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異世界で魔物使いやってます  作者:
王族誘拐未遂編
228/276

恋する女性とキレた中年は怖い

絶賛モブ祭り開催中!



 さて、と気を取り直してセレスと屋台や露店を見ながら歩いていると、



「そこのお嬢様方、良ければうちの商品を見ていかれませんか?」



 露店のお兄さんに声を掛けられた。



「……あの、ミーヤ様」


「うん、うん、大丈夫、わかってる」



 声を掛けてきた眼鏡のお兄さんは柔和そうな笑みを浮かべているが、ミサンガが微妙に敵意があるぞと教えてくれている。

 ……さっきも思ったけど、多分セレス達に敵意があるわけじゃ無いっぽいんだよね。ミサンガの光が薄めだから。つまりは何らかの何かをする為の手段としてセレス達を狙ってるって事なんだろうけど……うーん、私ってば頭脳タイプじゃないからわからんぜよ。

 さておき、重要なのはそこじゃない。

 だってミサンガだけならセレスには察知出来ないはずだ。何故ならミサンガの光はイースと私にしか見えていないらしいし。そう考えると何故セレスは警戒した?という事になる。声を掛けてきたから無条件で警戒する程セレスは子供ではない。

 そう、セレスが警戒した理由は単純明快。



「んー!」



 ……このお兄さん、明らかに人っぽい何かを布でぐるぐる巻きにしたモノに座ってるんだよね。

 細長いし時々動いてるし人の気配するしくぐもった声も聞こえるしで確実に人、というかこの露店の人だろう。

 ……とりあえず、この人はさっきの厳つい男に比べて頭が回りそうな気配がするし、下手な行動はしない方が良いかな。



「……セレス、ちょっと見ようか」


「そうですわね。わたくしも少し興味があったので嬉しいです」



 こっちの思惑を察して微笑みながらナイスアシストしてくれたセレスの頭を撫でつつ、売り物のアクセサリーを少し見回してみる。



「……ん?」


「ああ、そのネックレスですか?確かにお嬢様に似合いそうな可憐さですね」


「あー……どうも……」


「ですがこちらの方がお嬢様にお似合いかと。まあ、これは私の好みなのですが」



 このお兄さんナチュラルに口説いてくるな。顔も良いからハニートラップとか担当してるんだろうか。

 まあ可愛い嫁居るしイケメン耐性あるし、何より眼鏡のイケメンで頭良さそうで一見良い人そうなクラスメイトは中々のクズだったからそう簡単にときめいたりしないけどね!



(ミーヤ)


(うん?何、ハイド)


(その男が今見せてきたネックレス、毒が仕込まれているから気をつけろ)


(まあ人魚の肉に上級ドラゴンの血肉を食らっているから眠らせる程度の毒は効かぬだろうがな。しかしセレスの方はそうでもあるまい。警戒しておいた方が良い)



 ロンの忠告に(了解)と返しつつ、毒仕込んでくるなやと少し溜め息。

 ……何か、優しげな笑みを浮かべながら毒をさらっと仕込んできたりとか、優しそうな口調でありながら優しくない感じとか、本当にクラスメイトを思い出す。

 いやー……本当今思い出しても彼はクズだった。どうもホラーとか人知を超えた現象系が好きだったらしいんだけど、話聞いてる限り性欲的な意味で好きっぽい感じだったからね。

 そして人間には、そこらの野グソより興味ありません♡と言うような奴だった。

 可愛い女子に告白された時にそう言って断ってたのを目撃した事があるから知っている。廊下で告白する方もアレだけど目撃者多数の廊下でそんな事言ってのける彼も彼だ。あ、思い出したらちょっと不愉快になってきた。顔だけは良いんだけどね、彼。

 さておき、そこはどうでも良い。そこは別に重要じゃない。重要、かつ私がさっき気になったのはアクセサリーの配置だ。

 ……この配置、めちゃくちゃ見覚えがあるんだよね。

 主に、ノアがこんな形に弄くったような、という見覚え。そして売れ残りそうな位置には見覚えがあり過ぎる脳天に矢が刺さってるスカルや内側にトゲが尖っているブレスレット。

 ……ここ、あのおっさんの露店か。何で人の知り合いの店を狙うんだこいつらは。



(ミーヤ)


(ん?パンドラ?)


(今すぐにセレスの目と耳を塞いでやってくれ。あと数秒だ)


「ほわっつ?」



 思わず口に出してどういう事かと聞こうとしたら、お兄さんの背後から黒い靄のようなモノを背負った女性がゆらゆらしながら現れた。長めの前髪からは殺気を感じる血走った目が覗いており、一歩、また一歩とお兄さんの背後に近づいて行く。

 ……あ、まさか。

 何となく心当たりに気付き、私はセレスがその人に気付く前にセレスを振り向かせて正面から抱き締める。



「み、ミーヤ様!?」


「ごめんセレス、息苦しいかもしれないけどとりあえず目を瞑ってて。あとこれからちょっと子供の精神衛生上よろしく無い状況になる可能性が高いから耳も塞ぎます」



 もうあと二歩でお姉さんが完全にお兄さんの背後に回るのが目に見えていたからセレスの返事を待たずに耳を塞ぐと、セレスは「……わかりました。後で説明してくださいね」と言って目を瞑り、私の胸に頭を預けた。話が早くて助かるよ。



「……どうされました?」



 突然の私の行動に対し、訝しげにこっちを見たお兄さん……の背後に、とうとうお姉さんが到着してしまった。私はセレスを抱き締めながら摺り足で一歩下がる。



「…………私の愛するその人に、何をしているの?」


「っ!?」



 背後から掛けられた可愛らしい、しかし異様な恐ろしさを纏った声にお兄さんは慌てて振り向き、



「 何 を し て い る の ? 」


「ぐえぁっ!?」



 背後から腕を回され、お姉さんに喉を鷲掴まれた。

 ……今、メキリって音しなかった?というかお姉さんが完全に握力だけでお兄さんの首掴んでるの怖いんだけど。手の甲にめっちゃ血管浮き出てて超怖いんだけど。



「私はね、その人の事を愛しているの。売れないアクセサリーの露店をしながら質素な生き方をしているその人が好きなの。幾らでもお金をあげるって言っているのに、何もしてないのに受け取るわけにはいかない、なんて言っちゃうその人が好きなの」


「かっ……は……っ」


「私がその人の家にこっそり忍び込んでお掃除をしてお料理をしたらね、その人はそんな事しなくて良いって言ってくれたわ。でも私がしたい事だからってこっそりやってたの。そしたらね、その人は私に合鍵をくれたのよ。頼り過ぎになるだろうから渡したくなかったんだが、って」



 「 わ か る ? 」とお姉さんは可愛らしいのに圧を感じる声で続ける。



「私が嫌だから、私が不法侵入までするようなストーカーだから合鍵をくれなかったんじゃないの。古くなってもう捨てるしかないような古着をこっそりと盗むようなストーカーだから駄目だったんじゃないの。彼は私に負担を掛け過ぎるのを心配していたの。そう、それは愛。気遣いという愛。本当に大事にしたい存在への愛。彼は私に合鍵と共にそんな愛をくれたのよ」



 あ、よく見るとこのお姉さん微妙にヒイズルクニっぽいアレンジがされた服着てるね。アジアっぽいというか。つまりヒイズルクニ出身の可能性があり……うん、納得。



「 そ ん な 彼 に 」


「っ…………」


「 何 を し て い る の 」


「…………」



 恐怖か、痛みか、酸欠か。どれが原因だったのかはわからないが、眼鏡のお兄さんはガクリと糸が切れたように気絶した。しかしお姉さんは止まらない。



「ねえ、ねえ、何を寝ているのよ。何で寝てるのよ。寝るなんて許さないわよ起きなさい。謝りなさい。彼に。彼を拘束して動けなくしてその上に座るなんて蛮行を働いた事を謝罪しなさい。私だって彼を拘束したり動けなくしてお世話したり膝の上に乗ったりとかしたいのに。私より先にそんな事するなんて許せない許せない許せない許せない許せない起きろ!!」


「お姉さんストップ!その辺にしないとマジでその人死んじゃう!」


「起きないなら殺すわ!」



 駄目だ話聞いてくれないこの人!

 しかし今現在私はセレスの目を耳を塞いでるから動けない、つまり力ずくで羽交い絞めにするとかが出来ないんだよなと思っていると、お兄さんが未だに下敷きにしている物体が動いたのに気付いた。



「お姉さん!その人が気絶したから重さがダイレクトに下敷きにされてる人に行っちゃってるらしくて苦しそうですよ!その眼鏡のお兄さんは後で私の知り合いの冒険者が回収しに来るんで縛って放置しておくのはどうでしょうか!まずは下敷きにされてるお姉さんの好きな人を助けるの優先って事で!」


「それもそうね」



 私の言葉に、お姉さんは即座にお兄さんを地面に捨てた。そしてハンカチでお兄さんの腕を縛ってから、下敷きにされていた物体の布をスカートの中から取り出したナイフで切り裂いておっさんを救い出した。

 ……何故スカートの中からナイフが出てくるんだこの人。

 い、いやまあ、お兄さんに対してナイフを持ち出さなかっただけ良かったと思っておこう。



「ぶはっ、はー!ビックリした!いきなり拘束されたと思ったら暗いわ重いわ暑いわでどうなるかと!」


「大丈夫?どこか辛いところはない?」


「え、アレ、お前が助けてくれ……って事はまさか襲撃者は死……!?」



 顔を青褪めさせたおっさんに、私はもう大丈夫だろうと判断してセレスの耳から手を離して「いやそこに転がってますよ」とお兄さんを指差した。

 おっさんは「うわ本当だ!」とお兄さんを見てから、私、お兄さん、と首ごと動かして四度見くらいし、



「お嬢さんに姫様ってどういう組み合わせだ!?」



 と叫んだ。

 あ、おっさんはセレスの事知ってたのね。



「……あの、ミーヤ様、見る限り終わったようですが何が……?」



 きょろきょろと周囲を確認し、転がっている賊らしきお兄さん、見覚えは無いが怪しい雰囲気を纏っているお姉さん、そしてさっきまで下敷きにされていたらしい見知らぬおっさんが居るという現状に困惑したらしく、セレスは私の服の裾をぎゅっと握った。



「えーと……端的に言うと、そこのお姉さんが何とかしてくれた」


「何とか……ですか」



 気絶しているお兄さんの顔は明らかに恐怖に歪んでいたが、セレスは一度頷くだけでその情報を整理したらしい。



「申し訳ありません、現在少々事情がありまして、どうやら巻き込んでしまったようです。後でその賊を回収しにうちの者が来るはずですので、その際に引き渡しをお願い致します。それと被害に対するお詫びですが、後日きちんとお話をさせていただきたいてもよろしいでしょうか」



 きちんと頭を下げてそう言ったセレスに、おっさんに寄り添っているお姉さんは「……ええ、わかりました。それなりに要求はしますから」と頷いた。



「ありがとうございます。ではミーヤ様、行きましょう」


「え、あ、はい。その、ご迷惑お掛けしました!」



 それだけ言って、セレスに手を引かれるがままアクセサリーの露店から離れて歩き出す。



「……ミーヤ様、あの女性が賊を倒したのですよね?」


「うん」



 おっさんだけじゃなくてお姉さんも巻き込んでしまったからか少し気落ちしているらしいセレスに、私は正直に「圧勝だったよ」と返した。



「……圧勝?」


「背後から首ガッて掴んで気絶させてた」


「それは……もしかして、わたくしが気にする必要は」


「無いと思う。多分確実にお詫びとして結構な請求してくるだろうから、そこだけ気にしておけば良いんじゃないかな」



 そう言うと、セレスは「お父様の国の民は皆様お強いのですね……」と感心したように呟いた。

 ……うん、凄く強いよね。軽く引くくらいには強い。

 そう思ってうんうん頷いていると、



「そこの子達!良かったらうちのスープ買わないかい?」



 またもや声が掛けられた。



「…………」


「…………」



 セレスを目を合わせてアイコンタクト。「またでしょうか」というセレスの視線に、ミサンガのうっすらとした反応を確認してから「そうっぽい」と同じく視線で返しておく。



「……ミーヤ様、連絡を」


「うん」



 慌てず騒がず従魔用テレパシーで通報しよう。



(あの、今話しかけて来た男の人も多分賊なんだけど)


(……タバサ……入れ食い過ぎ……って、頭……抱えてる……)


(あ!でもね!今ね!連絡入れてくれたよ!アボットが回収しに来てくれるって!だからちょっと時間稼いでって!)


(了解)



 ラミィとマリンにそう返し、セレスに口パクで「時間稼ぎしてって」と伝えると、セレスは無言でコクリと頷いてくれた。



「えーと、どういうスープですか?」


「どういう?」



 振り向いてそう言った私の問いに、前髪が長めのその人は自分がかき混ぜているスープを確認した。



「た、多分具沢山スープだよ!」



 自分の売ってるスープくらい声掛ける前に確認せいや。

 そう思い、つい白い目を向けてしまった瞬間、



「厚底皿アタック!」


「いっだあっ!?」



 具沢山スープ屋台の本来の主だろう人が前髪の長い男の脳天に分厚いスープ皿を縦にして思いっきりチョップした。

 ……って、あ、この人店主さんだ。レッドとコリンと色々話す時にスープ買ったから覚えてる。正確には買ったのタバサとコンとハイドだったけど、お客さんと話してる内容が濃かったから覚えてる。



「う、あ、あたたたたたた…………」



 脳天に全力で皿チョップされた男はフラフラと屋台の外に出てきて、「もう、折角のガワが破れちゃったじゃないか」と言って世界一有名な三代目の怪盗のようにベロリの顔の皮を剥がした。



「まあこういう事があっても良いように下に別の顔は付けてるんだけどね」



 前髪の長い男、というマスクの下には、少年から大人の男性になっている途中のような、というか具体的には高校生男子くらいに見える顔が現れた。

 変装男子は「はあ」と溜め息を吐き、



「まったく、一般人だからって縄を緩めにしてたのが失敗だったかな。残念だけど、ここは一旦撤退させて」


「逃がすかあ!!」


「いったーあっ!?」


「おおー、ナイスショット」



 店主が投げた皿が今にも逃げ出そうと身を動かし始めていた変装男子の頭部に見事ヒット。思わずセレスと一緒に拍手しちゃったよ。店主ってばコントロール良いね。

 そう思っていると、頭を抱えて這い蹲っている変装男子に近付いた店主が再び皿を振り上げた。



「これは突然襲われて怖かった分!これは突然拘束された分!これはえっととにかく俺が超怖かった分だああああああ!」


「いたたすまないごめんごめんなさい!コレ実は本当の顔なんだよちょ、まっ、マスク無しで受ける厚底の皿痛い!」



 あー!駄目だ店主ちょっとSAN値チェック失敗して一時的発狂かなコレ!?涙目になってるトコ悪いけど多分今一番泣きたいのは殴られてる変装男子だと思うの!てかソレ素顔なのね!?



「店主さんそれ以上は!素人は!素人は手加減出来ないからやばいって本に書いてあった!脳天だけでもやばいのに連打はちょっと勘弁してやって!ね!後でその賊回収する人来てくれるから!ね!」


「だって!だってコイツが!」



 確かに悪いのはソイツなんだけど……とまで考え、相手は多分ツィツィートガル国民だから意識を切り替えさせれば良いのでは?と私は気付いた。



「でもあの、その人あんまり怪我させない方向で行きたいんです。だから、えっと、回収しに来た人にソイツの身柄を渡してくれれば……えっと、お詫びとして後日多分何か良い物貰えます!」


「マジか!なら追撃は止めとく!」


「そうしてください!」



 良かったどうにかなった!ありがとうツィツィートガル国民の国民性!その切り替えの早さはとても助かる!

 そしてより一層ありがたい事に、変装男子は頭部への連続攻撃で気を失っていた。これなら逃げ出す危険性も無いだろう。



「じゃあすぐに回収の人が来ますので」


「おう、何か巻き込んで悪かったな!」


「いえ巻き込んだのはこっちなのですが……」



 もごもごとそう呟いたセレスに、「まあ後で説明あると思うから……」と手を引いて具沢山スープの屋台から離れる。



「……いやー、ツィツィートガルの国民は強いね」


「思っていた以上に強過ぎる気が致しますわ…………」



 少しの無言の後、セレスは窺うように言う。



「あの、本当にあの方々は一般人なのですよね?特殊な訓練を受けた方々では無いのですよね?」


「そこまで詳しく無いけど一般人のはず」


「そうなので、す……か…………」



 前方に視線を向けながらどうにか納得しようとしたらしいセレスだったが、語尾の方は消え入るような声になっていた。しかしそれも無理からぬ。何故って?



「さあ肉饅頭!蒸かしたて!美味いぞ!さあ買え!そして食ってけ!」



 肉まんやシュウマイが入っているイメージの強い蒸籠せいろを両手に掲げながらそう叫んで客引きをしている死んだ目のお兄さんの足元に、まるで踏み台のように片足で押さえつけられながら男女一組が倒れていたから、かな。



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