ちょっとした事件
ロンが仲間になった翌日、ちょっとした事件が起きた。
これを「ちょっとした」で形容して良いのかはわからないけれど、まあちょっとした事件だ。より正確に言うならちょっとした真相が明らかになるというか+αがぶち込まれたというか。
正直混乱して仕方が無いので、順を追って話そうと思う。
まず昨日の夜、ステータスを見た後にお風呂に入り、ロンと盃を交わした。
「私は、皆と共に歩いて行きたい」
「儂はミーヤを、儂が生きている限り、例えミーヤが死のうと愛し続けよう」
「……私は、三岡美夜は、皆と共に生きていく」
ロンの言葉が物凄く重かったけど、ファフニールという前例がある事から考えるに多分上級ドラゴンはその重さの愛がデフォルトなんだろう。私はそう納得して受け止める事にした。
そして今朝。早朝に部屋に顔を見せた学園長が言うには、今日の昼に副学園長がえっちらおっちらと戻ってくる予定になっているから、ロンとの新婚早々に不愉快な気分にさせられる前に去ったほうが良いだろう、との事だった。
「既に国王への連絡は済んでいるし、私達だけでもあの馬鹿を捕まえるくらいは出来るからな」
学園長はそう言って「任せておけ。必ず捕らえて牢屋に入れてやる」と笑っていた。
……私が前に言った泣かせるってのは現代人的な「職を失って途方に暮れろ」って感じの意味だったんだけど、まさか副学園長がブタ箱に投げ込まれる級の罪を犯していたとは思わなかったよね。
いやまあ主な罪状は「やっべえ毒を一般人も居る場所で使用した」って辺りらしいけど。
「……というか、学園長って王様と仲が良いんですね」
「仲が良いというか、国王はこの学園に通った事があるからな」
「一年間だけだったが」と学園長は言った。
……一年とはいえ、通ってたんだ。立場とか気にしないフレンドリーな王様だった理由がわかったような気がする。そしてオタクに転がり落ちなくて本当に良かったねって思う。一年しか通ってないとはいえこの学園で一般の感性を維持出来る人が居るとはめでたい事だ。
「しかし、ミーヤも国王とは親しいんだろう?」
「親しい……んですかね?」
正直言ってそう簡単に国王相手に「親しいよ!」って断言出来ない。しかし、学園長は不思議そうに首を傾げた。
「親しいんじゃないのか?国王に今回の件を全て話した時、ミーヤなどスケープゴートにされそうだった、と言った瞬間に魔道具の向こうから複数の「は?」が聞こえたからな。あれは確実に国王と国王の子供達とその付き人達の声だった」
セレスとタバサだろうか。国王の子供「達」やその付き人「達」という表現からするとアランとファフニールの声もあったのかもしれない。ケインさんとセイン、そしてブラッドさんとアディさんの声までは流石に無いと思いたい。
「……正直、私ですら背筋が冷えたぞ。あのレベルで王族に気に入られるなんて、一体何をしたらそうなるんだ?」
「私に聞かれても困ります」
私はただ依頼を受けて護衛して友達になって、その後何か色々と交渉代理人をした結果そうなっただけなんですよ。まあ極めつけの部分はポテもちチーズを差し入れた時な気もするけど。
……屋台料理で仲良くなれる王族てどうよ。
「まあ、そういう事でな。逮捕された後のアイツはどうなるかわからんが……多分やばい事になるだろう」
「ふわっとしてる分伝わってくるやばさが凄い」
「アイツがそれだけの事をした、という事でもあるがな」
うん、まあ、そんな感じのやり取りの後、じゃあ今日出発するかーという事に決定したのである。本題の本の解読は済んでたしね。理由も無いのに居座るのはアレだし、早々に立ち去る理由もあるわけだし。
いやー、それを知った後の生徒達は凄かったね。
「たったの二泊三日で帰っちゃうんですか!?」
「まだ、まだ語りたい内容があったんですよ!?ミーヤさん意外と話通じるし場合によっては先生達レベルの熱弁だから是非もっと学ばせて欲しかったのに!」
「ううう、それもこれも全てミーヤさんが有能過ぎたのとあの副学園長のせい……!ラミィさんからもっとラミアに関しての色々を聞きたかったのに!」
「ロン爺さんマジで行っちゃうの!?新婚旅行みたいなモンだと考えるとまあそうだよなとは思うけど!思うけどせめて盛大にマーケット開いてお祝いくらいはさせて欲しかった!」
「せめて……せめて、祝いの品としてこの俺力作、スカートの裏地のセクシーさについて綴った本を持って行ってくれ……!」
「私からはカエルをどれだけ淫猥に描けるかどうかに挑戦したイラスト集を……!」
「こらこらこら、お前ら新婚相手に何渡してんだよ。こういう時は教本にもなるだろう付き合い始めや新婚ほやほや系の本を一緒に渡した方が実用的にもなるだろ?」
「ジェラード先輩、その教本と一緒に重ねられてるのは何ですか?」
「体位の本。あと箱の方は手紙セット。あわよくば時々公式からの供給が欲しい」
「流石は五年生……!前言撤回する事無く真顔でキッパリと言い切るなんて!」
……うん、気付いたら本の山が形成されてたよね。ロンは「嬉しいものだな」って笑って保存空間とやらに放り込んでたから物理的な問題は一切無かったけど。それにまあ、旅に出るにあたって同人誌みたいな娯楽系があるのは良い事に違いないだろうしね。
で、学園長や生徒達に見送られつつ学園を出て、少し歩いた辺りでロンが口を開いた。
「そういえばだな、ここから少し西北西の方向に行くと昔馴染みが居る山なんだ。先を急ぐので無いなら寄っても良いか?」
「旅に出るなら持って行きたい物もあるしな」とロンは言った。
ちなみに旅に出るにあたり、ロンは髪型を変更した。ストレートのまま下ろしていた長い白髪を緩い一つの三つ編みにし、右肩の方に流している。何だかドラゴンらしさも相まって物凄く仙人っぽい見た目になっていた。
「昔馴染み?」
「ああ。ドラゴンが住んでいる山だから少々険しいが、頂上付近の集落には昔勇者が施した術のお陰で空気が薄い事も無い」
「……はずだ」とロンは小声で付け足した。それに対し、片耳を折って首を傾げつつコンが問う。
「はずってのは?」
「いや、儂が知っているのは学園が設立される前の事なのでな」
「まあ最悪その術が切れていても空間歪曲で空気問題は解決するから良いのだが」とロンは笑った。
何でも、その集落は雲と同じくらいの高さというかなり上の方にあるせいで、人間にとっては生存が危ぶまれる程度には空気が薄いらしい。
「ちなみにどのくらいの距離?」
「歩いて二日。着いたら頂上までは儂の背に乗れば良いから山登りの心配は無いぞ」
意外と近かったし、実際私達は急ぐ旅でも無いんだよね。そんなわけで折角だから寄ってみよう、という事に決定した。色々見て回るのは良い事だしね。何よりロンの里帰りみたいなものだ。
「……一応聞いておくけど、その集落って上級ドラゴンの巣って事だよね?」
「そうだな」
「人間に敵意は」
「悪い人間は嫌いだが、それ以外は特に……という感じだからな。大丈夫だろう」
……本当に大丈夫なのかはよくわからなかったけど、まあロンがそう言うなら大丈夫なんだろう。
そしてドラゴンの集落の方に歩みを進め、日が暮れてきたから土魔法で椅子を作って休憩……していると、ロンが私を見ながら言った。
「……ミーヤ」
「うん?」
ハニーを膝の上に抱っこして頭を撫でたまま「何?」と返すと、ロンは「少し良いか?」と言った。
「どしたの?」
「いや……少し、確認したい事があってな。ミーヤに触れても良いだろうか」
「?」
とりあえずハニーを膝から下ろして「どうぞ?」と腕を広げながら言うと、
「では、失礼する」
そう言ってロンは、私の左胸をドラゴンの手で鷲掴んだ。
「……わお」
いや、うん、そうとしか言えなかったよね。女の子らしい叫び声の一つも上がらなかった。寧ろ、ロンが凄い真面目な顔で私の左胸を揉んでる姿を見たコン達の動揺っぷりの方が凄かったもん。
「な、な、なっなななななななな!?」
「は、ちょ、え、いきな……えっ!?ず、ずるい!」
「敵……いや、ロンは後輩だから敵じゃないのか。……良いな……」
「……は!?は!?何でロンはミーヤ様の胸を揉んでんだ!?」
そしてそれに対し、ロンは至極真面目な顔のままで不思議そうに答えた。
「?いや、ミーヤは人間だろう?人間は心臓が一つしか無いらしいから、確認したくてな」
ロンは愛しげに目を細め、鋭い爪で傷付けないように気をつけながら私の胸を揉みつつ続けた。
「……本当に、たった一つの心臓で生きているのだな」
「そりゃまあ人間だからね」
「というか」と私はロンに言った。
「ロン、夫である私だったから良かったけど、男が女の胸に触るのはアウト」
「なんと!?」
私の言葉に、ロンは本気で驚いていた。一瞬にしてロンの手は私の胸から離された。
「……まさか、今のはセクハラ扱いか?」
「セクハラというか痴漢というか。まあ、やんない方が良い事かな」
「すまぬ……」
本気でうろたえた様子で、ロンは「知らなかった……」と頭を下げた。
「いやまあ、嫁相手なら私は別に良いけど。でも生徒達の描いた本とかで胸タッチはアウトみたいな描写あったんじゃないの?」
「あったが、他にも性癖が多種多様過ぎてどれが駄目なのかがいまいち掴めていなくてな……」
「性器に触れるのが駄目なのは知っていたのだが……」とロンは落ち込んだ様子で続けた。
……うん、性癖を育てる方針だったニーラクス学園の弊害かな。種族差あるとその辺難しいよね。
「ちなみにドラゴン的に胸ってどんな感じの認識?」
「心臓がある位置」
「成る程」
そりゃ性的な印象で見られる事が多い部位とは思えんわな。あの学園結構特殊性癖にも優しい感じだったし、そうなるともう何がエロなのかわかんなくなりそうだしね。
ドラゴンの種族的に胸がそういう目で見られる部位という認識が無かった事を理解したのか、コン達も「あー……」という感じで頷いていた。うん、種族差って結構大きいよね。
そしてその後お風呂タイムを挟み、食事の時間になったわけだけど……そこで事件は起きる。うん、ようやくここで事件。胸タッチなど前座でしかなかった。
「カレー美味しい!」
「良かったわぁ」
くすくすと笑って、イースは「ミーヤってば寝言でカレー……なんて言うんだものぉ」と言った。
「カレーのルーは流石にストックが無かったからスパイスを調合しないと駄目かしらぁって思ってたけどぉ、通販機能のお陰で助かったわねぇ」
「ね。正直忘れてたけど」
イースに言われるまで、神様に貰った通販機能の事をすっかり忘れていた。いやだって、結構日常生活に問題が無くて……イース達様様だよね。
そう思いつつスプーンでお米とルーを一緒に掬って口に入れ舌鼓を打っていると、「肉の味はどうだ?」とロンが言った。
「うん、美味しいよ」
何の肉かはわからないけど、カレーの濃さに負けない旨味がある肉だった。寧ろその肉から出た肉汁がカレーのコクを増やしている感じでめちゃくちゃ美味しい。
そう思ってスプーンで肉を掬って頬張ると、ロンは言った。
「そうか、それは良かった。上級ドラゴンの血肉には身体能力強化の効果に長寿効果もあるからな。他にも様々な特典があるから、しっかりと食べてくれ」
「ぐむっ」
吐きそうになった口を咄嗟に押さえ、私は口の中にある肉を無心で咀嚼した。美味い。肉汁たっぷり。カレーに超合う美味しいお肉だ。
そして肉をどうにか飲み込み、私はロンに問う。
「……上級ドラゴン?」
「ああ、儂の肉だからな」
吐きそうになった胃をどうにか筋肉で押さえつけた。グッジョブ筋肉。美味しかったのは事実だし、嫁の肉が入ってたからといって吐くのは良くない。ご飯大事。
……SAN値MAXの称号が無かったら吐いてたかもしれない。誰かを食べる行為とグロに慣れさせてくれてありがとうクトゥルフ達。
「……ちなみに何故かっていうのは」
「ミーヤ達には長生きして欲しいからな。ちなみに儂が言い出したのでは無く、イースが言い出した事だ」
ロンの言葉に思わず首をぐりんって動かしてイースの方に視線を向けたよね。反射的な動きだったせいで首痛め掛けたけど。
「イース?」
「だって種族によって寿命が違うでしょう?たった数十年で一生の別れが来ちゃうのよぉ?ミーヤにわかるように言うとぉ、私からすると数ヶ月から数年程度の短さなんだものぉ……」
「だからぁ、ちゃぁんと皆で話し合った上で細工をしたのよぉ」とイースは溜め息混じりに言った。
「……もぅ、ちゃんとしたタイミングで話そうと思ってたのにぃ、ロンってばサプライズみたいな形でバラしちゃうなんてぇ」
私からするとサプライズてかドッキリって感じだったけど。
「てか、皆って?」
「ミーヤ以外の皆よぉ?混ぜてもコンが居たらすぐバレちゃうからぁ、先に話しておいた方が良いかしらぁってぇ」
私はコン達に視線を向けた。
「いや、だって、俺は人間と対して寿命は違わねえけど……イース達はそれよりずっと長いわけだし。そう考えると、ずっと一緒の方が長く居られて良いよなって……。べ、別にミーヤの事が嫌いでこんな事したんじゃねえぞ!?寧ろ好きだから……じゃなくて、そう!嫁として!嫁として嫁仲間と平等にっていうアレなんだよ!」
「私はキラービーですので。魔石を食べる事による強化が無ければ寿命は十年が限度だったでしょう。しかし魔石を食べていても人間と同じくらい生きれるかがわからなかったので、最終的に同じ時間生きれるのであれば、と思って賛成させていただきました」
「俺は……フランに再生能力付けて貰ったけど、寿命までは弄られてねえはずだから、ます、です。……それに、いつ変な後遺症が出るかもわかんねえからな、ません、です」
「我はミーヤが我を置いて行かないなら、と賛成した。ミーヤが居ない世界に用は無いからな」
「……ラミィ……は、皆一緒、で……楽しいのが、良い……から……」
「僕もそうだね。僕の場合、魔力が切れたらその場でスリープ状態だ。でもその反面魔力がある限り活動する事が可能。……術式が駄目にならない限りね。そう考えたら、魔力切れで眠るよりも壊れるまで一緒に居たいって思ったんだ」
「妾はあの山にずっと居て、誰も居ない寂しさを知ってるわ。だからミーヤの温かさが失われるのは嫌だなって……そう思ったの。だから妾も賛成した」
「僕もまあ、そうかな。死後の世界がどうなってるのかわかんないしね。ミーヤと同じ場所に逝けるなら良いけど、僕ってばこの世にしがみ付いてる幽霊だからさ。そう考えると同じ場所には逝けなさそうだし、って思って。なら一緒に居る事が出来るこの世でずっと生きてる方が良いよね、って」
「自分はね!寿命長いから!自分の寿命普通に長く残ってるから、イースに回復薬で治せるから肉ちょうだいって言われて、うんって頷いた!闇魔法で痛み無くしてくれたし、回復したし!それに人魚である自分の肉を食べればミーヤは自分と同じ寿命になるから!だから自分も肉を提供したよ!」
上からコン、ハニー、ヒース、ハイド、ラミィ、ノア、アリス、アレク、マリンの順である。
……って、え?
「マリン、ちょっと」
「何?」
「……肉、提供?」
「うん!」
…………マリンが料理を手伝った時、マリンが担当したのは魚とか何とか言ってたよね。そしてこっちの世界にしか居ない海の魚。あと思い返すとロンも「長生きの布石は打たれてる」とか何とか言ってたし…………。
「……あの、イース」
「…………多少は嫌われる覚悟でやったわよぉ」
「いや別にそこはもうやっちゃった事だから怒ってないよ」
私は「だから一旦こっちに顔向けて」と、気まずそうに顔を背けていたイースに言う。
「………………」
イースは少し視線を下の方に逸らしながら、顔をこっちに向けた。
……まあ、そうだよね。好きな人が死んだ後も自分が生きている可能性は高い。そう考えると不安が強いのも当然だ。寿命の差を無くしたいと思うのも、当然。
「んで皆にも言うけれど」
ある意味イースが主犯で実行犯、皆は共犯者で私に一服持ったような状況だ。まあ死ぬっていうか死が遠退く系だったわけだけどね。
さておき、私は従魔兼嫁である皆に言う。
「全員の長生きが決定したので、末永くよろしくお願いします」
まさか不老長寿になるとは思って無かったけど、嫁を未亡人にしなくて良いならそれが最善だろう。少なくとも私はそう思う。
以上が、「ちょっとした」事件の顛末である。
不老長寿になったけどまだ人間は止めてない、はず。多分。きっと。(作者でも自信が無い)




