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知らない道って迷うよね



 控え室に戻る途中、トイレに寄ったらうっかり控え室までの道がわからなくなって終わったかと思った。どうにか戻ってこれた控え室で、椅子に座って机に上半身を預けて体から力を抜く。

 一回戦から凄い濃かった…。露出狂の魔法オタクと戦うとか反応に困るっつーの。せめて片方ずつにして欲しかった。いや、どっちにしろ嫌だけどさ。



「あ、気付かなかったけどちゃんと新しい机になってる」



 思いっきり体預けてたけど、そういや一回戦に出る前に私の控え室の机はタバサの頭突きによって破壊されていたはず。特に修復した跡も無いし、新品の机を持って来てくれたのかな。ありがたい。

 いやー、それにしても帰り道がわからないうえにスタッフも見当たらなかったからさっきは焦った。親切な獣人さん達が居なかったらどうなってた事やら。いやまあ、普通にスタッフさん探して帰って来てただろうけどね。

 でも本当に良い獣人さん達だった。うろうろきょろきょろしてたせいで思いっきりぶつかっちゃったのに、



「お?」


「えっ、あ、すみません!」


「いや、気にするな」



 って言ってくれたし。

 ちなみにライオン獣人と虎獣人だった。私がぶつかったのは虎獣人さんの方。二人共オスだったからか背が高いわもふもふだったわで凄かった。迫力が。でもめちゃくちゃ良い獣人さん達だった。

 だってさ、ぶつかったの私なのに、



「大丈夫か?怪我してないか?」


「すまない、服に少し毛が付いてしまったな」



 って言ってくれたんだよ!?凄くない!?格好良くない!?ライオン獣人さんなんて紳士的に私の肩に付いた虎獣人さんの毛を払ってくれたし!

 …本当、直前に戦ってた相手が相手だったから癒されたわ。

 しかも、



「あの、大変申し訳ないのですが……私の控え室、どこにあるかわかりますでしょうか…」



 って私が聞いたら、



「まあ、それはわかるが……」


「……怖くは無いのか?」


「はい?」


「いや、私達は体が大きいから女性や子供に怯えられる事が多くてな」



 って。

 頬を爪でポリポリ掻きながらそう言ったライオン獣人さんは可愛かった。



「特に俺達は虎とライオンだからな」


「ああ。……匂いで君の控え室はわかるが、私達の案内で良いのか?ライオン獣人と虎獣人など、人間からすれば嫌悪すべき対象だろう」


「はあ……。いえ、でも私魔物使いでして、従魔には狐獣人も居ますんで特に…」


「獣人の従魔!?……と、思ったが別に嫌な匂いは無いな。マーキングまでされてるしかなり懐いて…」


「ビル!」


「いっでぇ!」



 …多分、ライオンさんは紳士なんだろうね。獣人だからこそ獣人を従魔にしてる魔物使いが居たら警戒するのは当然だろうに、虎さんの足を蹴って止めてた。まあ、虎さんは匂いで察してくれてたみたいだけど……ライオンさんの反応が速過ぎたね。

 その後ライオンさんは頭を下げてから、



「ビル…この虎がすまない。不信感を前面に出すどころか無遠慮に女性の匂いを嗅ぐなど…!」


「ぐるぉおおぁあああ…!」


「あの、いえ、お気に為さらず。獣人が従魔にって聞いたら獣人として当然の反応だと思いますし、匂いで察してくれてたみたいなので私は気にしてませんし」


「…ありがとう。もし君が嫌でないのなら、君の控え室まで案内しよう。お詫びも兼ねてな」


「ぐるる……レオンおま……俺が痛めてる部分ピンポイントで蹴りやがったな…!」



 ………うん、まあ、虎さんことビルさんは少しの間唸っていたけど、痛みが落ち着いてから普通にレオンさんと一緒に私の控え室まで案内してくれた。あ、レオンさんはライオンさんね。とてもしっくり来るお名前だった。

 ちなみにビルさんとレオンさんは人間に怯えられるのを気にしていたらしく、



「ミーヤ、ミーヤは俺らを見た時どう思った?」



 と、案内してもらってる時にビルさんに質問された。



「どう…と言われましても。普通に「あ、虎とライオン」としか……」


「それだけか?」


「え、はい」



 正直に答えたら何故か匂いを嗅がれた。まあ、嘘か本当かを探ってただけっぽいけど。



「嘘の匂いはねえな…」


「人を食いそうとか、大きくて恐ろしいとか、化け物のようだとか、牙が怖いとか、そうは思わなかったか?」


「まあ大きいなとは思いましたけど、他は特に」



 そう正直に答えたら、何故か二人が無言で目元を押さえたんだよね。……あ、もしかしてあれ泣きそうだったとかなんだろうか。え、これだけの事で?今までどんな扱いを……。

 まあ、うん、実を言うと二人に怯えなかったのは人食いの称号を持ってる子が従魔兼嫁だったりするから今更なんだよねっていう気持ちが無くは無かったんだけど……言わなくて正解だった気がする。違う意味で泣かれるトコだったね。

 そしてそのまま控え室の前まで連れて行ってもらって、



「ありがとうございました」



 とお礼を言った。



「いや、こちらも色々と話せて嬉しかった」


「レオンの言う通りだ。道案内は獣人の得意な事だったしな!……あだだ」


「大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。明日には治る。……レオンが蹴らなきゃ夜には治ってたんだがな」


「お前のデリカシーの無さが悪い」



 …うん、険悪な雰囲気じゃなくてこう……男同士のじゃれ合いみたいな雰囲気だったから、多分長い付き合いなんだろうね。

 でもある意味悪化させた原因の一つは私だったから許可を貰ったうえで光魔法による回復をさせてもらった。うん、回復が早くて頑丈なのが特徴である獣人が一晩寝ないと駄目なレベルの怪我って結構な怪我なんだね。想定よりも魔力を持って行かれたけど勉強になった。

 ただ、その後レオンさんが言った言葉が気になる。



「…ミーヤは光魔法が使えるのか?」


「はい」


「ふむ……。確かミーヤはEランクの冒険者と言っていたな」


「言いましたね」


「私達は王都の獣人部隊に所属していてな。もしかしたら君を指名して依頼を出すかも知れない。その時は獣人部隊からの指名扱いになるだろうから、是非覚えておいてくれ」


「あ、はい!……はい?」


「では、もう迷わないように気をつけて。行くぞビル。予選がもうすぐだ」


「首の後ろ掴むなってのレオン!」



 そのまま二人は行っちゃったから手を振るしか出来なかったけど……マジでどういう意味だろう、アレ。

 単純にそのまま受け取るなら、獣人部隊なのでちょっと怪我をしやすい。だから回復が欲しい。なので指名依頼を出すかもしれないが、依頼人の部分は獣人部隊としか言われない可能性がある。というわけで、獣人部隊からの指名=レオンさんからの依頼だと察するようにっていう……気遣い?

 ……何か、これで合ってる気がするね。獣人って五感が優れてるから察し能力が高過ぎて言葉が足りないトコあるし。

 まあ実際違ってようが私の想定通りだろうが、依頼があるのはありがたい事だ。結局依頼は来ませんでしたエンドの可能性も無くは無いけど、知ってて損は無いもんね。



「……あれ?てか予選って獣人部門の予選か?」



 そしてもうすぐって言ってたから多分選手側って事で……ビルさんの怪我、治して良かった。危うく手負いの虎が予選に出る事になっちゃうトコだったぜ。出来れば万全の状態が良いもんね。

 ……手負いの虎の方が強そうだね。イメージ的に。



「さあ一回戦の七試合目だ!」



 ふと、魔道具が映し出す映像が流れているのに気付いた。ありゃ、魔道具の存在忘れてたわ。

 何となく暇だしなーと映像を見る。スマホ見てても良いけど、ネットするには雷魔法が必要なんだよね。そして魔法を使うという事は魔力を消費する。

 一応試合終了後には体力と魔力を回復する薬が配布されてるから問題は無いと思うけど…備えあれば憂い無しってね。節約大事。ちなみに回復薬はクソ苦いのではないかと怯えながら飲んだけど、意外にもサッパリ系ジュースの味だった。スタッフさんに聞いたら苦くて飲めなくて衰弱した馬鹿が昔居たから改善したんだとか。…馬鹿ってのは、進化を促すんだね。

 結構美味しかったなーと味を思い出しながら映像をぼんやり見ていたら、



「対するは!今年最年少でトーナメントに出場した期待高まる13歳!何と地元ツギルクの武器屋からレンタルした弓矢だけで予選突破!普通使い慣れた武器じゃないと上手く扱えないのにまさかのレンタル武器で予選突破だぜ凄くね!?ちなみにレンタル武器である理由は「金が無いから」との事!宝石掴み取り狙いの弓使い、アーウェル!!」



 またもやずっこけた。おかしいな、私芸人にジョブチェンジした覚え無いんだけど。

 椅子を直し、椅子と机を支えにしてどうにか起き上がって椅子に座り直した。そして深呼吸してから改めて映像を見る。

 ………見覚えのある水色の髪と黒い瞳だ。目の下に深く刻まれていた隈は無くなってるし、前に見た時に比べて健康的な肉付きになってるけど……完全に本人ですね。

 うああああマジか…。何故、何故ここでアーウェル…。つかレンタルした弓矢で予選突破とか凄いなアーウェル。



「………私の従魔より強くなったらって言ったからか?」



 いや、でも、恋愛対象に見るってだけだったし、てか私さっき自分の試合の時に思いっきり嫁達への愛を叫んでたし、アーウェルは頭良さそうだったから私がアーウェルの気持ちを受け取る事は無いって事くらい理解してるだろうし……。

 ……良し、考えるのを止めよう。人生楽ありゃ苦もあるさ。山あり谷あり。これが人生。



「つか強いなアーウェル」



 映像の中で、アーウェルは魔法と矢を見事に使いこなして相手を追い詰めていた。自動追尾の魔法なのか、魔法陣をくぐった矢は意味のわからん軌道で相手に刺さっている。しかも相手が矢を剣で切ろうとしても複雑な動きで回避してるし……凄いなアーウェル。



「凄いぞアーウェル!13歳で予選突破の実力は伊達じゃない!寧ろ13歳だからこその新鮮な発想がなせる技か!?手数が限られているから弓って結構使い難いんだけど、それを自分の手足のように!否!自分の手足以上に上手く動かしているぞ最年少アーウェル少年!つか動きをめっちゃ先読みしてるみたいだけどその黒い目には未来でも映ってんのどうなの!?」



 メルヴィルさんマジ実況似合うね。聞いてて凄く面白い。

 ……というか、今気付いちゃったんだけど…もしやアーウェル、弓に関しての才能が逸脱してるんではなかろうか。うおお…逸脱者のハートキャッチガールの称号何でやって思ってたけど、アーウェルが自覚無いだけで弓の才能が逸脱してたのね……だからこの称号をゲットしちゃったんだね私…!

 なんというか、あまり嬉しくないが腑に落ちた。



「って、あ」



 そんな事を考えていたら、いつの間にやらアーウェルが勝っていた。相手も中々にタフだったみたいだけど、流石に背後を取られて喉に矢の先っちょを突きつけられたら降参以外の選択肢無いよね。

 …アーウェル、戦闘方法がガチなんだよな。まあ13歳である事を考えるとガチな戦闘スタイルじゃなきゃ大人相手に勝てないか。

 そして数分のクールタイムの後、最後の一回戦が始まった。言葉がおかしいのはスルーでお願いします。それはさておき、



「二回戦の二試合目、か」



 結構すぐに私の順番が回って来そうだし、咄嗟の魔法を使えるようにスマホに入ってる電子書籍でも読もうかな。これなら魔力使わないし。

 何より、私の魔法ってイメージ力で全部決まっちゃうからね。イメージを固定させておかないと。



「………ん?」



 いや、棄権する予定なのに何で戦う前提で考えてんだよ私は。



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