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待ってちょっと想定外



「さあ始まったぜ武道大会一般部門!!司会か実況かわからんがとりあえずの司会&審判役はギルドの職員であるこの俺!メルヴィルが勤めさせてもらうぜ!あ!そこの奴等今「巻き添え食らって全治三ヶ月に銅貨一枚」って言っただろふざけんな!誰が優勝するかの賭けなら暗黙の了解で許されてるけど俺が怪我するかどうかを賭けるなよ!お前が好きな女の子口説き落とすぞこのヤロー!!」



 「ふざけんな口説き芸人!」と、メルヴィルさんに指を差された人から野次が飛んだ。そして観客席がどっと笑いに包まれる。成る程、何故メルヴィルさんが司会役なのかと思ってたら客を沸かせる為なのね。納得。

 え、今何処に居るのかって?武道大会の予選を突破して本戦であるトーナメント会場に居ます。

 いや…うん、予選の描写はカットだよ。カットするしか無かったもん。後で回想するからその辺の説明は後回しにさせて欲しい。まだ不完全燃焼感が抜け切ってないんだ。一体私は予選で何を見せられたんだよ…。

 ちなみにだが、午前中から昼にかけてが一般部門の時間らしい。一般部門のトーナメントが行われている間に獣人部門の予選をやって、昼休憩が終わった後に獣人部門のトーナメント。そしてその後にプロ部門だとか。プロ部門に関しては予選をすると被害が凄い事になるから、運も実力の内という事で出場者はクジで決めるらしい。まあ、数もそこまで多くないっぽいしね。



「つーか野次止めろ!これから王様の挨拶です!はい!観客が黙るまで三分以上掛かりました!司会者は己の人望の無さが悲しいわ王様の人望が高くて嬉しいわで複雑な気分です!」



 先生か。

 現在私は控え室に設置されている魔道具で会場を見ているけど……本当にメルヴィルさん適任だね。進行が面白いし、進行が遅れた時にゴリ押ししても問題無いキャラクターだし。進行や言葉選びが下手な人だとぐだぐだになるから本当にナイスな人選だと思う。

 すると、魔道具から映し出されるホログラム……いやまあ、見た目は完全にテレビでしかないんだけど。とにかく魔道具からの映像に、王様が映った。金髪に緑の目をしたおじ様だ。いや王様だけど。

 王様はマイクのような魔道具を持ち、話し始める。



「ツィツィートガルの王、ルイ・マティアス・ロイド・ベイルである」



 おおう、渋い声。見た目とも合わさってとても渋い。目元は優しげだけど、目つきキツくして黒いスーツ着たらハードボイルドな暗殺者って感じの見た目だ。え、よくわからない?要するに渋くて格好良いって事です。語彙が無いって悲しいね。



「本来ならここから十分くらい掛かる長い口上があるのだが、正直噛みそうで仕方が無いし、面倒だし、時間を無駄に消費するので無くす。大体あの口上、纏めると「今年もこういう祭りを開けるのは皆のお陰ですありがとう」という意味だからな。こうすれば一行で済むから今年から止める事にした」



 王様の言葉に、観客席から声が飛んだ。



「良いぞ王様ー!」


「柔軟!柔軟な考え方が出来るのは若い証拠ですよー!」


「俺毎年アレで寝ちゃって一回戦見逃してたんで助かります!」


「口上の内容凝ってたのに対して噛みそうとか面倒って正直に言えるその精神流石でーす!」



 おー、凄い。人望が厚いね王様。民を大事にして民に愛されるって結構難しい事だと思う。それが出来てるってかなり凄いな王様。



「ああ、それと本日は我が娘のお披露目も兼ねている。第四王女が10(とお)になったのでな。前から自慢していたが、この子は本当に頭が良い子で」


「お父様、魔道具を。時間が押してしまいますので自分で自己紹介致しますわ」


「ん、出来るか?」


わたくしはもう10歳ですのよ?当然ですわ」



 カメラ…カメラじゃなくて魔道具か。まあとにかく映像が王様から王女様へと移動した。

 私は何だか聞き覚えがある声だなーと思いながら魔道具の映像を見ていたら、



「…皆様、始めまして。どうやらお父様が私に関して前から色々とお話していたようですが…私がツィツィートガル第四王女、セレスティーヌ・ヴェラ・ベイルですわ。どうぞよろしくお願い致します」



 映った王女様の姿に、私は椅子ごと床に倒れこんだ。

 待て待て待て待て待てーーーーーい!!思いがけない展開に思わず新婚さんがいらっしゃいませする番組の司会の人みたいに派手に椅子ごと転がってまったやないかい!あの番組まだやってるのかなどうなのかな知らないけど!

 旅行とかたこ焼き一年分とかタワシとかの景品あったな、なんて思考の片隅で現実逃避をしつつ、未だホログラムに映っているお姫様を注視する。

 カラー付きだから本気でテレビにしか見えないホログラムに映っているお姫様は金髪に水色の瞳。私の記憶にある貴族のお嬢様としか聞いていないセレスは銀髪に緑の瞳だった。ゆるふわロングな髪をツーサイドアップにしてるとか、目がパッチリしていて可愛らしいとか、面影があり過ぎるとか、そういう一致はあるが……髪色と瞳の色が違う!つまり別人!

 ……あ、駄目だ。確かタバサが光魔法による色の屈折だか何だかで髪と瞳の色を変えてるって言ってたわ。つまりセレス、本当は銀髪緑目じゃない。金髪水色目でもおかしくない。

 いやいやいやいや同一人物って可能性だって百パーセントじゃないし!別人の可能性の方が高いし!ホラ、あの、あれだ!王族なら親戚の十個や二十個あるだろうしさ!数え方が個であってるかは知らんけど!だがまあ親戚だからこそ双子かなレベルで瓜二つになる可能性も異世界からトリップするくらいの確率はあるだろうしさ!ホラ!ここに異世界トリップを経験した人間居るし!つまり有り得んわけとはちゃうねんよ!せやろ!?何処の方言なんだこれは!(パニック)



「落ち着け私、クールダウン。クールダウンしろ私」



 一先ず深呼吸をして宇宙の真理についてを考え津波状態だった精神を穏やかな波レベルまで落ち着かせる。よし、落ち着いた。流石は宇宙。

 ……ここにイースが居てくれたらガチで同一人物かどうかっていう確認が取れるんだけどね。従魔は控え室に入れるのもアウトらしくて、皆は観客席に居る。久々の一人でとても寂しい。コブジトゥの時は単独行動が原因であんな事になったからより一層一人が不安で仕方ない。しくしく。

 まあ、うん、ほら、あれだよ。セレスは王族の親戚だったんだよ。その説はまだ諦めないからね。確信が無い限り言い張るからね。まあとにかく、だから報酬が高かったんだね。王族関係者なら白金貨一枚を出してもおかしくな……いや、高い気がするけど、とりあえず納得しておこう。うん。

 メルヴィルさんがセレス達に対してああも恐縮した感じだったのも、きっと王族の親戚だったからなんだ。お姫様本人だからあんなにもビクビクしてたんじゃないかって可能性がさっきからめちゃくちゃ主張してくるけど、知らん。

 きっと私がお姫様の顔を知ってたらセレスとセレスティーヌ姫様の顔ソックリじゃね?って関係性に気付いちゃうから、メルヴィルさんは貴族に疎くて王族にも詳しく無い私に頼んだんだろう。姫本人だからこそ金持ちの事に疎い私なら安全だろうと考えたとかそんなまさか。無い無い。さっきから冷や汗と震えが止まらないが、これはあれだ。武者震いだ。汗は武者震いでちょっと代謝が良くなって出てきただけだよね、多分。

 必死に自分を誤魔化していると、扉がコンコンとノックされた。同時に向こう側から声が聞こえる。



「すみません、トーナメントの順番が決まったので報告に来ました。入っても大丈夫ですか?」


「あ、はーい」



 そういや誰と当たるか、とかはいざ出場するまでわからないようにされてるんだよね。始まる前に潰そうとする人が出ないようにする為の策だってイースが言ってた。……やろうとした人が居たんだろうね。

 なのでこうやって始まる前に出る順番をスタッフさんが通達する形との事。

 先に説明をされていた為、とりあえず椅子と共に床とお友達状態を解除して座り直しつつ返事を返した。あはは、立ち上がる気力が蘇って良かったわ。白目になんてなってないぞよ。

 そしてスタッフの人が扉を開けて入って来て、



「よ、ミーヤ。昨日ぶりー」


「何でやねん!!」



 ヘラリとした笑顔で入って来たのは、スタッフではなくタバサだった。いや、わかってた。声に聞き覚えあったもん。それでもきっと気のせいだと思ってたのに何故このタイミングでここに来てんだよお前は。バイトか?スタッフのバイトでもしてんのか?



「……とりあえずタバサ、何で居るのって聞いても良い?」


「それは俺がセレスティーヌ姫様の付き人だから♪部下に頼んでミーヤへの通達役を代わってもらって実はセレスお嬢様はセレスティーヌ姫だったんすよーっていうネタバラシをしようかと」


「ぐあああああああ!!」



 畜生やっぱりご本人だったあああああ!!

 私は両手で顔を覆って天を仰ぐ。うふふ、天井しか見えないね。お空が無いね。



「大丈夫か?」


「試合前に精神バッキバキじゃい」



 でも納得だよ。通りでお忍びのはずのセレスが全然貴族らしさを隠さなかったわけだ。貴族がお忍びで庶民の振りをするなら、王族はそりゃ当然貴族の振りだわね。ワンランク下げるんだから。

 ぐおお……まったく気付けなかった…!だって!だって貴族って聞いてたから!接してて何か物凄く凄い貴族の娘なんだなーとは思ってたけど!だからって王族とは思わんでっしゃろがい!



「……タバサ」


「はいはい?」



 顔を覆っていた両手を下ろし、私はタバサをじっと見つめる。



「セレス呼びとか敬語無しの喋り方とかさ、あれ、不敬罪でギロチンされたりする?」


「されねーから」



 即答だった。

 タバサは呆れたような目で私を見ながら、軽い仕草で手を横にヒラヒラと振る。



「そもそもセレス呼びもタメ口も姫様が言った事だろ。本人は姫扱いされると距離を感じるから好きじゃ無いっていつも言ってるし、だからこそミーヤがふつーに接してくれたうえに頭撫でてくれたりして嬉しかったみたいだし。それを不敬だって言う奴の方が不敬だっての。姫様自身が認めてる事なんだから」


「なら良かった…。あー、首落とされるかと思った」


「落とさねーっての」



 タバサはケラケラと笑い、空いている椅子に座った。



「あと、姫様からミーヤに伝言。「おわかりでしょうが、このような事情があって素性を隠していたのです。嘘を吐いてしまい申し訳ありません。もしこれで私を嫌いになられたのでしたら、もうミーヤ様には関わらないと誓います。ですが、もし嫌いになったので無いならば…これからも、セレスと呼んでくださると、私はとても嬉しいです。勿論、敬語も無しで。出来る事なら、今後もミーヤ様と良い関係を続けたいと思っております」って。これが俺がここに来た本題」


「よくまあそんな長い言葉記憶出来たね」


「声真似の方を評価して欲しかった」



 ごめん、私記憶力があんまり良く無いからそっちに気を取られちゃって。声真似に自信があったのね。確かに結構似てたと思うよ。男声だから根本的な違いが明確だけど。



「あ、それと追加の伝言もある。「回復の剣、確かにミーク様にお渡し致しました。とても驚いているようでしたし受け取り拒否をされそうでしたが、どうにか説得して受け取っていただきました。あの剣のお陰でこれから教会での治癒が可能になると喜んでいましたよ」ってのも伝えてくれって」


「タバサ声真似上手だね」


「その言葉が欲しかった」



 嬉しそうな笑顔でサムズアップをされたのでこっちもサムズアップで返した。今度の返答は合ってたようで何よりだ。



「で、ミーヤとしてはどーする感じっすか」


「何が?」


「うちの姫様との関係」


「ああ」



 そういや嫌いになったのなら、とか嫌いになったので無いならばって言ってたね。そりゃ勿論、考えるまでも無く、



「今まで通りで良いなら今まで通りでお願いしたいかな。事情が事情だし、セレスに非は無いし、10歳とは思えないレベルでしっかりと仕事こなしてたし。貴族である事を笠に着て見下しまくりなわがまま放題な子供だったらノーセンキューだったけど、セレスは会話してて嫌じゃないし」



 ……うん、



「嫌いになる理由が無いから、これからも是非仲良くしてねって返しといて」


「一国の姫相手にそんな軽い返答出来るのミーヤくらいっすよね」



 「フツーは怯えや下心なんかがあると思うんすけど」と言われても、これが正直な気持ちなんだから仕方ない。それにセレスは嘘を吐いたって思ってるみたいだけど、ミサンガは別に反応してなかったんだよね。

 貴族だって言ってたけど実は王族だった。でも広義で言えば大して変わらない。私みたいな庶民からすれば尚の事。貴族も華族も王族も豪族も全部「何か凄そうなやつ」でしかない。意味なぞ知らぬわ。

 そして孤児院に対しての想いにも嘘は無かった。ラ……何だっけ。何か悪い貴族?に対しての怒りも本物だった。セレスが私に対して接する時も、嘘は無かった。そりゃ素性を隠してはいたけど、それ以外は全部本当だった。頭を撫でられて喜んでるセレスも、本当。

 だからまあ、本気で嫌う理由が無いっていうね。



「ま、ミーヤがそう言ってくれるのは姫様の付き人である俺としては助かりますけど。たった一日一緒に居ただけで、姫様があーも心を許すなんて初めてですし。俺ですらもうちょっと掛かったってのに」


「マジか」


「マジっすよ」



 ……逸脱者のハートキャッチガールの称号と称号に気に入られた人間って称号が合わさってビッグバンでも起きたのかも知れない。称号に気に入られた人間の効果、称号の効果が倍々ゲームって感じの説明だったし。



「……そういやタバサも貴族系だったりするの?」



 ふと気になって私はタバサにそう問いかける。いや、本当にふと気になって。貴族だったらここまで緩い雰囲気になるか?って思ってさ。

 タバサは「んー?」と特に気にしていない様子で答えた。



「いやいや、俺はただの一般庶民っすよ。丁度十年前に姫様が生まれて、付き人とか教育係とかを王様が探してたんだ。んで一般人も自信があるなら参加オッケーなやつだったんで、俺のスペックの高さを知ってる親が「お前こんな庶民で人生を終わらせるな!お前の才能マジでめっちゃもの凄く凄いから自慢してくるつもりでいっちょ行って来い!」って言って参加させたんすよね」


「王女様の付き人やら何やらの選考にそのノリで送り出した親御さん中々ですね」


「似てるだろ?」



 確かに似てる、と同意の意味で頷いた。

 でも庶民の生まれなのか、タバサ。何となく納得だけど、庶民の出で一国の姫相手にああいう距離感と態度って凄いよね。だからこそセレスは気に入ってるんだろうけど。



「あ」


「ん?」



 ふと魔道具で映し出されている映像の方を見たタバサはあんぐりと口を開けた。その反応に私は首を傾げる。え、何?会場で何かやばい事起きてた?

 映し出されている映像を見ると、どうやら試合が終わったところだったらしい。フィールドの外で片方が気絶していて、もう片方はフィールドの上でガッツポーズを決めていた。

 ありゃ、見せ場が終わっちゃったのかな?タバサの反応からして凄い決め技でもしたんだろうと思ったんだけど……残念だ。そう思ってタバサの方に視線を戻すと、タバサは「やっべ」という表情で言った。



「…次、ミーヤの番だ」


「ほわっつ?」


「いや、うっかり順番の報告忘れてたんだけど……今の奴等二戦目で戦う奴等で、ミーヤは三戦目に戦う事になってる」


「……つまり?」


「参加者の怪我の手当てとかフィールドの掃除とかの為に数分クールタイムがあるけど、すぐに次の戦いが始まります。このままのんびりしてると不戦敗になるな」


「お前何しに来たんだよ!?」


「マジごめん!!」



 タバサが本気で申し訳無さそうに頭を下げ、その頭突きによって机が割れた。おいコラ、脅しか?許さないとお前の頭も真っ二つ宣言かコラ。

 かと思ったが本気の謝罪だったらしい。タバサの周りの空気がしょんぼりとしている。ペロッ、これは……つまみ食いして怒られた犬と同じ空気!なんてふざけてる場合じゃないであります!

 正直言って参加出来た時点で参加賞は貰えるから目的達成してるけど、だからって敵前逃亡したと思われるのは嫌だ!棄権は良いけど戦う前に負けるのは嫌!



「ああもう!後で正直にセレスに話して怒られろよタバサ!一回戦目、勝てる気はせんが行って来ます!」


「いってらっしゃい気をつけてな!」



 タバサの声を背中で受け止めつつ、私は控え室を出て近くに居たスタッフさんに道を聞いてフィールドの方へと走る。出来れば穏便に棄権させてくれる相手でありますように!

 というかその前に間に合いますように!!



貴族のお嬢様かと思った?残念!第四王女でした!

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