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魚をやるか、釣りの方法を教えるか



「…………とても疲れたであります」


「ふふ、ですがとても助かりました。他の冒険者ではこうも良い結果は出なかったでしょうし…ミーヤ様には、どれだけ感謝してもし足りませんわ」


「そっすね、それは確かに。ミーヤの交渉のお陰でトントンびょーしに事が進んだって感じですし、怪我人の回復とかも俺らじゃ光魔法のプロを呼ぶ以外の手段無いからすっげー怯えさせるかもだったし。あと話し合いしてる間に他の子の面倒見ててくれたのも超大助かり」


「そいつはどーも」


「ミーヤ様、ジュースに蜂蜜を混ぜましたので飲んでください」



 ハニーから蜂蜜入りジュースが注がれているコップを受け取ってごくごくと飲み干す。うん、美味しい。ちょっとメンタルが回復した。

 現在私達はギルドの個室に居た。孤児院の色々が終わったのと、日が暮れ始めたからである。ちなみに今はセレスのお迎え待ち。ついでに私達一行の意見も色々聞かせてくださいねタイムであります。

 いやー、孤児院のあの後も色々と大変だったよ。

 全員からセレスが話を聞き終わった辺りで夕食が完成して皆で食べたり、アイリスが自分で切ったやつをミークさんに見せたらミークさんが感動で泣き出したり、色々あった。

 ……うん、



「あ、アイリス……!貴女、今まで包丁を持ったらここに来る前に貴女を虐待していた父親を刺した時の事がフラッシュバックするからってまともに包丁を握れもしなかったのに……!包丁を持たせた瞬間に目が死んでガタガタと震え始めて危ないからってキッチンには近寄ろうともしなかったのに……!何て嬉しい事でしょう!」



 ってミークさんが言った時には私の目がまた死んだよね。アイリスのとんでもねえ過去を聞いてしまった。即座に直前にセーブしたトコからロードして記憶をリセットし、そんな過去情報イベントはログにありませんね状態にして事なきを得たけど本気で焦ったよ。いきなりの暗い過去イベントは地雷です。オーケー?

 まあそんな感じで夕食を食べながらそれぞれの報告会って感じになり、食べ終わってから孤児院を出てギルドに戻って来たわけだ。出る時に何か改めて正式な手続きがどうのこうのとセレスが言っていたが、明日の早朝、武道大会が始まる前に公的なアレで行くらしいから私は無関係である。なのでよく知らん。関係無い事は関わらない為にも聞き流しておくのが長生きのコツである。私は亀。



「では早速!迎えが来ない内に色々とお聞きしてよろしいでしょうか!」



 キラキラ笑顔で張り切った様子の美少女にそう言われて答えずにいれる奴は熟女専かデブ専かブス専くらいしか居ないだろう。アレ?結構居るな。でも私はセレスの顔が結構可愛くて好きなのでこの笑顔は効果抜群。急所にヒットしました。おい何か違うゲーム始まってるぞ止めろ止めろ。駄目だ疲労で思考が纏まりやがらん。でも私よりも色々と考えて働いていたセレスはピンピンしてるから歳の差を感じるね。若いって良いな。たったの七つ違いでここまで差が出るって悲しい。



「……良し、質問カモン」


「それではまず孤児院に関してなのですが、どういった援助をすれば良いと思いますか?寄付金は既に確定している事ですし、どういうお金の使い方をするのがおすすめかという説明もする予定です」



 「子供達から日常の過ごし方を聞いたので、的確なアドバイスが出来ると思いますし」とセレスは続けた。



「ですが!他にも援助しなくてはならない事は沢山あるはずなんです!ですので是非とも案を下さい!私だけの意見では大人達が大人達だけの凝り固まった考えで判断したうえで許可や不許可が決まりますが、一般の方の意見も反映されているとなればあの頭でっかち共も少しは新鮮な発想という物を考えるでしょうし!」


「つまり案が通りやすいって事っすね。匿名扱いにしとくんで安心してミーヤワールドの世界観で色々語っちゃってください」


「タバサから見て私はそんなにも変人なの?」



 新世界が生まれてる級の変人に見えるってかこの野郎。変人の称号持ちだから間違っては無いけどさ。

 まあそれは置いといて、



「案、ね」



 うーむ、と私は腕を組んで首を傾げる。

 援助は色々と必要だとは思うけど……そうだな。



「まず服はハイドのお陰でどうにかなったから良いとして、他かな」


「他とは?」


「料理とか掃除とか。イース達のお陰で今日一日勉強会みたいな事が出来たけど、あくまで一日に基礎を詰め込んだだけだから最低限の知識でしかない。つまりは付け焼刃って事なんだけど……だから、月に一回とかで良いから先生役の人を呼べると良いなって思う」



 そう言うと、セレスがタバサにアイコンタクトをし、タバサは無言でセレスに頷きを返して持っている紙にペンを走らせ始めた。そして書き終わったのか、二人の視線が再び私に刺さった。ああ、はい、続きですね。



「今の段階ではあくまで自分達の分を賄えるようになっただけで、手に職があるかと言われると微妙なラインだと思うんだよね。だから月に一回で良いから先生役の人に頼んで料理の勉強会とか、掃除の勉強会とか、そういうのを開くのが良いと思う」


「具体的には?」


「そうだね…」



 これは普通に元の世界風で良いかな。料理教室みたいな感じで。



「他の一般の人も参加費を払えば勉強会に参加可能ってのはどうだろう。場所は教会を使う事にすれば広さもあるしで良いと思う。場所を提供してもらう代わりに教会の子は無料で、って言えばミークさん達も参加しやすいだろうし」



 ただ……。



「ここでの問題は材料かな。料理には食材が、掃除には掃除道具が、修繕やらにも木材が必要だし、勉強には本も必要だけどまず紙やペンが要る。刺繍の場合は布と針と糸が沢山必要だろうしね」


「確かに、そこは問題ですわ。こちらとしては無料で提供しても構いませんが、そうすると後々問題になりかねませんもの」


「だよね」



 料理教室の場合、言われた材料を持参する形が理想的だ。主催側が参加費と共に材料費を受け取ってるならともかく、参加費のみ、かつ材料負担ってのは良く無い。あと多分しばらくすると参加してない人からアレコレいちゃもんを付けられる可能性がある。優遇され過ぎとか、何かそんな感じの奴。



「そうなると……」


「何か考えがあるのですね!?」


「顔が近い」



 セレスがテーブルに手をついて顔を急接近させて来たので少し仰け反る。すぐにタバサがセレスの襟を掴んで座り直させたから良かったものの……いや、付き人がお嬢様にその扱いは良いんだろうか。まあ良いか。タバサだし良いって事にしておこう。



「とりあえずの私の案としては、色んなお店にも協力してもらうってのはどうかなって感じ?」


「協力、ですか?」


「うん。例えば料理の時は食材のお店。売れ残った分や、形が悪くて売れないような食材を売ってもらう。勿論品質はちゃんとしたやつが良いけどね。そういうのを纏めて買えばお店からすると在庫処分が出来て収入もあるから良いし、主催側からすれば食材が安価で沢山手に入るし、参加する側からすれば材料を用意する手間が省ける。この場合は参加費に材料費を含めるも含めないも主催側次第かな」



 まあ、このやり方なら材料費分をプラスしてもそこまで高くならないと思うけど。



「……いえ、材料を安価で手に入れる事が出来れば参加費に材料費分をプラスしても負担は少ない…。これは材料費分もプラスした方が後々のトラブルを回避しやすいかも…」



 あ、セレスも同じ考えか。というか本当に聡明だねセレス。頭が私より良くてビックリだよ。こういう聡い娘さんが居るなら貴族の未来は安泰だわ。

 そう考えながら私は「他にも」と続ける。



「その辺で処分される予定の廃材とか、壊れたから捨てる予定の机とかを貰って来て修繕の練習台にするって案もあるね。元から廃材なら失敗してもまたやり直そうって思いやすいだろうし、成功してちゃんとした物になれば持ち帰りも出来る。不要だったとしても分解の仕方を学ぶのに使えば良いし、分解した後の木材とかはまた材料になる。それなら新しく木を切ったりとかしないで済むからコストもかなり少なくなるんじゃないかな」


「まあ……!廃材を用いて教材にするのは思いつきませんでしたわ!でもそれを実現出来たなら不用品の不法投棄は減り、修繕の方法を知る者が増えるという一石二鳥……いえ!教材となる木材を用意するという手間、廃材を使う事によるコスト削減を考えると一石で群れを仕留めれるレベル……!!流石ですわミーヤ様!!」


「あっはは」



 いや、これ単純に貧乏人の考えって気がするけどね。無料のパンの耳を貰って来て素揚げにして砂糖まぶしてお菓子のかんせーいってやってた庶民だからさ、こういうリサイクル系の案が出るんですよ。ええ要するにやりくりしてたお姉ちゃんのお陰です!ありがとうお姉ちゃん!



「あとは……勉強に関しては文字の読み書きを覚える初級、広範囲の必要な知識を教える中級、専門的な知識なんかを教える上級って感じでクラス分けして勉強会を開くのが良いかな?何に対して専門的かは考えてないけど」


「そうですわね……上級に関しては、他の事を教える際に意見箱のような物を設置しておいて、意見が多かったものを時々開催する、というのが良いでしょうか……これに関しては持ち帰って色々と検討した方が良さそうですわ」


「でも初級、中級、上級って分けるのは頭良いな。それなら文字の読み書きを教わるって事に対するハードルが下がるから、大人になって文字の読み書きが出来ないのはって悩んでる奴も足を運ぶかも。一応メモっときますね」


「頼むわ、タバサ」



 さらさらっとタバサが紙にペンを走らせた。既に何枚か紙を交換してるけど、そんなにも書く事あった?私そこまで大した事言って無くない?完全に何も知らない奴が料理教室とかってこんな感じだっけ?受ける側、主催側の目線で考えるとー……って考えながら言ってるだけだよ。妄言に近いんだけど本当にこんな意見で良いんだろうか。



「それでミーヤ様、他には?」


「目がギラギラしてる…」



 貴族のお嬢様の目じゃない。飢えた肉食動物が獲物を見つけた時の目だよ、それ。



「他にはって言ってもね…。刺繍とか縫い物系なら近所から要らなくなった古着や布を貰って教材に使うと良いんじゃないって程度だし……」



 あ、いや、ちょっと考えてる事はあったわ。



「そういえばさ」


「何でしょう?」


「あの教会、広い庭とちゃんと綺麗な水が沸いてる井戸があるんだよね」


「ああ、コン様が仰っていましたね」



 そう、そして畑の匂いはしないとも。



「誰か畑に詳しい人に先生役頼んで、畑作れないかな?勿論ミークさん達の意見次第ではあるけど、畑があると食べ物の蓄えが出来ると思うんだよね。少なくとも土地と水はあったし、草花も生えてたから畑に適してないわけじゃないと思うし」


「確かに………」



 私の言葉に頷き、顎に手を当てて色々と案を練っているらしいセレスは、ふと閃いたように顔を上げた。



「……!そうだわ!」



 セレスは輝かしい笑顔でタバサの方に視線を向ける。



「タバサ!確か植物の研究をしてる方が居たわよね!?」


「ああ、成る程。確かに居ましたね、植物の品種改良とか適した土地とかを調べたいけどこれ以上庭園に植物は増やせないって嘆いてた奴が。あの人なら危険性の低い植物しか育ててない分安全だし……はい、一応書き留めておきます。でも明日色々と話し合って、ミークさんが許可出すかどうかっすね。一応オッケー出た時の為に研究家の方も土地を必要としてるかどうか、探りを入れるように部下に指示出しときます」


「お願い!」



 おおう、トントン拍子に事が進む。異世界のふわっとした知識で語る私、頭が良いお嬢様、そしてハイスペックが揃うとこうなるのか。……私だけ足手纏い感ハンパ無いが気付かない振りをしておこう。



「……ミーヤ様」


「ん?」



 呼ばれたままにセレスに視線を向けると、さっきまではしゃいでいたはずのセレスはとてもお嬢様らしいお嬢様モードになっていた。どういう事かわからんって?凄くお嬢様してるって事ですよ察せ。



「ミーヤ様は、素晴らしい方ですね」


「何処が?」



 言っておくけど、私程素晴らしいって言葉と縁遠い奴そうそう居ないよ。素晴らしいのは私の従魔兼嫁達。私は付録。あーゆーおーけー?

 そんな事を思いながら本気で意味がわからんという顔を隠さずにいると、セレスはくすくすとお上品に微笑んだ。



「だって、ミーヤ様は孤児院の子達が生きて行くのに必要な術を教える案を出しているではないですか。私が考えていた案は、物資を無料で渡すという…ただそれだけの案でした。ですが、それでは彼ら彼女らが成長する事など無いでしょう」



 …………腹を空かせた人間に、魚をやるか、釣り方を教えるかってやつかな。

 腹が空かせた人間が居るとして、魚をくれてやればその人はその日一日飢え死ぬ事は無い。しかし翌日にまた魚をくれてやらなければ死ぬだろう。

 しかし、釣り方を教えれば魚をくれてやる必要は無い。何故なら釣り方さえわかれば、それから一生自分で魚を釣って食っていく事が出来るからだ。そしてそれがその人の子孫に受け継がれていけば、その人の家系は皆飢える事が無くなる。

 この場合だと食べ物をやるか、料理の作り方を教えるかって感じかな?



「ミーヤ様のその考え方に、私は敬意を表しますわ」


「ミーヤのお陰で、おじょーさまの今後の方針も決まったみたいだから俺も大感謝だな」


「へ?」



 おい待て、今凄い事言わなかった?

 タバサはニヤニヤと笑いながら私を指差す。



「今までお嬢様はとにかく誰かを助けようとしてたんだ。しかし、今回の事で助けるんじゃなくて生きて行く為の術を教える方がその人の為になるって学んだ。自分の身を削って誰かを一時的に助けるっつー今までの方法よりも、自分の身は最低限だけ削って誰かをこの先ずっと生きていけるようにするっつー方法の方が良いって事を知った。これはおじょーさまのおとーさまも大喜びだろうな」



 「今まであの方がセレスお嬢様の行動に渋ってたの、セレスお嬢様の負担が大きかったからだし」とタバサは続けた。



「つーわけで、もしおじょーさまのお父様に「娘にこんな立派な考えを教えた者は一体!?」って聞かれたら正直にミーヤって答えて良いか?」


「良いわけねーだろ」



 ニッコリ笑顔のタバサの言葉を、こちらもニッコリ笑顔でぶった切る。



「私はただのEランクの冒険者で魔物使いなだけの人。ただ護衛依頼を受けて、孤児院まで付いて行って、そして依頼の内容通りに自分の意見を答えただけ。そこから色々と見出して成長したのはセレス自身でしょ。つまり私はただのきっかけ。コケる時の石みたいなモンだ」


「もうちょっと良い例えは無かったか?」


「ポンコツにそんな高等技術を期待すんなハイスペック」



 良いじゃん。コケる時のきっかけは石でも、コケたのはその人の問題なんだから。コケずにふんばるか、コケて怪我をするか、コケたけど受け身を上手に取って無傷でいるかはその人次第。ほら、ちゃんと説明は合ってる。確かに成長に関しての説明をコケるって表現したのは悪かったけどね!

 そんな事を考えていると、個室の扉がコンコンとノックされた。扉の向こうからメルヴィルさんの声が聞こえる。



「あの、お迎えが来たんですが、話は大丈夫でしょうか?」


「はい、もう話は終わったので大丈夫ですよ」



 貴族相手で緊張しているのか話し方がぎこちないメルヴィルさんに対し、そういった反応には慣れているのかセレスは普通に返答した。その言葉に、ゆっくりと扉が開かれてメルヴィルさんが入って来る。

 部屋に入って来たメルヴィルさんはセレスにどう話しかけたら良いのかわからないという様子でおろおろと視線をあっちこっちに彷徨わせていた。……芸人でも、貴族相手にコントはそうそう出来ないよね。何かちょっと違う気もするが、まあ大体合ってるだろう。多分。



「それではミーヤ様、大変有意義な時間を過ごさせていただき、誠にありがとうございます」



 セレスは立ち上がり、そう言ってゆっくりと頭を下げた。私は慌てて立ち上がって頭を下げる。



「いや、えっと、ありがとうございます……?」



 こういう時、貴族に対してどういう返し方をすれば良いのかわからないせいでとてもあやふやな返答になってしまった。扉の近くに居るメルヴィルさんが顔面蒼白になったのがサーチでわかる。仕方ないじゃんこちとらそういうのと関わりがあんまり無い日本人なんだよ!しかも女子高生!許せ!

 セレスが頭を上げたのを確認して、私も頭を上げる。あー焦った。本当にこっちの貴族、頭が低すぎる。もうちょっと頭を高くしていて欲しい。庶民の心の安寧の為に。

 ……今更だけど、頭を低くじゃなくて腰を低く、か…?良し、私は何も気付かなかった。おっけい?



「あ、うっかり忘れてしまうところでしたわ」



 「報酬をお渡ししなければいけませんね」と、セレスはタバサに指示を出す。



「今日はとてもお世話になりましたから、是非とも報酬に色を付けたいのですが……」


「ノー!ノー!Eランク冒険者の魔物使いが護衛依頼受けた時の適正価格でお願いします!そうでないなら受け取り拒否です!」


「正当な評価ですのに…」



 私の言葉に、セレスはむぅと頬を膨らませた。可愛い。しかしほだされんぞ。適正価格、大事。

 私達のやり取りにタバサはケラケラと笑い、懐から出したお金をセレスに渡した。そしてセレスは一度深呼吸をしてから、「仕方ありませんわね」と呟いた。



「ミーヤ様、お手を」


「あ、はい」



 言われるがまま手を出すと、セレスの可愛らしい小さな手から報酬が渡された。

 …………まさかの白金貨一枚が。



「待って!?」


「やはり足します?」


「足しません!ちょ、これ、白金貨!高過ぎる!」


「いや、それが適正価格っすよ。商人とか三流の貴族なんかならともかく、お嬢様レベルならそんくらいするんですって」


「何それ怖い!」



 ど、どないすっぺ!?この白金貨どないすりゃえいがね!?アイテムポーチ!?アイテムポーチに仕舞えば良いの!?仕舞って良いの!?コレ!

 わたわたと大混乱に陥っている私に対し、従魔達は普通に受け取れば?という空気を出していた。いや!だって!白金貨だよ!?ん?いやでも、今日頑張って働いたのは従魔の皆だし、従魔への正当な報酬だと考えれば……妥当、かな?うん、私の可愛くて最高有能な嫁達への正当な報酬だと考えれば、まだ、受け入れられる、気が……する、ような……。

 パニックになりかけながらも必死にそうやって受け入れようとしていると、部屋から出ようとしていたセレスは「あ」と思い出したように振り返った。



「ミーヤ様、孤児院の子達に何かメッセージなどはあったりしますか?明日の朝に色々とお話をする為にまた行きますので、良ければお伝えしておきますわ」


「貴族のお嬢様をメッセンジャーにするとか私は一体何者なんだ」


「レア者」


「無駄に上手い」



 クソ、ハイスペック付き人め。本来ならその返答をしたであろう芸人メルヴィルさんは部屋の外で壁に溶け込もうとしてるし。芸人が存在感を消そうとしてどうするんだ。そんなにも貴族の相手が苦手か。

 大体メッセージなんて特に……あ。



「そうだ、じゃあこれミークさんに渡してもらえるかな?教会に譲渡しますねって伝えて欲しいんだけど」


「はい、構いませんよ」


「ありがとう。重いからタバサに渡すね」



 そう言い、私はアイテムポーチからずるりと回復の剣を取り出してタバサに渡した。タバサは珍しく、というか今日初めてめちゃくちゃ驚いたように目を見開いた。



「……え?」


「回復の剣です。所有者登録してないから教会で使ってって言っておいて」


「……よろしいのですか?」



 恐る恐る、そして探るような目でセレスは私にそう言うが、



「勿論。私普通に光魔法の回復使えるからそこまで必要としてないし」



 というか正直言ってレアアイテムだからこそ手放したかったしね!



「教会って治癒でメインの収入を得るんでしょ?これから他の教会から回復魔法を教えてくれる人が来たとしても実際に使えるようになるまでは時間掛かるだろうから、それまでは代理として使ってやって。私よりもミークさんの方が必要としてるだろうしね」



 それに回復の剣も教会に居た方が幸せだと思うんだ。レアアイテムか……持て余すな…って思ってる私よりも、回復の剣だーーー!って反応してもらえるだろう教会に居た方が絶対に幸せだろう。教会ならお役立ちの機会も多いだろうしね。

 そう思いながらそう言うと、セレスはキラキラと瞳を輝かせながら祈るかのように両手を組んだ。



「なんという事でしょう……!このようなレアアイテムを惜しむ様子すら無く寄付するその心!しかもメインで使うのではなく、あくまで代理扱い!素晴らしいですわミーヤ様!」


「待って。素晴らしくないから。あの、使わないアイテムを押し付けただけなんです」


「回復の剣に対し、そう言い切れるところが素晴らしいのですわ!レアアイテムに依存しない精神!中々出来る事ではありません!」



 とてもキラキラした瞳で見上げられてるけどちゃうねん。そういう素晴らしい精神とちゃうねん。不用品を必要としてる人のトコに押し付けようとしてるだけやねん。

 本当は回復の剣と同じく使い道に困ってるジュエリーハンマーも押し付けるつもりだったし。たださっきの成長をどうのこうのの会話の後でジュエリーハンマーまで押し付けるのは良い話が台無しかなってね?思ってね?回復の剣だけにしただけなんでありやすよ。

 ヘルプ!の意味を込めて私は従魔達に視線を向けるが、駄目だった。イースを除く全員が「無理無理」と手を横に振っていた。イースは笑いを堪え過ぎたのかソファの肘掛けに上半身を預けて倒れていた。いつの間に。

 どうしたもんかなーと遠い目をしていると、タバサが「はいはい」とセレスの頭を軽くぽんぽんと叩いた。



「さっさと行きますよ、おじょーさま。迎えを待たせてるんすから」


「あ、そうだったわね。それではミーヤ様、本日は本当にありがとうございました。回復の剣、必ずミーク様にお渡し致しますわね!では、また明日!」


「はーい、また明日ー……」



 手を振って去っていくセレスに手を振り返し、角を曲がったセレス達が見えなくなった辺りで私はぐったりと力を抜いて体を床に預けた。あー、もう、疲れた……。帰りたい。帰って寝たい。

 ……あれ?そういやセレス、何でまた明日って……ああ、いや、そういや武道大会があるから早朝とか何とか言ってたもんね。武道大会を見に来るのかな。だからまた明日、なのかもしれない。

 そんな事を考えながら私は、



「ごめん、明日の朝にスキンシップとかブラッシングとかやるから、もう寝るわ……後ヨロシク」


「ミーヤ様!?」



 慌てるハニー達の声をBGMに、そのまま意識をログアウトした。



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