副学園長のやらかした罪多くない?
生徒達の前で正体であるドラゴンの姿を見せたロンさんに対し、生徒達は動揺にざわざわとし始めた。
「え、マジか」
「何人かは知ってるって……お前知ってた?」
「エルフ相手にお前言うな。魔力でわかる」
「あ、俺も匂いでわかってた」
「エルフと獣人ずっけえ!知らなかったの俺ら人間だけかよ!」
「エルフの魔力とか獣人の五感には流石に勝てないけど人間にだって良いトコあるんだからね!あの、えっと、ほら、思考の柔軟さとか!」
「めちゃくちゃ必死に絞り出してるじゃない」
「うっさいよ!美形で耳尖ってて老けなくて長寿で魔力多くて魔法特化しててその他諸々属性てんこ盛りの萌え存在め!」
「え、あ、ありがとう…?」
「褒めてねーし!」
「つかさっき潰され掛けた時にドラゴンの爺さんの腹部分に思いっきり触ったんだけど結構触り心地良かったよな」
「わかる」
「不思議だけど色々とアドバイスをくれる老人の正体は実は学園を守っているドラゴンで……!?よし、このネタで一冊書ける」
「やっぱお前と俺ってソウルメイトだよな。俺作画担当するぞ」
「頼む。俺がささっと原作書くから」
……動揺どこ行った。
あっという間に普段通りのテンションに戻ってないかなこの子達。いや昨日今日の付き合いしか無いから普段通りのテンションかは知らないけど。知らないけど凄く日常のような空気を感じる。天井付近にドラゴン居るのに。
『……お主らは本当に動じぬな』
皆を見下ろしながらそう言ったロンさんに、生徒達はきょとんとした表情で言う。
「え、いや、ドラゴンのお爺ちゃんだしなーって」
「あの七不思議の爺ちゃんの方も七不思議扱いだったわけだし、そう考えるともう別に……何があってもおかしくないというか、何かある方が自然っていうか」
「この学園って結構人間の振りして生徒やってる魔物とか魔族も居るっていうし、ならまあ別に……って思って」
さらりとそう言った生徒達に、ロンさんは『騒がれぬのは助かるが、ここまであっさり受け入れられるとは……』と呟いてから、
『では本題、儂の受けた被害について語ろうか』
と言って狭い、いや大きめの体育館だから広いんだけど、大きくて長いロンさんからすると狭い体育館内でロンさんはその翼を広げた。
『……見えるか?』
「正直逆光で見え難い」
「あと距離あって何を見せたいのかがちょっと……」
『それもそうだな』
手を水平にして額に当てながら目を細めてロンさんを見ながらもそう言った生徒達にロンさんは頷き、『……まあ一枚くらい良いか』と言って腕を伸ばして翼の付け根に……触れようとしたらしいが上手に伸ばせず、後ろ足の爪で翼の付け根から何かを取った。
『ほれ』
「む」
投げられたその何かを学園長が片手で難無くキャッチ。そして広げられた学園長の手の平を見ると、
「……鱗、か?」
「あ、この鱗」
それは副学園長が射った毒矢に刺さった時の傷痕がある鱗だった。
「それが被害だ」
気付けば天井付近に居たドラゴンは消え、私のすぐ隣に擬態姿のロンさんが立っていた。
「それは数十年前、儂が見回りの為に空を飛んでいた時にブーリン……副学園長が射った毒矢に刺さった際の傷痕だな」
「毒矢…だと?」
目を鋭く細めた学園長に、ロンさんは「うむ」と頷いた。
「そもそも上級ドラゴンは内臓を複製する事が出来る上に炎を吐く為の臓器などもあるのでな。毒程度は効かぬ。何よりその矢は儂の鱗を貫通する程の威力も無かった」
「しかし」とロンさんは人間のようだった瞳孔をドラゴン時のように鋭くして続ける。
「問題は塗られていた毒だ。矢に塗られていた毒は副学園長…当時は学生だったが、あやつが自分で調合した物だろうな。効力は中々の物であり、下級ドラゴンであれば数十分で死ぬだろう毒だった」
「……上級ドラゴンだとそこまでわかるのか?」
「否」
学園長の問いにロンさんは首を横に振った。
「コレは毒のようだが一体どんな毒だろうか、と思って試しに舐めてみただけだ」
上級ドラゴンの味覚凄いな。
プロの料理人も一舐めしただけで材料や作り方を見抜くとは言うけれど、毒舐めて「こ、この毒は…!」ってなるかね普通。上級ドラゴンだから普通じゃないか。なら良いや。
「問題は、射られたのが放課後の見回り中だった事だ。もし儂が避けたり、矢の軌道が逸れでもしたら放課後故にあちこちに居る生徒達に矢が当たるかもしれなかった。そうでなくても、万が一毒が垂れて生徒に掛かりでもしたらと思うとぞっとする」
ロンさんの言葉を聞いた生徒達が再びざわざわとし始める。
「うわこっわ……」
「下級ドラゴンって下級扱いだけど普通に強いんだよな?」
「強いはず。上級の冒険者じゃないと無理って本に書いてあったし」
「そんな毒を自分で作っちゃう副学園長こっわやっば」
「いや、うん、前から結構あの副学園長は他人の命を何だと思ってんだって思う事は多々あったけど……周囲に出るかもしれない被害も考えずにこの学園を支えてくれてたドラゴン爺ちゃん相手にそれやるってどうよ」
「しかも学生時代なんだろ?」
「そんなやばい奴が副学園長になっても普通に接してたドラゴンのじっちゃん強え」
「クズって創作だから良いんだね。リアルでクズ過ぎる行動聞いちゃうとげろげろって感じ」
「わかる。俺らの中にある萌えが一種類消えるかと思うくらいの外道っぷり」
そんな生徒達の私語には慣れているのか、生徒達の言動をスルーして考え込んでいたらしい学園長は「……成る程な」と頷いた。
「歳のせいで飛ぶのが億劫だと引き篭もり始めたのはその時からか」
「うむ。生徒達を守る為の見回りで被害を出すのは本意では無いのでな。しかし見回りはした方が良いだろうと思い、こうして人間に擬態し学園内をふらふらしていたわけだ」
生徒達の方から「あー」「成る程」「だからどこにでも出没したのか」という声が聞こえた。
出没て……完全に七不思議扱いだね。
「まあそういう事で、儂の被害は「命を狙われた」だな。物的証拠はその鱗という事で良いだろう」
「ああ、了解した」
ロンさんに頷いてそう返し、学園長は生徒達の方に視線を向けた。
「今のでわかっただろうが……というか私も今知ったくらいだが、やはりあの男を副学園長の座に納まらせたままなのはまずい。皆、何か受けた被害があるなら挙手してそれぞれ言ってくれ」
「安心しろ、嘘くらいは見抜けるからな。きちんと真実のみ被害届として受け取るとも」と学園長は言ったが、生徒達は少し不安げな様子を見せていた。
「どっからどこまでが被害になるのかもうわかんねえもんな」
「流石に命に関わるような被害までは受けてないし……でも言葉による攻撃なら日常的に受けてるし、って感じだもんね」
「マーケットの時に私が作った本が全部副学園長の本にすり替えられてた事あるんだけど、これって被害で良いのかな?」
「それ充分被害だろ」
「いやでも副学園長に訴えたら「あんな特殊嗜好な本よりもこちらの方が売れるでしょう」って言われてゴリ押しされて、あまりに不愉快だったからついその本売らずに全部燃やしちゃったんだけど……これって被害扱い出来るかな」
「あー……うー……まあ最初にやったの向こうだし、向こうに被害は出てないからこっちが被害者扱いになるんじゃねえかな」
うーん……皆それなりに被害は受けてるけど、でも今更過ぎて言う程の事じゃ……みたいな雰囲気なのかな。副学園長の言動や行動に慣れちゃったんだろうね。
……ニーラクス学園の人達って皆オタクっぽいし、いっその事なにか賞品的な物があれば皆も全力でどんな被害を受けたかを言ってくれそうな気がするなと思い、私はアイテムポーチの中に譲っても良さげな物がないかと漁ってみる。だってホラ、オタクって基本的に目の前にニンジン吊り下げられたらそこに向かって走る習性あるし……。
えっと、これはボムスティックか。オタクにこんな武器を持たせてはいけない。聖女のドレス……はコスプレ系の科取ってる子なら喜びそうだけど、って感じだからボツ。えーとえーと……あ。
良いんじゃないか?というアイテムを見つけ、私は学園長に問う。
「あの、学園長。ちょっと聞きたい事が」
「何だ?何でも聞いてくれ」
「その、この学園ではマーケットで本とかの創作物を売るんですよね?」
「ああ」と学園長は頷いた。
「一般の客用がマーケット、学園内の者用が裏マーケットだな。それが?」
「えっと……そういう創作物を売る時って、やっぱ自費出版って感じですか?」
「そうだ」
ふむふむ、やっぱり自費か。同人誌もそうだったからそうじゃないかと思ったんだよね。
「最後の質問なんですけど、この学園でそういう創作物の為の材料……例えば紙やインクとかってフィリップス商会から購入してます?」
「ああ。定期的にフィリップス商会の者が来るから、その時に生徒達は個人個人で注文したりしているな」
「成る程、ありがとうございます」
お礼を言ってから「あ、あとその魔道具借りて良いですか?」とマイクを指差すと、学園長は「構わん」と貸してくれた。ありがたい。
そして私はアイテムポーチから取り出したアイテムを右手で掲げ、左手に持ったマイクを口元に近づけて叫ぶ。
「はいちゅうもーーーーーく!!」
突然の大声にこっちを見ていた子もこっちを見ていなかった子も全員がこっちに視線を向けた。
「はいこちら私が掲げるはフィリップス商会の商品が永遠に一割引になるという割引券!欲しい子は挙手!」
挙手の「きょし」まで言ったくらいから生徒ほぼ全員が我こそはとでも言うかのように手を高く上げた。うんうん、反応良くて私嬉しい。
「だがしかし残念な事にこれは一枚しかないんだよね。……というわけで!一番副学園長にやっべえ被害を受けた子に賞品としてプレゼントする事にします!」
そう言った、次の瞬間。
「俺あの野郎に擦れ違いざま舌打ちされた事あります!何でかって聞いたらあの野郎「その原作者が好きだなんて人生を損してますよ」って!俺の好きな作者を否定しやがったあの野郎ハゲろ!」
「小説に出て来る冒険者の服を好きなように作ってたらあの野郎が「こんな飾り過多なキャラではないでしょう。もっと読み込んでから作っては?」って鼻で笑いながら言われました!そんなん解釈が違うだけなんだから放っとけ!」
「ゾンビの腐った肉のぐちゅぐちゅ感がどれだけエロいかっていうのを書いた本売ろうとしたらあの野郎に「こんなキチガイのような本売れるはずないでしょう」って目の前で破かれました!うっせえこれが特殊なのは俺自身百も承知じゃボケェ!」
「好きな劇場に毎日通ってずっと同じ劇を見てたって友達と話してたらあの野郎「同じ劇を見て何の意味が?その金を使ってもっと沢山の劇を見た方が良いですよ。そんなものは無駄でしょう」って!劇場の劇は毎日毎回違うの!アドリブが日替わりだったりするの!それにその劇が好きだからその劇にお金を落としてるのよ!劇全部が好きなんじゃなくて!その!劇が!好きなの!」
「虫×少女が受け入れられ難いってのは他の誰よりも僕が知ってます!でも好きなんですよ!虫を愛でる少女が!虫に好かれても拒絶しない少女が!そしてそのアンバランスさ、かつまだ幼い少女だからこその優しさに!だというのに最初のページを見ただけで「こんなものが売れると?」ってボツ扱い!アイツ許さねえ!」
「有名な小説とかが好きだからそれに公式と自分なりの解釈を混ぜ込んだ上での小説作ったらあの野郎に盗作された!しかもあの野郎に詰め寄ったら「君のような子供が作ったのでは見てもらえないでしょう。あんな大作を埋もれさせるのは惜しいので、もっと沢山の人に見てもらえるようにしただけですよ」って!いけしゃあしゃあと!」
「五回くらい前の裏マーケットで買った本!あの野郎にスられました!あの野郎ダッボダボのローブ着てますけどアレ完全にスリの為ですよアイツ!手元を見られにくくして懐にスった本隠す為に着てるんですよアイツ!」
「俺なんてプレミア付いた本集めるのが趣味なんですけどそれを知って以来あの野郎俺の部屋に勝手に侵入してプレミア本パクってくんスよ!入学したての頃にアイツの性格知らなかったから借りパクされまくって、その教訓として貸さねえようにしてたらあの野郎!不法侵入に窃盗までしやがった!」
「僕もやられた!ある劇場の花形である女性のサイン付きの写真盗られました!しかもあの野郎堂々と自分の部屋の写真立てに入れて飾ってやがるんです!」
「私もその被害遭いました!寝てる間にあの野郎乙女の部屋に侵入しようとしてました!幸い同室の子が獣人だったから「誰!?」って扉の向こうに叫んだらすぐ逃げたんですけど、匂いが副学園長だったって!しかも翌日授業終わって自室に戻ったらマーケットでどうにかゲットした数量限定販売の本が無くなってたんです!」
生徒達ほぼ全員が一気に魂の叫びを上げた。
「お、おおう……」
……ミサンガが一切反応してないのが怖いんだけど。副学園長とんでもない量の罪犯してたのね。




