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武道大会、二回戦



「なあ……血、血を見せろよ…。ぶしゃあって温かくてさァ、鉄臭くってさァ、真っ赤な色した血を見せてくれよォ!!」


「がっでむ!!」



 これ棄権したら背後取られて死ぬんじゃないでしょうか神様!どういう選考基準してんのこの武道大会!危険人物が!明らかに危険過ぎる人物がここに居ますよ!!

 クソ、即行で棄権しようと思ってたのに…!

 最初のメルヴィルさんの紹介ではそんな感じ無かったから油断してたのに!してたのに!



「さあ二回戦の二試合目が始まりだ!まさかの露出癖があったアボットの野郎を生き埋めにした魔物使い!ミーヤ!そして試合開始三十秒で相手が棄権した危険度マックスなヤバい奴!オルコット!」



 って!言ってただけだったから!そうか、実力者なんだろうなって思って!なら私も棄権しやすいかなって思ってたのに!出てきた男は見た目も言動もアウトでしかないっていうね!最悪!

 顔は悪く無いと思う。目の下に深く刻まれてる隈さえ無ければ。髪色も赤み強めなオレンジ髪で明るい印象だと思う。今は顔がやつれてて血色悪いのが強調される感じになっちゃってるけど。目は三白眼だからちょっと小さいけど綺麗な紫色をしている。瞳孔開いてない?ってレベルでイっちゃってる目だから怖いけど。

 そして最後に引き攣ったような笑い声を混じらせながらのあの台詞である。駄目だ、コイツ本気の危険人物だ。棄権したいけどこれってして良い相手なのか?メルヴィルさんの方向いた瞬間に刺されない?大丈夫?

 あ、いや、でも一回戦でオルコットとやらの相手が即行で棄権したっぽいし私も、



「一回戦では逃がしたが…もう逃がさねェ…!ひ、ひひ、うひ、きききっ……」



 駄目だ逃げたら殺される!

 だってこれ背中を見せたら駄目な奴だ!真正面に立つのも駄目な気がするけど、とにかく関わったらあかんタイプ!にっまぁ~って笑ったもんあいつ!目が私を見てるのに見てないってどういう目してんだよあいつ!怖い!鳥肌立った!



「な、何か既にやば過ぎる気がするけど頑張って生き延びてねミーヤ!それでは試合開始!」


「血を見せろぉォおおおオォおおおお!!」


「ぎゃーーーーっす!」



 オルコットは重心を前にして忍者走りのような体勢で一直線に向かって来た。走りながら取り出した短剣を私に投げた、が、その短剣はあらかじめ握り締めていた鞭さんが弾いてくれた。鞭さんカッケェ!



「っあぁあああァああぁぁぁアアあ!」


「お、お前人間凶器か何かか!?歩くナイフ保管庫か!?」



 オルコットは獣のような叫びを上げながら体のいたる所から短剣を私に向かって投げてきた。しかし鞭さんが私の周りを囲ってくれているお陰で短剣は届かない。全て鞭によって弾かれている。

 ……鞭がずっとぐるぐる回ってるから、台風の目になった気分だ。



「うわっ、流れ弾来そうでこっわ。ちょっと俺安全地帯まで下がってるね!」


「メルヴィルさん!?」



 あ!本気で安全な位置まで下がってる!ずるい!私もそっち行きたい!



「血を!浴びたいんだよォ!ぶしゃあって!どばあって!温かい血が冷えていくあの感触が欲しいんだよぉぉおおおぉオォぉぉおお!!」


「何でコイツ予選突破してんだよ!?確実に予選で逮捕でしょこの人!?」


「それがさー」



 安全地帯からメルヴィルさんが私の疑問に答える。



「予選でもそのノリだったせいで他の参加者が全員辞退しちゃったんだよね。で、仕方ないからオルコットを勝者扱いしたってわけ」


「ヤダ私貧乏くじ引かされた!?」



 畜生!誰かがコイツを倒してくれてれば私がコイツと戦うルートが消滅したのに!



「ああああああ!何で!何で血が出ねえんだよォ!?」



 短剣を投げつつ、弾き返された短剣を回収してまた投げるという行為を繰り返していたオルコットが叫んだ。



「なんで……なんでなんでなんでなんでなんで血が出ねえんだ。血を見ないと。血を浴びないと。じゃないと俺は今日もまた眠れない。もう四日なんだ。眠れないまま四日経ったんだ。だがその四日前だって気絶しただけで寝たとは言えねえ……」



 と思ったらぶつぶつと呟き始めた。躁鬱でも患ってんのかコイツ。

 短剣を投げるのを止めて地面に膝を着き、両手で顔を覆ったオルコットは呟き続けている。



「寝たい。眠りたい。眠い。休みたい。休めない。辛い。眠れない。血を浴びないと。血がないと。人の気配があると眠れない。生き物の気配があると休めない。死んだ匂いが無いと安らげない。血が欲しい。大量の血が。人が死ぬくらいに大量の血を見れば落ち着くから。沢山の血を浴びれば眠れるから」



 ………不眠症の、やば過ぎるバージョンかな?

 何やら凄まじい強迫観念があるのか、血を浴びないと眠れない状態になってる……って事なんだろうか。聞いてるとそんな感じっぽいけど。



「なあ……」


「げ」



 オルコットは亡霊のようにゆらりとした動きで立ち上がった。



「頼むよ…寝かせてくれよォ!!血を!お前の血を!なァ!」


「うわわわわわわわ鞭さん凄え」



 再びオルコットは短剣を私に向かって投げ始めるが、全て鞭が叩き落してくれた。あっぶね。というかコレ、無理ゲーじゃない?私どうすりゃ良いのよコレ。

 まず私がオルコットに負けるルート。死にます。

 次に私が棄権するルート。多分こっちも死ぬ。

 オルコットが棄権するルートは…無いんだろうな。

 というわけで私がオルコットに勝つしか私の生存ルートが無いっていうね。いや、武道大会だし、ある程度は守ってくれるだろうし、というか棄権すればその瞬間からイース達が助けてくれるんじゃないかって思うけど。

 思うけどそれとこれとは別なんだよ!前情報アリでホラーゲームやったって驚くポイントでは驚くし強い敵が現れたら悲鳴上げる以外の行動出来ないじゃん!?ソレ!今ソレ!その状況なの!棄権したって死にはしないだろうけど!でも怖いの!どうにかしないとやばいって現代人の殆ど死んでるであろう本能がそう囁くの!



「あ、今何かオルコットについての説明?資料?が届いたんで読み上げますね。本当はこういうのって弱点とか戦い方とかがモロにわかっちゃうから駄目なんだけど、ちょっと精神的にヤバイみたいなんで特例として」



 そんな事を考えていたらメルヴィルさんが誰かから届けられたらしい資料を読み上げ始めた。よっしゃ助かる!それでどうにか打開策を考えるしかない!



「えーと……数年前にバーバヤガの悪人に誘拐されて奴隷として売られそうになったという経験がある」



 初っ端から過去がクソ重い。



「その際、奴隷にされるギリギリの所で悪人達を斬り捨てて逃走。ツィツィートガルに戻って来た。しかしその時の経験が相当ショッキングだったのか、それ以来人の気配に異様な怯えを見せるようになった。同時に不眠症を発症。数日眠れない日が続き、体力に限界が来て気絶を繰り返している」



 確かにさっきオルコット自身も気絶した云々って言ってたね。

 というか未だ短剣投げられてるんだけど。どんだけストックあるんだよオルコット。



「で、どうやら悪人達を斬り捨てた時の感覚がこびり付いているらしく、大量の血を見たり、全身に血を浴びる事で安堵を得ているのか、そういう時だけ眠れている。今の所は人間に手を出しておらず、魔物の血を浴びたりして一時的な安心を得ている模様。………つまり、人殺しとは違うから逮捕不可能って事か。ごめーんミーヤ頑張って!」


「どうにかこの状況を打破出来るんじゃないかと期待した私のときめきを返せー!」



 結局過去のトラウマにより不眠症を発症した男が血を浴びないと安眠出来ないって事しか理解出来なかった!そんなん聞かされてどうせいっちゅうんじゃ!オルコットの安眠の為に斬られろってか!?ヤダよ!私には可愛い嫁達が居るんだ!



「つかお前もお前だ!今まで魔物で賄えてたんでしょ!?何で人を斬ろうとし始めた!?しかも辻斬りになるでも無くこんな観客盛り沢山な大会で!」



 そう問いかけると、オルコットは短剣を投げるのを止めて答えた。



「魔物の血じゃ一時的に眠れるだけだった。なら、きっと、人間の血なら、俺の不眠症が完治するかもしれないだろォ……?」


「眠気で思考回路がぶっ飛んでるな!?」



 どういう発想でそんな閃きに至ったんだよ!あと正直言って人間の血よりも魔物の血の方が何らかの効果がある気がします!人間の血はただの血だから!魔物と違って特性無いから!!



「良いから俺に血を見せろよォ!俺を寝させてくれェえエえぇぇえェえ!」


「だからってこっちが永眠させられんのも勘弁なんですけど!」



 あとそろそろどうにかしないとうちの子達がやばい!試合中だし観客席だしって事で大人しくしてくれてるんだろうけど、殺気が!隠しきれて無い殺気がここまで届いて来てる!チラッと確認したらイース達の周りだけ何かちょっと距離取られてるし!あそこだけ隔離された空間みたいになってるんだけど!お願いだから殺気を仕舞って!

 いや、うん、殺気を仕舞ってもらう為には私がまず目の前のコイツをどうにかせねば。

 かといってどうせいっちゅーねん。相手の目的は私を斬るとか殺すってよりも、ただひたすらに寝たいってだけっぽいけど……。



「……ん?」



 つまり、眠らせれば良いんじゃね?

 どうも不安で深く寝れないみたいだけど、深く寝る魔法とか作ってぶつけちゃえばいけるんでは…。これは、試す価値アリかな。



「鞭さん、短剣の叩き落しヨロシク」



 そう言って持ち手の部分を握り締めると、鞭が「任せろ」と言った気がした。ただの気のせいかも知れないけど、頼もしくてありがたい。



「よっ」



 私はオルコットに向かって走り出す。そういやこのバトルが始まってから移動するの初めてかも知れない。ずっと鞭タイフーンに守ってもらってたから。



「ねんねん」



 オルコットへの距離を縮めながら、私は呟く。



「うあァあ!」


「ころりよ」



 投げられた短剣は鞭が弾いた。



「おころりよ」



 私は呟く。歌うように。

 歌うようにっていうか、歌なんだけどね。



「ぼうやは」


「クッ…」



 オルコットが少し下がって私から距離を取った。止めろやそういう動き。今歌のタイミングとかでバランス取ってるんだから。



「よい子だ」



 この歌は子守唄だ。それも日本じゃかなりメジャーな。歌詞全部言える?と聞かれたら答えられないけど、ここまでなら皆知ってると思う。

 何故歌うのかって?ホラ、前にイースが言ってたじゃん?歌の魔法を使う勇者が居たってさ。そしてアボット…というか、人間の魔法使いは詠唱を用いる。それの応用だ。



「ねんね」



 歌声に、というか声や言葉に魔力を含ませる事で相手に魔力を馴染ませる。内容も、相手に馴染ませる。



「し」



 あと一歩前に進めば頭突きをかませるだろう距離まで近付いた。オルコットは動揺したのか、手に持っていた短剣を落とした。良し、刺される心配が無くなった。

 私は魔力を込めた右手を前に突き出し、



「ろ!」


「ぐあっ!?」



 オルコットの頭を張り手でもするように突き飛ばし、地面に転がした。



「おおっとミーヤが何かよくわかんない魔法を使った……のかな!?ごめんその辺よくわかんない!でも多分そうっぽい!一体どんな魔法なんだ!?そしてオルコットという徹夜キメ過ぎて思考回路がイっちゃった男はどうなった!?」



 安全地帯に居るメルヴィルさんがそう叫ぶが、オルコットは立ち上がらない。そりゃそうだろう。だって、



「……ぐぅ…」



 爆睡してるもん。



「寝てるーーーーっ!?何と不眠症過ぎて正気を失ってたオルコット、ぐっすりと深い眠りについている!すっげぇ安らかな表情!何したんだよミーヤちょっと説明してくんない!?」


「私の故郷に伝わる子守唄を使用した魔法を当てました」



 正確には歌詞の最後、「ねんねしな」なんだけどね。強制的に眠らせるって事を考えて「ねんねしろ」に改変してみた。土壇場の思いつきによる一発勝負だったから、上手くいって本当に良かった。妄想癖のスキルマジでナイス。

 本当はイメージの中では最後、頭を撫でる感じのイメージだったんだけど……つい、ね、その、ね、マジで怖かったんだぞこの野郎って気持ちが抑えられなくて。つい。

 でもあそこで叩いたり殴ったりするんじゃなくてアイアンクローをするかのように頭を掴んで下にぐいっと押したのは頑張ったと思うよ!?地面に頭ぶつけたダメージはあるかもしれないけど、私の張り手によるダメージは無い…はず!多分!きっと!

 ……あ、てか私普通に「故郷に伝わる子守唄を」使用した魔法って意味で言ったけど、今の言い方だと故郷に伝わる「子守唄を使用した魔法」という意味に捉えられるんでは…まあ、うん、下手すると子守唄で異世界出身ってバレる可能性あったかもだし、後者の意味で捉えてもらえれば勇者の恩恵ですって誤魔化せる…かな?

 とにもかくにも、無事オルコットは眠りに落ちたわけで、



「メルヴィルさん、これって試合続行不可能ですよね?」


「え?…あ!そっか!」



 やっぱり自分の仕事を忘れていたらしい。自分の仕事を思い出したメルヴィルさんは、大きな声で叫ぶ。



「不眠症で狂い掛けてたオルコット!爆睡!不眠症男を眠らせたミーヤの勝利!!」



 その言葉に、観客席から歓声が響いた。ありがたい事だ。確認したらイース達も落ち着いたのか殺気を消してたし……うん、良かった良かった。



「ミーヤ!三回戦こと準決勝!出場けってーーーい!」



 あ、こっちの問題残ってたわ。やっべ。



ねんねんころりって良いですよね。子守唄であると同時に陰陽術とか魔法とかの呪文っぽさがあるところが特に。

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