頑張ったよイケメンモード
ハイドの糸で拘束した頭だったが、
「あ、頭ってその上着の中に武器とか色々仕込んでるから取った方が良いよ」
「確かこの指輪んトコからもナイフみたいなの出てたよな。これも取るか?」
「いや、確かその仕掛けは指の動きに反応して出る仕掛けになってたはずだから指を動かせないようにしちゃえば良いはず」
というローランとタバサにより、上着を剥ぎ取られた後に改めて拘束され直した。手をしっかりと糸で包み後ろ手で縛り上げ、両足もギッチリと縛られている。
……背中がパックリ開いたアメリカンスリーブの上ヘソ出しのインナーて……。
上半身そんなインナーのみで拘束されてる姿がかなりセクシー過ぎる気はするけど、そういう雰囲気でも無いから黙っておく。うん、私は空気を読める日本人でやんす。
「では早速聞かせてもらいますが……」
「何を言われても答える気なんざねえよ」
あ、ロロさんからビキリって音が聞こえた。そして額に青筋が浮かんでいるのも見える。
「……ロロ、落ち着け」
「ええ、わかってるわデリック。別にニコラスに対してやるように暴力で脅したりなんてしないわよ」
え、ニコラスさんいつもそんな風に脅されてんの?
思わずニコラスさんに視線を向けると、ニコラスさんは酷く遠い目で天井と壁の境目を見つめていた。
……よし、私は何も見なかった。オッケイ。
てかロロさん以外と沸点低いね。まあ私の知り合いに居る元ヤンな沸点低い人こと表裏さんはキレたら即行暴力暴言って感じだったから充分我慢出来てるように見えるけど。
…………うん、私の色々なハードルが低いのは地球での知り合い達のせいって気がしてくるね。
「あのー、せめてまずはお名前を」
「お前無関係だろうが。僕は無関係な人間に関わる気はねえ」
名前くらい良いじゃん!ずっと頭呼びすんの嫌なんだけど!
すると、ローランが腰を下ろして頭と同じ目線の位置になり、話し掛けた。
「頭、とりあえず今の頭は捕まってるワケだしさ。大人しく従ったら?」
「ふざけんなよローラン!」
ガッと歯を剥き、頭は言う。
「……良いだろう、お前が戻って来るっつーんなら話してやる。そうじゃねえなら話す気はねえ」
「何で」
「お前は元とはいえスノードロップのメンバーだ。そして僕らはお前を復帰させるのも目的の一つだったからな。お前が戻って来るってんならお前は関係者だ。多少なら話してやるよ」
「いやいや、それは無理だろ」
うん、色々と何かもうめちゃくちゃだしね。と頷こうとした瞬間、
「だって今の俺、そこのミーヤに惚れてるから!」
輝かしい笑顔で放たれたその宣言と共に、ローランは胸を張って私の方を指差した。
……え、今言う事かなソレ。
そう思った次の瞬間には、頭が「またかテメェは!」と叫んでいた。
「またか、またなのか!?あれっ程誰かに惚れるなっつっただろうが!テメェ惚れる相手が毎回毎回クソみてえな奴ばっかだろうが!だからあれ程恋愛すんなっつったのにテメェ!僕らが何度テメェの尻拭いに奔走したかわかってんのか!?」
「うるっせえな放っとけ!俺がどんな感じの誰に惚れようと俺の勝手だろうが!だから嫌なんだよスノードロップ!俺が昔惚れた相手にちょっとお願いされたからって頭達を全滅させた後に自殺しようとしたくらいで恋愛禁止にしやがって!」
「寧ろ禁止程度で済んだ事を感謝しやがれ馬鹿野郎が!」
……ローラン、マジでどんなクズに惚れてたの?自殺前提で行動するんじゃないよ。頭の言葉が超正論過ぎて反応に困るんだけど。
ローランと頭は片方が拘束されている現状が見えていないのか、ぎゃいぎゃいと親子喧嘩のように言い争い始めた。
「つーかテメェもテメェで恋愛禁止を破ってクソに惚れて単独で国王暗殺しようとするとか馬鹿じゃねえのか!?しかも捕まってるし!だってのに王の剣に所属し始めるとかどうなってんだよ!」
「色々あったんだよ!具体的には暗殺ミスって捕まってやっべって思ってたらその時惚れてた奴が暗殺されたとか俺が惚れてたのを利用して暗殺させようとしたとか書かれてた日記が見つかったとか何とかで!そしたらそのまま王の剣にスカウトされたんだよ!」
「何でスカウトされてんだよ帰って来いや!テメェがまた変なのに引っかかって消息不明になったから始末したっつーのに!」
「はあ!?あの時殺したの頭達だったのかよ!?何で殺すんだよ俺が愛してた相手を!毎回毎回俺が愛した相手を殺しやがって!」
「テメェが毎回変な奴に惚れるからだろうが!そりゃ僕もその相手とやらを暗殺したいくらい恨んでる奴に「今なら安くするぞ」とは言ったが、それで暗殺依頼を出そう!ってなるくらい恨み買ってるような奴ばっかに惚れてんじゃねえ!」
「うっせうーーーっせ!今の俺は超良い人に惚れてて最高に幸せだから良いんだっつの!大体頭達がそんな事ばっかするから俺はスノードロップを抜けたんだ!王の剣最高だぞ恋愛自由だし!そりゃまあ惚れた相手がちょっとアレだったりすると捕まえられたりはするけど殺されたりはしねえし!何より俺が万が一本気で王様達の敵に回ってもその時はその時って事で敵として仕留める宣言されてるし!つまりそれに納得さえしてれば恋愛自由な職場!最高!」
「何が最高だこのイカレ恋愛脳が!!」
「仕事第一な癖に道に迷った一般人助けたりやたらオカン属性だったりする頭に言われたくねえ!」
……もう何か、本気で親子喧嘩だよね。ちょっと殺伐としてるけど心配症な親と多感な時期の娘って感じ。色々と矛盾がある気はするけど気にすんな。
「話がまったく進んでねェなァ」
「かといって割り込める雰囲気でもねえし」
「どうするだ?……ってお兄様座っちゃってるじゃねえか。つかよく見たら殆どが椅子に座ってるし」
上からオルコット、コン、セインの順である。
……うん、話に割り込んだりするのを諦めたのか、室内の殆どの人が椅子に座り直していた。立って喧嘩見守り続けるのは不毛だと判断したんだろう。そんな私も既に椅子に座っている。いやだって床に座るか椅子に座るかだったら椅子かなって。
「……あの男は、要するに関係者じゃないと話す気は無いって言ってるのよね」
ローランと頭の喧嘩のような言い争いをBGMにして優雅にお茶を飲みながら、ロロさんがそう口を開いた。
「そうねぇ。でもローランが復帰するのであれば多少は話すって言ってたわぁ」
ロロさんの言葉に、ケインさんが作ったらしいクッキーを齧りながらイースが返す。
「つまり、ローランは関係者枠って事ですよね」
「そうみたいねぇ」
笑みを深くしながら、「うふふふふ」とイースとロロさんは笑い合った。
「……何か、凄まじく恐ろしい光景を見ている気がするんだが」
「奇遇だなギルベルト、俺もだ」
「私もです」
「あの笑顔のロロは何かを企んでいる時のロロ……」
「何を言っているんだニコラス、あんなにも楽しそうな笑顔じゃないか。ロロが嬉しそうで俺も嬉しい」
「デリックさんはいつもそうですよね……」
「イースはイースで、アレ絶対何か企んでるよな。そういう匂いがする」
「ですがイース様ならミーヤ様を始めとした私達に害があるような事は考えませんから、大丈夫でしょう」
「……ん、イース……ミーヤ、第一、だから……大丈夫……」
「まあ、確かにそうなんだろうけどよ……」
上からギルベルト、アーウェル、リーンちゃん、ニコラスさん、デリックさん、アボット、コン、ハニー、ラミィ、ヒースの順である。
「……うちのローラン、ご存知でしょうけどミーヤに惚れてるんですよね」
「えぇ、知ってるわぁ」
「そして王の剣にスカウトする時に恋愛自由とも言ってあるんです。……ところでそちら、まだ空いてます?」
「……えぇ、勿論。基本的に大歓迎よぉ♡」
何の会話?ねえコレ何の会話?凄い良い笑顔だけど何の会話?
「ではそういう感じでお願い出来ますか?こちらは新入り達のお陰で戦力に余裕もありますし」
「うふふ、話がわかる人間で嬉しいわぁ」
そう笑い合ってから、イースがこっちに視線を向けた。
「ミーヤ、ちょっと良いかしらぁ?」
「え、あ、はい」
イースは言う。
「ローランを娶る許可貰ったから、娶っちゃいましょう♡」
「ほわっつ?」
待ってどういう事?
「だってぇ、関係者じゃないと駄目なんでしょう?ならミーヤがローランの夫になれば誰よりも関係者じゃなぁい。ロロも良いって言ってるしぃ」
「そうですよミーヤ。ローランは少々愛が重くてアレなところもありますが、思いは本物ですから。あ、こちらの事は気にしないでくださいね。ニコラス辺りが何か言おうとしても意見ごと捻り潰しますから」
口を開きかけていたニコラスさんが貝のように口を閉じた。
……意見ごと捻り潰すてどういう事なの。
「……えーと」
「ミーヤはうちのローランでは不満ですか?」
「いや不満はまったく無いんですけど」
突然過ぎて付いていけないだけで。
うーん、と頭を掻き、私は皆にも確認を、
「イース様が良いと判断したのであれば私は特に。ローランは元々ミーヤ様を好いていましたし、少々アレなところはありますがソレが表に出ない限りはまともですし。問題は無いかと」
取る前にハニーに先手を打たれた。そして皆もうんうんと頷いてるのは何なの。話が早いのは良いけど察するのとか反応とか色々と早すぎじゃなかろうか。
「……やはり次はローランが嫁になったか。うん、ロンの次はローランが嫁になるという順番が一番確率が高かったからな」
パンドラ、独り言のつもりなんだろうけど聞こえてます。パンドラからしたらローランが嫁になるのは決定事項なのねそうなのね。
……いやまあ、うん、拒否する理由無いし、ローランが私を好いてくれてるのは知ってるから良いけど、良いんだけどもね。
「あーーー……」と唸ってから、私は右手を上げて王様に言う。
「……あの、今からちょっとプロポーズして来ても良いでしょうか」
「うむ、存分にすると良い。ただし入り口付近で事に及ぶのだけは勘弁してもらおう。入り口付近で事に及ばれると席を立つ事が出来んのでな」
「流石にそこまでは致しませんけど!?」
「なら構わん」
王様めっちゃにこにこしてるけど中々凄い事言ったよ。何でプロポーズしたら即行で事に及ぶって思考になるんだ。ニーラクス学園か?ニーラクス学園に一年とはいえ通った結果の刷り込みか何かか?
……まあ良いか。深くは考えるまい。
どっこいしょ、と私は椅子から立ち上がって床に座りながら頭と言い合っているローランの元へ近づく。
「良いからごちゃごちゃ言わずに戻って来い!お前一番才能あるんだから!」
「だーかーらー!戻らねーっつってんだろうが!そりゃ新しい男と生きるのに邪魔だからって実の母親に捨てられて路頭に迷ってた幼い俺を拾って俺の才能を暗殺者方面とはいえ開花させてくれた事には感謝してる!ああしてるさ!でも人の恋愛感に口出しすんな!」
「するに決まってんだろうが!つかテメェ自分が恋愛云々で捨てられた癖に同じような道どころかそれよりもやべえ道辿ろうとしてんじゃねえよ!」
「今はそんな事ねえって何度言ったらわかるんだよ!今俺が惚れてるミーヤはマジで最高だからな!俺がこっそり忍び込んで寝顔を盗撮しようとしたって言っても許してくれたからな!盗撮の許可くれたからな!しかもストーキングの許可もくれたし俺がミーヤの好みの姿になるからって迫ったら俺は俺自身のままが一番だって言ってくれたんだからな!今まで俺惚れた相手にそんな事言われた事ねえし!どうだ最高だろうが!」
「お前惚れたって公言してる相手に何しでかしてんだ馬鹿野郎!つかテメェその台詞僕を始めとしたスノードロップのメンバー達で何度も言っただろうが!」
「知るか惚れてもねえ相手の言葉とか引っ掛からねえんだよ!大体頭達はアレだろうが!そういう事言う時必ず「見た目よりも技術が重要だから、そっちさえどうにかなってれば見た目なんて二の次だ」って感じだったじゃねえか!ミーヤはそういうんじゃねえんだよ!自分と喋ったローランはこの俺一人だから別人になろうとなんかしなくて良いって言ってくれたんだよ!そこに居る俺自身を肯定してくれたんだよ!」
「嘘吐けテメェ毎回クソみてえなクソにしか惚れた事ねえだろうが!」
「今までのが真実の愛じゃ無かっただけでようやく本物の真実の愛を見つけた結果が今なんだよ!真実の愛って凄えんだからなずっとふわふわしてるし!その上離れてるとそわそわして仕方が無いしミーヤの面影をいたるところで探しちまうし今どうしてるかなって思ってブルーな気持ちになったりするし!」
「は!?テメェいっつも惚れた相手には相手が辟易するくらい付き纏ってた癖に別行動したのか!?」
「そうだよいっつもは別行動せずにくっ付いてるし大体相手が死ぬか捕まるかだったから惚れた相手と別行動なんて初めてだったけど!」
「だが話を聞いてる限りやっぱりテメェの一方通行のままだろうが!尽くさなくて良い、そのままで良いって言われてるだけで!応じて貰えねえまま不毛な恋愛するよか、テメェの才能をしっかりと扱えるスノードロップにだな!」
「あーうるっせえうるっせえこの若作り爺!三十代後半の癖に風邪引きそうな格好しやがってもうちょっと落ち着いた服装に変えろや!」
「あ!?テメェの暑いのか寒いのかわかんねえ格好よかマシだろうが!」
「大体な!応じて貰えないとかどうでも良いんだよ!俺はただミーヤが好きなんだ!好きでいたいんだよ!そして好きでいる事を許可して貰えたんだから、応じて貰う貰えない関係無く俺は」
「はーいちょっと失礼」
激しい言い争いを続行し続ける二人に割って入り、私は床に座っているローランと目線を合わせるように片足を立てて跪く。
「ローラン」
「え、あ、ミーヤ、え、何だ?何事?」
椅子に座っている皆からの視線が集まってる事にたった今気付いたのか動揺し始めたローランの顎を右手で掴んで視線を合わせる。
「まあそこの頭に喋らせる為という理由もあるわけだけど、ローランに好印象を抱いているのも事実なわけで。そして私は娶る以上は相手の人生を貰うという事だから全力で幸せにするっていう気もあるわけだ」
「え、あ、うん?」
「で、私の場合は従魔兼嫁って形になるけど、基本的に従魔ってよりも嫁として扱うつもり。従魔契約をするのは契約による繋がりが欲しいって感じでもあるわけだしね」
「う、うん……?」
困惑しっぱなしのローランの顎を指に乗せるように持ち、「要するに」と私は言う。
「私の嫁になる気はあるか、ローラン」
「ある!」
即答かい。
本当によくわからんタイミングで即答するなあと思いつつ、迷いの無い即答は嬉しいなとも思う。
「んじゃ」
「あ、わっ」
ローランの顎を乗せていた右手を滑らせ、ローランの口布を外す。そして慌てて目を瞑ったローランの瞼に左手で触れ、
「勝手に付けるよ。「従魔契約」」
ローランから見て右の瞼に、桜を描く。……うん、弾かれない。ローランが従魔になっても良いと思っている証拠だ。
瞼に桜が描き終わり、私の指先から出ていた糸が切れ、
「あ……」
それが伝わったのか目を開いたローランの唇に、鳥の啄ばみのような軽いキスを落とす。
「うぇあっ!?」
「え!?え!?キス!?何で!?さっきのって目を瞑らせる為の動きじゃなかったのか!?」と慌てたように首ごと視線を彷徨わせるローランに、私は笑う。
「よろしく私の嫁。幸せにしてみせるから任せとけ」
「……よ、よろしくお願いします……」
よし!私のイケメンモード頑張った!
顔を真っ赤にさせたローランの返事を聞いた瞬間、イケメンモードに限界が来た私は「良かったぁ~……」と呟いてローランにもたれ掛かりながら抱き締めた。
本当はもうちょっとローランが病んでる感じになる予定でしたが、最初の方で既に闇も病みも見せてるし……重くし過ぎるのも……という事で軽めに。
それにしても最近のミーヤは性別ほぼ行方不明ですね。不思議。




