従魔契約って嫁入りだっけ?
前回、イースがいきなりキラービーを従魔にしないかと言ってきました。
回想終了。
「……ごめん、私心読めないから話が見えない」
「それもそうねぇ。えっとねぇ?」
何でも、最初は蜂蜜を幾つか分けて欲しいという交渉だったらしい。私用に多めで頼んだとか。……うん、MP回復の蜂蜜に頼りきってたもんね私…。お世話かけます。
で、クイーンビー様が淫魔であるイースがそんな風に気遣うなんて随分と珍しい…というか、世界が崩壊でもするんじゃないかと言ったらしい。槍が降るとかじゃなくて世界崩壊レベルなんだ、イースの気遣いって。
そして色々と言い合った結果、じゃあ誰かオッケー出したらキラービーの一匹を私の従魔にして一緒に旅に出るって事になった、らしい。
「いや展開が意味不明過ぎるよね!?その色々と言い合った内容を教えてよ!」
「色々は色々だものぉ。それは置いといてぇ、どうするぅ?一応この話はミーヤが嫌なら無しで良いしぃ、ミーヤがオッケーを出してもキラービーが一匹も付いて行きたい!ってならなければ無しって話になったんだけどぉ…」
最大の疑問を置いとかれた!
さておき、キラービーを仲間にするかどうか…か。
私としては特に問題は無いんだよね。良い人…良い蜂だったし。可愛いし。
でもキラービーの方には私に付いて来るメリット無くない?
そう考えると、イースはとても輝かしい良い笑顔で私を見ていた。うわ眩しっ!え、何コレ光魔法!?イース魔族だよね!?光魔法使えないはずだよね!?
私が目をしぱしぱさせていると、イースは良い笑顔のままでクイーンビー様の方へと向き直った。
「ミーヤは良いみたいよぉ?」
その言葉に、クイーンビー様は人間には理解不能な言語で返していた。
本当に何語なんだろうアレ。
そして、イースは私の周りに居るキラービー達に話しかける。
「うふふぅ、後は貴女達次第ねぇ。流石に何匹もは無理だからぁ、一匹だけ仲間になれるチャンスよぉ?」
「そんなタイムバーゲンじゃ無いんだから」
メリット無いのに仲間になんて、
「ミーヤサマ!ワタシはイカガでしょうか?」
「いえ、ワタシなどは」
「ヴヴヴヴヴッ」
「ワタシ!ワタシもリッコウホイタします!」
「え、何私モテモテ?ミツバチへのモテフェロモンでも出てんの?」
何故か凄い寄って来た。本気で何故だ。メリットなんて無いぞ。
困惑しまくっていると、クイーンビー様が意味不明言語で何かを言った。
「~~~~~~~~」
「そんな!?」
「うう…ですが、タシかにそのトオり…」
「くっ…!ミジュクモノであるイモウトタチをウラヤむヒがコようとは…!」
なんなのよ一体。クイーンビー様は一体何て言ったのよ。何で人型の娘達は膝を折って地面を叩いてるのよ。もう何もわかんねーよ。誰か通訳呼んで来い。
「クイーンビーはねぇ?人型になれるレベルが高い個体が減ると戦力も減っちゃうからぁ、まだ人型になれない子じゃないと駄目って言ったのよぉ」
「通訳ありがとうございます」
「でぇ、人型になれる子は駄目になっちゃったけどぉ…どうするぅ?それでも結構ミーヤの仲間になりたい子はいるみたいだしぃ」
「うん…」
そう、さっきから凄い見つめられている。
キラービー達からキラキラとした……キラキラとした目だよな?コレは。複眼だし単純にお日様の光で反射しててそう見えるだけじゃないよね?
え、何?これって私が選ぶの?私が誰か一匹を選んで仲間にするの?
「貴女達だってミーヤに選んでもらう方が後腐れなくて良いわよねぇ?」
「ヴヴヴヴヴッ」
「ヴヴヴヴヴヴヴッ」
「ヴヴッヴヴヴヴッ」
「ほらぁ」
「いや私キラービーの言葉わかんないんですけど」
えー、これもう完全に私が選ぶ感じになってしまっている…?
どうしよう。普通に心が辛い。
これはもう、もふもふに癒されるしかないと私は膝の上のキラービーをもふもふと…ん?
膝の上?
「………あ」
「ヴッ?」
そういや居ましたね君。ずっとお膝の上でじっとしてたのね。無意識でもふもふしてたけど全然違和感無かったよ。というかここまでずっともふもふしておいて他の子選ぶとか無くない?ずっと同じキャバ嬢と話してたしそのキャバ嬢めっちゃ良い娘だったのに他所のキャバ嬢に鞍替えするくらい無くない?
……うん、これもう選択肢が一択だわ。
「この子にします」
膝の上に乗せていたキラービーの下に手を入れ、掬うようにして両手で持って掲げる。気分はライオンな王様が生まれた時の猿だ。あのシーンしか知らないから間違ってるかもしれないけど。
「ヴヴヴッ」
「ヴヴヴヴヴッ!?」
「~~~~~~~」
「……その子はまだレベルも低くて強くないけどぉ、本当に良いのか?ですってぇ」
イース、小声で「ミーヤの選択なんだから良いに決まってるのにねぇ」って言うの止めて。恥ずかしいし普通に聞こえてるでありますよ。
…うーむ、というかこの子レベル低い子なんだね。でもまあ、
「私なんてレベル1だったからねー。君は今のレベルどんくらい?」
「ヴヴヴ」
「レベルは3だそうよぉ。…3って事は、つい最近蜜を集めるようになったって事よねぇ」
?何か問題あるのかな。よくわからないから選んだキラービーを再び膝に乗っけてもふもふする。ミツバチがこんなにふわふわだとは知らんかったぜよ。
……ぜよって何だ。
「私はレベル1だったから充分だよね。何か無意識でずっと抱きかかえてたのに違う子選ぶのも浮気性の男みたいで嫌だなーって」
「~~~~~~」
「ミーヤが良いなら良いだろうって言ってるわぁ」
「ありがとうございますクイーンビー様!」
「………」
勢い良く頭を下げてお礼を言ったら、クイーンビー様がビッと私を指差す。
「…~~~~~」
「どの子を選ぼうと変わらないけどぉ、その子も妾の大事な娘なんだからぁ、幸せにしないと許さない、ですってぇ」
嫁入りかよ。
…いや、感覚的には嫁入りに近いのか!?
それなら親御さんにはちゃんとご挨拶しないと駄目だよね!?
「はい!責任取って幸せにしてみせます!」
「プフッ」
「最初は苦労かけるだろうけど、勿論イースも幸せにしてみせるからね!!!」
「アッハハハハ!!もう充分幸せよぉ!まったくもぉ、笑わせないでってばぁ」
真剣な宣言だったのに笑われてしまった。
だって従魔にするって事は嫁入りみたいなもんじゃんね?なら二人共責任取るしかないじゃん。面倒も苦労もかけるだろうけどさ。
「苦労をかけるけどーって…本気のプロポーズみたいだったわねぇ。うふふふふ、良いわねぇ、ソレ。ちょぉっと作戦でも練っちゃおうかしらぁ…♡」
「…あの、私に関係する事ならちゃんと言ってよ?」
「ええ、わかってるわよぉ。…うふふふふふふ」
何やらとてつもなく不穏な空気の予感ですが!?
ビクビクしていたらイースは微笑みながら蜂蜜を受け取りに巣の方へ行ってしまった。微笑みが凄い色気マックスだったし目の奥のハートがヤバい光を放ってたしで不安があるけど、まあ、うん、イースだし大丈夫だろう。
そしてイースに「じゃあ、私が受け取りに行っている間に従魔契約をしちゃいなさいねぇ」って言われたし、従魔契約するぞ!
「えーっと…そういえば君の意見聞いてなかった気がするけど、従魔になってくれる?」
「ヴヴヴヴヴッ!」
「やっべイースいないと言葉がわからん」
どうしよう、いきなり詰んだ。
思わずたらりと冷や汗が額を滑っていくのを感じた。
「あの、「トモにイられるならなります」とイっています」
「通訳ありがとう!」
人型のキラービーが通訳してくれた!助かった!
なってくれるんなら良かった。イースの説明では従魔契約すると何となくの感情も伝わるからある程度は大丈夫だって聞いてたけど、従魔契約してない状態じゃそれもわかんないもんね。
「じゃあ、えっと…私との契約印は桜っていう…私の故郷の花の模様なんだけど、どこに付ける?」
「ヴヴッ…ヴヴヴッ!」
「ウデやアシではモげるカノウセイがあるので、トウブがヨいとイっております。ショッカクのアイダ、ニンゲンでイうところのヒタイのイチがヨいと」
「うちの子になるからには腕や足を捥げさせたりなんかしないかんね!五体…七体かわかんないけど!七体満足で元気に幸せにしてみせるからね!!」
何だよ!可愛いかよ!可愛いっていうか早くも覚悟が凄いんだけど!?腕や足が捥げる可能性あんのに従魔になろうとしてくれてんの!?だから頭部が良いって、つまり腕や足が捥げようとも従魔でいるって事だよね!?うああああ絶対不幸になんかさせねえからな!
くっ、この歳で嫁を幸せにしたい男の気持ちを知ってしまった…!
というか現時点でイースにおんぶ&抱っこ状態だからね!頑張って自立出来るようになるね!魔物使いだから出来る気はしないけど!頑張るだけなら自由だから!思考がまた迷子になってんな私!
「…よし!「従魔契約」!」
意識して従魔契約のスキルを使用すると、イースの時と同じようにまた何かが発動する気配がした。指先に魔力が集中しているのがわかる。
私は指先でキラービーの額…多分額の部分に触れる。あ、やっぱこれ結構な魔力を持ってかれるんだな。イースと契約した時はまだ魔法を使ってなかったから魔力の感触がわかんなかったけど、今ならわかる。魔力めっちゃ持ってかれる。
魔力が蛇口を捻った水のように持っていかれ、その魔力は目に見えるレベルで濃縮されて魔力の糸になり、キラービーの額にしゅるしゅると刺繍のように桜を咲かせていく。
最後の花弁が描かれ桜が完成した。同時に一瞬、ピカッと光る。前は単純に綺麗だなーって思ったけど、これって私の魔力を相手に定着させてたんだね。今回は何となくわかった。やっぱ魔法使って感覚を学ぶって大事なんだな。
…まあそれはさておき、
「契約完了!これからよろしくね!」
「ヴヴヴッ!」
「…ところで、ステータスって見ても良い?」
「ヴヴヴヴヴ」
「カマわないようです」
「ありがとう。お姉さんも通訳本当にありがとうございます」
「い、いえ!」
お礼を言ったらキラービーのお姉さんは照れたように微笑んでくれた。可愛いかよ。何だかお礼に慣れてないみたいだし、蜂蜜貰ってんならこの世界の奴等もうちょい良い関係築けば良いのに。
さーて、「ステータス確認」っと…。
確認したところ、この子のステータスはこんな感じだった。
名前:個体としての名称無し(1)
レベル:3
種族:キラービー
HP:50
MP:15
スキル:蜜集め、蜂蜜生成、ローヤルゼリー生成
称号:働き者、掃除好き、甘え上手、従魔
名前の所の「個体としての名称無し」って表示、何かヤダな。
後で確認してオッケー貰えたら名前付けよう。
あと、前にイースのステータスを見た時は濃すぎて詳細確認を忘れてたけどこの従魔ステータス確認でも詳細を見る事は出来るようだった。
蜜集め
蜜を採取する際、このスキルがあると蜜胃に沢山の蜜を溜められる。
蜂蜜生成
このスキルがあると蜜胃に溜め込んだ蜜を体内に入れたまま蜂蜜に出来る。
ローヤルゼリー生成
このスキルがあると花粉からローヤルゼリーを多めに生成出来る。
スキルはこんな感じで、
働き者
とてもよく働く者に贈られる称号。この称号があるとHPが減りにくくなり、少ない休息で完全回復する。
掃除好き
とてもよく掃除をする者に贈られる称号。この称号があるとどんな汚い部屋だろうと一時間で掃除可能。ただし汚い状態が凄まじく気になる。
甘え上手
甘えるのが上手な者に贈られる称号。この称号があると甘えた時に要求を受け入れられやすく、第一印象で悪感情を抱かれにくくなる。
従魔
従魔契約をした者に贈られる称号。この称号があると主との間に様々な恩恵がある。感情を読み取ったり、居場所を察知したり、ピンチがあるとわかったり、他にも多数あるが主との絆に応じて変化する。
称号はこんな感じだった。
色々と凄いな!?もしや私がこの子を選んだのって甘え上手の称号効果なのか!?あと従魔の称号結構凄いんだけど!恩恵が多いし主との絆に応じてってめっちゃ気になるんでございますが!?
「ただいまぁ~。契約は出来たぁ?」
「あ、イース。おかえりー」
「ヴヴヴヴッ」
ステータスを見てツッコんでいたらイースが戻ってきた。特に荷物を持っているようには見えないので多分アイテム袋に収納済みなんだろう。
「今ね、契約終わったからステータス見せてもらってた」
「そうみたいねぇ。貴女はよく見える位置である額に印を付けてもらったのねぇ」
「ヴヴッ!」
「うふふ、そうね、良かったわねぇ」
「ところでさ、従魔って称号色々と凄いんだね!恩恵多いし主との絆に応じてって書いてあった!」
私の言葉にイースは一瞬不思議そうにしたが、すぐに合点がいったらしくいつものしっとりした雰囲気の顔になる。どんなって聞かれてもどう言えば伝わるのかわかんねっす。色っぽくて夜の街で黒いドレスに紫の蝶背負ってそうな雰囲気?かな?
「ミーヤ、従魔の称号は確かに良いものだけどぉ、世間ではそうでも無いのよぉ」
「え、そうなの?」
めちゃくちゃ役立ちそうなのに。居場所わかるなら迷子にならないし、感情が察せるかどうかってかなり大事じゃない?キラービーの言語を私が理解出来ないせいで会話出来ないからね。感情だけでもわかれば助かるよね!
「そういう考えの人間が多ければ良かったんだけどぉ、世間の一般的な魔物使いは従魔を道具として使ってる奴が多いのが事実なのぉ。弱い魔物を複数テイムして囮に使うような奴もいるのよぉ」
「は?」
何だそいつらは。ゴミか?燃えるゴミなのか?燃えないゴミなのか?分別しないと。人間なら燃えるゴミだから多分燃えるゴミだよね?よっし火魔法で火葬してやらぁ。
「落ち着いてぇ、ミーヤ。そんな奴を殺すなんて事で手を汚しちゃ駄目よぉ。魔物を大事にしない魔物使いは必ず何らかの報復を受けて痛い目を見てるんだから放っといても大丈夫」
「…本当に?」
「ええ。そういう魔物使いは命を大事にしていないって事でしょう?人間相手にも同じように接するから顰蹙を買うのよねぇ。町中で魔物を暴れさせたりもするからぁ、大体自業自得で死ぬわぁ。だから大丈夫よぉ」
それはそれで私が町で動きにくそうだな。魔物使いってだけで嫌われそう。……まあ、人間とは仲良くなれない前提だし良いか。ボッタクリでもされなきゃ良いや。
「だからねぇ?そういう魔物使いが主だと従魔との絆なんて無いに等しいでしょぉ?そうなると感情を察する事も出来ないしぃ、居場所なんてまったくわからないわぁ。従魔の称号による恩恵はぁ、全て主との絆次第なのよぉ」
「確かに、そんな外道野郎は人の気持ちを察するとか無理そう…。居場所とか気にしてもいないだろうしね…」
「うふふ、ミーヤはそんな奴じゃないってわかってるからそんな顔しなくても大丈夫よぉ」
むぎゅうっとイースに抱き締められる。今回はおっぱいで窒息しないようにちゃんと気遣われたハグだった。しかも膝の上に乗せているキラービーが潰れないようにもしてある。
……え、そんな顔ってどんな顔してた?
「怒りと申し訳無さと不安が混ざったような顔だったわよぉ。…ミーヤは、ちゃぁんと私達従魔の事を考えてくれてるわぁ。だからそんな奴と自分を比べるのは間違いよぉ?ミーヤは正当かつ真っ当な魔物使い。世間一般に溢れてる下種は紛い物の魔物使いだわぁ」
「…ありがとね、イース」
「気にしなくて良いわよぉ。それにぃ、実際そんなもんでしょぉ?どこの世界でもぉ、真っ当で正当な宗教はあるわぁ。でもそれと同じくらい、もしくはそれ以上に悪徳宗教があったりもする。同じ事よぉ。後ろ暗く無い真っ当な人間は堂々と胸を張って歩けば良いのよぉ♡」
「…そだね!張る胸はイースに比べてささやかだけど、胸張って歩くよ!!」
「アッハハハハハ!!」
凄い大笑いされたけど私の胸がイースに比べてささやかなのは事実である。これは覆らないから仕方ない。いや、無いわけじゃないんだ。あるにはあるんだ。ただ小さくも大きくも無い平均レベルなだけ。貧乳ネタも巨乳ネタもわからん一番つまらない胸でございます。
まあそれはさておき、イースには話しておきたい事もあったんだ。
「あのさ、この子まだ名前無いみたいなんだよね」
「そりゃそうよぉ?私は昔自分で自分に名前を付けたけどぉ、普通ただの魔物が名前を持ってたりはしないわぁ」
あ、これ常識なんだ。
「ええ。普通の…いえ、紛い物の魔物使いは名前も付けないけどぉ、本来の魔物使いはちゃぁんと名前を付けてたわぁ。だから主であるミーヤが名前を付けちゃって良いのよぉ」
「いやいやいや。それより先に意見聞いときたい。君は何か希望ある?自分の名前はこれが良い!とかない?」
「ヴ?ヴヴヴッヴヴ!」
あ、何か感情を察した。察したけど「受け入れるよ!」みたいな感情で詳しい判別がわからん。
「主であるミーヤの付ける名前なら何でも良い、ですってぇ」
そういう意味か!
責任重大な名付け、ネーミングセンスが無い私は頑張って頭を捻る事となった。
10話超えても未だに人里着かないし異世界の人間とも会えていないという衝撃の事実。




