リーダー視点
一週間程留守にしていた王都に戻ると、一週間前とは劇的に変わっていた。
「ファニー!今日の勉強終わったから一緒に屋台とか見に行こう!」
「アラン、貴様許可は貰ったのか?」
「……付き人が居れば問題無いと思うのよね」
「許可が出てないなら却下だ。俺は貴様の傍に居る為に貴様の付き人になり、付き人として働いているんだ。そしてその仕事を適当に務める気は無い」
「やだもうファニーってば真面目なんだから!ちょっとくらい良いじゃん!デートしようデート!」
「駄目だ。もうじき貴様の無口な方の兄が店を出すだろう。その時に許可が下りるだろうからそれまで大人しく良い子にしていろ」
「あ、やばいファニーの口から「良い子」って単語出るとかちょっと萌える」
「……貴様、5歳の自覚はあるか?」
主に第三王子であるアラン様に関した辺りがとんでもない変容を遂げていた。
誰だアレは。アラン様は確かとてもほわほわした空気を纏った方だったはず。そして横に居るのは本当に誰なんだ。会話はともかく二人の間に流れている雰囲気から察するにとても仲が良さそうだが見覚えが無い。
俺は王の剣用の訓練場で、事情を知っているであろうデリックに問う。
「……デリック、俺とルークの留守中に一体何があったんだ?」
「ああ、実は」
「それより先に、バーバヤガとの国境付近の確認してどうだったの?」
割り込むようにロロがそう言った。
「ルークの姉は見つかったのかしら?そっちの報告が先よ」
「ロロが言うならそっちが先だな」
デリック、お前本当にロロを優先し過ぎじゃないか?俺との幼馴染の絆は一体どこへ行ったんだ。負けたのか。負けたんだな。ロロも幼馴染だもんな。幼馴染と愛する幼馴染であり妻の二人を天秤に乗せたら当然ただの幼馴染である俺は負けるよな。何で俺はいつもこういう損を受けるんだ。
「遠い目してないで言いなさいよ」
「王様には報告し」
「………………」
「わかった言う」
言うから目が笑っていない笑みを浮かべるのを止めてくれ。お前がその笑みを浮かべる時は俺が締め上げられる直前である事が多いからトラウマなんだ。
「バーバヤガの国境付近だが、ルークの姉は見つからなかった」
「そうなの?ルーク」
「あ、はい。姉さんが立ち寄ったらしい村は見つけたんですけど、既に姉さん出ちゃってたみたいで。治療終えたらさっさとバーバヤガの方行っちゃったみたいなんですよね……」
何故ロロは俺の返答を聞いたはずなのにルークにも聞くんだとかは思わない。いつもの事だ。しかし理不尽だとは思う。まあ幼少期からこうだから慣れてはいるが。
「バーバヤガの様子はどうだったんだ?」
アンナの問いに頷きながら俺は答える。
「異世界人が召喚されたというような噂は聞かなかった。しかし外から様子を見るに、良くない雰囲気ではあったな」
「戦争の準備をしていたのか?」
「今の所はまだそこまで目立つ動きはしていなかったが、恐らく」
「そうか……」
アンナは思案げに口元に手を当てて小声で「馬鹿の相手程面倒なものは無いから杞憂であって欲しかったのだがな……」と呟いてから、「ではこちらであった事の報告か」と頷いた。
「まず、海の王国から連絡があった。そして海の王国と同盟を結んだのが一つ。次に馬車で西に二時間程で行ける例の山の上級ドラゴンだが、第三王子であるアラン様がその上級ドラゴンの番だった記憶を取り戻した。その結果その上級ドラゴンことファフニールが人の姿に擬態しアラン様の付き人になった」
待てと言う余裕も無く硬直してしまったが、アンナは気にせずに続ける。
「あと第一王子のケイン様だが、夢は軽食屋をやる事だと言う屋台の青年の料理を気に入ったらしくその青年と店を出す事になった。今日もその為に相手の好感度上げと場所などの下見にブラッドと行っている」
俺が留守にしたのは一週間だったはずだが、いつの間にか尋常じゃない時が流れていたんだろうか。
「ついでに報告しておくが、王家と親しい貴族であるブラック家の令嬢のテレサ。彼女が性転換して男になりブラック家の正式な跡継ぎに決定したぞ」
「誰か助けてくれ!常識人を!今すぐに常識人をここに連れてきてくれ!」
「どうする、ロロ。ニコラスが限界を迎えてしまった」
「リーダーの癖に容量少ないわよね、ニコラスって」
この怒涛の展開を聞いて受け入れる事が出来る方が異常だろうが!穏やかな笑みで毒を吐くな!
「お、俺らが留守にしてる間にそんなにも色々な事が…!?」
「らしいんだよなァ」
俺と同じ様に驚愕に目を見開いているルークの肩に腕を乗せ、オルコットは言う。
「まァ、俺らは全然知らなかったんだけどよォ」
「そうだね」
オルコットの言葉に、近くのテーブルの上で広げた沢山の紙に理解不能な式を書き連ねていたアボットが同意した。
「殆ど王様や王子様達に関係した事だったから、僕らはいつも通りにここでそれぞれ訓練してたよ。まさかそんな事になってるなんて思いもしなかった」
「私達も今朝聞かされたんですよ」
不機嫌そうに頬を膨らませながら、アボットと共に複雑な式を書き連ねつつリーンは不満気に言う。
「しかも!ミーヤさんが来てたらしいんですよ!通りでローランさんが訓練場に居ないはずですよ!私あの時まだ回復してなかったせいでミーヤさんに碌にお礼言えてなかった気がするからちゃんとお礼言いたいのに!あの時以来会えてないから会いたいのに!ロロさんとデリックさんとアンナさんとローランさんだけずるいー!」
「あ、こらこらリーンちゃん、衝動に任せて式を塗り潰そうとしちゃ駄目だよ」
……年相応に子供らしく拗ねているリーンを優しく窘めてペンを取り上げるアボットの態度や口調は完全に優しい近所のお兄さんに見える。
が、それ故に性癖の異端さが浮き彫りにもなる。普通にしていれば少し魔法や魔術に興味が強いだけの好青年なのだが。
「でも確かにミーヤには会いたかったな。この弓凄く使い勝手が良いからお礼言いたいし、王の剣に入れたのもミーヤのお陰な気がするからそれに関してもお礼言いたいし……」
「まあ、気持ちはわからんでもないがな。ミーヤのお陰で人間に対しどう言えば良いのかを理解出来たお陰でコミュニケーションが取りやすい。故に俺もミーヤに礼を言いたかったが……もう王都を出発したらしいからな。残念だ」
アーウェルとギルベルトの会話を聞きながら、俺は「ん?」と眉を顰める。
「……ミーヤが来ていたのか?」
「ええ、ニコラスが出発した日の晩に。海の王国からの使いと一緒に海から来たわよ」
どういう事なのかがまったくわからないがそれは後で聞く事にしよう。
「……で、もう出て行ったのか?」
「今朝王都を出たらしいわ。その証拠にホラ、壁に向かってローランが呟いてるでしょう?」
ロロが指を差した方を確認すると、確かにローランが膝を抱えて座りながら壁にぶつぶつと呟いていた。
「……馬車で二時間って事は王都の範囲内だよなって事でずっと影に潜んでたけど、まさかミーヤが……いや、それは良いんだ。ミーヤがミーヤである事に変わりねえし。そしてミーヤが俺のストーキングを許可してくれた事も、ポテもちチーズを分けてくれた事実も揺るがない……!」
……聞き取り辛い程の小声でひたすら呟いている男というのは、あんなにも怪しく見えるんだな。
「…………特別、これって特別だよな?だってミーヤの秘密を知ったんだから。きっと一部の奴以外は知らない情報のはずだもんな。でも俺の場合は偶然聞いちゃっただけで、ミーヤから教えてもらったわけじゃなくて、だからこそ特別なんだ。俺が大事に大事にして誰にも言わなければ、ミーヤですら俺が知ってる事を知らないんだから。それはとっても特別で、すっごく、ぞくぞくする……」
小声に早口で何を言っているのかがまったく聞き取れないが、不穏な気配を漂わせているのだけはわかった。
「……ローラン」
「えっ何!?あ、リーダー。どうした?」
「そうだな、何と言うか……」
どう言えば良いのかわからんが、とりあえず言うだけ言おう。
「お前が国王様を暗殺しに来た時、俺はお前をスカウトしたし、その時に恋愛は自由にやって良いとも言った。お前が恋愛に夢中になって敵対するようなら容赦無く敵と認識するとも」
「うん、言われたな」
「だがな」
俺はローランの肩を掴む。
「犯罪者にはならないでくれ。俺は俺のパーティから犯罪者を出したくない」
「俺元暗殺者だし、そこに居るアボットは武道大会での露出行為で一回捕まってるけど」
「僕の場合は初犯だったから再犯するなよという契約書にサインして釈放されたからセーフですよ」
どっちもアウトだと言いそうになるのをぐっと堪える。
「……言い方を変えよう。罪を重ねないでくれ。俺は俺のパーティから重犯罪者を出したくない」
「正直既に幾つか犯罪を犯してる気もするけど…まあ、恋愛に夢中になってない時なら了解。恋愛に夢中になってる時は相手に尽くすつもりだから無理だけど」
お前は本当にそういう奴だな。何故身を切るような恋の仕方なんだろうか。
「てかリーダー、いきなり何言い出してんの?」
「いや……」
言おうか迷ったが、言っておいた方が良いだろうと思って俺は口を開く。
「ローランの纏う雰囲気が、明らかにアウトだった」
「酷い!俺のはただの純愛だぜ!?ちょっと「特別」っていう優越感に浸ってただけだし!」
不満気にそう言ってから、俺の手を肩から外しつつローランは小さな声で、
「今まで俺が惚れた奴等皆自分の情報を探られるの嫌がるタイプが多かったから、つい相手の特別っぽい情報を掴むとぞくぞくしちゃう癖が付いてるっていうか……あくまでそれだけで、やばい事しようなんて思わないって」
と独り言のように呟いた。
それを聞いた俺は全身に鳥肌が立った。俺がスカウトしたせいとはいえ、俺のパーティにとんでもない変態が居た。というかコレはもう変態という括りで収まるのだろうか。俺にはわからない。
「ローラン、それってつまりミーヤの秘密って事よね?どんな情報なの?」
「いやだなあロロの姉御、幾ら姉御が相手でも好きな人の大事な情報を渡すわけないだろ?ロロの姉御だって、デリックの旦那の秘密を誰かに言う気なんて無いだろうしさ」
「……それもそうね。寝起きのデリックの可愛らしさを知ってるのは私だけで良いわ」
ロロが納得したように頷いているのは別に良いが、思い返すに王の剣としての仕事で野宿した際に見たデリックの寝起きは可愛く無かったぞ。
寝起きで目付きが悪い上にヒゲが生えて初見の人間なら泣きそうになるような凶悪顔、その状態でのそりのそりと動く姿は大型の魔物を思わせて恐ろしい。アレを可愛いと言えるロロはおかしい。
だがその程度は昔から変わらないからスルーするとして、
「……ミーヤが来ていて、そして既に王都を出たんだな?」
「それがどうした?」
首を傾げたアンナの問いに答えず、俺は言う。
「ロロ、デリック、アンナはミーヤに会ったんだな?」
「ええ、会ったわよ。可愛らしい女の子だったわ」
「……セレス様が随分と懐いている様子だった」
「私はミーヤ達と共にケイン様の作ったケーキを食べたぞ。しかし、ミーヤは本当に貴族などに疎いというか……まさかケイン様が第一王子だという事を知らないとは思わなかった」
アンナには後で詳しく聞くとして、この三人はミーヤに会ったんだな。
「ローランも会ったのか」
「そりゃ勿論。朝食持っていったアンナの影に入ってミーヤの影に潜ませてもらったからな。そっから一週間、ずぅっとミーヤの影からミーヤの事を見てた。あ、ちゃんと風呂やトイレの時は入り口付近の影に移動して覗かないようにしてたぜ?嫌われたくないし」
朝から翌朝まで丸一日相手の影に潜んでストーカーし続ける行為は嫌われるとは思わないのだろうか。まあミーヤ本人が許可を出したらしいから良いんだろうが。
「アーウェルとリーンもミーヤとは面識が」
「あります!私はツギルクに居た時に、栄養不足で体調崩してたのを助けてもらいました。それ以来会えてないですけど」
「俺は武道大会でも。この弓と矢と矢入れはミーヤに貰った物ですし」
ああ、それは耳にたこができる程聞いた。
「で、アボットとオルコットとギルベルトも」
「ありますね」
「俺はバトルの後にも会いに行って、安眠出来るっていうアイテムをミーヤから貰ったんだよなァ。お陰で毎日ぐっすり眠れてるぜェ」
「俺は大会の後に飲み会で話したくらいだが…そうだな、エルフの友人であるミーヤは俺の友人とも言える存在だ」
アボットだけ面識があるというか、加害者と被害者であり捕まった側と捕まえた側と言える気がするが、まあ良いか。
「そしてルークもミーヤと面識があるんだったか」
「あ、はい。ツギルクのギルドで初めて会って、その後王都で酔い潰れたローランさんの回収時に」
ルークの返答に頷き、目が死んでいくのを自覚しながら俺は言う。
「……ミーヤと会話した事が無いのは、俺だけなのか」
そう呟いた瞬間にロロとデリックとアンナが思いっきり吹き出して笑い始めたせいで、俺の目がより一層死んだのがわかった。




