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異世界で魔物使いやってます  作者:
異世界に来ました
20/276

お泊まりしました



「それでな、エルフは勇者様が作ってくれた集落と空間を繋げれるアクセサリーを必ず持っておるんじゃ。ホレ儂のこの指輪がそれなんじゃよ。この指輪に魔力を通して集落の入り口を思い浮かべると空間が繋がって一瞬で転移出来るんじゃ。昔は一度集落の外に出ると中々帰れんという理由のせいでエルフはあまり旅立たんかったんじゃが、この指輪のお陰でエルフも結構旅立つようになってのお」


「あの、それ私が聞いて良い話ですかね?」


「息子に聞かれたら怒られるかもしれんがまー大丈夫じゃろ。それでこのアクセサリーなんじゃが、特殊な術式を仕込んであってな。ユグドラシルの魔力に波長を合わせてあるんじゃ。ゆえに発動させると集落のユグドラシルに反応し、空間が繋がるのじゃよ。儂のは指輪型じゃが、イヤリングとか腕輪とか首飾りとか他にも色々なタイプがあってな。エルフは必ず一つ持っておるんじゃ。しかし最近の若いのはこれの大事さがわかっておらんのか、金を作る為にこれを売り飛ばす者もおってな?実際とんでもなく高い値段で売れるんじゃ。エルフの魔力や育った集落の魔力などが深く関係するから他の種族が使っても何にもならんのじゃが、レアだかプレミアだかは知らんがこういうのを集めるのが趣味の奴は信じられん額を払ってでも手に入れようとするんじゃよなあ」



 おじいちゃん話が長いよ!

 ずっと話を聞いてたし実際かなり助かる情報も結構教えてもらえたけど!エルフの勉強にもなったけど!それはそれとして話が長い!あと右手の中指に嵌めてる指輪見せなくて良いから!私が悪い人間だったら奪って逃げるよ!?値段の話をするんじゃない!

 流石に何時間も相槌を打ち続けるのも無理だし、というか普通に時間が経って日が暮れてきた。そろそろ宿を取らないとまずいんじゃなかろうか。



「ヴヴヴヴヴヴー!」


「あ、おかえりハニー」



 そう考えていたら、日が暮れてタイムリミットが来たからかハニーが戻ってきた。

 あ、凄い。抱っこしたら何か重たくなってる。蜜の重さかな?しかも後ろ足に黄色い団子が出来てる。これが花粉団子?



「それで儂も前にうっとおしいコレクターだかに付き纏われて…ん、キラービーが帰って来たのか?」


「はい、もう日も暮れますし。色々とお話を聞かせてくれてありがとうございます。ハニー、お礼」


「ヴヴヴッヴ!」


「いやいや、儂も沢山話せて楽しかったし構わんよ。長ったらしい話に付き合ってくれてありがとさん」



 あ、話が長いのは自覚してたんだ。



「ところで、もう宿は取ってあるのかね?取ってあるなら送るぞ。お嬢ちゃんと魔物一匹じゃ変なのに狙われかねんからのお」


「あ、いえまだ宿は取ってないんです。これから宿を取ろうと思ってるので、おすすめの宿ってあります?値段が良心的でご飯食べれて部屋にカギが付いててお風呂もある感じの宿があれば最高なんですが」


「そうそう無いとわかっていながら言う度胸は凄いのう」



 あ、やっぱ無いのか。

 でも値段に関しては多少高くても良いし、ご飯もこの際諦めても良い。でもカギ付きの部屋と風呂は譲りたくないのですよ。乙女としては。



「うーむ…この辺じゃとカギ付きの部屋はすぐ埋まるからなあ。この時間帯ではもうカギ付きの部屋は開いとらんと思うぞ?」


「なんと…マジっすか」


「マジじゃ」



 おーまいごっど。

 最悪風呂は自分の魔法でどうにかしてやろうと思ってたのに、一番大事なカギ付きのお部屋が埋まってるとかとても困る。何故森の中では油断して寝れるのに町中では安心出来んのじゃい。

 ミサンガを確認してもまったく光らない。

 つまりガチで埋まってる可能性が高いんすねそーなんですね…。



「あああそう悲しそうな顔をするな!」


「だ、大丈夫です…!ハニーも居るから…多分、大丈夫」


「ヴヴヴヴ!」



 警戒心強いハニーが居れば不審者にはすぐ気付けるはず!

 …でもやっぱりなー…なんかなー…。

 もういっその事困ったら言えって言ってたルークを探し出して頼ろうかな。いや、それはちょっと駄目だろ。武器屋のブラウンさんとこに突撃も駄目。何で武器屋に泊めてもらえると思えるんだ。宿屋に行けよ。いや宿屋は満室…ってわけじゃなくて、単にカギ付いた部屋が埋まってるだけか!くっそこっちの世界に来てから頼りになるイースと離れ離れになったのが初めてなせいでちょっと大混乱だぜ!(パニック)

 この際闇魔法使って侵入者が居たら縛り上げるような魔法仕掛けちゃおうかな…。

 むーん、と考えていると、メリーじいさんは何かを思いついたような顔をしてからナイスアイディア!みたいな笑顔でこう言った。



「儂の家に泊まるか?」


「……ほわっつ?」


「いや、この時間まで拘束したのは儂じゃしな。宿がこの時間には埋まる事も知っとったのに言わんかったのも儂じゃ。一人暮らしじゃが広い家じゃし、ご飯も出るぞ?」



 凄い綺麗で良い笑顔、そして何より私にめちゃくちゃ都合の良い提案…!



「何より家に人がおると儂が嬉しい!これだけ話を聞いてくれる子と話して楽しい時間を過ごしとったのに一人の家に帰るのは寂しいんじゃよ!な?な?良かろ?」


「えーと、こっちとしては万歳してほいほい乗っかりたいくらい魅力的な提案ですけど…」


「そりゃあ良かった!一人暮らしには無駄に広い家じゃから寂しくてな!部屋にカギは付いとるし、勿論風呂もあるから安心してくれて良いぞ!」


「ヴヴヴヴ?」


「うーん…」



 ハニーから「どうします?」みたいな気持ちを感じた。

 実際かなり助かるんだよねー…ミサンガもまったく反応してないから完全に善意だろうし。何よりあんな依頼を出すくらいには人との会話に飢えてた人だし。

 ……うん、一応イースに聞いてみようかな。



「あの、ハニーとは別にもう一人従魔が居るんです。今ちょっと別行動してるんですけど、その子の魔道具のお陰で連絡は出来るから一応報告して良いですか?保護者みたいな子なので許可を貰っておかないと」


「おお、そうじゃな。見知らぬ大人の家に泊まるなら連絡は必要じゃからな」



 見知らぬ大人ってか、見知らぬ老人というか…。

 でもどっちかというと話好きで寂しがりやのおじいちゃんって感じだ。どっちでも無いな。

 とりあえずイースに連絡する為、左手の小指を耳に入れて呼び出してみる。



「イース」


(はぁ~い♡連絡が遅かったわねぇ、ミーヤ。宿は見つかったぁ?)



 細い魔力が通じるような感覚。そして脳内に響くようにイースの声が聞こえた。

 …本気で電話みたいだな、これ。



「いや、それが」


(あ、言ってなかったけど心の中で考えれば伝わるからぁ、別に口に出さなくても大丈夫よぉ。小指を耳に入れて一人で喋ってる姿は流石に通報されそうだものねぇ)


(先に言ってくれませんかね!?)



 はあ、と溜め息を吐き、メリーじいさんの事とメリーじいさんが家に泊まらせてくれるらしいという事を話す。心の中がダダ漏れなら隠せるわけ無いしと最初から最後まで全部話した。



(ふぅ~ん、エルフの老人ねぇ…。まあ800歳越えなら大分性欲も枯れてるだろうし、ミーヤの貞操の危険は無いと思うわぁ。お金の問題もぉ、聞く限り無さそうだから荷物を奪ったりもしなさそうだしぃ……そうねぇ、良いと思うわよぉ)


(本当!?やった!)


(でも一泊だけよぉ?明日からは普通に宿を取るからぁ、ちゃんとその辺は説明するのよぉ)


(了解でっす!あ、ところでイースは今何してるの?)


(今ぁ?魂を舐めたり精気を搾り取ってる真っ最中よぉ♡最初の男達はもう潰れちゃったんだけどぉ、後から来た仲間の男達はまだ潰れてないわぁ。あ、ちゃぁんと記憶操作して私の事は忘れさせるから安心してねぇ♡)



 イースさんや、真っ最中のタイミングにわざわざ連絡出なくても良いよ…。



(うふふふふ、だって丁度小さい男を相手してるタイミングだったものぉ。それじゃあ、明日ギルドの依頼ボードの前で待ってるからぁ、そこで待ち合わせねぇ)


(うん、わかった。無理はしないでね)


(無理をしてるのは男達の方よぉ♡それじゃぁねぇ~♪)



 プツン、と繋がっていた魔力の糸が切れたような感覚。

 連絡が繋がっているかどうかわかりやすくて良いね。

 手を下ろしてメリーじいさんの方に振り向き、イースとの会話を伝える。



「保護者いわくオッケーだそうです。ただし泊まるのは今夜だけで、明日からはちゃんと宿を取るからそれは伝えるように、との事でした!」


「そうかそうか、一晩でも許可が出たなら良いんじゃよ。今晩は寂しくないという事じゃからな!では儂の家に行こうか!そこのキラービーの…ハニーじゃったか?」


「ヴヴッ」


「はい、ハニーです」


「うむうむ、ハニーにも蜜と花粉団子を入れる為の空き瓶をやろうな。貰い物じゃが消費出来んくて困っとったジャムもやろう。ミーヤの方は苦手な野菜とかはあるかね?」


「いえ、特に無いと思います」



 メリーじいさん本当に良い人だな。ハニーの事まで考えてくれるなんて。

 でも苦手な野菜に関してはこっちもよくわからんのであやふやな答えになってしまった。だってこっちにしかない野菜とかわかんないし!

 …まあ、元の世界でも特に好き嫌いは無かったから大丈夫だと思う。多分。

 私の回答はとてつもなくあやふやな回答ではあったが、私がそう答えるとメリーじいさんはとっても良い光り輝く笑顔になった。



「そうか!ならば腕によりをかけて作らんとな!あ、作っている間に風呂入るか?水魔法で水を出して水を湯にする魔石を使うからすぐ入れるぞ!エルフ用のユグドラシルの泉の水を使った髪用の石鹸と体用の石鹸もあるから好きに使ってくれて良いからの!」


「メリーじいさん喜んでもらえるのはありがたいんだけどちょっと落ち着こう?」



 めっちゃグイグイ来る!来るというか引っ張られてるけど!

 というか普通に手を握られたけどトキメキがまったく無い。メリーじいさん、見た目は完全に若いイケメンなのに「ああ、おじいちゃんに手を握られてるなあ」って感じしかしない。

 え、イースが相手してた男達への感想?……まあ、死なないから頑張ってね、としか。

 それ以外何て言えと?



 メリーじいさんの家に到着しました。

 言っていた通り大きい家だけど、自然が豊か過ぎて廃墟かと思った。だって草や花が溢れてるし、家はもう蔦が絡みまくってて元の色がわからないくらい緑。よく見るとちゃんと手入れされてるんだけど、パッと見森の中で放置された家って感じだ。町中なのに。

 家の中に入ると即行でお風呂に通された。あっという間に水が湯船に溜まり、魔石効果で一瞬にして適温のお湯に変化した。メリーじいさんは最低限の説明をしてさっさと洗面所から出て行ってしまった。凄い楽しそうにあれを作ろうかこれを作ろうかって呟いてたから、本気で私がお風呂に入っている間に料理を作っちゃうつもりのようだ。

 ……まあでも、結構広い湯船だし入っちゃおうかな。

 ちなみにハニーは溜めた蜜と花粉をビンに入れる為メリーじいさんに付いて行ったので、現在久々の一人ぼっちである。いや、お風呂から出れば普通にキラービーとエルフが居るんだけどね。

 …見事に人外しか居ないな。



「ま、良いけど。……あー、凄いちょうど良い温度…」



 手を入れてみたら熱くも無く、ぬるくも無い適温のお湯。

 ささっと頭と体を洗って湯船に浸かる。え?エルフ御用達のユグドラシルの泉から作られた石鹸達?うん、めちゃくちゃ良い物だったよ。あと凄い花の香りがした。

 でもまあ、それは置いといて湯船ですよ。肩まで浸かって肺の中の空気を吐き出す。



「あー……極楽」



 ここの湯船、木製なんだよね。でもカビてる感じは無くて凄い落ち着く香り。

 今日は噴水の所で座ってメリーじいさんの話を聞いてただけだったけど、こっちに来てから日課にしてるお風呂の中でのマッサージを一応しておく。森で寝る時はイースが水布団を作ってくれて、寝てる間にその水を操作してマッサージしてくれてるみたいだけどやっておいて損はないからね。

 実際、こっちに来てから凄い健康的になった気がする。まあめちゃくちゃ歩くからっていう理由もあると思うけど。あと夜中に歩くの危険だから早く寝るってのも理由かな。



「ふぅ……。…なんか、気を抜いたらお腹空いてきちゃったな」



 湯船から上がり、体を拭く。バスタオルはイースが持っていた物に比べると薄いし小さいけど、無いよりはずっとありがたい。体の水分を拭ってから火魔法と風魔法を混ぜたドライヤー魔法で髪を乾かす。私の髪は結構長いから、こうやって早く乾かさないと痛むんだよね。

 ちなみにここ数日はハニーが細かい操作の練習も兼ねて乾かしてくれていた。最初は断ろうとしたけどイースが「従魔は主に奉仕したいと思うものなのよ♡」って言うから任せてたんだよね。

 髪が乾いてから、イースがくれた服と同じ効果のある下着を履いて、服を着る。正直に言うとパジャマが欲しいなーとは思わないでもない。

 思わないでもないけど、森の中で朝から動く事を考えると着替えの時間はリスクが高いから困る。イース達が居るから着替え自体は出来るだろうけど、誰がいるかもわからない…どころか魔物がその辺に居る空間で呑気に着替えは出来ないもんね。



「長湯しちゃってすみません。お風呂凄い気持ち良かったで……え、何この料理美味しそう!」


「そうじゃろう!」


「ヴヴー!」



 お風呂場からリビングへと移動すると、花が飾られている木製のテーブルの上に大きな鍋が置かれていた。中からはミルクの香りが漂い、見るからに具沢山なそのスープは私の空きっ腹を刺激し……え、待ってちょっとおかしくない?



「あの、これってミルクですよね?エルフって乳も駄目なんじゃ…」


「ん、ああ、確かにエルフは乳も駄目じゃな。隠し味で少し入ってるだけでも駄目じゃ」


「でもこれ…」


「ふっふっふ、これはミルクとは違うから大丈夫なんじゃよ!まあ見るより食え!食えばわかるかも知れんしわからんかも知れんが味は良いぞ」



 適当かよ。

 ……うん、まあ、本人が大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。多分。というかメリーじいさんの顔が凄い得意げだから変にツッコミするのは憚られる。

 私はメリーじいさんの向かいの椅子に座り、ハニーは私の膝に乗った。テーブルの上には鍋と、鍋の中身が盛られたスープ皿と、スプーンと、あと何かはわからないが何らかのフルーツを元にしたジャムが置かれていた。



「では、どうぞ」


「あ、ありがとうございます。…いただきます」


「森よ、我らエルフに今日を生きる糧を……まあ、これは別に良いか」


「待って下さい。今の食べる前の大事な儀式的なやつじゃないんですか?」


「まあそうなんじゃが、長いから好きでは無いんじゃよ。ミーヤが言っておったのは短くて良いのお」


「短くてって…」



 私の場合、いただきますって言わないとお姉ちゃんがご飯没収するから癖になってるってだけなんだけどね。テレビに夢中になってうっかり言い忘れるとそれがハンバーグだろうが湯豆腐だろうがすき焼きだろうが没収された悲しい思い出。

 ……うん、今目の前には美味しそうなご飯があるから考えないでおこう。食事抜きの悲しさを思い出してても仕方ないしね!

 まずジャムの蓋を取ってあげてからハニーに渡す。

 そうしてから私はスプーンを手に取ってスープを一口…、



「あ、凄い美味しい!コクがある!」


「そうじゃろうそうじゃろう!」



 私の言葉に、メリーじいさんは凄いにこにこの笑顔で答える。



「その乳のような物はな、実は果汁なんじゃよ!」


「え?果汁!?」


「うむ。ミルールという果実を実らせる木があってな。そのミルールという果実は見た目は桃色の果実なんじゃが、触ってみるとたぷたぷしとるんじゃ。なぜかと言うと、中身の殆どが水分…果汁で満ちておるからじゃ。その果汁の味は人間が好む乳と同じ味でな?しかも果汁じゃから儂らエルフも食す事が出来るのじゃよ!」


「凄い…そんな果実があるんだ…」



 何か、改めてファンタジーの凄さを実感した。

 ミルク味の果汁を出すミルール……凄い果実が異世界にはあるんだな。



「一説によれば、儂が生まれるよりも昔に現れた勇者様が、嫁にしたエルフに色々な味を体験させてやりたいとミルールを作った、という話があるぞ」



 ファンタジーが凄いってか勇者のチートかい!

 異世界産なのか地球産なのか合作なのか一気にわかんなくなったわ!

 メリーおじさんにミルールの話を聞きつつスプーンを進めていると、何やら違和感を感じた。違和感というか、今食べた物……この噛んだ感触、味……これは…。



「…肉?」


「?」



 行儀が悪いが、スプーンで皿の中を探ってさっきの食材を探す。幸いすぐに見つかり、その見るからに肉でしかない食材をスプーンに乗せてメリーじいさんに聞いてみる。



「メリーじいさん、これって肉だよね?大丈夫なの?」


「ん?…ああ、成る程!それでさっき不思議そうな顔をしとったのか!それは肉だが野菜でもある。安心して良いぞ」


「……肉で、野菜?」


「どっちかというと野菜寄りじゃな」



 駄目だ、異世界との距離は思ったより遠かったらしい。まったく意味がわからない。

 今食べた物は明らかに肉だった。肉特有の臭みは少なかったし柔らかくて食べやすかったけど、でもやっぱり肉は肉だった。どゆこと?



「えーっと…すみません、私の故郷に肉と野菜を一気にこなせる食材は居なかったので意味が…」


「ああ、すまんすまん。これはな、バロメッツという魔物の肉なんじゃよ」


「バロメッツ?」


「うむ。見た目は羊のようじゃが、植物。それがバロメッツなのじゃ。草原などによくおるな。バロメッツはまず太い茎から何本かの枝が生え、その枝に実った丸い実から生まれる魔物なんじゃよ。一つの枝に四つ五つの丸い実を付け、大体人の頭部くらいの大きさになると実が割れて中から幼いバロメッツが生まれる。バロメッツは周りの草を食べ成長し、狩られる」


「あ、狩られるんですね」


「バロメッツの木一本で二十匹くらい生まれるからのお。放っとくと草原の草を全て食われてしまうんじゃ。ちなみにバロメッツの毛はとてもふわふわしておって人気が高いから金になるぞ。バロメッツも元が植物だからか攻撃して来ず、逃げたりもせん。そしてバロメッツの肉は、獣肉というよりも肉の形と肉の味をした植物に近い。ゆえに儂らエルフでも食えるのじゃよ」


「結構エルフが食べれる物って多いんですね」


「それでもやはり、人間に比べれば少ないがの」



 残念そうな顔でメリーじいさんはそう言うが、ファンタジー小説でよく見たエルフはもっと大変そうだった。ミルクの実なんて無いから基本シチュー系は無理だったし、辛うじて食べれるのは豆乳のような物くらい。肉なんてもってのほかだし、魚も食べられないから冒険者のエルフは結構辛そうなイメージがある。

 でもミルールとかバロメッツとか、異世界特有の食べ物でどうにか上手く回ってるんだな。ミルールは勇者の作品だったようだけど、まあ異世界産で良いって事にしよう。うん。

 話している内にスープを食べ終わった。結構量があるように見えたけど食べれるもんだな。メリーじいさんも年の割りには結構食べてた。年を食うのは精神だけで内蔵とかも若々しいままなのかな。



「ごちそうさまでした。美味しかったです」


「そうか、それは良かった」



 カチャカチャとメリーじいさんは鍋や皿を片付け洗い場へ持って行く。私も手伝おうとしたが客だから座っていろと言われてしまった。



「…あ、食後のデザートに勇者様がエルフの里に教えてくれた饅頭という物もあるが、食べるかね?これもまた卵も乳も使わんレシピで作れるんじゃよ」



 饅頭まであんのかい!

 かつての勇者よ、そんなに嫁エルフに母国の料理を食わせたかったのか。



「えっと、じゃあいただきます」


「うむ、甘いからハニーも食べれるだろう。ハニーの分も持ってこような」


「ヴー♡」


「それと饅頭は甘いから儂は渋めの茶を合わせるんじゃが、若いのはミルールの果汁を飲む事も多い。ミーヤはどっちが良いかね?」



 えっと、ミルールの果汁はつまり牛乳だよね?確かにあんこと牛乳って相性良いし…。



「ミルールの果汁でお願いします」


「よしよし、ちょっと待っとってくれ」



 そして出された饅頭を再びいただきますしてから食べる。

 あ、これこしあんだ!私こしあん派だから嬉しい!皮ももちもちしてるし、あんこも丁度良い甘さでとても美味しい。一旦饅頭を置いてコップに注がれたミルールの果汁を飲むと、ミルールのまろやかな味があんこの甘さを引き立てる。それでありながらあんこのくどさを打ち消して、つまりめちゃくちゃ美味い。



「味は問題無いかね?」


「めっちゃくちゃ美味いです。語彙力がどっか行くくらいには美味いです」


「ヴッヴヴー♡」


「そうかそうか、そう言ってもらえると嬉しいのお!」



 デザートの饅頭を食べ終わってから、空き部屋に案内してもらった。

 特にお客さんは来ないが掃除だけはしてあるという言葉通り、部屋の中はきちんと綺麗に保たれていた。ベッドに埃が積もっていたりもしてない。しかもちゃんと内カギの部屋。至れり尽くせりかよ。

 メリーじいさんはこれから風呂に入って寝るだけだから、好きに過ごしなさいと言ってくれた。好きにって言われても、もう寝るだけなんだけどね。



「……あ、そういえばギルドカードで自分のステータス確認してなかったな」


「ヴ?」


「うん、見てみようかなって」



 ベッドに寝転がっていた状態から起き上がり、枕元に置いていたウエストポーチの中…にあるアイテム袋からギルドカードを取り出す。

 確か魔力を流せば良いんだっけ?と思い出しながらギルドカードに魔力を流すと、名前や職業の下にステータスが表示された。内容を確認すると、最初にイースから聞いていたよりは結構レベルが上がっていた。



 名前:ミーヤ(17)

 レベル:21

 種族:人間

 HP:230

 MP:550

 職業:魔物使い

 スキル:従魔契約、妄想癖、オリジナル魔法作成

 称号:異世界人、変人、人外好き、ラッキーガール、人外たらし、貢がれ上手



 ……………いや、いやいやいや。



「レベル上がったのは嬉しいけど思ったよりHPとMPが上がってるね?!というか称号に変なのが追加されてないか!?」


「ヴー♪」



 私のステータスが上がった事を喜んでくれてありがとうねハニー。

 ハニーをよしよしと撫でつつ、スキルの詳細を見てみる。



 オリジナル魔法作成

 このスキルがあると、前例の無い魔法も一発で成功させる事が可能。ただし新しく作成した魔法を他人が使用するには細かい魔力の調整や詠唱の作成が必要となる。



 …なんか凄いスキルゲットしてるな私。ドライヤー代わりの魔法とか作って使ったから?

 まあ便利そうだから深く考えずに今度は称号を確認だ。

 ついでだし異世界人の称号も詳細見ちゃお。



 異世界人

 異世界から来た人間に贈られる称号。この称号があると異世界人であるという保証になると同時に、言語の問題も解消される。ただし人間に理解出来ない魔物の言語は範囲外。


 ラッキーガール

 幸運な女性に贈られる称号。この称号があると思った通りに事が進み、困った事は最良の形で解決される。もし不幸な事が起こっても、その後にそれ以上の幸運が訪れる事が約束されている。


 人外たらし

 人ならざる者に気に入られやすい者に贈られる称号。この称号があると人ならざる相手に好意を受け取ってもらいやすく、そしてその好意をちゃんと好意で返される。


 貢がれ上手

 無償の贈り物を多数受け取った者に贈られる称号。この称号があると他人からさり気なく贈り物をされ、そしてさらりと受け取れる。この称号を上手に使いこなせれば生活に不自由しない。



「…何か、色々と凄いね」


「ヴヴー」



 言語がわかるのって不思議だなー。ファンタジーだからかなーって思ってたけど、異世界人の称号のお陰だったのね。ありがとう異世界人の称号。

 ラッキーガールの称号はあれかな?異世界に飛ばされたけどイースと出会えたとか、変なのに絡まれたけどイースが助けてくれたとか、見知らぬ冒険者が助っ人になるって言ってくれたとか、花壇のお世話してる人がすぐ近くにいたとか……あらま、私ってが結構なラッキーガールだわ。

 人外たらしに関してはよくわからん。でもまあ私が好意を持って接すればオッケーで事でしょ?ならば良し!わかりやすい!

 貢がれ上手は……言い方が気に食わんが否定は出来ん。イースに色々とお世話してもらってるし、キラービーの巣でも茶蜜花貰ったし、このツギルクの町でも焼き鳥を一本おまけしてもらったり、ウエストポーチをおまけしてもらったり、メリーじいさんに色々と現在進行形でお世話になったり……あれ、私めちゃくちゃ周りの人に助けられて生きてるぞ?



「………頑張って従魔を養えるレベルのイケメンにならねば」


「ヴ?」


「うん、ごめんちょっと変な事言ったね」



 イケメンになるって何だ。精神的な話とはいえ口に出る言葉がポンコツだった。

 とりあえず今日はこのままハニーを抱き締めて寝て、明日から依頼をこなして頑張ろう!

 おやすみなさい!



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