表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/276

武道大会、一回戦

本当は前後編にしようかと思ってたんですが、流石に王都編が長すぎるなと思ってそのまま一つに纏めました。(王都編が短くなるとは言っていない)



「さあ武道大会一般部門の第一回戦!の三試合目だ!もうちょっとわかりやすい表現にしろって?うるせえ大体わかればそれで良いんだよ酒飲んでろ!」



 フィールドの外側でマイク代わりの魔道具を持ったメルヴィルさんが叫ぶ。

 私は建物の中で出番のスタンバイ中だ。いやー、ギリギリ間に合ってほっとしたよね。道案内で一緒に走ってくれたスタッフさんありがとう。



「じゃあいくぜ?三試合目の選手はこいつらだ!まずは様々な新魔法を開発しまくってて賢者候補と噂される魔法使い!新作魔法を綴った本は既に五冊以上出版された!噂では倫理的にやばい魔法も開発したとか!?若い女にモテモテな憎い奴、アボット!!」



 呼ばれたアボットとかいう男がフィールドに上がった。黒い髪に赤い瞳の線が細いイケメンだ。

 ……うちの嫁達の方が上だね。そこまで魅力を感じない。ファンサービスなのか観客席に手を振ってる姿、そして雰囲気からしてナルシストっぽい気配を感じるし。残念系イケメンな匂いがぷんぷんするぜ。



「そして対するは!五人以上の従魔を嫁にしている魔物使いの美少女!しかも相思相愛だしそんじょそこらの男より甲斐性ありそう見習え男共!予選では何と他の選手がお互い因縁ある者同士で当たったらしく、予選なのに決勝戦並みの迫力だったとか!結果彼女以外が相打ちになり戦わないまま最後まで残ったラッキーガール、ミーヤ!!」



 呼ばれたので建物から出てフィールドに上がるが……メルヴィルさんその紹介止めてくれないかな!?恥ずかしいし色々と!色々と何かさあ!反応に困る!

 軽く観客席に手を振ると「可愛い!」「良いぞ!」「アボットの野郎をぶちのめせ!」とかいう歓声が聞こえるが…歓声か?これ。まあ歓声って事にさせてもらおう。とにかく歓声が聞こえるが、私がここに立ってるのは予選でのアレがソレだったからなんです。

 ……メルヴィルさんが言った通り、予選で何故か因縁のある者同士で鉢合わせちゃってたみたいなんだよね。そして一人しか勝ち残れないならここで決着をつける!みたいな空気になって、何か一対一の戦いが始まったのである。明らかに少年漫画の世界だったよ、あの瞬間。決勝戦、もしくは準決勝でやれやって感じの戦いだった。

 しかも見守ってるスタッフの人とかその人達の戦いと会話で感涙にむせび泣いてたもん。私一人だけ蚊帳の外感酷かった。一人ポツンと体育座りをするしか無かった。だって乱入したら殺されるでしょアレ。

 そんなわけで大人しく見守っていた結果、全員が全員クロスカウンターで相打ちになって認め合って最終回みたいな会話をして……戦いすらしてない私が勝者になったわけだ。他の人達皆満身創痍だったからね。

 …………だから前回カットしたんだよ、予選の様子。違うストーリーの最終回を五つ以上突然ぶち込むとかアホでもやらんっつーの。



「こんな可愛いお嬢さんが僕の相手とはね。僕が大会に出たのは新作魔法の試し撃ちのつもりだから…手加減はしないよ」



 正面のアボットにそう微笑まれて私のテンションは下がった。手加減っつーか、棄権するなら今の内だよくらいの台詞は言って欲しかった。言ってくれれば棄権出来たのに。新作魔法の試し撃ちをお前でしてやるぜ宣言されるとか嫌過ぎる。



「ミーヤァ、頑張ってねぇ~♡」


「ミーヤ様!ファイトです!」


「…頑張、れ……!」


「喉だ!生き物は喉を狙えば一発だぞミーヤ!」


「あと膝の裏とかの皮が薄い部分ね!関節部分!」


「背後を取れば大体は勝てるぞミーヤ!」



 観客席から聞きなれた声援が聞こえる。上からイース、ハニー、ラミィ、コン、アレク、ハイドだね?応援の女子チームと急所狙いの男子チームって感じだ。とりあえずコンとアレク、それ一撃必殺系だから大会で実戦は無理。私殺人犯になりたくないっす。

 うーん、参加賞自体はもうゲット確定したけど……嫁の応援もあるし、自分の実力の把握の為にも一回戦は勝つ気で挑もうかな。うん。



「さあ三試合目!試合、開始!!」



 メルヴィルさんのその言葉を合図に、アボットは素早く懐から棒のような物を取り出して私に投げてきた。投げるというより、棒手裏剣のような形のソレを撃つって感じだったけど。

 コケそうになりながらもバックステップしてソレを避けると、アボットは何かを唱えた。



「炎の魔力よ!刻まれし陣に集い、その術式を起動させよ!」


「は?」



 いきなり何叫んでんだコイツ。厨二病を患ってらっしゃるタイプか?と思った次の瞬間、腰に下げていた鞭が勝手に動きだし、私の足を払って背後に転がした。でんぐり返しの逆バージョンのような状態でぐるんと回ってどうにか無傷で着地し、いきなり何すんの!?と鞭に叫ぼうとした瞬間。



「あっつ!?」



 さっきまで足元にあった棒手裏剣のようなソレが、小規模な爆発を起こした。

 何だ何だ何が起きた!?情報を集めて繋いで状況確認!

 まずアボットが棒手裏剣みたいなやつを投げた!フィールドに刺さった!厨二病的な呪文を唱えた!棒手裏剣っぽいのに刻まれてた?らしい?魔法陣っぽいのに魔力がぶわって通って光った!直後炎の魔力が爆発を起こした!以上!!



「いやわかんねえよ何だ今の!」


「こらこら、少女がそんな乱暴な言葉を言ってはいけない。もう少しおしとやかな言葉を使いたまえ」


「じゃかあしいわ!誰が初対面の男の好みに合わせてやるかおととい来やがれ!嫁が居る身じゃなかったとしてもお断りじゃ!私らしい私が私は好きなんだ!お前の好き嫌いなんぞに興味は無い!!」



 腹が立ったから汚い言葉をピックアップして言い返しつつ、必死にさっきの出来事を回想する。だって今はイースの助言聞けないし、かといってわからないまま放置してたらこっちがヤバイからね!



「良いぞお嬢ちゃん!そんな優男の言う事なんか鼻で笑って蹴飛ばしてやれ!」


「身持ちが堅いのは良い事よー!」


「きゃー!アボット様の飛び道具、術式刻印石じゅつしきこくいんせきだわ!」


「今回のは起爆の術式なのね!?前回の封印術式は決まった位置に刺さないと効果が出なかったから起爆にしたのかしら!?」



 観客席から聞こえる声の中に混じっているアボットのファンらしい魔法オタクの言葉が怖い。封印術式ってなんすかソレ。つかそもそも術式刻印石ってなんですか。



「おおっと開幕いきなりアボットの得意武器、術式刻印石だー!一定サイズの石や鉄、要するに鉱物なんかに特別なカットを施し、魔法の術式を刻んだ特殊なアイテム!刻まれている術式を起動する為の詠唱と少しの魔力で発動するという、火を起こしたり水を出したり出来る魔石の上を行くアボット印のアイテム!細長い棒状な為近距離遠距離もちょちょいのちょい!え!?実況が解説臭いって?知らない人用だよ別に昨日ミーヤに対して色々押し付けちゃった部分あるから後ろめたくて罪滅ぼしの為に解説してるとかじゃねーから!マジでそんなんじゃねーから俺に向かって小石投げるのを止めろ!当たっても痛くないサイズの小石は止めろ!注意し難いだろ!」



 ありがとうございますメルヴィルさん!思いがけないところからの情報提供マジでありあとっす!いかん、ついうっかりコンビニ店員みたいな言い方になってしまった。ごめんなさい。

 だがしかし成る程、さっきの棒手裏剣は術式刻印石ってアイテムで、小規模の爆発を起こす魔法アイテムだったって事ね。つまりは殺傷力の低い爆弾という……ヤダ、あいつ超怖い武器使ってくるじゃん。こわ……。



「ふむ、ネタがあっという間にバレてしまったか。まあ知っている者は知っているから特に痛くも痒くもないが……今回術式刻印石で欲しかった情報は取れたし、別の方法を使おうか!」


「うおっ!?」



 素早い動きでこっちに迫ってきたアボットを避けようとした瞬間、またもや腰に下げたままの鞭が勝手に動いて私を空中へ放り投げた。そしてアボットの攻撃を避けたうえで距離を取りつつ、着地に失敗しそうな私を鞭は先を長く伸ばしてとぐろを巻きバネのような状態になり、



「うわっほ」



 ぼよん、と、トランポリンのように優しく受け止めてくれた。そしてそのまま優しく地面に下ろされる。え、凄い……鞭格好良い…。既に二回も助けられてしまった。

 マジありがとうございます鞭さん。と思いながら鞭を撫でると、鞭はご機嫌な犬が尻尾を振るように鞭の先を軽く揺らした。わあ、めっちゃ頼もしい。



「何と……その鞭は自動で状況を判断して動くのかい!?」


「うわ、話しかけられた」


「ゴーレムに近い形なのか?意思を持って動いているのか?自我はあるのか?魔物へと変質しているのか、最初からそういう作りなのか、意思疎通は可能なのか言語は理解するのかどこまで伸びるのかどれくらいの複雑な動きまでなら大丈夫なんだ!!?」


「うわああああコイツ魔法系のオタクだあああああ!!」



 目が!目がギラギラしてる!正気を失ったオタクの目だ!

 じりじり近付いてこようとするアボットから私はじりじりと摺り足で距離を取る。なんか、近付いたら駄目な気がする。怖い。



「興味深い武器だ……キミ!」


「なんすか」


「その鞭を研究対象として僕に譲る気は無いかな?!望むのであれば対価も払おう!」


「ふざけんなこの子うちの子ですけど!?愛着あるし何度も命助けてくれた子そう簡単に手放す馬鹿がおるかド阿呆!!」



 ハイドに捕まった時には手首を締め上げられたせいで落としちゃったけど、でもマジで頼りになる武器なんだからね!?てかこの鞭以外使えそうな武器も無いし!ブラウンさんが折角私に良いんじゃないかって売ってくれた子を研究対象にされるとわかってて誰が手放すかばーかばーか!!命の恩人は大事にしろって誰に言われずとも誰もが知ってる事だろうがばーーーーか!!

 そう思って全力で拒否すると、アボットはキメ顔でふっと笑った。



「ならば……勝ってその鞭を奪わせてもらおう!」


「おいコイツ追い剥ぎじゃねえか!ちょ、メルヴィルさん!?」


「ごめーんミーヤ、その辺は選手同士のやり取りって事でスタッフの俺は立ち入れねーわ」


「おーまいごっど!」



 叫びつつ、アボットから投げられた術式刻印石を避ける。

 あーもう、どうしよう。これ棄権出来なくなっちゃったじゃん。いや、別に棄権したからって応じる必要は無いんだけどさ……ここで!こんな事言われて!棄権するのは!今まで助けてくれていた鞭に対して申し訳ない!

 この感情、付喪神とかの考えがある日本人特有なのかね。どうなのかね。



「風の魔力よ!我が下へ集まり鋭き刃となれ!」



 また厨二臭い…って、これはガチの詠唱なんだっけ。やっべ、マジでガチだ。何かアボットが掲げてる右手の前に魔法陣出てきてるじゃん。ガチじゃん。

 …………って、あれ?



「幾つもの風の刃を作り出し、かの者を切り裂け!」



 魔法陣に風の魔力が注がれ、



「ウィンドカッター!!」



 複数の風の刃が魔法陣から私に向かって繰り出された。が、



「風魔法、とりあえず相殺」



 私は空気を切るように腕をすいっと横に振って魔法を発動させた。横から大きめの風で進路妨害をするだけの魔法だけどね。ちなみに、魔法陣なんかは出ていない。

 要するにウィンドカッターとかいう魔法を同じ風魔法で散らしただけだけど………。



「な……な……?」



 目の前のアボットは、とても驚いた様子で大口を開いて呆然としている。まるで幽霊なんて信じてないしーが口癖の人間がマジの心霊現象を見てしまった時みたい。

 というか……あのさ、疑問なんだけど…魔法陣って、何ぞや。



「なななななんと!ミーヤがアボットの魔法を詠唱も魔法陣も無しに相殺したああああ!!マジで!?人間って詠唱や魔法陣無しで魔法使えんの!?」



 えっ何それ!?



「イース!ちょっと私詠唱とか魔法陣とかまったくさっぱりわかんないんだけどどういう事!?」



 混乱して思わずいつものようにイースに助けを求めると、イースは観客席から説明してくれた。



「ミーヤには言ってなかったんだけどぉ、詠唱や魔法陣無しで魔法が使えるのはエルフや獣人や魔族や……要するに人間以外の種族くらいなのよねぇ」


「つまり!?」


「基本的に人間は詠唱や魔法陣を使わないと魔法が使えないのよぉ。詠唱で術式が刻まれている魔法陣を展開してぇ、そこに魔力を込める事で魔法を発動させるのぉ。そうすれば細かい調整は魔法陣がやってくれるからぁ、大まかな感覚でどうにかなるしねぇ」



 「術式を考える時は時間が掛けれるけどぉ、バトル中に細かい調整をしてたら死ぬわぁ。だからそういう手法になったのよぉ」とイースは言った。な、成る程…!



「何で人間はそうしないと魔法が使えないのかに関しては省略するけどぉ、ミーヤが詠唱も魔法陣も無しで魔法が使えるのはそういうスキルを持ってるからよぉ。ほらぁ、あったでしょう?」


「あ、妄想癖のスキル!」



 確かイメージがしっかりしてればしっかりしてる程正確になる…んだった、ような。まあとにかくアレのお陰で詠唱も魔法陣も無く、難しい術式のアレコレも考える必要無く魔法が使えているという事でオッケーなんだろうか。あ、イースが頷いた。オッケーって事ね。



「何かよくわかんねーけど要するにミーヤの持ってるスキルで詠唱とか魔法陣とか無しで魔法発動が可能って事だな!?確かに前例は無いわけでもねーけど実際に見るの初めてで動揺したぜあービックリした!」



 驚かせてしまって誠に申し訳ない。でも私は私でビックリしたからあいこだと思うの。

 というか改めて思い返すと、ここまで旅して来て一回も他の人間の魔法を見た事が無いのか、私。勝手に魔法ってこういうもんだってイメージがあったけど、あれだ、メリーじいさんの魔法くらいしか見た事無かったわ。あとはうちの子。

 うーわ、知らん内に常識が狂っていた……。だって今まで誰にもツッコまれんかったし…。

 ショックを受けていると、アボットが立ち直ってしまったらしい。「ふふふふふふふ」と怪しく笑みを浮かべていた。



「つまり…僕がキミを魔法で倒し!そして鞭もゲットすれば僕の方が素晴らしいという証明が出来るというわけだね!?」



 うわ嫌な展開キタコレ。さっきの呆然としてる間に頭を鞭で引っ叩いて気絶させれば良かった。

 アボットは着ていたコートを脱ぎ捨て、再び詠唱を唱え始めた。アボットの前に魔法陣が現れ、



「ウィングカッター!」



 さっきと同じ風の刃がさっきよりも数を増やして向かって来た。



「相殺」



 でもまあ正面から来てるのには変わりないからさっきと同じく相殺した。するとまたもや鞭が勝手に動き、私の背後を叩いた。



「チッ、鞭による自動防御か…!」


「おっしゃ良いぞミーヤ!すかした態度で男からの人気が低いアボットに舌打ちを出させた!アボットはどうやら後ろ手にもう一つ同じ魔法陣を出して死角からミーヤを倒そうとしたようだが残念!ミーヤには鞭という最強の武器にして盾が付いていた!アボットザマァ!!」



 メルヴィルさんの実況が私怨強過ぎて反応に困る。でも観客の受けは良いっぽいし…アボット、人望無いのかな。観客席を確認するに女性陣からの人望は高いっぽいけど、男性陣からの人望が圧倒的皆無って感じかね。



「…まあ、意識が逸れたならそれで良いんだけど」


「はい?」



 どういう意味だと問おうとした瞬間、



「炎の魔力よ!刻まれし陣に集い、その術式を起動させよ!」



 足元で爆発が起きた。

 あっ!クソ!さっきの術式刻印石か!発動しないままで刺さってたのを今爆発させたって事ね畜生!

 どうやら私に向かって発動させたわけじゃなくて、下側。つまり地面に向かって爆発させたらしく、周囲が土煙に包まれた。うっげ、煙幕って事?

 さっさと風魔法で舞い上がってる土を散らすか、と思い魔法を発動、



「させると思うかい?」


「!」



 しようとしたが、背後に気配が発生した。背後、足元にアボットのズボンと靴が見える。



「ふっ!」



 咄嗟に頭部への攻撃を避ける為に上半身を伏せ、クラウチングスタートのような体勢を取って背後の足を払うように蹴りを入れた。



「あれっ!?」



 しかし、空振った。いや蹴りはズボンに当たったんだけど、中身が無いっていうか……要するにただのズボンだ。え、身代わり!?忍者か貴様!?

 直後、ズボンとは反対方向から…つまり私の真正面からアボットの腕が伸びてくるのが見えた。ああもう!煙幕も邪魔だし……!



「風魔法、瓦割り!」



 腕を縦にして空気を切るように思いっきり地面に向かって振り、アボットごと煙幕を叩き割った。風圧って凄いよね。

 土煙は風圧によって散り、視界が晴れ、



「はい、背後取ーーーった♪」


「……え?」



 背中に、誰かの手が触れた。



「闇の魔力を与えよう。汝の忌まわしき欲望をさらけ出せ」



 っ!今何かされた!何か、魔力が刺さった!魔法か!?

 飛び退いて距離を取ると、私の背後だった場所にはアボットが立っていた。

 …………パンツ一枚で。



「…あ」



 ひらりとフィールドに落ちてくるのはさっきの風圧で高い位置に飛んで行っていたらしいアボットが着ていた上の服。…成る程、さっき私がアボットの腕だと認識したのはこれか。上の服の袖を見てアボットの腕だと思っちゃったのね。



「っじゃっねーーーだろうが!何で!パンツ一丁になってんの!?」


「僕の場合は、こうした方が実力を発揮出来るからね」



 重りが付いてる道着か何かか!?

 というかボクサーパンツなんだねアボット!そういやイース曰く勇者が広めたからこっちの世界の下着は地球とそう変わらないって言ってたね!ブリーフじゃなくて良かったよこの野郎!でも正直言って見たくなかった!何だその目に痛い原色パンツ!イケメンはイケメンだけどあんまり好みのイケメンじゃないから嬉しくない!



「さて、即効性に設定してあるからもう症状が出ると思うんだけど」


「は?どういう…」



 ドクン、と何かが私の中で脈打った。



「さっき魔法を掛けたんだ。新作の魔法でね。流石に内容が内容だから封印するつもりの代物なんだが…僕のプライドに賭けて、キミには何が何でも勝たなくてはと思ったのさ!だからまあ、キミの運が無かったと思ってくれ」



 吐きそうな、しかし吐き気とは違う感覚が込み上げてきた。私は口を押さえて地面に膝を着く。



「封印予定の新作魔法とはとんでもなく危険な魔法を使いやがったアボットの野郎!ミーヤが全然大丈夫じゃなさそうだけど一応聞くぜ大丈夫か!?」



 大丈夫なわけ無かろうが現実を見ろ!メルヴィルさんこういう時は普通に心配してくれよ!

 あ、駄目だ。これ、口が勝手に動こうとする。押さえる手も口から離れようとする。やべ、これ、操られる系だ。

 アボットはにやにやと笑いながら私を見下ろす。



「キミに撃ち込んだその魔法は、僕が知る限り最悪の闇魔法さ。この魔法の効果は」



 効果は?



「普段抑制している欲望を、無理矢理増幅させて表に出す魔法」



 コイツとんでもねえ魔法作ったうえに他人に撃ち込みやがった!

 私はツッコミたいのを抑え、歯を食い縛って耐える。



「誰だって多かれ少なかれ、良く無い気持ちを抱くだろう?商品を盗みたいという気持ち。好きな女の子を犯したいという気持ち。嫌いなアイツを殺したいという気持ち。そういった普通は絶対に抑え込むであろう本人が嫌悪する欲望を増幅させ、実行したくて仕方が無いという気持ちにさせる!それがこの魔法なのさ!」


「最悪だああああああ!!」



 メルヴィルさんが私の叫びを代弁してくれた。



「さあ、もう限界だろう?今まで閉じ込めていた思いが爆発しそうだろう?口をついて出そうだろう?ああ、喋れば治まるなんて生易しい仕様じゃないからね。欲望が満たされない限りその魔法は解けない作りになっている。口に出せば出すほど、実行したいという欲が膨れ上がるようにも、ね」



 クソ野郎が!

 この野郎、もし私が現代人らしく「人を殺したいなー」って空を自由に飛びたいなみたいなテンションで考えてたらどうする気だったんだよマジで!あれか!?私がそんな事をしようとしたらフィールドの外に出るだろうって考えか!?

 ……コイツの場合、殺人を強要したって自覚が無さそうだな。元々ある思いで本人が実行しただけだろう?とか言って本気で罪の自覚が無さそうな気配を感じる。つまりサイコパスかコイツ。やだ関わりたくない。



「い……」



 そんな事を考えていたら、もう限界が訪れていた。口が勝手に、欲望を叫ぶ。



「イースに抱き締められた時とかちゃんと抱き締め返したいけどやって良いのかわからなくて出来ない!でも抱き締め返したいし普通に抱き締めたりもしたい!!」



 私の叫びに、会場全体が静寂に包まれたのがわかる。



「ハニーの多腕、腕の付け根とかじっくり見たいし触りたいしどんな感覚なのか聞きたい!」


「ラミィの鱗をじっくりと眺めたいし寝る時に尻尾を抱き枕にしたい!」


「コンのブラッシングするの好きだけど肉球のマッサージとか肉球にクリーム塗ったりとかしたい!」


「アレクの体の骨気になるから一度しっかり見たいし触りたいし反応が見たい!」


「ハイドの額にある多眼を観察したいし指の関節どうなってるのかとか知りたい!」


「ああああああもう嫁の皆が大好きなんだよ何気ないタイミングでも好きだなって思った瞬間に額にキスとかしたいんだよおおおおおおお!!」



 抑えきれなかった魂の叫びを終え、精神的にズタボロになった私は地面に突っ伏した。頭部で地面を掘って穴に埋まりたいけどそれをする気力が無い。体力はあれど気力がマイナスだ。

 …………性癖を……叫ばされた……。

 会場の耳に痛い静けさも相まって、正直死にたい。さっきから様々な自殺の方法が脳内を駆け巡っている。……これで従魔の皆にドン引かれたら、明日から生きていける自信無いぞ…。



「ミーヤ!」



 今までは普通の声なのに何故か届いていたイースの声。それが、大きな声として私の耳に入って来た。



「抱き締めるのも抱き締め返すのもぉ!ミーヤからなら大歓迎よぉ!!」



 え、



「マジで!?」


「マジよぉ!そもそも断る理由も嫌がる理由も無いわぁ!寧ろミーヤから抱き締めてもらえるのはとぉっても嬉しい事なのよぉ!」


「マジか!!」



 それは嬉しい!つまり我慢しなくてオッケーって事じゃんね!?

 鬱々としていたメンタルが回復し、私は笑顔で立ち上がる。本人からの肯定程信用出来るものは無いからね!その本人がオッケー出した以上私は我慢する必要が無い!つまり今言った事を後悔する必要も無い!いよっしゃああああ!!

 すると、イースに続いて他の皆も叫びだした。



「ミーヤ様!腕の付け根だろうが触覚だろうが複眼だろうが羽だろうがどこでもお好きな部分をお好きなようにしてください!ミーヤ様の望みを叶える、それこそが私の最高の幸せです!」


「ラミィ……ミーヤ、に…鱗、触られるの、好き…!尻尾、抱き締めて、寝る……の、ラミィ、して欲しい……!」


「べ、別に俺はブラッシングするの好きって言ってもらえて喜んだりなんかしてねえからな!?ただ、その、肉球はかなり重要な部位だから、だけど、その………ミーヤがしたいって言うなら仕方ねえから好きなだけ触れば良いんじゃねえの?!」


「やだミーヤってばそんなにも僕の体に興味津々だったの!?言ってよ!ミーヤだったら脊髄も肋骨も好きなだけ触って良いよ!何だったら超特別な、鎖骨の下から手を入れて魂なのに肉が残ってる部分の内側に触ったって良いからね♡」


「確かに前はミーヤに嫌われるかも知れないから自分の目の多さが嫌だったが、ミーヤは好きって言ってくれたからな!既にそのトラウマは克服してるぞ!好きなだけ目を観察してくれて構わないし手だって好きにしてくれて構わない!その間我は好きなだけミーヤを見ていられるからな!」



 う、うわわわわわ……。私中々にやばい事を言った自覚があったんだけど、それをあっさりと笑顔で受け止めてくれる私の嫁達凄え…。



「ミーヤ!」



 イースが叫ぶ。



「ミーヤが私達を愛してるって叫んだようにぃ、私達だってみぃんなミーヤを愛してるわぁ!だからぁ」



 「我慢なんて、しなくて良いのよぉ♡」という言葉に、顔がにやけた。

 ああもう、もう、こんな事言われて喜ばん夫は居らんだろうがよ。駄目だ、表情筋が緩みきっている。めっちゃにやにやしちゃってる。口角が上がるのを抑えられない。



「くっそ…私の嫁達、最高過ぎる…」



 にやける口元を押さえつつ、私はアボットに視線を向ける。

 アボットは今のやり取りに動揺を隠しきれていなかった。ははは、そりゃあこんなアホみたいな事言い出す奴が居るとは思わなかったよね。そしてその欲望が受け入れられた事により、魔法が解除されるとも。どうやらこの魔法、欲望が満たされたら…つまり、肯定されて受け入れられる事でも解ける仕組みだったらしい。

 良かったね、新しい情報が手に入って。



「な、何かよくわからないけどミーヤが嫁達への愛を叫び、嫁達がそれを肯定した事でアボットの最悪クソ闇魔法が解除されたっぽいぞ!愛凄いな!?」



 復活したメルヴィルさんの言葉に、会場から歓声が沸いた。ちょっと恥ずかしい。だって私からすると性癖叫んだだけだからね。そしてそれを受け入れられたって話だからね。お陰でにやけは治まったけど赤面しそうだわ。



「さて、貴方のとっておきっぽい魔法、どうにかなっちゃいましたね。発揮した実力でも私に負けちゃったみたいですけど、どうします?続けます?」



 私はアボットにそう問いかける。正直言って私は今すぐ引っ込みたいからさっさと参ったとか言ってくれないかなって思って…。しかし、アボットはまだ戦意喪失していないらしい。パンツ一枚で格好つけたポーズを取った。



「実力だって?あれは煙幕の中で使った魔法……実力とは程遠い。何故なら僕の実力は」



 アボットは瞳を細め、ミーハーな女子ならキャーキャー言うであろう蠱惑的な声で言う。



「僕の実力は、性的興奮によって高められるものなのだから…!」



 ……内容は、最悪だったが。

 アボットは恍惚とした様子で続けた。



「己の素肌を見られるという快感!それによって僕は潜在能力を引き出す事が出来る!そう、つまり!」



 アボットは両手を広げて叫ぶ。



「露出面積が多ければ多い程僕の潜在能力が引き出され、魔法の威力が高まるのさ!…そして!」



 パンツ一丁のアボットは、パンツに手を掛けた。

 ……って!



「これを脱ぎ去った時!この観衆の中で全てを見られるという快感により!僕は百パーセント以上の力を出す事ができ」


「子供も見てる場所でんなモン見せられて堪るか土魔法生き埋めぇぇええええええ!!」



 付け根がこんにちはしかかっていたアボットは、一瞬にして盛り上がった土によって生き埋めになった。現在フィールドには、私と、人間サイズに盛られた土だけである。

 ……は、反射的に、埋めてしまった…。

 やべ、これハイドのトラウマの一つだったりしないよね!?と思って従魔達の方に視線を向けるが、特に問題は無いようだった。ほっ。



「…あっ」



 状況が飲み込めたらしいメルヴィルさんが叫ぶ。



「露出狂野郎だったらしいアボット!生き埋め!子供達の健やかなる成長を守りきったミーヤの勝利だ!!」



 わあああああっ!と、観客席から歓声が響いた。……これ、この濃度でまだ一回戦なんだぜ…?

 とりあえず観客席に手を振って、イース達にブイッとピースサインをして見せ、



「あ、メルヴィルさん」


「ん?」



 ふと気付いた私は、メルヴィルさんに声を掛けた。



「生き埋め解除してアボットを救助した方が良いですよね?」


「ミーヤ」



 メルヴィルさんは私の肩を掴み、



「あれはギリギリまで生き埋めにしておいてくれ」


「あいあいさーであります」



 頷く以外の選択肢が無いとわかる真っ黒い笑みでそう言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ