リーダー視点
大変な事になった。
「……ねえ、ニコラス。王様を始めとして王子様達、セレス姫様まで凄くトゲトゲした空気を纏ってたけど……アレ、どういう事?」
「何があった?」
「ああ……」
そう、全てロロが言った通りだ。
どういう事かと言えば、ニーラクス学園からの連絡が全ての始まりだった。ニーラクス学園の学園長からの連絡により、そこの副学園長が様々な犯罪を犯していたという事実が発覚した。
本来、犯罪を犯したとしても軽度、かつ初犯ならまだ情状酌量の余地はある。故にアボットは契約書に署名をして出てきたわけだが……学園長の話を聞く限り、その副学園長とやらは情状酌量の余地無しで良いだろう、と判断出来るだけの罪を犯していた。
というか学生時代に下級ドラゴンでも死ぬだろう毒を作って人気のある場所で使用した事があるという事実が危険過ぎる。毒はまずいだろう毒は。
アボットだってミーヤに危険な魔法を使用したから完全に釈放とは行かず、こうして王の剣に所属させて監視しているような状態だ。それだってミーヤに出た効果が実害の無いものだったから情状酌量の余地ありとされただけだしな。もし実害が出ていたら初犯だろうとアウトだった。
さておき、そんな罪を犯した副学園長は国王様達の地雷も軽快に踏み抜いたらしい。
「……端的に言うとだな、ニーラクス学園の副学園長が物凄くクズで、ミーヤに嘘を吐いて騙し、ミーヤをスケープゴートにする気満々だったらしい」
ロロとデリックは酷く納得した様子で「ああ……」と頷いた。
「それは駄目ね」
「地雷だな」
「王族相手に普通に接してくれる上に下心皆無、欲も皆無。何より彼女と出会ってからラチェス逮捕に孤児院の環境改善、海の王国との同盟、ケイン様は夢が叶うしアラン様は記憶を取り戻してファフニールと共に……と、今思い出せるだけでもこれだけの良い事があったんだ」
アボットとリーンの二人と一緒に術式に関しての話をしていたはずだが、いつの間にか横で話を聞いていたらしい。アンナは少し眉を顰めながらも仕方ないというような表情をしながら、「そりゃあキレるだろう。温厚が人の姿を取ったような彼らでも」と言った。
「……え、ちょっと待って?ミーヤが?ミーヤが何か罪を被せられそうになったの?」
「あ、やば」
「まずい奴に聞かれた」
ここ最近のローランは仕事時以外は壁に向かって座りながらプラチナ鉤爪を磨き続けていたから存在を見ないようにしていたのが仇になった。
「ちょっと王様達んトコ行って詳細を」
「麻酔!」
「物理!?」
即座に目配せし合って頷いたロロとデリックは、まずデリックが怒りで隙だらけのローランの背後に回った。そしてローランを拘束しむき出しになった腹に、ロロが腰の入った一撃を入れた。
……一応痛みを少なくする魔法は使われていた様子だから、良いとしておこう。ローランは気絶したが。しかしローランを放置して副学園長とやらにとんでもない被害が出ても困るから仕方の無い処置だろう。
というか俺の場合ロロに痛みを少なくする魔法を使われた事が無いという事にたった今気付いたんだが。ロロに殴られる時は必ずと言って良い程に攻撃力倍増系が使われているんだが。格差が酷くないか?
この一連の流れには慣れているからか、ローランが気絶するまでのやり取りを完全にスルーしながらアンナは口を開いた。
「しかし、まだこの時期で良かったな」
「いや、良いというわけでも無いんだが」と言うアンナに俺は首を傾げる。
「この時期とは?」
「今、何故か知らんが王様を始めとして王子様達や姫様が狙われているだろう」
「ああ」
そう、そうなのだ。元々命を狙われやすい立場ではあるが、何故かここ最近より一層狙われる頻度が増している。幸い使用人の内三分の二程は特殊な事情で雇われた者達だから、侵入者などは即行で発見されているが。
「あ、そういや俺この間使用人に変装して侵入してた不審者見ましたよ」
「見て、どうしたんだ?捕まえたのか?」
ギルベルトの問いに、ルークは「いや」と首を横に振った。
「何か別の使用人さんに「あの子はいつもバラの石鹸などを使っているからバラの香りがするの。なのに何故今の貴女は何の香りもしないのかしら。おかしいわ。おかしいわ。おかしいわ」って詰め寄られて涙目で逃げ出してた」
「それは泣くだろう普通」
「あ、その使用人さん知ってます」
はい、と手を上げたのは、新作術式開発に煮詰まったらしいアボットに髪を整えられているリーンだった。最近のアボットはリーンをおしゃれさせるのに嵌まっているらしい。健全な趣味で何よりだ。
「あんまり動くと崩れちゃうよ」と微笑むアボットに髪を櫛で梳かれながら、リーンは言う。
「その人ストーカー癖があるらしくて、バラの香りの使用人さんに困った様子で相談されました。「好かれるのは良いけど、せめて話しかけてくれないかな」って」
「あァん?」
最近知ったが、寝不足では無い状態、そして荒い口調さえ気にしなければ常識人枠のオルコットが眉を顰めて絡むように言う。
「ストーカーされても良いってのかァ?」
「何かそのバラの香りの使用人さん、過剰な程愛されてないと安心出来ない性格らしくて」
「少なくともガキに相談する内容じャねェだろソレ」
オルコットに同意だな。やはりオルコットは常識人枠だった。ゴーイングマイウェイが多い王の剣ではこういう常識人の存在はありがたい。
「しかし、本当に何故狙われる頻度が増したのだろうか」
「裏で賞金を掛けられでもしたんでしょうか?」
アーウェルの言葉に、俺は首を横に振って「いや」と返す。
「部下に調べさせたがそういう事は無いらしい」
「それに様子を見る限り、どうも組織っぽいのよね。賞金が掛かってるなら金目当ての奴等……つまりチームプレイをしようとしても烏合の衆でしかないわ」
「だが、チームワークはあるようだった。その証拠に逃亡が上手い」
「……デリック、それは侵入者には逃亡の為の協力者が居て、だからほぼ毎回逃げられている、という意味だよな?」
「ああ、そう言っただろう?」
言ってない。
まあデリックが言葉少ななのはいつもの事だから良いとしよう。
「まったく、相手が何をしたいのかがわからんな。毒を盛ったと思ったら姫を誘拐しようとしたり、かと思えば王子の寝込みを狙ったり。とにかく王族を狙っているのは確定らしいが、目的が見えん。命を狙っているわけでは無いようだが……」
そう言いながら的の中心を矢で貫き、ギルベルトはアーウェルとリーンの方を見て言う。
「……お前達は早死にするなよ。俺から証を贈ってエルフの友人になってもらうつもりなんだからな」
「お兄ちゃん、ギルベルトさんがデレた」
「ああ、今日はギルベルトのデレ記念日だな」
「やかましい!」
顔を真っ赤にしているギルベルトは歳相応……89歳という年齢を考えると一瞬脳が混乱するが、まあエルフとして考えれば歳相応の少年らしくて良い事だろう。エルフは他種族とは時間の流れが違うせいであまり同年代の人間と心の距離を縮められないらしいからな。
そしてエルフの友人としての証だが、ギルベルトが言うには成人するまで証を所持してはいけない決まりだそうだ。成人する前に誰かに渡す可能性もあるから、と所持すら出来ないのだと言う。
まあ確かに、子供というのはルールを破るのが好きだからな。俺も昔は行ってはいけないという森にデリックとロロとの三人で行って……現れた熊の魔物にデリックと二人で腰を抜かしていたら、ロロがその辺にあった岩を熊の口の中に放り込み牙を封じ、眉間に拳を何発か連打して倒していた。そしてロロはデリックを左腕で抱え、右手で熊を引き摺って家まで帰ったという記憶。俺?俺は「腕が足りないから」という理由で引き摺られる熊に必死にしがみ付いていた。親には三人共めちゃくちゃ怒られた。
「ギルベルト、僕にはエルフの友人の証はくれないのかい?」
「変態を友達認定はしたくない」
ギルベルトは歯に衣着せないな。それを笑顔で受け流すアボットもアボットだが。
「酷いなあ、まったく……よし!リーンちゃんの髪整え完了!」
「ありがとうございますアボットさん!あ、今日の髪飾り新しいやつですか?」
「うん。似合うと思って買って来たんだ。やっぱりリーンちゃんはツインテールが似合うね」
上の方で二つに結われた髪を嬉しそうに鏡で見るリーン、の頭を撫でながら微笑むアボット。
……見ていると微笑ましく思えるが、なあ。
同じ様に思ったのか、アーウェルが少し眉を顰めながらアボットに言う。
「……アボットさん、もしリーンに本気で手を出そうというなら仕留めます」
「出さない出さない。どっちかというと僕は攻められたい派だから出されたいしね」
「それもどうなんだよ」
投げる用の短剣を磨きながらのオルコットの言葉に全力で同意したい。
「それにリーンちゃんの髪を弄らせてもらうのは、指先を動かした方が頭も動くからだよ。今ちょっと術式開発に詰まってて……」
「普通はそうポンポン術式を開発したり出来ないらしいですし、それが普通じゃないですか?」
「僕にとっては普通じゃないんだよ。僕が普通に見えるのかい?」
「見えません」
「お兄ちゃんもアボットさんも漫才してないで術式の案出して」
……新入りの中では危険人物と思われたオルコットが一番常識人で、コミュニケーション能力に懸念があったギルベルトは結構問題なく過ごせていて、そして一番幼いリーンが一番しっかりしているような……いや、まあ、アーウェルもアボットも最初の印象からするとかなり好印象になってはいるんだがな。
その点、ロロといいデリックといい、アンナもローランもゴーイングマイウェイ。辛うじて俺の言う事を聞いてくれるのは今まで新入り扱いだったルークだけだ。俺のカリスマ性、無いにも程がないだろうか。
「あ、居た。おいそこの王の剣メンバー、少し良いか?」
「アディ」
第二王子であるセイン様の付き人であるアディはいつも通りのしかめっ面だが、今日はいつもより眉間の皺が深い。
「機嫌が悪そうだな」
「悪そうだと?」
デリックの言葉を鼻で笑い、アディは「悪そうじゃなく、機嫌が悪いんだ」と言った。
「今朝、早朝にセイン様が庭で誘拐され掛けた。幸いセイン様自身もそれなりに強いからな」
……アディはセイン様が居ない場所では普通にセイン様の名を呼ぶんだがな。
セイン様の前では絶対に名を呼ばないせいで、セイン様も流石に悩んで……いや、「もしかしてアディってば俺の名前だけ耳を擦り抜ける使用だったりすんのか?」と言っていたから悩んではいないか。呼んでは欲しいようだったが。
「相手を気絶させて捕縛……したところまでは良かったが、目を逸らした瞬間に逃げられた。いい加減に腹が立つ」
華奢な印象を抱きがちな見た目からドスの利いた「さっさと一人でも良いから捕まえて情報を全部吐かせようと思ったのに……」という呟きが聞こえた。慣れているから良いが、慣れていない頃は毎回怯えていたものだ。まあ見た目と中身に差があるのはロロで慣れていたから慣れるのも早かったが。
「そんな状況でミーヤをスケープゴートにしようとしたニーラクス学園副学園長の話だ。王子達も気が立っているし、俺達もイライラしっぱなしだ。……そう、本当に嫌になる」
あ、まずい。
「何で俺がこんな事をしなきゃいけないんだ。あの時死ねていればこんな事を考えなくて済んだのに。こんな事に巻き込まれなくて済んだのに。面倒臭い。死にたい。嫌だ。何であいつらは襲ってくるんだ。暇なのか?クソ、俺は暇じゃないってのに。羨ましい。暇な奴が羨ましい。悩みの無い奴が羨ましい。恨めしい。何で俺は今生きてるんだ。死にたいのに。死にたかったのに」
アディの鬱スイッチが入ってしまった。こうなるとセイン様以外、アディとの会話が不可能になってしまう。セイン様が居ればどうにかなるんだが。
「そうだ死のう。首を吊るのは苦しそうだから嫌だな。剣も痛そうだから嫌だ。クソ、クソ、クソ、あの時の入水自殺は本気の覚悟でやったってのに。あの馬鹿王子様が邪魔しやがったせいで」
「なーーーに暗雲背負ってんだ暗男!」
「ぅぐっ」
突然現れたセイン様が鬱々としているアディの腰に思いっきり突撃した。
「…………おい馬鹿」
「もー、お前ってば俺が居ないとすーぐそうなるんだもんなー。まったく、俺が居なくても生きれるようになれなきゃお前が俺の付き人を止めるなんて無理無理ですだ……え、何この腕」
「折る」
「あいだだだだだ!?おま、主に親愛のハグかと思ったらそのまま折ろうとするとかありえねえだろ!?ちょ、ま、待てアディ!俺にはまだやり残した事が!」
「は?今日のやるべき事もやらずにふらついていたのか?」
「いやそれはやったけど」
「じゃあ折る」
「ぐあああああああ!」
……少なくとも、この二人がこれだけいつも通りなら侵入者については心配になる程ではないか。実害も出ていない事だし、もう少し気楽に考えた方が良いのかもしれないな。
アディは仕事はちゃんとやるタイプだからセインが居るとセインの明るさと仕事スイッチのお陰で死ぬ気が薄れる。なので今日も生きている。




