狙われた王族
あれから大体一週間程歩き、無事王都に戻って来た。相変わらず濃い屋台の人達を眺めつつ、まずはいつものあのお高い宿屋に向かう。
あそこ本当にお部屋広いしセキュリティも結構しっかりしてるから安心なんだよね。今ちょっと人数が凄いってのもあって結構広い部屋じゃないと一緒に居れないって理由もあるし。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ……ってミーヤさん!」
食堂も兼用しているエントランス部分の受付に居たお姉さんに話し掛けると、どうやら顔と名前を覚えられていたらしい。お姉さんは奥でコップを拭いているお兄さんに「先輩先輩、ミーヤさん一行来ました!」と声を掛けた。
……いや、うん、まあ、そりゃこの面子目立つし流石に覚えるよね。
「いらっしゃい、嬢ちゃん。宿泊か?」
「はい、宿泊で」
「部屋はいつもの?」
「はい、いつもの大部屋でお願いします」
「あいよ、了解」
「日数は?」と問われ、とりあえず「一週間で」と答えておく。
「あ、先に宿泊費支払っちゃいたいんでお値段お幾らですか?」
「ああ、それいらねえから」
「はい?」
首を傾げると、お兄さんの後ろからひょっこりと顔を出したさっきの受付のお姉さんが笑みを浮かべながら教えてくれた。
「ミーヤさん達の分は王家が支払ってくれるんですよ。何でも依頼の報酬だとかで。なのでこの先ずっとこの宿屋での宿泊費と食費の支払いは必要ありません!そんなわけで今後ともご贔屓にお願いしますね」
……私、この宿屋にお金を支払った覚えが無いんだけど良いのかな……。
うん、まあ、食費を負担してもらえるのはありがたいから良いという事にしておこう。何か今までも王家に支払ってた気しかしないが、うん、スルーしよう。屋台とかで使うお金がたんまり残ってありがたいなくらいの気持ちで。
「ところで」
お兄さんは宿泊者の名簿にさらさらとペンを走らせながら、私の後ろの方で待機している皆を見て言う。
「増えたよな?」
「前回から二人増えました」
ぶい、と人差し指と中指を立ててピースサインをして見せると、お兄さんは少し遠い目になって頷いた。
「見た目と行った場所が場所だから種族聞くの怖いし、聞かないでおくな。とりあえず祝いとして飯食う時はうちの料理人達にいつも以上に腕振るわせるから」
「ありがとうございます」
「当然のサービスだから気にすんな」
そう言って名簿を書き終わったらしいお兄さんは「で?」と首を傾げた。
「もう部屋行くか?ならカギ渡すが」
「あ、いえこれからギルドに行こうかなって。ニーラクス学園での依頼を達成したって報告もしたいですし。ただ先に部屋取っておかないと後で困るよなって思ってこっち先に来たんです」
「成る程、んじゃカギは帰って来てから渡そうか?」
「それでお願いします」
「おう」
お礼を言って皆の方へと戻る。カギは無くさないだろうけど、別に受け取るのは後でも問題は無いだろう。少なくともこんだけ目立つ面子が居るなら部屋を間違ったりの手違いは起こるはずもないだろうからね。逆立ちしても人違い出来ないよこのメンバー。
「おい後輩、嬢ちゃん達用の部屋の掃除もっかいしとけ」
「了解しました先輩。あ、花瓶に花も生けといた方が良いですよね。何の花が良いと思います?」
「そうだな……」
「私の好きな花とか?」
「お前の好きな花は従業員用の控え室に生けとけ。嬢ちゃん達の部屋には……キラービーの嬢ちゃん居るし、店員に蜜多めの花聞いてソレ買って来い」
「はーい。花代は経費で良いですよね?」
「おう。……あ、待てお前の好きな花はこっちの金で買え」
「え、何でですか?」
「花のプレゼント代わりだ。俺がわからんまま店員のおすすめ買うよかお前が自分で自分の好きな花買う方が良いだろ」
「先輩それずるい」
待って今何か凄く甘いラブロマンス展開してない?
思わずぐるんと振り向いて二人の様子を見ていたら、ロンが長い顎鬚を撫でながら同じ様に二人の方を見て「ふむ」と頷いた。
「学園に出す手紙に書いても良いと思うか?」
確かにNL好きな子達が喜びそうなネタではあるね。
「多分ニーラクス学園の視点からすると喜びそうだけど、一応プライバシーには配慮しといてあげてね」
「うむ、勿論だ」
さて、と私達は宿屋を後にした。
途中で食べ物を買ったりと寄り道しつつもギルドに到着し、受付に居たメルヴィルさんに話し掛ける。
「メルヴィルさー」
「何があったんだよニーラクス学園でよミーヤ!」
「ん」
何故か声を掛けた瞬間に叫ばれた。
「……ってか言語がめちゃくちゃ」
「だって超怖かったんだもん!」
メルヴィルさんはそう叫んでわっと顔を覆った。
「王城からミーヤがニーラクス学園の依頼こなしたらしいっていう報告と、ニーラクス学園から違う突発的な依頼もこなしてもらったから功績としてちゃんと足しておいてくれって……くれって連絡が来たと思ったら!何か!何か凄く怖かった!」
「どうどう」
周囲の受付嬢さん達が同意するかのような表情で頷いてるトコを見るに相当怖い事があったんだろう。そう思って私はアイテムポーチから適当なアイテムを取り出す。
「あの、もし良かったらこのお土産どうぞ」
「え?ありがとう」
さらりと切り替えて顔を上げたメルヴィルさんは私から受け取った壷の蓋を抜いて中身を見て首を傾げ、くんくんと鼻を鳴らした。
「……油、じゃなくてクリーム系?乾燥防止用とか?」
「いや、赤色のお姉さんが「遊びで作った物だけど良かったらコレ欲しがってる人にあげて」って。多分美容にも怪我にも効くと思う」
「へー、結構量あるね。ところで原材料何?匂いからすると花でも無いし獣の油でも無いっぽいけど」
「上級ドラゴンの血から抽出した油だって」
メルヴィルさんは無言のまま反射的に壷を投げそうになった自分の腕を必死に抑えた結果、壷を掲げた状態で椅子ごと引っくり返ってしまった。
そしてやはり無言のまま椅子を直し、壷に蓋をして横に置き、一度深呼吸をしてから至極真面目な顔でメルヴィルさんは言う。
「……何て?」
「上級ドラゴンの血から抽出した油が原材料だって。血肉とは違うから肌の状態を良くしたり、良い状態で維持したり、あとは重傷を軽傷に治すくらいしか出来ないけどって言ってました。ここなら受付嬢さん達使ってくれそうだし、冒険者の人も使うかなって」
そう言うと、メルヴィルさんは「待って」と言って頭を抱えた。
「……え、上級?」
「上級ドラゴンですね」
「あー……っと、そういやニーラクス学園には上級ドラゴン居たっけ。そのドラゴン?ニーラクス学園の新商品?」
「いや、その上級ドラゴンは今そこで冒険者ビギナー用の説明書読んでます。ホラあのキセル持って煙吐いてる青い人」
「……俺の目が狂ってないならその青い人の頭部に生えてる角にミーヤの契約印っぽいのが見えるんだけど」
「新しい嫁です」
「もおおおおおおおお!俺にどんな反応をしろっての!?」
メルヴィルさんが机に勢いよく頭を打ちつけて額が真っ赤に染まった。
「……よし、落ち着いた。受付ボーイは取り乱さない」
「めっちゃ取り乱してましたけど」
「コレで取り乱さない方がおかしいからね普通は。そして俺が意識を上手に切り替えれるからセーフなだけだからね。普通だったら混乱してキャパオーバーで気絶するからね」
うん、大変申し訳ない。
「ちなみに壁に寄り掛かってイースと喋ってるっぽい見覚えの無い男の舌にも契約印がチラ見えしてるんだけど」
「最新の嫁です」
「新商品かよ」
流石芸人、ツッコミが早い。
「で、このクリームは?」
「ロン……あ、あの青い人なんですけど。ロンがちょっと昔馴染みに顔見せたいって言って、丁度近くにあるからって事で上級ドラゴンの……集落?巣?に行きまして」
「その時点でちょっと頭おかしくない?」
「否定はしません」
というか寧ろ全力で肯定したいくらいには正論。
「で、そこの上級ドラゴンのお姉さんがくれました。お土産にって」
「上級ドラゴン相手にあっさりとお姉さん呼び出来るミーヤのメンタルどうなってんの?」
「あっはっは」
我ながらどうかと思うけど恐らく多分きっとSAN値MAXの称号のせいだと思いたい。
「で、ニーラクス学園からの解読の依頼なんですけど」
「ああはいはい、こっちにもクリアの連絡は来てるから。ギルドカードプリーズ」
「はーい」
ギルドカードを渡すと、メルヴィルさんは無駄の無い動きで依頼クリアの情報を入れて返してくれた。
「ありがとうございます」
「いーえ」
返してもらったギルドカードをアイテムポーチに仕舞い、ふとさっきの会話を思い出す。
「そういや超怖かったとか何とかって何があったんですか?」
「全部ミーヤ関係だけど!?」
心当たりありませんが。
そう思っているのがわかったのか、メルヴィルさんは「あのね」と前置きしてから口を開く。
「ニーラクス学園。副学園長。スケープゴート。王様達激おこ」
「わお」
成る程それか。そういや学園長も私が被害者になりかけたって連絡したら王族が激おこっぽい声色になってたとか何とか言ってたね。一週間くらい前の事だったし途中で上級ドラゴンの巣だのパンドラが嫁入りだのと色々あってすっかり忘れてたわ。
「あとまあ今王様達何か大変らしくて、そっちでもストレス溜まってて大変みたい」
「大変って?」
「さあ」
さあて。
「でもかなりストレス溜まってるみたいだよ。エヴァンなんて「最近ケインとブラッドが俺に対してやけに過保護で怖いんだけど」って言ってたし」
「待ってください情報量が多い」
エヴァンさん頻繁にギルド来てるの?そしてエヴァンさんケインさんとブラッドさんの事を呼び捨てするようになってるの?んでもってストレス溜まって過保護って何ぞ?
メルヴィルさんは溜め息を吐いて言う。
「まあギルドの情報網でわかってる事から発言すると、どうも王族達がめっちゃ狙われてるみたいでさ」
「え」
狙われてるって……。
「命を?」
「いや命はまだセーフみたい」
あ、そうなんだ。良かった。
「でも誘拐未遂?っていうか、誘拐してこようとはしてるっぽくて。今んトコは使用人に変装してすり替わられたりする時に、すり替わられた使用人が縛られてどっかに放置、ってくらいしか実害は出てないっぽいんだけどね」
「怪我人は?」
「ゼロ」
使用人が凄いのか誘拐しようとしてる人が凄腕なのか。いやでも話を聞く限り実害は出てないって事は変装は見抜かれてるっぽいから使用人の方が凄いって可能性が高いね。
「ただまあ、そのせいで外出した時に一般人が巻き込まれる可能性を考えると……って感じで困ってるらしくてさ」
あー……。
「ケイン様とブラッドさんは開店準備が遅れるしエヴァンに被害が出ないかって事でストレス溜まってるみたいだったし、セイン様とアディはよくその辺の店に顔出してたりしてたんだけどそれが出来ないからってストレス溜まってるみたいだし……」
成る程、エヴァンさんがケインさん達に過保護な扱いをされたのはそれが原因か。確かに自分達が原因で無関係の友人が被害に遭うとか嫌だもんね。呼び捨てになってる事から考えるに大分親しくなったっぽいし。
んでセインとアディさんはよくその辺の店に顔出してたんだ。凄い、容易く想像出来る。具体的にはセインがあちこちはしゃぎながら見て回って、その後ろからアディさんが溜め息を吐きながらついて行ってそう。
「セレス様なんて庭を歩いてたら誘拐されそうになったらしくてタバサがちょっと警戒強めてるし、アラン様はお菓子に眠り薬を盛られたらしくて」
「え!?それ大丈夫だったんですか!?」
「両方大丈夫だったみたい。セレス様の場合は靴抜いでヒール部分で相手の目を狙って、相手がそれに驚いた隙に逃げて事無きを得たってさ。アラン様の方はアラン様が食べる前に付き人の……ファフニールだっけ。ファフニールが気付いてセーフだったって」
「おお……良かった」
というかファフニールセコムはわからんでもないけどセレス強いね?ヒールて。ヒールで目を狙うて。確かに身近な物を武器にする臨機応変さは大事だと思うけれども。
「で、そんな王族なんですが」
「……はい?」
「ミーヤに彼らから依頼が来ております」
あ、嫌な予感だ。メルヴィルさんのこの笑顔は「俺には止めるの無理だから頑張れよ」の笑顔!
「……どんな依頼で?」
「その誘拐犯達はどうも組織っぽいみたいで、逃げるのに特化した奴も居るみたいなんだよね。だから一人も捕らえる事が出来てなくて、どうして狙われてるかがわからないっていう。そんなわけなので捕らえるのに協力してくださいって依頼」
「他のもっとランク高い人に出す依頼じゃないですかねソレ」
「Sランクパーティである王の剣でも捕らえれてないからなー。多分、だからこそミーヤに依頼したんだと思う」
だからこそって何。確かに普通のパーティとは違うから違う視点からのアプローチ扱いにはなるだろうけど。
「で、受ける?一応受けるかどうかは自由扱いだけど」
頬杖をついたままそう言うメルヴィルさんに、溜め息を吐きながら私は答える。
「受けますよ。セレス達にお土産渡したいし」
「了解、んじゃそういう風に連絡入れとくな。それと受けたなら即行で王城まで来て欲しいとも依頼書に書いてあったから」
「了解です」
確かに即行で事に当たって解決した方が良い件だろうしね。
今の所被害は使用人さん達がちょっとの間拘束されるだけっぽいけど、この先も怪我をしないとは言い切れない。大体怪我をしないから拘束されても良し!とは言えないからね。拘束だけでも充分にアウト。
……まあ、従魔兼嫁の皆ならともかく、私がこの件に関して何か力になれるとは思えないけど。
だって私一般人。そんな王族誘拐を企てる組織を相手にするとか普通に経験無いわ。頼む私の味方をしてくれビギナーズラック。
「あ、ちなみにこの依頼、ミーヤが帰って来るまでに解決してたら破棄って予定だったんだ」
大人しくその組織の人間とやらが捕まっていてくれれば……!




