学園長にしっかりチクるよ
長い金髪に紫の瞳の学園長は「好きに座ってくれ」と学園長室の中央にある向き合う形のソファを手で示してから、
「…………ん?」
ふと視線を鋭くし、私をじっと見つめた。
「……あの、えっと、何でしょう?」
「いや……ふむ、成る程な」
何やら納得したように頷いた学園長は「気が変わった」と呟き、
「副学園長、お前は退室しろ」
と言った。
「は!?な、何故私だけ!?」
「私が彼女と話をしたいからだ。しかし彼女の連れを彼女から引き剥がすなんて真似は出来ないだろう?だからお前だけが退室するんだ」
「い、いえしかし、依頼の説明には私も役立てるだろうと……」
ミサンガがピンク色になった。そしてコンが「えっぶしっ」とくしゃみをした。
……依頼の説明に役立てるだろうっていうか、多分コレは副学園長の個人的な依頼である上級ドラゴンに関してを私達が言わないようにっていう監視の為に残りたいんだろうね。その場に居れば誤魔化せるから。
「言い方が悪かったか?」
しかし学園長はそんな副学園長に眉を顰め、言う。
「依頼の話もするつもりだが、エルフの友人である彼女と個人的に話をしたい。お前は邪魔だ」
「私の何が邪魔だと!?」
「お前、毎回私と誰かの会話に口を挟むだろう。話し難いったら無いぞ。わかったらとっとと去れ」
自業自得というか、身から出た錆って感じ。
日頃の行いを思い出してか、それともこの場で無理矢理にでも残ろうとするのは不利だと悟ったのか、副学園長は酷く不満気に「……了解しました」と言って学園長室から出て行った。
…………でもサーチすると扉の前から動いてないっていうね。完全に扉に聞き耳立ててますわ。
思わずしらーっとした目で扉の方に視線を向けていると、学園長がパチンと指を鳴らした。それと同時に室内に広がる魔法の気配。
「ああ、突然すまんな。今この部屋に防音の魔法を掛けたんだ。それとあの馬鹿が乱入しないように、とそこの扉も封鎖した。閉じ込めるような真似をしてすまんが、アイツはどうしても信用ならんというか……」
「あ、いえ助かりました」
私はくしゃみのし過ぎで鼻をぐしゅぐしゅしているコンに回復魔法を掛けつつ、言い難そうにしている学園長にそう答える。
「あの人何か、危険な感じだったので」
「初対面でもわかるか」
「わかります」
実際はミサンガのお陰とも言えるけど、多分ミサンガ無くてもアウトって判断したと思う。SNSで見かけたら即行でブロックか見ない振りしようと思うタイプの人だもん。言動が。
「……コン、大丈夫……?」
「ああ、アイツが居なくなったのとミーヤの回復魔法で助かった。何かアイツ凄くこう……嘘臭くて埃臭い感じで、鼻がずっとむずむずしてて」
「わかる。僕から見ても魂が凄いドロドロしてたもん、嫌な感じに。あんなゲロとヘドロ混ぜた所に傲慢さを飾ったような魂中々居ないよ」
「少しは居るのか?」
「イースが餌認定するような奴等は大体ああいう魂かな」
上からラミィ、コン、アレク、ヒース、アレクの順である。
……てかイースが餌認定するって確実に犯罪者級のあかん人じゃないですかやだー。え、マジでそんなレベルでやばい人なの?
そう思って冷や汗を掻いていると、学園長に「ミーヤ」と呼び掛けられた。
「あ、はい」
「ミーヤにそのエルフの友人としての証を渡したエルフはメリードという名で間違い無いな?」
え、何でわか……ったんだろうって思ったけどシルヴィアさんもわかってたっけ。メリーじいさんが言うには魔力で手紙みたいにしてあるとか何とかだったはずだから、多分この首飾りをくれた人の名前もわかる仕様になってるんだろうね。
「はい、そうです」
「そうか。……それにしてもエルフの古語で書いてあるのか、珍しい」
古語?
「あの、私よくわかってないんですがエルフから見ると何かこう、何かが見えてたりするんですか?」
「ん、ああ」
学園長は頷く。
「エルフの友人としての証は、近くに居るエルフの魔力に反応して内部に仕込まれている魔力がエルフにしか見えない文字を映し出すんだ。エルフの友人だと認めた者からのメッセージをな」
「その上ミーヤが身に着けている証が表示するメッセージはエルフの古語で書かれている」と学園長は笑った。
「エルフの古語など珍しいぞ?最近の若いエルフは読めん者も多いからな」
いや、そもそも古語とかあるんだって感じなんですけど。……エルフ語とかあるんだろうか。
「そのメリードというエルフ、一体幾つだ?」
「えーと、大体800歳くらいって言ってました」
「800歳だと!?」
学園長が驚愕に目を見開き、大きな音を立てて立ち上がった。しかしすぐに私達が驚いているのに気付いたのか、「……すまん」と言って座り直した。
「いや、しかし800歳のエルフとは……」
「……見た目若々しかったんですけど、そんなにお年寄りなんですか?」
「否、エルフは途中で死にさえしなければ千年くらいの寿命はある」
途中で死ぬって何。あ、外的要因によってってやつかな?殺されたり不治の病でさえ無ければ人間も平均80年は生きれるもんね。
「しかし」と学園長は机に肘をついて両手を組んだ。
「……五百年前までは、勇者を召喚し、争って争って争い続ける、という戦いの時代が続いていたらしい。故に五百年以上生きている者は中々居ない。エルフは勇者の味方をする事が多かったから、戦いに巻き込まれる事も多くてな。戦争で命を落とすエルフも多かった」
えーと、それはつまり、
「長生きが出来なかった、と?」
「そういう事だ。その結果、今のエルフの年長は基本的に500歳前後の者が多い」
多分それって戦国時代では人間50年って感じだったっていうアレに近いんだろうけど、エルフの場合は寿命が長過ぎるせいで平均寿命の引き上げが難しそうだね。人間なら五百年もあれば平均寿命は充分引き上げれそうだけど。
「私だってまだ…そう、四捨五入すれば300歳くらいだからな。故に800歳なんて国宝扱いしても良いんじゃないかとさえ思ってしまうぞ」
「本来のエルフの寿命からすればまだ余裕はあるだろうが、な」と学園長は笑った。
……そっか、メリーじいさんってめちゃくちゃレアなタイプの人…ってかエルフだったんだね。初めて会ったエルフだったからその辺わかんなかったけど。
というか500歳以上、つまり勇者が居たとされる当時から生きてるって相当レアな事なんでは……と思って私はチラリとイースを見て、ハイドを見て、アリスを見て、ノアを見た。
「妾は確かに勇者と話した事はあるけど、今の妾は生まれたてだよ?」
「そうだったね」
そういやアリスのステータスはそうなってたわ、とアリスの頭を撫でておく。うん、ひんやりしてて硬い。流石氷水晶。
「ところで本題なんですけど」
「ああ、そうだったな。ミーヤには勇者が残した本の解読を頼もうと思っていたんだ。エルフの友人に思わずはしゃいで脱線してしまった」
いやまあ私も脱線させちゃったからアレだけど……エルフの友人って、そんなに凄いのかな。シルヴィアさんとかギルベルトとかも結構態度変えてたから凄いんだろうけどね。
あ、でもアンナさんは特に何も言わなかったっけ。ダークエルフだからなのか、そこまで人間に対して態度を変えてないからなのか……後者な気がするな。ケインさんとブラッドさんに対しても素で対応してるっぽかったし。
「ギルドの方から、確かに異世界の「日本語」を読めるらしいという報告は聞いている。期待しているぞ」
「あー、成る程アレはソレかー…」
その辺がスムーズに行くようアランはわざわざ日本語の手紙を出してくれたのね。ならセレスにチクるのは止めても……いや、やっぱ保留って事にしておこう。もし次何かあったらその時チクる。
「では早速その本を……」と言って立ち上がった学園長に、私は「あ、ちょっと待って下さい」と待ったを掛ける。
「どうした?」
「えーっとですね……」
防音状態になっている今の内に副学園長の事を報告しておきたいんだけど、何て言ったら良いんだろう。
「さっきあの副学園長に「本の解読とはまた別に本題の依頼がある」って言われたのよぉ」
どう言ったものかと困っていたら、すらりとした足を組んでソファに座り、腕を組んでその上におっきいおっぱいを乗せているイースがさらりとそう言った。
「……この学園に居座っている上級ドラゴンの退治、または従魔化……要するに、その上級ドラゴンをこの学園から追い出してくれ、ってねぇ」
「……何?」
イースの言葉に、学園長がピクリと眉を動かした。そして低いドスの利いた声で「詳しく聞かせてもらおう」と言って椅子に座り直す。
「依頼されたのはミーヤだからぁ、ここから先は……」
イースが横目で私を見て愛しげに目を細め微笑んだ。……よーし夫として頑張るぞー!
「えっとですね、何と言いますか……さっき言われた通りの事を依頼されたんですよ。ちなみにあの副学園長に「それはきちんとした依頼か」と聞いたら、「学園長からは言い難いからと伝言を頼まれた」と返されました」
「先に言っておくが私はそんな事を言った覚えは無いし、あのドラゴンを追い出そうなどとは微塵も考えていないぞ」
「でしょうね」
それは流石にわかる。ミサンガの反応もそうだけど、何かこう……滲み出る人間性とかがもう違うからね。学園長人間じゃなくてエルフだけど。
「……そうだな」
ふむ、と顎に手を当て、学園長は言う。
「他にアイツは何か言っていなかったか?そんな事をしようとした動機とか」
「端的に言うと…生徒傀儡化計画?みたいな?」
「傀儡化?」
私の言葉に、学園長はさっきよりも低い声でそう復唱した。
「……どういう事だ」
「いや何ていうか……そのドラゴン?の意見の方が優先されてるのが気に食わないとか、あと自分の意見を作品に反映しろって感じっていうか、自分の思う萌えこそが至上であり、他は萎えだから排してしまえ、みたいな事言ってました」
「それと途中通り過ぎた教室から聞こえた授業内容…確か、あるストーリーから自分なりの解釈を発表、みたいな授業だったかな。それを聞いた時に彼は、自分の考える解釈こそが正義、というような言い方をしていたよ」
「あと原作者に対しても「自分の意見反映しないクソ」って言ってた!」
私とノアとマリンの言葉に学園長は無言で目元を揉み、手の中に手の平サイズの光の玉を発生させた。そしてそれをじっと見つめ、
「……わかってはいたが、全て本当の事なのか……」
深い溜め息を吐いてその光の玉を消した。
「今、お前達の言葉が真実かどうかを調べたが……全て真実と判断した。まあ、魔法を使わなくても真実だとはわかりきっていたが……」
「あんな奴が副学園長の座に居るなど、腹立たしい」と学園長は綺麗な顔を嫌悪に歪めて舌打ちした。
「何故あのような、人の上に立たせない方が良さそうな人間を副学園長に?」
「私が副学園長に選んだわけではない」
ハニーの問いに学園長はそう言い、「ただ、この学園では先代が次の副学園長を指名出来る仕様だっただけだ」と続けた。
「本来これは金などで上に立とうとする馬鹿を拒絶し、ただひたすらに生徒達の欲望赴くままの作品達を全て愛する事が出来るような者に譲渡する為のルール!ちゃんと特製の契約書も使用!」
「しかし!」と学園長は頭を抱えた。
「アイツは先代の副学園長が寝ている間にサインを書かせて判子を押させ、無理矢理副学園長の位置に……!」
「え、申請取り消しとかは出来ないんですか?」
「学園長がアイツみたいな思考を持っていた場合用にな。学園長権限で教師を強制的にクビにしたりも出来ん。色々と仕組みが複雑なんだ」
ふと気になったので「ちなみに先代の副学園長は?」と聞くと、「折角だから前からスカウトされていた執事になると言ってグレルトーディアへ行った。手紙によると楽しくやっているらしい」と返された。
……まさか、バーンズ家のあのやたらオタク色の濃い執事さんだったりするのかな。
いや、多分、流石に、それは、無い……よね?でも何か、やたらと出会った人達との縁がある事が多いからあり得る気が……よし、考えないでおこう。
「……ところでミーヤ」
「あ、はい」
学園長は軽く首を傾げて言う。
「お前、この学園に居る上級ドラゴンについてはどこまで知っている?」
「正直ここ到着した時に副学園長に言われて、そこで初めて学園にドラゴンが居る事を知りました」
「そうか」
学園長は頷き、「なら彼の事も話した方が良いな」と続けた。
「彼はこの学園にとって…そうだな、何と言うか……」
少し思案してから、学園長は言う。
「そう、彼は学園にとって、アドバイザー兼セラピストのような存在だ。私もよく論文に詰まった時は彼に見てもらってアドバイスを貰う」
……ドラゴンなんだよね?編集者じゃなくて。




