地球の知り合いは濃い人ばかりだったよ
パンドラと出会ってからの翌朝、私達は上級ドラゴンの集落を出て王都へと戻ろうとしていた。
いやーボス達本当に客に飢えていたというか何というか……記憶を読んだり出来るからパンドラの事もわかっちゃったみたいで警戒してたんだけど、私の記憶を読んでから、
「……あ、何だよそういう感じか?まあミーヤがそれで良いなら良いか。小生達がうだうだ口出しする事でもねえな」
と言って、「じゃあミーヤに嫁が増えた祝いで宴会すっぞ!」というボスの言葉で再び宴会が開かれた。またもや上級ドラゴンの角コップだったけどまあ慣れたから良いやと飲んだ。祝ってくれるのは嬉しいしね。無事パンドラと盃を交わす事も出来たし。
「私は、皆と共に歩いて行きたい」
「俺様はミーヤと共にある未来を生きたい」
「私は、三岡美夜は、皆と共に生きていく」
未来が見れるパンドラだからこそ、って感じの誓いの言葉だったね。
で、そのパンドラだけど、今は綺麗な虹色の目を閉じている。
閉じているというか伏し目状態だ。何でも邪眼を便利に使ってはいるけど、あんまり使わなくて済むなら使いたく無いとの事。まあ確かに邪眼使い過ぎたら疲れ目とかになりそうだもんね。
そういうわけで王都にも傲慢の邪眼を使えば一瞬だという案も却下させてもらった。使いたく無いって言ってるのに使う癖が付いちゃってるよねパンドラ。
というか目以上に変化があったのは服装だ。魔王としての服はごちゃごちゃしているから、と現在はシンプルなシャツ姿である。袖をまくって七分丈状態だから休日のバーベキュー会場とかに居そうな爽やかさ。初代魔王とは一体。
「ちょっと聞きたい事もあったし、普通に歩いて王都まで行こう」
「俺様が別に構わないが……聞きたい事?」
「聞きたいっていうかねー……」
全員で王都までの道を歩きながら、私は言う。
「改めてこっちの世界での結婚について詳しく聞いておきたい、というか」
「多少は説明したけどぉ……」
イースは頬に手を当てて、「そういえば詳しく説明はしてなかったかしらねぇ」と言った。
……うん、そうなんだよね。何か殆ど成り行きで結婚して、気付いたら嫁が凄い事に……って感じだからね。あと他の人達が疑問する様子も無く普通に受け入れてくれてるもんだから得意技の「まあ良っか」が発動しちゃうという。
ただ、流石に嫁が十人を越えたら色々と気になる点も出て来るものだ。上級ドラゴンの血肉でそう簡単には死なない状態になったから考えるだけの余裕が出来たとも言えるのかもしれないけどね。
「とりあえず、こっちの世界ではハーレムがオッケー……っていうのは知ってる」
「じゃあまずはそこから話しましょうかぁ?」
「お願いします!」
歩きながら、イースは言う。
「まずハーレムだけどぉ、基本的に養えるのであれば人数も性別も自由よぉ。あと呼び方も自由」
「私が皆の事を嫁って言ってるのは」
「普通に受け入れられてる時点でデフォルトよぉ」
あ、やっぱこれデフォルトなんだ。コンを嫁って言った時に凄くあっさり受け止められるなとは思ったけど。
「基本的にお互いが受け入れていれば呼び名なんて何でも良いのよねぇ。ハーレムの主が女だとしてぇ、夫が欲しいと男達と結婚したとするでしょう?そうすると婿呼びになるわよねぇ」
「だね」
「クイーンビー様もそういうタイプですね」
ハニーの言葉に、ああ確かにと頷く。女王蜂なら男は夫という認識になるだろう。
「でもハーレムの主が女、でも男を愛でたいとかぁ……んん、まぁ、やっぱり本人がどう呼びたいか、よねぇ。姉に対してお姉ちゃんって呼んだり姉さんって呼んだりするのと変わらないわぁ」
「あー」
成る程、そういう感じね。
「つまり姉に対して兄と呼ぼうが呼ぶ側と呼ばれる側がそれで良いと思っていればそれで良い、と」
漫画で見る限り父親の事をお父さんと呼んだり親父と呼んだりダディと呼んだり名前を呼び捨てだったりと多種多様だし、そのくらいの感覚なのね。本人が呼びやすくて本人達がオッケーならそれで行こうぜ、みたいな。
「ハーレムの場合も好きに呼びたいように呼ぶ感じよぉ。ハーレムの主が女だとしてぇ、ハーレムの中に男女両方居るとするわぁ」
「私達みたいに?」
「そうよぉ。そういう時はハーレムの主が呼びたいように、っていう感じかしらぁ」
「つまり私の嫁呼びは」
「デフォルトかつスタンダードな呼び方ねぇ。嫁と固定、婿と固定、っていうのは男女混合系ハーレムではよくある事よぉ。寧ろ男が嫁で女が嫁で男が婿で女が婿で、っていう複雑なハーレムもあるものぉ。そう考えればずっと普通よぉ」
普通の定義が超乱れる。
「その場合のハーレムの主はどの立場になるの?」
「ハーレムの主かしらぁ」
ああ、うん、まあ確かにそうなりますね。
「んじゃあ結婚は?こっちは特に結婚式とか指輪の交換とかは無い感じ?」
「あったら言ってるわよぉ」
いやまあそうなんですけども。
「でも貴族とかだと結婚の問題を結構抱えてるっぽかったし」
「ああ、それ貴族だけだから気にしなくて良いよ。平民はそういうの無いから」
私の背後から抱き憑いているアレクに「そうなの?」と返すと、アレクは笑顔で「そうなの」と答えた。
「ホラ、貴族ってファミリーネームの問題とかがあるでしょ?だから書類とか諸々が必要になってくるんだよね。血筋とか云々もあるし」
ふわっとしてるけどわかりやすい説明でありがたい。難しい言葉だと途端に理解を放棄するポンコツ頭だからこのくらいのアバウトさが助かる。
「で、平民はそういうの無し。ファミリーネームも無いしね」
「基本的にはお互いが好き合っていて、結婚しているとお互いが認識していればそれで結婚成立、というのが一般の結婚だな」
ふう、と内臓掃除用のハーブがセットされているキセルから口を離し、白く爽やかな香りの煙を吐きながらロンはそう言った。
……この煙って煙く無いんだよね。湯気っぽい感じに近いし。匂いもキツくないからか五感が鋭いコンも大丈夫そうで安心した。コンって匂い強い系苦手みたいだからちょっと心配だったんだよね。
さておき、ロンの言葉に成る程と私は頷く。
「つまり現状でもしっかり結婚してるって事でオッケー?」
「ばっちりオッケー!ちゃんと僕達結婚してるよ!」
アレクの笑顔にそれなら良かった、とアレクの頭をよしよしと撫でる。可愛い。
「強いて言うなら宴会が平民の式って感じだな。めでたい場って事で酒場とかで近くに居る友人とかと飲んだりちょっと高い飯食ったりするのが式、っていうか」
「あ、もしかしてアルディスが宴してくれたり、ボスが私の嫁にパンドラが増えたからって宴会開いてくれたのって」
「式だな」
「式だったのか……」
コンの言葉にちょっぴり衝撃。そうか、あれは式だったのか。こっちの式って面倒なアレコレが無くて良いね。助かる。ウェディングドレスや豪華な結婚式にそこまで拘ってない現代人だから楽かどうかで判断しちゃうね。
「あと盃を交わすっていうのも式の一種かしらねぇ。ヒイズルクニだとそういう式の仕方が主流らしいわぁ。近くの親戚を集めて、夫婦になる者達で盃を交わして、っていう感じよぉ」
「夫婦盃のタイプなんだ」
まあ確かにヒイズルクニは日本メインにアジアを混ぜた感じだったし、そういう和風な式でも違和感は無いね。
ふむ、まあつまり、私自身はふわっとしか理解してなかったけどちゃんと結婚は出来てたって事ね。
「……うん、何かちゃんと結婚してたみたいで安心した」
うんうんと頷くと、「あ!じゃあちょっと自分も聞きたい事があるんだけど!」とマリンが水掻きのある手を上げた。
「ミーヤって地球にどんなお友達居たの?」
わあ何て可愛い笑顔で残酷な言葉。
「いや……うん、居た、よ?居た、居たと思う」
ギギギと顔を逸らして微妙に誰とも視線を合わないようにしつつ私は言う。
「何となく友人ですよーって言えるくらいの仲ではあった、はず。クラスメイトとは。正直それよりお姉ちゃんのお友達の方が親しい気もするけど」
「死んでる僕にも伝わるくらい心拍数上がってない?」
スルーしてたもれアレク。
「んー……というかね、正直言って今思い返すと凄いキャラ濃い奴しか居なかったクラスというか……お姉ちゃんのお友達もキャラが超濃いというか」
「どんな感じにだ、ですか?」
「うーーーーん……」と唸り、私はヒースの問いに答える。
「まず担任なんだけど体育……運動とかを教えてくれる教科を担当してて、現代日本にしては超ムキムキマッチョだった」
「日本って国では筋肉がある奴は珍しいのか?」
首を傾げたコンに「そうだね」と私は続ける。
「珍しいっていうか、わかりやすくムキムキなのは珍しいって感じ?身長は多分アリスよりちょっと低いくらいだったけど、ガルガさんみたいにムキムキだった」
「人間で親父くらいって相当じゃねえか!?」
目を見開いて全身の毛をぶわっと膨らませたコンに、「だから超ムキムキマッチョだったんだって」と私は笑う。
「三十代で独身だけど凄い良い先生でね、顔も厳つくて怖い感じなのに表情と声と雰囲気は超優しい。中庭でお弁当食べてる時とかよく野良猫とか野生の鳥が先生の周りに集まってて凄い微笑ましい光景になってた」
「それ、もうそういう能力の勇者なんじゃないの?」
「いや普通に現代日本だから違うと思うよ?」
でもアリスの言葉は否定出来ない。強風で窓からテスト用紙が飛ばされた時は近所の野良猫に集めてもらってたからねあの先生。前世で勇者やってましたとか言われても驚かんぞ。
「ただ凄い良い先生なんだけど、先生は何故か変な人に好かれやすいというか……よくストーキングされたり変な愛され方をしたりしてる。だから休みの日とか塀の上をダッシュして交番に飛び込む姿をよく目撃したなあ」
うん、アレは凄かった。一瞬影が通って「アレ!?猫じゃない!?」って振り返ったら先生が必死でダッシュしている背中が見えたという思い出。交番に飛び込んだ先生の背中に舌打ちをした不審者を見ちゃった時は冷や汗ものだったよね。すぐにその人捕まってたから良かったけど。
ちなみに先生、「犬塚良太」という名前である。その名の通り本当に良い人なんだけど……ね。
「ミーヤ様、交番とは?」
「ああ、えっと……兵士が居る場所?町中とかに設置されてる」
「成る程、詰め所の事ですね」
ああ、うん?詰め所はよくわからんけどハニーがそう納得したなら多分そうであっていると思う。
「あとは……お姉ちゃんのお友達とか?まず普段からゴスロリドレス……えっと、黒と白をメインにしたドレスを着てる腐山さん」
「……貴族……?」
首を傾げたラミィに「いや普通に平民」と即答しておく。あの人はただ趣味でゴスロリを着ているだけです。まあ日本人にしては不思議な程似合ってるから良いんだけどね。
ちなみに修羅場中はTシャツにジャージだった。ゴスロリは高いから汚したくないとの事。
「あの人は完全に趣味でそういう格好してるだけなんだよね。凄い美人さんでスタイルも良いんだけど、鈍いというか何というか……」
「鈍い?」
ハイドに「恋愛系についてが、ね」と答える。
「ほぼ恋人って言っても差し支え無い感じの男性が居て、もう明らかに腐山さんの事好きだろって人なんだよ。創作活動にのめり込み過ぎて生活を放棄してる腐山さんの家にちょくちょく行って、掃除して、料理作って、お洗濯して、創作を手伝って、そして疲れ切った腐山さんを眠らせて、もう一回掃除して、料理を作り置きしておいて、帰る、っていう」
「それは尽くし過ぎて恋愛に発展しなくなるパターンにも思うな」
流石多種多様の同人誌を読んできたロンだね。でも私からすると腐山さんの恋愛スキルとその相手である表裏さんの恋愛スキルが低過ぎるせいもあるんじゃないかなって思ってる。
……表裏さん、昔はかなり荒れてたって聞いたからね。
今でもかなり沸点低いっぽいし。少なくとも腐山さんが居る時は沸点高めなんだけど……うん、腐山さんが居ないとね……肩がぶつかって向こうが謝罪もせずに怒鳴ってきたからという理由だけで成人男性を……えっと、結果的に泣かせてたからね。
アレをうっかり目撃したのがバレた時は「すみませんが好きな漫画の全巻を購入しますのでどうか彼女には内密に……!」って言われた。ありがたく、かつ容赦なく五十巻越えしてる漫画を買ってもらった。巻数出てると手を出し難いから本当にありがたかった。
「他にはえーっと……あ、私の友達ってわけじゃないけど同級生の男子がよく来てたよ」
「友達でも無い男子……?」
眉を顰めたノアに「うん」と返す。
「何でもその男子……野分君って言うんだけど。野分君のお父さんがお姉ちゃんの同人……えっと、創作作品のファンらしくってさ。お姉ちゃんに「アシスタントしてくれるバイト君です」って紹介された時はビックリしたよね」
「……あれ?その子がファンなんじゃなくてその子のお父さんがファンなの?」
「うん」
らしい。
「野分君って最初にえぐい漫画見せられちゃったみたいで漫画や小説があんまり得意じゃ無いんだよね。でもお小遣い稼ぎにはなるからってアシスタント……えっと、作品作成の補佐?をやってる」
「ミーヤの記憶を覗くと、結構独特な感じの人間だな」
藍色の目をうっすらと開いているパンドラに、私は「あー……」と頭を掻く。
「そうだね、野分君って独特……というか、顔面の筋肉と声の抑揚が死んでるというか」
「どういう事ですか?」
ハニーの問いに「要するに無表情なんだよ」と私は返す。
「何かまったく表情変わらないんだよね。声もずっと同じ声色で抑揚がゼロ。かといって感情が無いのかと思えば漫画のパンチラシーンで動揺するくらいには純情らしくて、でも表にはまったく出てなくて……っていう」
「確かにそれは独特って感じだね」
アリスの言葉に「そうなんだよね」と返しつつ、野分君を思い出す。彼は友達では無いけど知人くらいの距離だったな。
ちなみに彼は一年の時に目が死んでるお嬢様系女子と隣の席だったらしく、今もよく話してるらしい。ただ、見てると明らかに付き合ってるように見えるのに本人達は「いやそれは無い」と完全否定なんだよね。
お昼はお互いのお弁当突っつき合って帰りは途中までずっと一緒、しかもその間会話し続けてて入る隙無し、って感じなのに。個人的にちょっと変わった二人だと思う。
……いやまあ私の居たクラスの人殆ど変わった人だったし、違うクラスも結構変わった人多かったけど。
「あと角っぽい癖毛がある黒髪おかっぱで年中赤いパーカー着てるテンション高めなお姉さんとか、恋人の事を王子様って呼んでる見た目も口調も性格も中性的な女性とか、見た目は大人しそうな人っぽく見えなくもないのに中身は熱血系ネガティブな画家のお兄さんとか、お姉さんが大会社の社長だけど年中小豆色のジャージ着た銀髪クォーターな女の人とか……」
……うん、改めて口に出すと本当に変わった人多いなお姉ちゃんの周囲。変わった人っつーか濃い人しかいねえ。
「まあ、そんな感じかな」
「会いたいって、思うか?」
そう呟いたパンドラに私は「え?」と返す。
「そのクラスメイトや姉、姉の友人達に」
「んー……」
目を伏せたままのパンドラを見つつ、私は考える。
……正直、お姉ちゃんには何も言わずに失踪したようなもんだからね。一応別れの挨拶くらいはちゃんと出来たらなとは思う。じゃないと捜索届けとか出されそうだし、万が一お姉ちゃんが気に病んでても嫌だし。
ただ他の人達はなー。あんま心残り無いんだよなー。
見てて面白いとは思ってたけどそこまで会話する程の仲じゃなかったし、知ってる話に時々混ざるくらいだったし。クラスメイトではオタクなメンバーとちょいちょい話すくらい。お姉ちゃんの友人さん達は……ジュースとお菓子を差し入れする時に話すくらいだったっけ。
だから、うん、まあ、
「とりあえず今んトコは良いかな。嫁居るしわりとエンジョイしてるし。可能ならお姉ちゃんに「私異世界で嫁娶ってハーレム作ってエンジョイしてます」って伝えたいけどね」
私がそう言うと、ヒースは苦笑して口を開いた。
「それは伝えられた方はかなりショック受けるんじゃねえか……です、か?」
「だろうねー」
もし実際に会う事が出来てそんな事を言ったら頭の心配をされそうだ。
またもや昔夢小説で書いたオリキャラ達。なのでやたら濃い。ただしあくまでミーヤの地球での知り合い枠なのでモブ扱いである。濃いけど。




