クイーンビー視点
『なんと…それは事実なのか?』
『はい、実際すぐそこまで来ています。見に行かれますか?』
『何故妾が自ら向かわねばならぬ?良い、もし用があるならば向こうから来よう。お前達はいつも通り外敵の排除と蜜集め、その他諸々をこなせば良い』
『畏まりました、クイーンビー様』
そう言い、キラービーは妾の部屋から去った。
『しかし…あの淫魔が?』
妾が思わず疑ってしまう報告……その内容は、この辺りに百年程前から居付いている淫魔の事だった。あの淫魔はこの辺りの魔物とは比べ物にならぬ程強く、来て早々にこの辺りの主になったと聞いた。
森を素通りする人間や魔物を狩りに来た人間、薬草などを摘みに来た人間には特に興味無さそうで、しかし森の主…己を狙って来た人間に対しては幻覚で惑わし、弱ければ森の外へ追い出して強ければ犯して食らう淫魔だった。
このところはとても退屈そうにその辺りを漂っていたが、その淫魔が……人間の従魔になっただと?
淫魔は本来、拘束される事を嫌う。
そんな淫魔が、奴隷にされ拒否権を奪われているわけでもない淫魔が、森の主として君臨出来る程の強さを持った淫魔が、ただの人間の小娘一人に従うだと?
しかも報告によればあの淫魔、珍しく大笑いまでしていたらしい。とても楽しそうに小娘と話して歩いていたというのだから、確実に淫魔の方から従魔になったのだろう。
………一体どういう事だ?
そう考えていると、どうやら淫魔と人間の小娘が妾の巣まで来たらしい。
報告をしたキラービーを連れて降りると、確かに居た。
幼いキラービーが風の魔法を使いこなす為の練習で倒した丸太に腰掛ける、女の姿に化けた淫魔と薬草を摘みに来る人間と同じような格好をした小娘。
……あの淫魔、人に化けているのに何故角や羽を隠していないのだ?
人に化けるという事は、相手の好みの姿に化けるのと同様、己が魔族である事を隠す為のものだ。それを、隠さずにいる?しかも人間は己と同じような姿をしていながら己と違う存在を嫌う生き物のはずだ。
それ故に上半身は人間だが下半身は蛇であるラミアなどはあまり好かれていないし、人里で暮らすドワーフなども微妙に距離を置かれていると聞く。
だというのに、その小娘は平気で淫魔の隣に座り、キラービーに時々驚きつつも嫌悪の感情は抱いていなかった。大の男でもキラービーの群れには警戒するというのに、小娘は淫魔が「大丈夫だ」と言うだけで警戒を解いていた。完全に警戒が解けたわけでも無いようだったが、今までの人間を見てきた妾からすれば充分過ぎる程に警戒を解いていた。
何だ、あの小娘は。
そう思い見ていると、淫魔が妾に気付いたらしい。一言小娘に何か告げてから、こちらに来た。……今更だが、淫魔は確か対象となる人間の性的興奮を誘う姿になるのでは無かったか?あの小娘は明らかに女だというのに、何故露出の多い女の姿をしているのだろうか。
「久しぶりねぇ、クイーンビー」
『ああ、久しいな淫魔よ。して?お前程の実力者が何故人間と共に…否、人間の従魔になっているのだ?それもあんな小娘の従魔に』
「まだ人間の言葉を覚えようとしてないのぉ?もう…」
淫魔はそう言うが、何故妾が人間などの言語を話さねばならぬのだ。わざわざ相手に合わせてやるなど不愉快が過ぎる。レベルの高いキラービーは話せるのだから、妾が喋らずとも問題はあるまい。
即座に答えなかった事に妾が機嫌を悪くしたのに気付いたのか、淫魔は魔物の言葉で話し出す。
『あの子は私を受け入れた。だから私から従魔にしてほしいと頼んだのよぉ。それだけ』
『…受け入れた?どういう意味だ?人では無いという事を受け入れたという事か?それだけでお前が従魔になろうと思ったなど、到底信じられぬな』
『人では無い事を受け入れられたのもそうだけどぉ…あの子は、私の言う事を疑いもせずに信じて、私の作った料理を喜んで食べたのよぉ。それだけで充分じゃない?』
『なんだと…!?』
思わず小娘の方を見る。小娘はどうやら一人で座っている事が落ち着かないようできょろきょろと視線を彷徨わせているが、あんな小娘が淫魔の作った料理を食ったというのか?
普通、違う種族が作った料理を食べる人間はいない。否、人間でなくとも。魔族もそれは同じはずだ。妾も淫魔に料理を出されたとしても食べはしまい。そして淫魔も、我々の料理などを食べはしないだろう。
根本的に、味覚も食べる物も違うのだ。それを除外したとしても、他種族の作った物など信用出来るはずがない。口を付けるなど狂気の沙汰だ。
それを、食べただと?
しかも淫魔の言葉を疑いもしなかったと?
淫魔は全てまやかしであり、見た目も声も性格も全て偽りだ。淫魔と接して本物だったのは快楽だけだと言われるくらいには信用性の無い種族。それを、信じた?
もしそれが事実ならば、この淫魔が気に入るのも仕方ないだろう。
魔物だろうが魔族であろうが、無条件で信用され好意を向けられるなどあり得ない。それをやってのける存在が居たとしたら、確かにそれは気に入るだろう。
『納得はしてもらえたみたいねぇ?』
『心を読むな。知らぬのであれば言っておくが、人間は内心を言い当てられるのを酷く嫌うはずだろう?その力は封印しておくべきだ』
『うふふ、ざぁんねん。あの子は…ミーヤは、この事を知っても、心を読まれても、心の声に返事をされても、「便利だな」くらいしか思ってないわぁ』
思わず言葉を失った。
何だと?心を読まれても「便利だな」の一言で終わり?
信じられない。人間とは、己の心を読む存在を酷く嫌うはずだ。
人間だけではない。
妾とて、心を読まれそれに返事をされるのは不愉快極まりないというのに!
『で、本題に入っても良いかしらぁ?』
『…ああ、何だ』
『蜂蜜を分けて欲しいのよぉ。ミーヤってばまだレベルが低いからすぐ限界が来ちゃうのよねぇ。だから回復系の蜂蜜とかぁ、その他色々分けてくれないかしらぁ?補充しておきたいのよねぇ』
『…人間の為に、か?』
『そうよぉ?あ、数は多めで頼むわねぇ』
信じられない。いや、先ほどの話を加味すればわかるが、信じられない。
あの淫魔が?他人よりも己を優先すると有名な淫魔が、誰かの為に動こうとするだと?
……成る程、明日にでも世界が崩壊するのか。
『失礼ねぇ。あの子は本当に色々とお世話してあげたい!ってなっちゃうのよぉ』
『魔性の称号でも持っているのではないのか?お前程の魔族ならその程度跳ね除けれるだろう』
『残念ながらそんな称号は持っていなかったわぁ。……人外好きって称号なら、あったけどねぇ」
『人外好きだと!?』
その称号は、最早伝説級の称号ではないか!
人では無い者を好み、人との交流はあまりうまくいっていない者に贈られる称号。そして人では無い者に向けられる好意に比例して、人では無い者に好意を向けられるようになる称号。
かつての勇者が持っていたと聞いた事があるような気がする、というくらいには前例の無い称号だ。何故なら、人外好きは本当に幅広いからだ。獣人のみが好きならば獣人好きという称号が、エルフのみが好きならばエルフ好きという称号が贈られる。
だというのに、それら全てが含まれた人外好きだと?
『信じられぬな…』
『あらそう?でも事実よぉ。もしかしたらキラービー達がミーヤについて行きたがるかもしれないわねぇ?人外好きの称号効果で♡』
『ふん、あり得ぬな。キラービーは魔物の中でも警戒心の強い種族だ』
『本当に居たらどうするの?』
『……本当に付いていきたいと言うなら、好きにすれば良い。もっともあの小娘…ミーヤと言ったか?ミーヤの方が断るやも知れぬ。人間の女は虫系の魔物を嫌うだろう』
『うふふふふ…つまりぃ、ミーヤもキラービーもオッケーすればミーヤの従魔にしちゃっても良いって事よねぇ?』
淫魔のその笑みに、ゾクリとした悪寒を感じた。
何故かはわからないが、条件を指定しなくてはいけない気がする。
『良いだろう。しかし、一匹のみだ。それもキラービーが一匹も立候補しなければ無効とする』
『うふふふふ、それで良いわよぉ。じゃあ、ミーヤが断れば無しって事でもあるわねぇ。ミーヤもキラービーもオッケーだったらぁ、キラービーを一匹従魔として旅の仲間に、っと』
『……そんなにキラービーを仲間にしたいのか?』
『そりゃそうよぉ?蜂蜜はいくらあっても困らないものぉ』
『言っておくが、蜜集めのスキルを持っていないキラービーでは対して量を集められぬぞ。それに蜂蜜生成のスキルが無ければそれは「蜂蜜」にはならぬ。蜜を巣で熟成させねば蜂蜜にはならんからな。………その辺りまで配慮してはやらぬぞ?』
『問題ないわぁ。ミーヤの人外好きと私のラッキーガールの称号があれば充分よぉ♡』
ラッキーガールという称号は、確か運が良い女に与えられる称号だったか。この称号を持っていると、都合の悪い事が起こりにくくなり、やたらと幸運が起きるとか…。
『ま、結局は全部ミーヤ次第だけどねぇ。あ、誰も従魔にならなかったとしても蜂蜜はちゃんと貰って行くわよぉ?』
『わかっている』
そう言い、ミーヤという名の小娘の方へと二人で向かう。途中で気付いたミーヤが嬉しそうに淫魔へ声を掛けた姿に、本当に変わった人間だと実感した。
……が、それよりも。
何故キラービー達がミーヤの近くに居るのだ?それも複数。
ミーヤの座る丸太の上にはまだ人型になれぬ幼いキラービー達が。ミーヤの正面には、今まで話していたのだろう人型のキラービーが二匹居た。
しかも何故か一匹だけミーヤの膝に座って撫でられている子がいる。確かまだ人型にもなれないキラービーだ。最近蜜を集める仕事を始めた子ではなかったか?
キラービーを膝に乗せたミーヤは、まったく気にしていない様子で毛を撫でていた。人間の娘は特に虫の姿を嫌っていたはずだが…人外好きという称号を贈られるだけの事はある。
会話を聞いていたが、ミーヤは本当に変わった人間だった。
キラービーに出された茶蜜花を飲んだだと?今までの人間には確かに形式として出されていたし、その時の対応で良い悪いを判断していたが……飲んだ人間は初めて見た。
一体どんな秘境に住んでいたんだこの娘。
疑うという事を知らないのだろうか。もしくは食い意地が張っているだけなのだろうか。後者の方がまだ救いがある気がしてくる。
話を聞いていたら、人型のキラービーがもしミーヤが男だったら是非遺伝子が欲しかったと言う。…妾の娘でもあり部下でもあるキラービーが、妾との相手として遺伝子を確保したがるとは…。それほどまでに、良い人間なのだろうか。キラービーが遺伝子を、という事は、妾の伴侶に申し分無いという事でもあるし。
……ふむ。
「クイーンビー…様の方が良いよね?」
考えていたら、ミーヤがこちらを見て様呼びの方が良いかと聞いてきた。物怖じせず、普通に妾に話しかけるその態度ときちんと敬う姿勢は好印象だ。呼び捨ては淫魔のように逆らえぬ相手ならば仕方が無いが、人間の小娘に呼び捨てされるのは気に食わない。ちゃんと確認を取ったのは良い判断だ。
ミーヤの方にコクリと一度頷いてみせる。
人間の言語は喋れぬが、この動きでも充分意思疎通は可能だろう。
すると、ミーヤはとんでもない事を口にした。
「クイーンビー様みたいなおっぱいパッツンとしててお腹がキュッと締まってて、ドレスでわかり辛いけど前から見える太ももからしてお尻も確実にむっちりでしょ?男だったら完全に興奮するじゃん。息子さんが臨戦態勢になるじゃん。キラービーのお姉さん方もすっごい美少女なのにどこに不満が?」
……思わず、思考が停止した。
今、妾は褒められたのか?見た目を?人間に?
どういう事だ。
今まで子を産む為に連れてきてもらっていた人間の男は、皆怯えた様子だった。一部は覚悟を決めたような顔もしていたが、やはり皆同様に妾に対して好印象は抱いていないようだった。
それも仕方の無い事だろう。何故ならば妾の見た目は、人間に近い見た目でありながら人間とはかけ離れた見た目をしているのだから。特に人間は妾の四つある腕を気味悪がっていたように思う。
が、この娘は今そんなところを気にしていなかった。乳尻太ももしか考えていなかった。
……そんな風に考える人間ばかりであれば、男相手にわざわざ魅了系スキルを使わなくて済むし、何より話が早いのだがな。
妾が子を、卵を産む為に複数の男が必要なのは腹の中に子種を大量に蓄える為だ。腹の中に子種を仕込み、卵を産む時に意識的に受精卵を作って産み落とす。それが妾の出産だ。
その為にも腹の中を子種でいっぱいにしなくてはならないのだが、その為には男が沢山必要なのだ。本来ならば、男が相応に興奮すれば子種の量も増えるのだが、妾が恐ろしいのか中々量が蓄えられぬ。そのせいで複数の男が必要になるし、死ぬまで搾り取らねば量も足らん。
………やはり、人間のメスをオスに変える蜂蜜を作る事を視野に入れても良いかもしれぬな。キラービーをオスに変える蜂蜜ならばあるが、人間用の物は無い。しかし、もしミーヤがオスであれば普通に妾に興奮して大量の子種を蓄える事が可能だろう。…うむ、最近蜂蜜作りもマンネリ気味であったし、新しい何かに挑戦してみるのも悪くはあるまいて。
まあ、これは後で試すとして、だ。
先ほどの話を進めてもらわなくては。妾は淫魔の肩を叩く。
「だからぁ、普通は…。…何?」
『先ほどの話はどうした?ミーヤにどうするのか、聞くのではなかったか?』
「ああ、そうだったわねぇ」
そう言い、淫魔はミーヤに向き直って説明を始めた。
話を聞いていたミーヤはよくわからない、というような顔をしていたが、キラービーを仲間にするかどうかを考えだしたらしい。むむむと唸りながら考えている。
すると、淫魔がとても良い笑顔でこちらへ振り返った。お前は魔族のはずなのに何だその眩い光は。
「ミーヤは良いみたいよぉ?」
『そうか。お前達、聞いていたな?つまりはそういう事だ。付いていきたければ好きにアピールするが良い』
「うふふぅ、後は貴女達次第ねぇ。流石に何匹もは無理だからぁ、一匹だけ仲間になれるチャンスよぉ?」
その言葉に、キラービー達はこぞってミーヤへとアピールをし始めた。
しかし、思っていたよりも立候補するキラービーの数が多いな。ミーヤの言葉を少し聞いただけの妾が子作りをしたいと考える程だから、仕方ないのかもしれぬが。
だが、それはそれとして人型になれるキラービー達を行かせるわけにはいかん。いくら付いていけるのは一匹だけとはいえ、何の為に人間の男を貰っているのか忘れたのか?あのミツドリどもから巣を守る為にも、戦力をある程度温存する為であろうが。
『言っておくがお前達、人型になれる者は立候補不可だ。人型になれる者はレベルが高いゆえに仕事のリーダーもそれぞれしているだろう。己の仕事を放り出すなど怠慢である。何より、己を仕事を放棄してまで付いて行く方がミーヤにとっての迷惑になるのではないか?』
その言葉に皆納得したらしい。一部が悔しそうに膝をついた。
そしてミーヤはといえば、己の膝の上に乗せ続けていたキラービーを仲間にする事に決めたらしい。…流石、と言うべきなのか。淫魔の幸運が凄いと言うべきなのか。
ミーヤが選んだ娘は、レベルこそ低いが蜜集めのスキルも蜂蜜生成のスキルも持っているキラービーだった。しかもローヤルゼリー生成のスキルまで持っている子だ。一体どういう幸運なのやら。
ローヤルゼリーは、本来妾の食事となる物である。それもキラービー一体だけでは本当に少量しか作れぬ代物だ。しかし、ローヤルゼリー生成を所持しているキラービーは多めに生成が出来る。多めと言っても蜂蜜とは比べ物にならぬ量だが、本来の量に比べれば格段に多い。
……正直、かなりの逸材だが約束は約束だ。仕方あるまい。
というか下手にこの森の主である淫魔に逆らいたくない。
「何か無意識でずっと抱きかかえてたのに違う子選ぶのも浮気性の男みたいで嫌だなーって」
『…そうか。まあ、ミーヤが良いと思ったのであれば良かろう』
「ミーヤが良いなら良いだろうって言ってるわぁ」
「ありがとうございますクイーンビー様!」
勢い良く頭を下げるミーヤに、妾は上の右手でビッと指差す。
どうせ言葉はわからぬだろうが、淫魔が通訳するだろうと考え宣言する。
『どの娘を選んだところで妾の言う事は変わらぬ。その子もまた妾の大事な娘。幸せにせんと許さぬぞ?』
「どの子を選ぼうと変わらないけどぉ、その子も妾の大事な娘なんだからぁ、幸せにしないと許さない、ですってぇ」
微妙に違う気がするが、まあ良いだろう。重要な部分はきちんと伝わったようだしな。
ミーヤは最初驚いたようだったが、内容を飲み込んだのかキリッとした顔で言う。
「はい!責任取って幸せにしてみせます!」
「プフッ」
「最初は苦労かけるだろうけど、勿論イースも幸せにしてみせるからね!!!」
その言葉で淫魔は笑いの渦に飲み込まれていた。…今日は随分と感情表現が豊かだな。いつもは表情などわからぬ黒い靄だったから不思議な気分だ。本気で明日世界が滅ぶのではないかと思ってしまう。
しかし、ミーヤの宣言は良かった。はっきりと責任を取って幸せにしてみせると宣言した。その言葉、しかとこの耳で聞いたぞ?
さて、淫魔と巣の中で交渉だ。
淫魔はあれを寄越せこれを寄越せと言ってくるが、こちらとて大事な商品だからな。おいそれと容易くくれてやるなど出来ぬ。…まあ、娘の門出を祝うのは大事だとは思うが。しかしそれはそれとして要求が容赦なさ過ぎる。流石は悪魔の一種である淫魔。
すると、淫魔は懐の袋から何かを取り出した。
『何だ、これは』
『見ればわかるでしょぉ?それとも、匂いを嗅げばわかるわよって言った方が良いかしらぁ?……ミーヤが狩ったミツドリよぉ』
『!ミツドリだと!?』
言われて見れば、確かにこの羽や肉はミツドリのものだ。蜂蜜に似た独特の甘い匂いも、ミツドリの肉から香る匂いだった。
『このミツドリ、結構近くで巣を探してたわぁ。ミーヤの魔法の練習にもちょうど良かったから狩ったのよねぇ』
『しかし…この羽を見る限り、平均よりも火耐性が強いのではないか?いや、だが…』
羽を手に持って見てみるが、随分と綺麗な羽だ。我々キラービーと戦ったミツドリの死骸にはこうも綺麗な羽は残らない。死闘をすればする程相手の状態は酷くなるからな。
『うふふ、そう。ミーヤは平均より強いミツドリを一人で、苦戦せずに倒したのよぉ』
『しかし、どうやってだ?』
『ミーヤはまだ初心者で使いこなせてないけどぉ、全属性の魔法が使えるわぁ』
『何だと!?』
『だから土魔法で足場を作ってから氷魔法で出した斧で頭をザシュッ、ってね。一撃だったわぁ』
うむむ、我らの天敵とも言えるミツドリ、それも我らが相手をしたのではとてつもない苦戦を強いられただろう相手…。そんな敵を倒せる人間の遺伝子が貰えるのであれば、是非貰いたいものだ。やはり人間のメスをオスにする蜂蜜の開発をするべきかもしれない。
まあそれはさておき、これを見せられてはな…。
『…仕方あるまい。妾達の天敵を倒してくれた礼として、そしてあの娘の門出を祝う意味も込めてお前の注文を飲もうではないか。お前達、持って来なさい』
『はい!』
『かしこまりました!』
妾の言葉に、控えていたキラービー達が慌ただしく蜂蜜を取りに飛んで行った。
すぐに大量のビンを抱えて戻ってきた娘達に礼を言って下がらせる。淫魔は即座に大量の蜂蜜ビンを袋の中に仕舞い、ミーヤの元へと戻って行った。どちらかといえば他人に奉仕させるのが淫魔だというのに、今日の淫魔は珍しい行動ばかりだな。
妾は上からミーヤ達を見下ろせる位置に腰掛け、様子を窺う。
どうやら無事契約は成立したらしい。ミーヤの腕に抱かれたキラービーの頭部には淫魔の胸元にあった印と同じ、見た事も無い花のような模様があった。
ミーヤ達が旅立つのを見届けて、立ち上がる。
あの子は新しい名として「ハニー」という名を貰ったようだ。蜂蜜という意味以外にも愛する伴侶という意味があると聞いた事があるが、一体どちらの意味でつけたのやら。
変わった人間であるミーヤの精神はまったくわからぬな。
さて、と妾は軽く手を叩いて皆を呼ぶ。そう、何故ならこれから、忙しくなるからだ。
『皆の者!我らは今まで既に知っている蜂蜜しか作ってこなかったが、これからレシピも作り方もわからぬ蜂蜜作りに挑戦しようではないか!』
『はっ!』
『了解致しました!』
『しかしクイーンビー様、一体どのような蜂蜜を作るおつもりで?』
『…人間のメスを、オスにする蜂蜜だ』
妾のその言葉に、皆が興奮し始めた。やはり、皆ミーヤが気に入っているらしい。
勢い良く飛び立ったキラービー達は実験用に様々な花の蜜を集めてくるのだろう。
他にも巣の方へ戻ったキラービー達は新しい蜂蜜作りの為の準備をし始めるようだ。
ふふふ、ミーヤを妾の伴侶に出来るかはわからぬが、新しく作る蜂蜜を飲ませて一夜を共に出来れば御の字だ。何よりの問題としてこの森に戻ってくるかさえもわからぬが、それはまあ今考えずとも良い。
今度またいつ良い遺伝子を持った人間に会っても良いように、新しい蜂蜜を作っておかねばならぬ事に変わりは無いのだから!
キラービーとクイーンビーには、クイーンビーと行為をして子孫を残すって事はとても光栄な事、という思考があります。
なので根本的に、行為したら搾り取られて死ぬっていう事に男達が怯えているとは夢にも思わない。クイーンビー様に選ばれて死ぬなんて光栄でしょう?って素で思ってる。
結果種族が違うから怯えているという結論に至った。
ちなみに、クイーンビーに興奮すればその分子種は増えるし、ちゃんと一定の量を毎日出すのであれば命の保障もされます。男達が死ぬのを覚悟してるせいで子種が全然出ないだけ。
キラービーをオスにした場合も数体犠牲になるのは、元がメスだし生殖機能の無い状態からいきなりって感じだから意識が付いて行って無いだけだったり。
強くて絶倫の男を一人差し出せば話が済む事に人間が気付くのは何時だろうね。




