護衛って何だっけ
食事が終わってから、ハイドがめちゃくちゃタンパク質を摂取しながら作り上げた服達を皆に渡した。ハイド作の服に袖を通した全員が全員とても嬉しそうで良い事だ。ハイドも満足げな笑顔を浮かべている。
ミークさんもサイズが合ったシスター服になって美人度が上がって目の保養だ。さっきまでの丈が足りてないボロボロのシスター服は見てて辛かったからね!やっぱ周りの環境がちゃんとしてないと宝の美しさが霞んじゃうから良く無いよね!
まあそれはさておき、セレスによる一対一……正確にはタバサも居るから二対一だけど、まあとにかく色々お話お聞かせ願えますかタイムである。子供達に一人ずつ部屋に入って来てもらい、話を聞き、聞き終わったら次の方ーって感じのやつ。
まずは年長の子から別室へ移動……の、前に、ミークさんに先に説明して許可を貰っておいた話を皆に……言うにしても、どう言えば良いんだろう。まずは当たり障りなく……。
「えーと、皆は手に職欲しいって思う?」
「欲しい!」
「あれば食うに困らないしな!」
「料理が上手に作れれば働けるかもしれないし!」
「でも庭に生えてる食える草を集めたりで近所の人に教わる時間が無い!」
「おっと私の耳は聖徳太子じゃないから幾つか聞き逃したぞ。ごめん話す時は一人ずつでお願いします」
私が頭を下げると、子供達は大人しく喋るのを止めて周囲を窺い始めた。お気遣いありがとうございます。でも一応数人の声は聞き取れた。庭に生えてる食える草て。草食性か?人間は雑食性だから食えんことは無いが草はちょっと……。
ゴホン、と咳払いをしてから、とりあえず早めに説明しようと思う。セレス達も早く別室に移動して聞き込み調査したいだろうからね。
「とりあえず今日だけだけど、私の従魔が色々と教えます。タダで」
「タダで!?」
「本当に!?」
「イエス。タダです」
良し、掴みはオッケーっぽい。
「まず料理。料理はそこの褐色肌のセクシーなお姉さんが教えてくれます。包丁を握った事が無いって子でもちゃんと教えてくれるから安心してね。料理を覚えたい!って子は彼女…イースの方に移動してね」
すると、何人かがイースの方をチラチラを見始めた。アイリスもイースの方を見ている。うん、ここですぐにイースの方に走り出さないのは良いね。まだ説明の途中だもんね。しつけがしっかりされている。
私が子供の時だったら既に走り出してるだろうから教育の良さに脱帽だ。いや、お姉ちゃんや先生達はちゃんと私を教育してくれてたから単純に私の出来が……考えるのは止めておこう。
「次に掃除。掃除はこの多腕の子が教えてくれます。種族はキラービー。掃除好きな子だから聞けばちゃんと答えてくれるし、間違ったやり方だったらしっかりと注意と説明をしてくれる。掃除をしっかり出来るようになりたい!って子はこの子、ハニーの方に移動してね」
何人かがハニーに視線を向けた。ミークさんもチラチラとハニーをに視線を向けている。ああ、うん、ミークさんも掃除の仕方を覚えたいんですね。
「次、薬や毒に関して。これはこっちの下半身が蛇のお姉さんが教えてくれます。薬草の煎じ方とか、触っちゃいけない毒とか、はたまた武器に塗ったりすると良い毒とか。薬や毒に関して詳しくなりたい!って子は彼女、ラミィの方に移動してね」
どちらかというと年上組っぽい子達がラミィに視線を向けた。うん、こういうのって覚えておいて損は無いもんね。コリンもラミィに視線を向けている。薬関係の知識に興味ありって事かな?
「はい次、次は大工。物を作ったり建物を修繕したりはそっちの狐のお兄さんが教えてくれます。今回は床や屋根、壁や机の修繕の仕方がメインかな。そういうのが出来るようになりたい!って子は彼、コンの方に移動してね」
男の子達がコンの方を見た。うん、大工とかって結構力仕事だもんね。あとちゃんと必要だって意識はあるっぽくて安心した。レッドもコンの方を見ているのを見て、ああ、うん、君は力仕事系だよねって思った。まあ、うん、今のままじゃ風通し良すぎるし、改善する気があるようで何よりだ。
「次は勉強。文字や算数から、政治や歴史に関してまで。これはここの浮いてるお兄さんが教えてくれます。教科書代わりの本とかもあるから、わかんないトコはちゃんと聞いてね。こういうのはすぐに実を結ぶわけじゃないけど、安定した収入を得るには良いと思う。そういう知識を学びたい!って子は彼、アレクの方に移動してね」
小さい子から大きい子まで、幅広い層がアレクに視線を向けた。うん、初級から上級まで教えますよって事だもんね。そりゃ皆アレクを見るか。
ちなみに教科書代わりの本ってのはイースが買った本の事である。ハニー達の人間世界の勉強の為、そして今の時代の常識を知る為に大体の本は買ってるらしい。教科書があるのはとても助かるよね。
「最後は縫い物。破れた服の繕い方とか、裾上げとか、服の作り方とか、あとは刺繍。今回は服の作り方に関しては基礎の基礎まで。しっかりと教えれるのは繕い方とか裾上げとか刺繍くらいらしいです。でもこういうのの基礎が出来れば着れなくなった服達を繋ぎ合わせてアレンジとか出来て楽しいと思う。そんなわけで縫い物とかが出来るようになりたい!って子は彼、ハイドの方に移動してね」
女の子達がハイドに熱い視線を向ける。でもこの熱さ、恋とかのトキメキな感じじゃないね。絶対に覚えてみせる…!って感じのメラメラだ。炎の幻覚見えそう。
でも実際服の修繕や刺繍ってのは手に職があるって感じだし、悪く無いと思う。こっちの教会でもあるのかは知らないけど、フリーマーケットみたいな感じで売れるかもしれないしね。
「という事で、説明は以上です。順番が来たら中断してでも別室でセレスの質問に色々答えてもらうけど、それ以外の待ち時間や余った時間は好きな知識を教わってね」
「「「「はい!!」」」」
うん、良いお返事で私ニッコリ。
早速年長者の子が一人セレス達と一緒に別室へ移動し、次の瞬間。こっちに残っていた全員が残像見えるんじゃね?ってくらいのスピードでそれぞれの先生の元へ集まっていた。凄え。早え。
イースは料理を教わりたい子達を連れてキッチンへ移動し、ハニーは掃除を教わりたい子達にまずは掃除の基礎を教え、ラミィは薬や毒に関してを知りたい子達と庭に出て、コンは男の子達の案内で倉庫に工具を取りに行き、アレクはまずそれぞれの子からどういうのが学びたいかを聞き、ハイドはささっと作り上げた布を刺繍のお試し用として配り始めた。
いやー、全員頼もし過ぎて凄いよねー。
そんなわけで、説明が終わった今、役立たずのポンコツな私はロンリーである。教えれる頭が無いから足手纏いなんだよね!完全に説明係の人でしかねーよ畜生!でも本気で教えれる事無いから黙って端っこの椅子に座って空気になる以外選択肢が無いんだよね!辛いね!
椅子に座り、机の上に上半身を預けてぐでーんと力を抜いて寝ようかどうしようか迷っていると、
「ミーヤは何もしねえの?」
と、声を掛けられた。首だけを動かして声の出所を確認すると、怪我をしていた年長の子だった。確か背中に派手な怪我をしていたとかいう上半身裸だった子。今はハイドお手製の服着てるけど。
名前は……ブレイズ、だったっけ。ミークさんの紹介では確かブレイズだったはず。
「私は出来る事が無いからね。娯楽系の本に関してならまだ話せるけど、それ以外のお勉強用のはサッパリでやんす」
「やんす?」
「変な語尾は癖だから気にしないでちょ」
よくわからんなコイツって顔をしながら、ブレイズは私の隣に座った。
「でもミーヤはあの人達の主なんだろ?教わったりしねえの?」
「んー……」
教えてって言えば教えてくれるだろうけど……聞かない限り教えてくれたりはしないね。
まあ、うん、薄々と感じてるけど、多分イースの企みなんだと思う。戦い方を知っていても、こういう生き残るのに必要な術を教えないままの方が依存するんじゃないか作戦みたいな。それは無いだろって?いやいや、イースだからあり得る。というか前にそんな事をボソッと呟いてたの聞いたし。
でも私は私で、皆と別れる気は毛頭無いから別に良いかって思ってるんだよね。私は出来ないけど、出来る皆が居てくれれば大丈夫って事である。私は夫として出来る事を頑張ってみせるぜ。
……とはいえ、これを全部言うわけにもいかないし…。
「私はポンコツだからね」
適当に誤魔化そう。嘘は真実九割、嘘一割が一番バレ難いってお姉ちゃんが言ってた。しかし私は嘘があまり得意では無いガール。というわけで本当の事だけ言っておこう。
「あんまり難しい話は耳をすり抜けるんだよ。右耳から左耳へ貫通してっちゃうんだよね」
「主としてそれで良いのか?」
「お黙りなされ。良いんだよこれで。言っておくけど私があの子達の主じゃなかったら君の弟くんや妹さん達にレクチャーする先生役おらんかったんだからな」
……というか、
「…大前提として君達の怪我治したの私じゃん。つまりアレだ、私は回復役なんだよ。癒されろ」
「ミーヤ実は魔物使いじゃなくて芸人だろ」
「いや、芸人はギルド職員のメルヴィルさんだと思う。あの人めっちゃ芸人気質だよ」
「誰だよ」
あ、そっか一時的に人員が必要だからって受付やってるだけだもんね、メルヴィルさん。ここ最近寝込んでたっぽい彼らじゃわからんか。うーむ、話題ミスったな。
すると、ふと気付いたようにブレイズは私に視線を向けた。
「そういや、さっき娯楽系の本ならって言ったよな?」
「言ったよ?……あ、えっと、故郷にあるっていう注釈付いてるけど」
こっちの世界にしかないおとぎ話だったら無理です。
しかし聞いていないのか、ブレイズは一旦席を外してからどこかから沢山の本を持って来た。
「これ、大昔に勇者様がうちに寄贈してくださった絵本なんだ」
「絵本」
机の上に置かれた本を手に取ってみると、結構劣化してるけどある程度の状態は維持されてるっぽい。ページを捲っても問題無く読める。文字がちょいちょい掠れてるのが勿体無いかな。
…………というかこの本……。
内容に見覚えがあり過ぎて、本を一旦閉じて表紙を確認する。書かれていたタイトルは、
「…笠地蔵、とな」
「知ってるのか?」
「そりゃまあ、故郷でよく読んだし…」
よく見てみると、他の本も見覚えのあるタイトルばかりだ。かちかち山とか聞き耳頭巾とか舌切り雀とか……日本の昔話に偏ってるな。あ、いや、一応外国の昔話もある。でもメジャーなのしか無いな。
私はお姉ちゃんと二人暮らしだったから、出費を抑える為にも幼少期はよく図書館に通ってたんだよね。だからこういう童話系は結構覚えてる。今も時々スマホで読み返す時もあるくらいには好きだしね。
勇者が作った奴だからか手作り感が溢れてるけど、それでも何百年も経ってるんだろうし……物持ち良いなここ。そう思いながら絵本のタイトルを眺めていると、ブレイズは少し期待した様子で目を光らせた。
「よく、読んだんだな?」
「え、うん」
「そっか、なら助かる」
「いや、何が?」
一体何が助かるなんだと問うと、ブレイズは「とりあえずその笠地蔵を最後まで読んでみろ」と言った。どういうこっちゃねんと思いながらペラペラと捲ると、どういう意味かがよ~くわかった。というか私が詳しいっぽいとわかってこの絵本達を持って来た理由もわかった。
どういう事かって?
「…これ、ページがちょいちょい無いんだけど……」
「ああ、劣化で千切れたりして無くしたんだと思う。文字の勉強になるからって読むんだが、中途半端過ぎて……」
確かにこれは中途半端だろう。お地蔵様に笠をあげた次のページが無い。そしてその次のページはずしんずしんという音と「あの爺様はどこじゃ」の声。そのページの裏にはそっと外を恐る恐る覗き見る老夫婦…………で、終わっている。
尻切れトンボにも程があるだろうが!メインの笠地蔵どうした笠地蔵は!爺様が笠をあげたページでお地蔵様の登場シーン終わりか!?つかこの終わり方下手するとホラーにしか見えないんですけど!?ちょっと!これどこに苦情入れれば良いの!?
「これ、ミーヤなら内容わかるか?」
「わかる。めっちゃ覚えてるよ。笠地蔵ならよく読んでたもん」
あれを読んで数日はその辺にある像に水を掛けて磨いては花の冠を作って乗っけて、二礼二拍手一礼をしては「お金と食べ物下さい」ってお祈りしてた記憶が蘇る。やる度に警察の人が来て「あの像は触っちゃ駄目だからね?」って言ってはお菓子を買ってくれたのを覚えてる。やったお菓子貰えた!ありがとうお地蔵様!って思ってたな。
………うん、これはよくよく思い返すと黒歴史だわ。記憶の底に封印しておこう。
さておき、
「内容はわかるけど、それが?内容を書き足して欲しいって事?」
「その通りだ!」
力強くガッツポーズするのは良いけど、紙あるの?無くない?
「あ、ミーヤ!イースがこの白紙の束とペンをミーヤにって」
「ナイスタイミング過ぎる!」
「えっ!?ありがとう!?」
凄まじいタイミングで紙とペンを持って来たアレクに対して叫ぶと、アレクは理解出来ないままにお礼を言った。ちゃうねん。ナイスタイミング!って褒めたつもりとちゃうねん。でもその反応可愛いので良いです。とりあえずアレクの頭を撫でてありがとうと伝えておく。
そしてイースにもありがとうと従魔用テレパシーで伝えた。正直このタイミングで持って行くように言ったって事はキッチンからこっちの様子を完全に把握してるんだろうけど、まあ確実な方法を取るのも間違いじゃないよね。うん。
「……じゃ、紙とペンも来たしストーリーを書き足し…っていうか、直しますか」
「あ、絵も頼む」
「注文が多い教会だなここは」
正体は山猫か?このヤロー。絵が冒涜的なのにしかならない人の気持ちを知らんのかコイツは。……いや、私は違うよ?違うからね?私は普通に描けるからね?絵も文字も萌えのままに書いてきたお姉ちゃんの妹である私を舐めるなよ!
「……絵が凄く可愛いな」
「うるさいよ。どうしてもこういう絵柄になるんだよ私が描くと」
「いや、褒めてる。絵本っぽくて良いと思うぞ」
「ありがとさん」
恥を耐えて黙々と紙にペンを走らせる。
……絵は描けるんだよ、一応。ただどう頑張っても絶対ゆるんとした絵柄になるだけで。大体が二頭身でふわっとした雰囲気になるだけで。お姉ちゃんにはよくストラップのデザインを頼まれたな。あとマスコットキャラだけで良いから描くの手伝って!とか言われたのを思い出す。
まあ、うん、良いんだよ別に。熊を描いても明らかに蜂蜜が主食だし寝るのが趣味だし人間に出会ったら普通に話しかけそうだなって感じのゆるいのしか描けないのが私である。事実は揺らがん。悲しい事じゃ。
「……ほい、笠地蔵修復完了」
「これ、こういう話だったんだな…。売れ残りを押し付けられた事に怒った地蔵が乗り込んでくる話かと思ってた」
「恩返し系ハートフルストーリーです」
確かにあのページの飛び方じゃそう思っても仕方ないけど。家に帰って来た爺様が婆様に話して聞かせて、婆様が「それは良い事をしましたね」って言うシーンが飛んでたからね。にしてもページが飛んでただけで笠地蔵がとんでもないストーリーになるとは……ちょっと面白かった。
「じゃあ次は…花さか爺さん行くか」
「ああ、楽しみ……あ、次俺だ。呼ばれたから行って来る」
「はいはい、行ってらっしゃい。…てかブレイズ、何で私んトコ来たの?習いたいの無かった?」
ペンを動かしながらそう聞くと、ブレイズはケロッとした顔で返した。
「いや、普通に大工仕事教わるつもりだ。でも年長組から呼ばれてるなら待ってた方が良いかと思って。時間潰しの付き合いサンキュー」
「この野郎」
爽やかな笑みで誤魔化せると思うなよ。思わず私の笑みが引き攣ったわ。時間潰しついでに私の仕事増やしたんか貴様。
良いけど!童話関係だし変な誤解をそのままにするよりはちゃんとした童話を読んで欲しいからやるけど!さっきから言い方とか色々が雑なんだよお前!
しかしそれを言う前にブレイズは別室へと移動してしまった。あの野郎マジでいい性格してやがんな。早死にするか長生きするかの二択な人生を送りそうな性格だ。
「…………よし、花さか爺さん終わり。次は…うわ、雉も鳴かずばがある」
中々のやつ書いたな勇者。これ後味の悪さ上位に食い込むと思うんだけど。
まあとにかく直すか……と思ってペンを走らせつつ、私は何でここに来たんだっけと考える。孤児院の依頼受けたんだっけ?アレ?
そんな事を考えながら雉も鳴かずばの次、ハーメルンの笛吹き男の絵本の修復を終わらせた辺りでハッと、
「そういや私、護衛の依頼受けてここに来たんだった…!」
と思い出した。この数時間、まったく護衛してなかったから忘れてたわ。忘れるか?普通。
ブレイズは最初名前を付けてなかったモブの一人だったんですが、何か思ったより喋ったので名前を付けました。




