私だって怒る時は怒る
ただし基本的に嫁関係のみ。
「まずこの学園の成り立ちから話すが、この学園は彼が居る場所だからと作られたのだ」
「あれ、ドラゴンが後から住み着いたんじゃ無いんですね?」
「ああ。後から学園を建てて住み着いたのはこっちだ」
ふむふむ、もうそこからあの野郎はさり気なくドラゴンの方が後から来たと刷り込んでいた、と。
住み着いてるとか排除しなくてはって言葉のせいでドラゴンの方が後からなのかと思い込んじゃってたよ。危ない危ない。
「この学園はこの部屋に来るまででわかっただろうが、ああいう部類を学ぶ為に作られた学園だ」
オタク学ですねわかります。
「しかし、この学園の設立当時はああいう…いわゆる娯楽系がかなり少なかったらしい。それを広める為に、そして様々な見解を知る為にと、とある勇者によって建てられた」
「当時の勇者は何処に建てるかで悩んだらしいぞ」と学園長は言う。
「皆の発想を聞く為には、まずその生徒達皆にそれだけの発想が出来る知識を教える必要がある。発想力が鍛えられる年代、かつ学ぶ場でもあるが故に都市などではなく学園にするのが良いだろう。しかしその為には広大な土地と多量の知識…つまり、本が必要だと勇者は……否、初代学園長は考えた」
「あ、その勇者が初代学園長なんですか?」
「そうだ。誰よりもこういった娯楽系の知識があるからという事でな。この学園での原則である「十人十色」「自分の萎えは他人の萌え」もその初代学園長が定めたものだ」
オタクとしては大事だけど学園としてはどうなんだろうそのルール。
まあそのルールがあれば解釈違いからのいじめには発展しなさそうだから良いんだろうけどね。水田とジャガイモ畑じゃ文字通りの畑違いなんだから争う必要なんて無いんだし、このルールはつまりそういう事なんだろう。無意味な争い程虚しいものは無い。米もイモも育ち方は違うけど食べ物なんだからそれで良いだろ、って事だよね。
「初代学園長はまず、安全な土地を探した。何故なら本が大量にあり、そしてまだ力の無い子供達が大半である学園では賊に狙われやすいだろうから、と思ったからだ。今でこそニーラクス学園はツィツィートガル一の学園だが、当時はそうでもないからな」
「……確かに…。……賊から、したら……狙いやすい、餌場……」
学園長の言葉にラミィがそう頷いた。
……そういやラミィ、昔は人とか食ってたんだよね。襲う側の視点から見ると本当に狙い目な場所なんだろうな、学園って。
そう考えるとちゃんとセキュリティを考えてた地球の学校に感謝の雨だわ。あんな非力な子供達だらけの空間なのに安全なんだもんね。
その代わり内側でいじめみたいな事が起こったりはそれなりにあったけど、まあそれは見ない振りをするという事で。少なくともうちのクラスは個性の擬人化みたいな子ばっかだったからそういうの無かったしね。
「ですが、安全な土地などあるのですか?治安が良い場所であっても賊は出ますから、完全に安全な場所など探しようが無いのでは」
もっともなハニーの言葉に、学園長は「確かに初代学園長もそう思ったらしい」と肯定した。
「故に初代学園長は、発想を逆転させた」
「逆転?」
首を傾げたアレクの言葉に学園長は「ああ」と答える。
「初代学園長は、この土地に住んでいた上級ドラゴンに交渉を持ち掛けたんだ。長年上級ドラゴンが住み着いていた土地を襲おうとする馬鹿は居ないだろう、とな。本人、というか本ドラゴンから聞いた話では、その初代学園長はこう言ったそうだ」
曰く、
「上級ドラゴンはとても長生きだそうだね。しかし、長年ただ生きるだけでは娯楽が足りないだろう?そこでだ、僕達が作る学園のシンボルのような存在になってはくれないだろうか。僕達は学園の生徒達に娯楽の楽しみ方、そしてそれの広げ方を教えるつもりなんだ。だから、少なくとも今までに比べれば娯楽の多い未来になると約束出来る」
と、初代学園長である勇者は言ったらしい。
「初代学園長は続けて「しかし宝とも言える知識、それらが詰まった本は狙われやすいだろう。子供達も同様だ。だから、君にはそういった賊から僕達を守って欲しいんだ。強い存在が居れば内部の者は安心出来るし、外部の者は恐れて手を出そうなんて思わないはずだから」とドラゴンに言ったらしい」
「初代学園長はそこまで強くなかったのか?」
ハイドの問いに学園長は「いや」と首を横に振った。
「初代学園長は賊を一撃で潰せるくらいには力があったが、そんな事を出来るのは初代学園長である彼一人だった。何より人間だから寿命もそこまで長く無い。故に彼は常に学園に居る事が出来、沢山の人間に攻撃されても対応が可能で、かつ安全の象徴として不変的な存在に居てもらうのが重要だと考えたそうだ」
成る程、それは確かに。
ガードマンが一人だけじゃそのガードマンが居ない時狙おうぜ!ってなっちゃうもんね。でもドラゴンなら外回りの必要は無いから常に起動してるセキュリティのようなもの。わかりやすい「強い存在」でもあるから、子供達も安心しやすいだろう。
……相手はドラゴンだよね?っていう不安要素はスルーしておこう。皆からの好感度高いみたいだからファフニールと違ってコミュ力あるっぽいドラゴンだったのが幸いだった。きっとその初代学園長もラッキーボーイの称号を持っていたに違い無い。
「で、そのドラゴンは……今居るんだから、その話に頷いたって事だよな?」
コンの言葉に学園長は「ああ」と頷いた。
「上級ドラゴンは戦争の時代を余裕で生き抜ける程には強く、賢く、そして寿命もとても長い種族だ。故に殆どは山奥で眠っている事が多い」
そういえばファフニールも山の中に引き篭もってたね。
……好きな人と一緒に過ごしたりっていう楽しさが無いと、長いドラゴン生の中じゃ寝るくらいしかする事がなくなっちゃうのかな。
「そして、ドラゴンは初代学園長に広めようとしている娯楽の一部を見せてもらい、頷いた。……この校舎に来る前に大きな塔があったのは見たか?」
「あ、はい。見ました」
「あそこがそのドラゴンの寝床だ。アドバイスが欲しかったり、第一読者としてコメントが欲しい時などに生徒達が行く事が多い」
あそこドラゴンの寝床だったの!?
あー、でも、あー、成る程。だから鐘が無いのね。倉庫的な場所かと思ってたからまさかドラゴンの寝床とは思わなかったけど……。
「彼はとても穏やかなドラゴンでな、誰がどんな作品を書こうと「うむ、良いと思うぞ」と言ってくれる。そしてストーリーや展開を拒絶せずに、それを活かす方法などを教えてくれる」
「のだが」と学園長は眉を顰めた。
「その結果私も含め、学園の者達は彼の意見を重視する。勿論重視した方が良い意見しか言わないからそれは当然なのだが、それがあの馬鹿…副学園長は気に食わんらしい」
学園長は眉を顰めたまま、「あのドラゴンの言葉は参考にするというのに私の言葉を参考にしないとは、と言ってな」と深い溜め息を吐く。
「アイツの意見はそのまま自分の好みが前面に出た意見ばかりだ。自分なりの解釈を押し通そうとし過ぎる部分もあるし、他人の嗜好を否定する癖がある。自分と自分の中にある世界しか見ていないというか……その結果、とにかく他人を否定した上で自分の好みの作品を作らせようとする悪癖があるというか」
「お前の絵柄が好みだからそんなBLとか描いてないで俺好みの美少女描けや、って言ってくるみたいな?」
「そう!そういうトコがあるんだアイツは。勿論相手と自分は畑違いである事を理解し、それなりにギブ&テイクの関係をお互い理解した上で築いているのであれば構わん。そっちのリクエスト聞くからこっちのリクエストも、みたいなやり方なら学園内でも普通にあるからな」
「しかしアイツはとにかく相手の否定から入る」と学園長は忌々しそうに舌打ちをした。
「アイツのせいで筆を折り掛けた生徒も少なくは無いからどうにかしたいのだが……立場が立場だから、と中々生徒達も被害届を出してくれなくてな」
「あー、相手は教師の中でも立場が上な副学園長だし、もしそれで目を付けられたりしたらって感じで?」
「そうだ」と学園長は頷いた。
「被害届がある程度出されれば副学園長の資格無しと判断して退職させる事も、場合によっては兵士に通報も出来るのだが……肝心の被害届がな」
うーん……地球でも生徒が被害者で教師が犯人の時ってもみ消されるんじゃ?とか色々考えちゃって被害届を出し難いって聞くからね。
いじめだって報告したところでちゃんとした処置がされるかどうかわかんないし、教師に言った結果いじめが無くなるどころか悪化した事例もあるわけだし。そう考えると中々踏み出せない子が多いのも納得、かな。
「ミーヤ」
「ん?」
あの野郎本当に面倒な位置に居座ってやがるなと思っていると、イースに声を掛けられた。「どしたの?」と返すと、イースはにっこりとどこか含みのある笑みを浮かべながら、
「あの男、退職させちゃいましょう♡」
と言った。
「……え、本当にどしたのイース。イースってこういうの基本的にノータッチだよね?」
「こっちに被害が出ないなら、ねぇ」
「でもぉ……」と少し目を細めてから、イースは学園長に他人の心を読む事が出来る能力を持っているという前提を説明してから、話し始める。
「あの男がどうしてミーヤにあんな依頼をしようとしたか、わかるぅ?」
「え、普通に私が依頼受けてここに来たからじゃないの?」
「僕もそう思うよ。あの副学園長がミーヤを指名したならともかく、ミーヤを指名したのは学園長だからね」
「うんうん、それに副学園長は多分、ニーラクス学園について詳しく無くて、それでもってここに住んでる上級ドラゴンについてもよく知らない外部の存在なら誰でも良いって思ったんじゃない?」
「あの発想力が貧困で他力本願にも程がある馬鹿ならやりそうだな」
上からイース、私、ノア、アレク、学園長の順である。というか副学園長に対する学園長からのイメージが酷い。事実なんだろうけど。
「それもあるんだけどぉ……重要なのはミーヤが低ランクの冒険者で、魔物使いってところなのよねぇ。沢山の強そうな従魔を従えてるってところもポイントよぉ」
「……えーっと」
……それが何なんだろう。
「つまり、端的に言うと?」
「端的に言うとぉ」
イースは言う。
「あの男はドラゴンを退治、または従魔にでもさせて学園から追い出したいのよぉ。でもそれを自分がさせたってわかったら即行で退職させられちゃうでしょう?」
イースの言葉に学園長が「そうだな」と頷いた。
「だからぁ……まぁ、スケープゴートって事よねぇ」
スケープゴート。えっと、確か身代わりとか生け贄とかって意味だっけ。漫画で読んだ。
……えっ?
「私が?」
「そうよぉ」
「何で?」
「従魔にするのは無理だろうからぁ、確実に退治する事になるだろうってあの男は思ってるのよねぇ。でも退治させたなんてバレたら退職でしょう?だから低ランクで知名度も低い魔物使いのミーヤに頼むのよぉ」
駄目だ私ポンコツだからわからん。でも知名度が低いってのには頷ける。
いやだって王都では確かに目立ってたけど、でもそれは王都だけだからね。ご当地でだけ有名な感じだから距離がある上に閉鎖的な学園の中じゃ知名度は低いどころかゼロに低いだろう。
「……低ランクで知名度が低くて、んで魔物使いの私だからこそのスケープゴート…?」
「………………あの」
上の右手で挙手し、「まさかとは思いますが」と前置きしてからハニーは言う。
「ミーヤ様がそのドラゴンを従魔にしようとバトルを挑み、従魔に出来ずドラゴンが退治された…またはドラゴンが学園から出て行った、というような頭の足りないストーリーをでっち上げようとしているのでは」
「その通りよぉ」
「えっ」
え、今のハニーの回答が正解なの?
「……つまり、ドラゴンが学園から居なくなったのは全部ミーヤのせいって事にして、その辺りの全部をミーヤに擦り付けようと……?」
「酷い!ミーヤは理由も無くそんな事しないよ!」
「つか、理由があってもミーヤ様なら話し合いで解決しようとするだろ」
上からハイド、マリン、ヒースの順である。とりあえず良くない空気を纏い始めたハイドの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「んー……そういえばバトルして従魔にした事無いから忘れてたけど、普通はバトルして従魔にするんだもんね。だから魔物側のプライドが高いと従魔にならずに死んじゃう事もあるんだっけ」
「そうよぉ。……つまりあの男はぁ、ミーヤは魔物を、つまり私達をそんな方法で仲間にしてると思ってるって事なのよねぇ」
……イース、冷静に見えて実はかなり怒ってた?そんな方法って言った時凄い声低かったけど。凄い力入った「そんな方法」だったんだけど。
撫でた事で落ち着いたらしいハイドから手を離し、私は一旦ソファから立ち上がって向かいのソファに座っていたイースの前に移動する。
「よいしょ……うわ軽っ!?」
「きゃっ」
腰に力を入れてイースを抱き上げようとしたら思ったよりも軽かった。ていうか、えっ?何この軽さ。羽のように軽いんだけど。いや少女漫画的な比喩じゃなくてマジで羽のように軽い。ハニーもぬいぐるみのように軽いんだけど、今抱き上げているイースはそれよりも軽い。正に羽一枚。
……あ、ああ、そういやイースって本体は黒い靄だっけ。なら重さが無くても不思議じゃないか。
風船かと思う程軽いイースを抱え直して、私はイースが座っていたところに腰を落とす。そして膝の上にイースを乗せ、左手でイースの背と腰を支えつつイースの頭をよしよしと撫でる。
「相手は多分、私の事に詳しく無いんでしょ。詳しかったら私は従魔の皆を嫁にしてるって事知ってるはずだし」
そして王都ではそれなりに知名度があるって事も知ってるはずだ。
……まあ、力ずくで従魔にした上手篭めにしてるクズと思い込まれる可能性は無くは無いんだけどね。そういう誤解が無いように私はホワイト魔物使いを目指しているのでありますよ。
「だからまあ、イースがそう怒る程の事でも無いって。イースのお陰で相手の企み知れたのは良かったしね」
「…………ミーヤはもう少し気にしたらぁ?」
イースは少しむうっとした顔で私の首に腕を回して抱き付いてきた。顔の左下側と首がイースのおっきいおっぱいに圧迫される。相変わらずイースの胸は弾力強めで圧が強い。
「……ラブラブだな」
「ラブラブですよ」
「ネタにして良いか?」
うん、流石ニーラクス学園の学園長。この状況の中真顔でペンとメモを取り出してその台詞とは。ユラさんのあの性格にも納得だよね。デジャブ感凄い。
「安心しろ、実名は出さん」
「実名を出さない事と、読者の人にその元ネタが私達だとわかっても私達に対してその話題を出さないようにしてくれるならご自由にどうぞ」
「感謝する!」
学園長がペンをガリガリと走らせている間ずっとイースの頭を撫でていると、どうやら落ち着いたらしい。顔を上げて、「もう大丈夫よぉ」といつも通りに微笑んだ。
「本当?」
「えぇ。……うふふ、最初の頃はちょっと密着しただけで顔を真っ赤にしてたのにねぇ?」
「慣れって凄いよね」
最初の頃は本当、イースの男版とか露出高いから照れまくってた覚えがある。今では心が女性なら良いやって一緒にお風呂入ったり、男性が褌一丁で突っ立ってようと普通に会話が出来るまでになっちゃったけどね。
……ステータスに羞恥心も表示されてたら、私の羞恥心はきっと虫の息だろうな。
そう思っていると、メモをし終わったらしい学園長が「よし」と言って顔を上げた。
「さて……そうだな、ミーヤ達には少しの間滞在してもらって、副学園長に被害を受けた生徒達に被害届を提出するよう促してもらえるか?副学園長や他の生徒達には少々本の解読に時間が掛かっているとでも言っておこう」
「了解しました」
「それとこの依頼に関しての報酬だが」
「あ、依頼の報酬は本の解読分だけで良いです」
そう言うと、学園長は少し眉を顰めた。
「……確かにミーヤからすればあの男を退職させる事が出来れば汚名を被る事を回避出来るからそれで良いのかもしれんが、こっちとしてはミーヤに被害を被せそうになったんだ。未遂だったとはいえ、せめてもの慰謝料として」
「いえ」
イースを抱いている左腕の力を少しだけ強め、
「私の可愛い嫁達を不機嫌にした上、愛するイースをこんなにも不愉快にしやがったんです」
私は言う。
「あの野郎、絶対泣かす」
こちとら小娘に見えても彼ら彼女らの夫やってんだ。愛妻家ナメんなよ。
「…………頼もしいな」
それはどうも。
ミーヤと嫁との間の糖度を高くしようとした結果副学園長にデッカイ死亡フラグが刺さるという。あっれー?




