とうとう第十夫人
「えーと……」
歓声の後、生徒達にネタにして良いかと囲まれた。そしてしばらく囲まれたまま色々聞かれて、夕方頃にどうにか大部屋に戻って来たわけだけど……。
「今更だけど、皆としては」
「イース様が拒絶しないのであれば問題無いと思います。実際私達としてはミーヤ様が受け入れたのであれば嫁仲間として接するだけですので」
「さようで」
ハニーの解答はとてもわかりやすくてありがたい。そしてハニーの言葉に他の皆も頷いてる事から本当に問題は無いんだろう。良かった。
「……で、ロンの方は」
「学園長には「創設初期なら学園が安定していないから困ったかもしれないが、今は充分地位を確立しているからな。今まで学園をしっかりと守ってくれてたんだからその先は好きにして構わんだろう。寿卒業ってのも良い新境地だしな」と言われたのでな。ミーヤと共に旅に出る許可は得ているぞ」
「成る程」
まあ確かに、昔ならともかく今はツィツィートガルで一番大きい学園なんだもんね。地盤がしっかりしてるから大丈夫って事なんだろう。
ただ寿卒業って……学園だから卒業なのかもしれないけど、生徒じゃないんだから寿退社とかのままで良いんじゃないのかな。まあ表現の仕方は人それぞれだから別に良いか。用語は無限に作られてくもんだしね。
「それじゃあ従魔契約を……って事で良いのかな?」
「うむ」
にこにこの笑顔で頷いてくれるのは嬉しいんだけど、ロンって上級ドラゴンだよね。
「えっと、ロンとしては良いの?人間の従魔になるとか」
「そうだな……」
ふむ、とロンは少し考えるように長い顎鬚を撫でた。
「上級ドラゴンの力が目当てだったり、何か良からぬ事を考えているようなら良くは無いな。しかし儂はミーヤの記憶を読んでミーヤがそういう人間で無い事は理解している。ならば何の問題もあるまい」
「まあ受け入れる気さえあれば上級ドラゴンも従魔になれるというのは初めて知ったがな」とロンさんはほけほけとした笑みを浮かべた。
……確かにどんな種族だろうと従魔になる気があればなれるとか普通知らないよね。なる気無いだろうし。
「んー……じゃあ、ロンは契約印どこが良い?」
「契約印か……」
ロンが考えるように目を伏せると同時、ロンの体に変化が起きた。
まず、ロンの鍛えられた、しかし老人らしい皺だらけの腕がドラゴンの腕になった。人間らしく五本指だった指もドラゴン時のような四本指になっている。
次にカンフーシューズのような靴を履いていた足にバキバキと鱗が生え、あっという間にドラゴンの足に変わった。こっちも手と同様四本指になったが、手とは違って鳥のように前側に三本、かかと側に一本の指という形だった。
最後に変化が起こったのは頭部。両耳の少し上の位置から太い木の枝のようにも見える角がメキメキと生えた。そして人間らしい丸みがあった耳の先が尖り、色も肌色から鱗と同じ青色へと変化する。
たった数秒で、人間にしか見えなかった見た目がドラゴンと人間のハーフのような見た目になった。
「ううん……翼と尾は邪魔になるから止めておこう」
「うっかり尾を振りでもしたら怪我をさせかねぬしな」と言って目を開けたロンの瞳は、ドラゴン時のように鋭い瞳孔になっていた。
「ふむ」
ロンはドラゴンの手を何度かグーパーして感覚を確かめ、「よし」と満足そうに頷いた。
「中々上手く出来たとは思わんか?」
「え、それ私に言ってる?」
いきなり言われても困るんだけど。
「そりゃまあ、確かにかなり素敵な見た目だとは思うけど」
人間サイズで二足歩行のドラゴンじゃなく、人間に見えるのにところどころが人間じゃないって感じでかなり良いと思う。
正直にそう答えると、ロンは「それは良かった」と微笑んだ。
「ミーヤの記憶などを読むにこういうのが好みのようだと思ってやってみたが、思った以上に好感触のようで喜ばしいな」
あー、そういう。確かにそういうのめっちゃ好みです。というかまさか私の好みに寄せる為だけに擬態をちょっと変化させたの?マジで?あ、マジっぽい。だって笑みで返されたもん。可愛い。
「ああ、それと契約印だがな」
「ここに頼む」とロンがドラゴンの指、というか爪で指したのは頭部に生えた角だった。右手で右の角を指し、ロンは言う。
「ドラゴンは基本的に、番以外には頭部に触れられるのを嫌がる性質がある。下に見られると感じるのか、喉にある逆鱗に触れそうだからなのかはわからぬがな」
「だが、番は別だ」と言って、ロンは私に視線を合わせる為に少し屈んだ。
「上級ドラゴンは番が死のうと番を愛し続けるくらいには愛が深い。それは知っているな?」
「ああ、ファフニールの」
「そうだ」
確かにファフニールのアランへの愛は深かった。何度も何度もアランが転生しているのを感じながら、けれど自分の事を忘れているからとただひたすらに待ち続けていた。
「故に」とロンは私が触れやすいようにと頭を下げた。
「儂はミーヤに、ミーヤのモノだという証をここに刻んでもらいたい」
「……了解」
ロンの長い髪を一度梳くように撫でてから、私はロンの右角に触れる。
「「従魔契約」」
そう呟くと、私の指から出現した魔力の糸が思ったよりすべすべした感触のロンの角に桜を描き始めた。一枚二枚と花びらが増え、最後の五枚目が描かれると同時に私の指から出ていた糸はプツンと切れた。そして一瞬、桜が強く光り輝いた。
「……成る程、従魔になるとはこういう感覚なのか」
ロンは屈んでいた姿勢を戻し、ドラゴンの指の腹部分の柔らかいところでなぞるように印に触れ、くすりと笑みを零した。
「いや、別に孤独感を感じた事は生まれてこの方無かったが……一匹では無いのだと本能に刻まれるこの感覚は、うむ、良い心地だな」
そう言ってから、ロンは「ところでミーヤ」と私に声を掛けた。
「うん?」
「ミーヤは上級ドラゴンの番になった際の事を理解しているか?」
「……ん?」
何の話かと首を傾げると、ロンは「いや、大した事では無い」とただでさえ細い瞳孔をより一層細めて笑った。
「ただ、上級ドラゴンと番になるという事は、何度生まれ直そうと縁があるという事だ。……一応その事は理解して、長生きするように務めておくれ。早くに未亡人はお断りだ」
ああ、成る程、ファフニールとアランみたいな感じか。ロンは私の記憶を読んでるから……うん、確かに、置いていかれるのは嫌だよね。
「了解。私自身嫁を寂しがらせる気は無いから、ちゃんと長生きはするつもりだよ」
そう返すと、昨日質問に答えてくれた礼だと生徒の子がくれた野菜の肉巻きを食べていたマリンが「だよね!」と反応した。
「自分もまだ七百年以上は寿命あるから、ミーヤには全力で長生きしてもらうつもり!」
「私も人間が性欲を持っている限りは寿命があるようなものだからぁ、そのくらいは長生きして欲しいわねぇ?」
「妾も寿命は無いに等しいから、ミーヤにはその分だけ長生きして欲しいかな」
「うーん、僕は魔力の燃費が悪いからね。でも魔力が尽きなくて、そして刻まれている術式に限界が来ない限りは活動可能なはずだから。それまでは一緒に居たいと思っているよ」
「我は残りの寿命がどのくらいかは知らないが、寿命が尽きるのはかなり先だろうな。まあ、ミーヤが死んだら後を追うつもりだが」
「僕の場合は既に死んでるからどうなんだろうね?ミーヤと一緒に居たいっていう思いでこの世に留まってるわけだし、ミーヤが死んじゃったら僕もリッチとして保てなくなってあの世に逝っちゃったりするのかな?」
上からマリン、イース、アリス、ノア、ハイド、アレクの順である。
……な、長生きをしなくては……!
想定してた長生き目標は百歳くらいだったけど、それ以上に長生きをしないと駄目な感じだ。可能な限り頑張らなくては。
「既にミーヤは長生きの為の布石を打たれているようだが……まあ、本人が気付いていないならそれも良いか」
「え、何が?」
「いや、大した事では無いから気にしなくても良い」
いやいや今凄く大した事言ってた気がするんだけど。長生きの為の布石って何よ。
しかしそんな私の視線には答えず、ロンは穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「それよりも従魔契約の次は何をする?盃を交わすのか、それともステータスを確認するか?」
今はぐらかされたような気が……まあ私に害無さそうだし良いか。長生きは良い事だしね。
「ロンとしてはどっちが良い?」
「どっちでも構わんぞ」
「先にステータスを確認した方が良いと思うわよぉ?」
そう言ったイースは続ける。
「盃はお風呂に入ってからの方が良いでしょうからねぇ」
「それは確かに」
うん、と頷いて私はロンに向き直る。
「それじゃあステータスの確認を先にしても良いかな?」
「勿論」
ロンの許可も貰ったし、と私はロンのステータスを確認して読み上げる。表示されたステータスはこんな感じだった。
名前:ロン(計測不能)
レベル:計測不能
種族:上級ドラゴン
HP:計測不能
MP:計測不能
スキル:ドラゴンブレス、内臓複製、空間歪曲、擬態
称号:人食い、破壊の化身、大陸を沈めたドラゴン、ニーラクス学園の守護龍、従魔、第十夫人、愛の加護
……うん!これ以上は殆どモザイクで見れない!
何これレベル差?レベル差あり過ぎて見れないの?あ、そういやイースの時もレベル差があり過ぎたのかHPとMPんトコが計測不能って出てたな。多分そういう事だろう……けど、
「年齢もレベルも計測不能ってどういう事よ」
「まあ、ミーヤは人間だからな」
ロンはうんうんと納得したように頷いてるけど、私はいまいち腑に落ちてないんですけど……。だってイースの時は年齢もレベルも見れたもん。スキルと称号は同じ様に一部しか閲覧出来なかったけど。
「多分、ミーヤの場合は年齢表示が四桁までなのねぇ」
「……ん?」
苦笑したイースの言葉を私は少し考える。
「…………ロン、年齢五桁?」
「ははは、まあ一万も二万も大して変わらんから気にする程の事でも無かろう」
現在17歳の私からすると結構な差だと思うけど!?
「ついでにレベルに関してはぁ、ミーヤの場合三桁までしか見れないみたいねぇ」
「本気でロン私の従魔になって後悔してない?言っておくけど私のステータスはロンの足元に及びもしないよ」
イースの言葉に思わず真顔でロンの肩を掴んでそう言うと、
「上級ドラゴンからしたら皆そうだから大した問題では無いさ」
と笑顔で返された。
……ふむ、まあ確かに。こっちからすると気にする程の事な気はするけど、ロンからしたら当然の事だから対して気にする程の事でも無いのか。
19歳と4歳じゃ15歳差でどっひゃあって感じだけど、500歳と700歳じゃたった200歳しか違わないって感じるもんね。うん、つまりどんぶり勘定って事だね。よし理解した。
いや理解出来た気はしないけど、何となく問題は無いという事だけはわかった。オーケイ任せろその辺を理解せずにまあ良っかと受け止めるのは大得意だ。
「よし、オッケー納得した。それじゃあスキルと称号の詳細確認しても良い?」
「構わんが……」
ロンは少し困ったように眉を下げた。
「少々若い時にやらかして所持する事になった称号もあってな。ミーヤなら対して気にせんのはわかっているが……」
「ああ、うん」
何か称号に不穏なのあるなとは思ってたけど若い時にヤンチャしてたタイプなのねロンって。
「まあ今はそういう事しないのであれば特に気にする事じゃないと思うけど……嫌なら見ないでおくよ?」
「……いや、隠し立てする方が良くないな」
仕方がないというような微笑みを浮かべ、ロンさんは「少々不快になるかもしれぬが、確認はして貰いたい」と言った。私はそれに「了解」と答え、まずはスキルの詳細を確認する。
ドラゴンブレス
ドラゴン特有の複数ある肺を使用して一気に息を吐き出す事で攻撃するスキル。下級も吐けるが、体が大きく内臓複製も可能な上級ドラゴンのドラゴンブレスとはコップの水と大海原程の差がある。
内臓複製
上級ドラゴンが生まれつき所持しているスキル。体内にある内蔵、例えば心臓や肺などを複製する事が可能。やろうと思えば新しい臓器を体内に生成する事も可能。故に上級ドラゴンの体内にはその巨体を支える為に対応したサイズの内臓が複数存在している。
空間歪曲
魔法では無く過剰な魔力によって空間を歪曲させる極めて原始的なスキル。物質を歪曲させた空間に保存したり、対象が居る空間を歪曲させる事で破壊したり、己の居る空間を歪曲させて瞬間移動のような事も可能。ただし強大どころではない過剰な魔力を使用する為、加減を間違えると生態系が狂う。
わーお。
「何か、こう、コメントに困るくらい凄いね」
「ああ。何てコメントしたら良いのかわかんねえけど、とにかく凄えな」
「そういやフランがしょっちゅう下級と上級じゃかなり体の作りが違うらしいってぼやいてやがったな。成る程、アレはこういう事だったのか」
「……でも、空間歪曲……は、ファフニールも……やってた……。アレクも……」
「いや僕の場合はかなり違うと思う。主にコストが」
「そうねぇ。アレクの場合は自分の魂を少し弄るって感じかしらぁ?そして上級ドラゴンの場合はその空間そのものに魔力だけで干渉するって事だからぁ、積み木遊びと城の建築くらい差があるわねぇ」
上から私、コン、ヒース、ラミィ、アレク、イースの順である。
「……よし、サクサク行こうか」
細かく考えると熱出そう。
「次は称号、っと」
私は称号の詳細を表示して読み上げる。
破壊の化身
気まぐれに目に入った全てを破壊し尽した存在に対し贈られる称号。この称号を所持していると破壊不可能な物質や存在だろうと破壊が可能になる。その代わりかなり気を遣わかないとうっかりで近くの物を破壊しかねない危険性もあり。
大陸を沈めたドラゴン
一つでも大陸を滅ぼし海に沈めた事があるドラゴンに贈られる称号。大陸を消滅させないとこの称号は得られないのでかなりレア。
ニーラクス学園の守護龍
ニーラクス学園で守護に務めたドラゴンに贈られる称号。この称号を所持しているとニーラクス学園の生徒達からの信頼が得られる。
第十夫人
十番目の嫁。
……ヤンチャのレベルがドラゴン過ぎるよね。
「ロン、大陸沈めたの?」
「いやあれは儂を素材扱いして倒そうとした者達が居たので、つい。あまり機嫌が良くなかったせいでつい肺を大量に複製して全力のドラゴンブレスを叩きつけてしまってな……」
恥ずかしそうに視線を背けながら、ロンは「だ、だがな」と必死に弁解する。
「ギリギリ大陸と言えるサイズだっただけで、そこまで大きい土地でも無かったのだぞ?」
それ弁解になってないと思う。
確かに倒したけどそんな強い相手じゃ無かったし……みたいに言っても相手は充分上位だったっていうね。上級ドラゴンの全力凄い。
「……まあつまり、ロンは何か人知を超えたレベルで物凄く凄いって事だね。オッケイ、理解した」
ものっそい嫁を娶ったんだね、私。
この先まだやばいステータスの嫁増えます(ネタバレ)。




