成立せんのはまずいぜよ。……うーむ、これはもう私の頭じゃ「さっさと吐け」以外言えない気がするね。
どうしたものか……と思っていると、室内に「あーーーーーーーー!」という大声が響き渡った。
声のした方に視線を向けると、アレクがいつもより少し高めの位置に浮きながら頭を骨の右手で指差していた。
「思い出した!思い出した!通りで何か声に聞き覚えがあるような無いようなでも魂に見覚えは無いし生前の知り合いかなうーん?って思ってたら!そうじゃん!」
「あー思い出した!完っ全に思い出した!」と霧が晴れたかのようにスッキリした顔で叫びながら、アレクは私達の前まで来て頭を骨の手で指差し、私に言う。
「コイツ!僕を殺した張本人!」
「……えっ」
えーと、確かアレクの死因って実は血が繋がっていない弟であるアイザックさんが……いや、違う。確かそれは死因の原因みたいなもので、正確にはアイザックさんがプロの暗殺組織に依頼をした事で暗殺者がアレクを……アレキサンダーを殺したんだっけ。
そういえばアレクの話では使用人を人質に取りはしたけど気絶させるだけだったとか、怪我はさせないようにしてたみたいだとか言ってたような。
成る程、そう言われてみると一般人に害を出さないようにっていうスタンスは一致してるわけだから納得……と、思った辺りで違和感に気付く。
……あれ、頭が何かめっちゃ静かじゃない?殺した張本人が目の前に居たら流石に何かしら反応があっても……と思って頭の方に視線を向けると、
「…………っ!……っ!…………っ!」
顔面を蒼白にし、金魚のように口をパクパクさせていた。しかもちょっと涙目。
……これは、もしや。
「あ、まずい」
同じく頭の様子に気付いたのか、今まで顔を真っ赤にさせて大人しく私に肩を抱かれていたローランが「今すぐ耳塞いで!」と叫んだ。
慌ててローランの左耳を覆うように抱き寄せ、右耳が私の体で覆われるように体勢を整える。そして空いている右手で自分の耳を押さえる。左耳が防御されてないって?大丈夫、察したアレクが押さえてくれたから。骨の手だし魂だけの状態だから音が遮断出来るかは知らんけど重要なのは気遣いだからモーマンタイ。他の皆もローランの言葉にそれぞれ素早く耳を塞いだ。
そして頭は、
「…………っひ」
鋭い形をした目を涙で潤ませながら、
「ひっぎゃああああああああ幽霊いいいいいいいいいい!!」
と、室内のティーカップが揺れる程の大音量で悲鳴を上げた。
「あーーーーーー!あーーーーーー!あああああああああああ!!」
拘束されている上に背後が壁なせいで逃げようにも逃げられないのか、頭は悲鳴を上げながら千切れそうな勢いで首をぶんぶん振りつつ必死に下がろうとしている。だが残念背後は壁だ。
私は少しだけローランの耳を押さえていた左手の力を緩め、ローランに問う。
「……ローラン、もしかして」
「……うん」
ローランは少し苦笑気味に言う。
「頭って幽霊とか駄目なんだ。っつーか暗殺者って結構皆幽霊が苦手って奴多いから平気な俺の方が少数派」
マジかよ。
死に近しい仕事してるのに?幽霊駄目なの?こんなレベルで?海の男達級の怯え方だよ?海の男達ってアレク見ると仕事にならなかったんだけどそれで大丈夫なの?頭ちゃんと仕事出来てる?
というかそれ以前に、今まで頭がアレクに無反応だったのは何故だ……って思ったけど、人数が多くて紛れてたのとローランとの口喧嘩に夢中になってたからか。成る程成る程。アレクが声を上げた事で初めて認識したんだね。
頭はアレクを見ながら、ガクガクと体を震わせる。
「ぼ、ぼぼぼぼ僕に何の恨みがあって化けて出やがった!いやそりゃまあ僕が殺したんだから恨みはあるだろうけど!あるだろうけどよ!何化けて出てきてんだよ成仏しろお願いします!」
「いや僕別に恨みは無いんだけど。一撃で心臓刺してくれたから痛みも少なく死ねたわけだし」
「嘘吐けじゃあ何でここに居んだよ!僕に復讐する気だろ!悪霊みたいに!悪霊みたいに!暗殺者変死リストの中でもえげっつねえタイプの殺し方だけは勘弁してくださいお願いします!」
もう頭が完全にキャラ崩壊してるよ。さっきから涙目通り越して完全に泣いてるし。そんなに幽霊が怖いんだろうか。私驚かせるタイプにはビビるけどそれ以外は割りと平気だからよくわからん。
「えーと……頭?」
「何だよ!?」
「そんなに幽霊怖い?」
「大の大人が幽霊怖がっちゃ悪いってのか!?ああ!?」
そんなボロ泣きで凄まれても困るんだけど。
「いや、何でかなって」と返すと、頭は体を折り曲げてズボンで涙を拭いながら答える。
「……確かに殺したはずの相手が、死んでるのにそこに居るんだ。怖いだろうが」
「いや、でも人殺してるんならそのくらいの恨みを買うのは」
「承知の上なんじゃないの?」と言い切る前に、頭はグワっと歯を剥いて涙目で叫ぶ。
「生きてんなら殺し直すだけだが死んでたら殺せねえだろうが!毒も刃物も使えねえし触れもしねえ!なのに向こうからは干渉可能とかふざけんなよ馬鹿!」
……あー、そういう?そういう感じ?生きてるなら別に殺せるから良いけど、既に死なれてると殺せないから天敵って感じの思考になるの?そういう感じ?
怯えまくりの頭に同情したのか、アレクが少し優しめの声色で頭に問う。
「えっと、でも僕みたいな幽霊って太陽の光あんまり得意じゃないし、光系の魔力にも弱いよ?」
「その分活動時間夜じゃねえか!被ってんだよ活動時間が!魔法なら攻撃出来るとかそういう問題じゃねえんだよ!死んでるはずの奴が!死んだまま!目の前に居るのが!無理なんだよ!!」
そう叫んでから、とうとう頭は「おえっ……」と嘔吐き始めた。
……さ、流石に可哀想になってくるな……アレクもおろおろしちゃってるし。
「……何見てやがるこの幽霊野郎が……ふ、ふふ、恨みがあるってか?だからこんなトコにまで化けて出たってか。良いだろう好きに呪い殺しやがれ畜生。でも出来ればあんま苦しくない殺し方で頼む!後生だから!」
「僕だって一撃で心臓刺すっていう良心的な方法で殺しただろ!」と叫び、頭は覚悟を決めたように目を強く瞑った。
……って、いやいや。
「あの、頭?言っておくけどアレク……元アレキサンダーであるこのアレクは頭の事恨んでここに居るわけじゃなくて」
「ああ!?じゃあ何で居んだよ!他にどんな理由があるってんだよテメェ!」
泣き続けて目元が赤くなってきている頭に、私は言う。
「アレクも私の嫁です」
「第四夫人でーす」
骨の両手でピースしてみせたアレクを見て、頭は顔面蒼白になってふらついた。そのまま壁にもたれ掛かり、「嫁……幽霊が嫁……ローランも嫁……」と呟き始める。
「……なあ」
「はい?」
カタカタと震える頭は顔色を真っ青かつ真っ白にしながら、私に言う。
「謝るから助けてください。呪いで変死するのは嫌です。何でも答えるのでどうか、どうか惨たらしい変死だけは……」
命乞い!?
「いや、あの、しないしさせないけど!?誰がうちの嫁にわざわざ手を汚させるか!でも質問には答えて下さい!」
「答えれば良いのか?答えれば良いんだな?本当だな?答えれば俺の命をあの世に強制的に連れてったりしないんだな?部下達だけを呪い殺すとかも止めろよ。本当止めてくださいお願いします」
そ、そんなに幽霊駄目なのか……。
そう思って少し引いていると、私の肩に頭を預けているローランがぽつりと呟いた。
「……頭のこの反応、暗殺者だと割りとベターっていうかデフォルトなんだよ」
「マジで?」
「マジ。俺はあんま気にしないけど」
「気にしろや!」
ローランの言葉に対し反射的に頭が叫ぶ。
「死者にはある程度の敬意と恐怖を抱かないと酷い死に方するんだぞ特に暗殺者は!何度も言っただろうが!死者を冒涜するような暗殺者がどれだけおぞましい死に方してると思ってんだ!」
「頭って昔っからそういうトコ気にするよな」
「暗殺者は皆気にしてんだよ!」
頭って暗殺組織のボスなのに言う事がかなりまともだよね。少なくとも肉饅頭売りのお兄さんよりは会話のキャッチボールが出来てる気がする。まあ肉饅頭売りのお兄さんも購入後は普通に会話出来てたけど。
さておき、チラリと皆の方に視線を向けるとタバサが紙に「とりあえず名前と年齢と今回の事件の経緯についての詳細を」と書いて見せてきている。うーん、まあ確かにいい加減名前聞きたいし、詳しく聞いた方が良いのも事実だもんね。
とりあえずちょいちょいと手招きしてアレクには私の背後に回ってもらい、頭とちょっと距離を開けさせる。さっきから頭ってばアレクの方をめっちゃ気にしてたからね。少しでも距離を取れば多少は安心出来るだろう。
「で、頭。まずお名前は?」
「…………エマ」
「エマさんね」
「悪かったな女みてぇな名前でよ!文句あんのか!?ああ!?」
「被害妄想!」
別に私何も言ってないじゃん!そりゃちょっと女性的だなとは思ったけど!男でも薫って名前は普通にあり得るんだからそれと一緒でしょ!?そんな卑屈になんなや!
「あー、年齢は?」
「38」
「うっそでしょ見た目若っ!?人間だよね!?」
「どっからどう見ても人間だろうが!生まれてからずっと人間だったよ!でもあんがとな!」
うーわ、38歳て……マジか。どう見ても二十代なんだけど……いや、まあ、見た目と年齢が一致せんのは異世界ではよくある事だと思っておこう。エマさんの性格だと暗殺者は体が資本!とか言って健康に気ぃ使ってそうだし。
「えーと、それでエマさん、今回の件についてなんだけど。何で王族を狙ったり?」
「どうせブレイスやエステル辺りが喋ってんだろ。大体そのまんまだよ」
誰だブレイスとエステル。と思わず真顔になっていると、ローランが耳打ちして教えてくれた。
「ブレイスはデカい筋肉達磨。で、エステルは変装が得意なミーヤと同い年くらいの奴」
ああ、成る程。ハーフエルフのおっちゃんのトコで捕まえた厳つい奴がブレイスで、具沢山スープの屋台で捕まえた変装男子がエステルなのね。了解。
ちなみにローラン曰く、眼鏡の毒物担当はオースティン。ハニトラ担当の気絶してた女性はエイダ、隠密担当の気絶してた男性はマールというらしい。
ふーむ、確かにロロさんもその二人から聞いたって言ってたね。
「でも仕事を実費でやらされたとか、報酬が未払いだったとか、一般人や観光客を誘拐しろと命令されたとか……そのくらいしか聞けてないけど」
「充分それで全部だっつの」
そう吐き捨てた後、エマさんは私の背後に居るアレクに一瞬視線を向けてから「だが、強いて言うなら」と続ける。
「……バーバヤガの王は、戦争をする気らしい。近隣の国を自分の物にするとか何とかほざいてたぜ。今の内に自分達に全面降伏しておけば悪いようにはしないとか何とか」
「まあ、万が一バーバヤガが戦争に勝っても奴隷のように扱われるのは目に見えてたからな」とエマさんは言う。
「だからバーバヤガとの契約を破棄したんだ。一般人への被害は最小限っつーのが僕達のルールだしな」
「……何より」とエマさんは小さく呟く。
「……誘拐した奴等を戦争の為の捨て駒にするだの、戦争費用の為に奴隷にするだの、挙げ句の果てには生け贄がどうのこうのとかほざいてやがった。あんな奴の下になんざ死んでも行くか、っつーの」
心底嫌そうに、エマさんはべえ、と舌を出した。
「……ふぅむ……」
エマさんの言葉に、今まで黙って様子を窺っていた王様が眉を顰めて顎鬚を撫でる。
「……ニコラス、確か前にバーバヤガの国境付近を確認しに行っていたな。そして戦争の準備をしていたとも」
「はっ」
「…………バーバヤガには何度か面倒事を起こされているからな。後で城の者達全員に今回のバーバヤガの件を知らせろ。国民達にも警戒を促しておけ」
「了解しました」
うーん殺伐。でも実際奴隷だの捨て駒だの、挙げ句の果てには生け贄、だもんね。万が一ツィツィートガルの人が狙われたらって思うと……うん、対処は早めにしておくべきだ。警戒してるかどうかでも結構変わってくるだろうしね。
「……で?ミーヤっつったか。僕の知ってる事はその程度だよ。聞かれりゃ他にも色々答えなくもねえが、今お前らが聞きたいのに関してはそれだけだ」
「つまり現時点で僕の価値は無くなった」と、エマさんは言う。
「僕や僕の部下達の生殺与奪を握っているのは国王なんだろうが……その本人も丁度居る事だし聞いておこうか。国王、お前は僕達を、殺すか?」
エマさんの問いに、王様は「否」と首を横に振った。
「被害は特に出ておらんからな。わざわざ殺す理由も無かろう」
「命は狙ってなくとも王族に牙を剥いた暗殺組織だぞ?」
「そんな事を言ったらそこのアディなど頻繁に第二王子であるセインの首を絞めて気絶させている」
王様に指差されたアディさんはひたすらに天井のシャンデリアに視線を向けていた。
「ローランなど命を狙って来ていたしな」
次に指差されたローランは「あっはー……」と小さく呟いて私の肩の所に顔を埋めた。
「そもそもこの王城内の使用人の内三分の二は事情があり、王城内の使用人の内三分の一は余、または王子や姫の命を狙った者達だ。今更何を気にしろと?」
「いや気にした方が良いだろそれはよ……」
本当にエマさん常識人枠だよね。暗殺組織のボスなのに。
「そしてこの王城では、有望でさえあれば特に素性などは気にしない。庶民の出であろうが、自殺志望者だろうが、危険な組織に捨て駒として使用されていようが、王族の命を狙って来ようが、上級ドラゴンであろうが、余達の為に働いてくれるのであればそれで良い」
「まあ、つまりだな」と王様は立ち上がって私達の近く、エマさんの目の前まで来た。
「スカウトされる気はないか?スノードロップよ」
王様の言葉に、エマさんはニヤリと笑った。
「……僕単独ってわけじゃなく、スノードロップごとってか」
「そうだ。諜報活動に長けている存在が余の部下になってくれるならありがたい。お主の認識阻害を始めとしたスノードロップメンバーの得意分野に特化したその技術も素晴らしいからな」
「ちなみに断ったら?」
「普通に牢に放り込むだけだが」
王様の返答にエマさんは一度目を閉じ、
「……条件がある」
しっかりと王様の目を見てそう言った。
「何だ、言ってみるが良い」
「…………」
少しの間目を瞑って深呼吸をしてから、エマさんは言う。
「経費あり。正当な評価と報酬。休みも完備。それとそこの……アレクだったか。悪霊では無いらしいが僕からすれば恐怖の対象だ。しかしそこまでぐちゃぐちゃ言うわけにもいかないから……そう、せめて、悪霊を除けるような何かをくれ」
「経費も評価も報酬も勿論だ。休みも無くては仕事がこなせぬだろうから当然ある。……が」
「悪霊除け?」と王様は首を傾げた。
「当ったり前だ!幽霊を目撃した後に暗殺業なんざ出来るか!そうでなくとも夜に出歩けねえっつの!気休めだろうが何だろうがそういうモンがねえと僕達みたいのは役立たねえからな!」
「あー…………」
エマさんの主張に王様は困ったように頭を掻き、「アンナ」とアンナさんに声を掛けた。アンナさんは「そうだな」と王様に答える。
「人間に敵意や殺意を持っているゴーストのみを弾く簡易結界の術式なら適当なアイテムに刻める。もっとも、先にその刺青型の術式に関してを詳しく聞いてからだがな」
「だそうだが」
「上等だ。情報を噛み砕いてやったりはしねえからな」
「それでこそ楽しいというものだ」
よくわからないが、今ので交渉は終わったらしい。王様に「彼の拘束を外してやってくれ」と頼まれたのでハイドに頼むと、ハイドは黒く尖った指先を少し動かすだけでエマさんの拘束を解除した。
解放されたエマさんは手を何度かグーパーして感覚を確かめ、
「……寛大な心、感謝する。ツィツィートガルの国王よ」
姿勢を整えて深々と頭を下げた。
「この私、暗殺組織スノードロップの頭、エマ。部下達の命までは部下達自身のモノ故にくれてやる事は出来ないが……私の命は、国王に捧げよう」
「命の恩には命で返すが礼儀だからな」とエマさんは続けた。
それに対し、王様は慣れているのかさらりと言う。
「そうか、だが口調は先程のままで構わん。公の場でだけ気をつけてくれればそれで良い。それと命を捧げる必要は無いぞ。ある程度歳を食って隠居したくなったら、すれば良い。余は余に仕える皆に対し、そう思っている」
「……気遣い、感謝しとくぜ」
そう言って、エマさんはニヤリとした笑みを王様に返した。
……な、何か凄い真面目なシーンを見た気分だ。
エマは一時的な雇い主にはいつも通りの態度ですが、永久的な主と定めれば丁寧な対応も可能な大人。この世界観では珍しい上の立場の人をちゃんと敬える人。




