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孤児院の問題は山積みだ

記念すべき100話です!



 セレスの怒涛の勢いによる……説明?が終わった後、私達は役割分担をする事になった。

 イースとタバサ、そしてハニーとアレクが食事を作る係。そして残りの私達は怪我人の治癒係である。そんなわけで怪我人が居る部屋まで案内してもらい、とりあえず回復の剣使うかーとアイテムポーチからずるりと取り出した瞬間、



「ミーヤ様!?そ、それはまさか……回復の剣ですか!?」


「回復の剣!?まさか……あの伝説の…!?」


「か、回復の剣だって!?所有者が登録されていない状態なら傷付けた存在全てを癒し、所有者が登録されている状態だと相手を傷付ければ傷付ける程所有者が回復するという、あの!?」


「し、しかも所有者未登録の回復の剣よ!?登録されてたなら柄の輝石に模様が浮かび上がるはずなのに、それが浮かび上がってないもの!」


「マジかよ……!回復の剣っつったら見つけ次第即座に登録してヒャッハーがお約束のハズだろ!?まさか生きてる内にそんな激レアなモンを見れるなんて……!」


「生きてて良かった……!」


「そんなにか?」



 てんやわんやになった。

 ちなみに上からセレス、ミークさん、怪我人四名、そして冷静な私である。

 …………これ、そんなに有名なの……?

 困惑してラミィ達の方を見てみるが、ラミィはつまみ食い目的なのがバレてキッチンに行けなかったせいでちょっと不機嫌だし、コンは「あー……」って感じの表情だし、ハイドはきょとんとしているし……ヤダ、私超アウェーなんですけど。



「えーと、とりあえずこの回復の剣で軽く指先ちょんってやれば怪我は全回復するはずなんで………皆さん、手を出して貰っても良いですかね?」


「「「「勿論です!」」」」


「…とても物分りが良い人達で私は嬉しいヨ」



 ……うん、嬉しい。即座に四人全員が私に向かって腕を出してくれたし。

 まあ、ちょっとチョロくない?大丈夫?詐欺に遭ったりしてないよね?と少し不安になりつつも、全員を回復の剣でぴろりろりんっと回復完了である。一瞬ですよ。流石レアアイテム。



「うっわ!マジで治った!」


「さっきまで熱っぽかったのに、それも完全に無くなってるわ……!」


「ちょ、おい、俺の背中確認してみてくれ!爪で思いっきりやられたからこれ傷痕残るなって思ってたんだけどどうだ!?治ったか!?」


「すっげーーー!治ってる!お前の背中、確実にやべー痕残るなって感じだったのに!綺麗サッパリ痕跡すら皆無!」



 怪我をしていた年長組は、怪我が治った事にハイテンション状態になっていた。こっちの世界の平均的見た目からして多分中学生くらいだろうからこういうテンションが普通なのかもね。多分だけど。

 怪我が治った皆の体を確認していたミークさんは安堵の息を吐いた。



「良かった……皆、完全に回復しています。何とお礼を言えば良いのか…!」


「あ、いえ、私は本当色々と偶然だっただけなんで。レッドとコリンと話さなかったら怪我人が居る事も知らずに帰ってた可能性もあるんで、本当、はい、気にしないでください」



 成り行きでやってる事だからそう感謝されるとむず痒いんだよね!

 私が必死の笑顔でそう言うと、ミークさんは納得してくれたらしい。何か「何という奉仕の精神…!」って言ってお祈りポーズしてたけど私は見ていない。唸れ日本人が得意なスルースキル!



「あ、ミークさん。これで料理が出来るまでちょっと時間空きましたよね?」


「え?ああ、はい、そうですね。まだお料理は時間が掛かるでしょうし……どうしましょう。余った時間で皆さんをおもてなし……でもイースさん達にお料理をしていただいているのにそちらを放置してミーヤさん達だけをもてなすというのは」


「はーいミークさんストップストップ」



 思考の迷宮に迷い込んでぐるぐる状態になっているミークさんの肩を軽く叩いて現実へと戻らせ、再び思考の迷宮に迷い込む前に私が考えていた内容を話す。



「あのですね、私はレッドとコリンに対して孤児院の皆の分の服を用意するって約束してるんです。……正確に言うと作るのはハイドですが」


「ああ、任せろ。我の糸で作った服なら軽くて硬い。貴族よりも上等な服を作ってみせるぞ」



 ふん、とハイドは胸を張った。ハイド自身の上半身は布少なめだけどね。



「なので、もし良かったら子供達を呼んでもらえますか?」



 私はハイドの方を向いて一応聞いてみる。



「採寸、した方が良いよね?」


「一応な」



 ハイドは頷いた。



「将来的に背が伸びる事も考えて何着か大きめの服も作っておいた方が良いだろうが、まずは今の身長に合わせた服が必要だろう」


「ほ、本当に…作っていただけるのですか?」


「ああ。あとどんな服が必要か、というのもリストアップしておいて欲しい。上と下、あとはワンピースと上着と寝巻きと礼服とシスター服と神父服くらいしか考えてないからな。他に欲しい服があれば言え。出来れば数もな」



 続けてハイドは、「だが、まずは採寸だ。平均的な数値がわからんと作りにくい」と言った。凄い、めちゃくちゃ頼もしいぞハイド!

 ハイドの言葉にミークさんは瞳を潤ませ、



「ありがとうございます…!古着を貰う事はあっても、新しい服を作ってもらえる事があるだなんて……!すぐに他の皆を呼んできます!それまでそこの年長達の採寸をお願いしますね!」



 と言って部屋から飛び出して行った。ハイドの返事も待たない素早さ。…そんだけ嬉しかったんだね。



「……ラチェス…!あのように善良な娘相手になんたる非道を……!」



 背後でセレスが凄い威圧感を放っているが、川の流れのようにスルー。私は水。全て水に流せばダメージはノーダメージへと変化するのです。おういえい。

 まあそれは置いといて、採寸をするべくハイドは年長者組へと向き直り、



「…………良し、採寸は終わったぞ」


「えっ?」



 指先を少し動かしたと思ったら次の瞬間そう言った。



「今?もう?終わった?」


「ああ。目視出来ない細さの糸を伸ばして確認した」



 凄いねハイド。ああ、いや、うん、でもハイドは確か糸も自由に操れるんだから、メジャーでいちいち計ったりとかしなくてもそのくらい出来る……のかな?

 ハイドは「ふむ……」と少し考える素振りを見せてから、背中の傷痕の確認の為に上の服を脱いでいた少年に視線を向けた。



「……まずは試作品を作るか」



 そう言い、ハイドは黒く尖っている両手を胸の前に持って来て糸を出し、あやとりをするかのように指を動かす。あやとりにしては動きが早すぎるけどね。

 そして十数秒程で、



「出来たぞ。試作品の服だ」



 長袖の白い服が完成した。



「待ってハイド!完成早くない!?」


「機織り機なんかを使えば動きが遅くなるが、我の場合は我の糸だけで作っているからな。糸を素早く動かせばすぐ出来る」



 ハイドはふふん、と鼻を鳴らして機嫌良さげにそう言ってから、上を着ていない少年にその服を投げ渡した。少年は服を落とさないように慌ててそれをキャッチする。



「着ろ。そして感想を言え。着心地やサイズ感、その他諸々意見を聞かせろ」


「え、あ、はい!」



 2メートルの背丈でハイドは少年にそう凄み、少年は慌てて試作品の白い服を着た。

 最初は落ち着かない様子だったが、確認の為に腕を動かしたりしていた少年は急に驚いた様子で叫んだ。



「えっ、何だこの服凄っ!?めちゃくちゃ軽いし肌触り良い!しかも肩の辺りで布が突っ張る感じも無い!伸縮性もあるぞ!?」


「気になる部分はあるか?」


「まったく無いです!つーか良いトコしか無くてこれ本当に俺が着て良いやつなんですか!?」


「良くは無いな。それは試作品だ。お前用のちゃんとした服はこれから作る。それは後で我が食うから脱いでおけ」


「食う!?」


「不要な糸は食う物だろう。食えばまた糸を作れるしな」



 そういえば蜘蛛の生態を調べた時にそんな事書いてあったね。出した糸を回収して食べる事により、次の糸の材料としてリサイクルとか何とか。

 そんな事を考えていると、ミークさんが子供達を連れて戻って来た。数はざっと数えて二十人から三十人くらい。……全員、ボロボロの服に痩せた体だった。

 それを見たセレスの眉間に子供らしくない皺が寄ったのを見て慌てて頭を撫でて落ち着かせる。多分、例の悪貴族に対して殺意が募ってるんだろうな。被害者の子供達がこんなに居るうえに、かなり生活が大変そうだから。でも十歳のお嬢様が眉間に皺寄せてるのはよくないので髪型を崩さないように気をつけながら頭を撫でる。あ、良し、深呼吸してくれた。眉間の皺が取れたので一安心だ。

 とりあえずハイドが採寸しながら服を作っている間、私はセレスの頭を撫で続け、ラミィとコンはちっちゃい子供達に遊具扱いされていた。……うん、蛇の下半身部分が長いから、滑り台っぽくて滑りたくなるよね。あと子供って動物大好きだもんね…。

 すると、キッチンの方からタバサがやって来た。



「あ、居た居た」


「タバサ。食事の準備は?」


「完璧っすよ、お嬢様」



 さっきまで眉間に皺を寄せていたとは思えない口調でセレスがそう問うと、タバサはニッと笑ってそう答えた。そしてタバサは口の横に手を当てて、



「メシ出来たんで食堂に集まってくださーい。とりあえず栄養第一って事で野菜も肉もたっぷりなスープとか、サンドイッチとか、他にも色々作ったんでー」



 と、皆に伝えた。

 そんなわけで食事タイムである。食堂に移動し、全員が席に着いた。

 ……別に、途中カットなんてしてないよ。タバサが報告した瞬間にちっちゃい子達が食堂に向かって走り出そうとして、そして次の瞬間にはミークさんに捕まって拳骨されてたくらいだから。十人前後の子供達を一瞬で確保とか、成り行きとはいえ責任者を務めてただけはあるよね、ミークさん。

 それはさておき、座った皆の前に食事がどんどん運ばれてくる。



「年少の子、年中の子、年長の子それぞれに合わせて料理を変えてるからぁ、それぞれの前に置いた料理を食べてねぇ。中央の大皿は誰でも食べて良い料理だからぁ、物足りなかったら他の子から分けてもらうんじゃなくてそっちを食べてねぇ」



 イースのその言葉と共に配膳が終わり、それぞれ食べる前の祈りなんかをしてから食べ始める。私はいただきますって言って食べ始めたけど、ミークさん達孤児院の子は祈りのポーズをしてた。

 ちなみにだけど、ハイドは食べながらも服を作成している。食事風景が凄い。だって口から糸を吐いて食べ物を掴んでそのまま糸ごと食べてるもん。両手はブレる事無く、いやスピード速すぎてブレまくってるけど、まあとにかく服を作成し続けている。

 そして完成して積まれていく服達にイースとアレクによって洗濯不要や自然修復の魔法が掛けられ、食事を先に済ませていたらしいタバサがその服を畳んで年少用、年中用、年長用と書かれている箱にそれぞれのサイズに合った服を放り込んでいく。

 ……採寸の意味は?って思ったけど、年少の子達や年中の子達の平均値を調べたかっただけだったのかな。確かにピッチリオーダーメイドにすると成長した後、下の子達のお古に出来ないし……こっちの方が汎用性は高いね、うん。



「……あの、ミーヤさん」


「うん?」


「隣、良いですか?」



 サンドイッチを頬張る私に話しかけて来たのは、金髪に紫の瞳の……確か、アイリスって呼ばれてた子だ。自分用のだと思われる料理の皿を持っているアイリスの言葉に、私は両隣を確認する。左にはコン、右にはハニーが座っている。でもアイリスは何かを話したそうだし……。



「ハニー、ちょっとごめんね」


「きゃっ」



 ハニーを抱き上げ、膝の上に乗せた。



「ちょっとの間私の膝の上でご飯食べてて」


「はい!」



 頭を撫でながら言うと、ハニーは輝く笑顔で頷いてくれた。鼻歌を歌いながらフルーツサンドを頬張る姿が可愛いなと思いながら、私はアイリスに空いた右隣を勧める。



「どうぞ。えっと……アイリス…で、合ってる?」


「合ってます。あの…ありがとうございます」


「いえいえ」



 アイリスは空いた私の右隣に座り、食べかけだったらしいポテトサラダを食べた。



「……あの、この料理を作ってくださった方達は…ミーヤさんの従魔なんですよね?」


「タバサは違うけど、それ以外はそうだね」



 タバサはセレスの付き人だからと一応否定は入れておく。ここで「そうだね」とだけ言うとややこしい事になりかねないからね!恋愛系漫画だとこういうトコで言葉を節約すると碌な事にならないって私知ってる!主にお姉ちゃんの持ってた漫画で知ってる!



「…食べ終わったら、一人一人話をするんですよね?」


「え?……ああ、セレスのやつか」



 そういえば一人一人にインタビューっていうか、色々と聞きたいって言ってたね。



「そうだね、それがどうかした?嫌だった?」


「いえ、嫌というわけではなくて……」



 アイリスはフォークを口に含みながら、どう言えば良いのかを悩むかのように口篭った。



「…その」


「うん」



 とりあえず慌てて喋らなくても待つよ、という意味で微笑むと、アイリスは少しリラックスしたらしい。表情から焦りが消え、張っていた肩から力が抜けた。



「……待ち時間や、終わった後の時間、あるじゃないですか」


「あるね」


「……ミーヤさんの従魔の方、お料理が上手ですよね」


「うん、自慢のうちの子です」


「だから……」


「うん」



 目を逸らしてもごもごしていたが、アイリスは意を決したように、しかし控えめな声で言う。



「……お、お料理…教えてもらっても、良いで…しょうか……!」


「良いんじゃない?」



 デザートとして大皿に置かれているカット済みフルーツをハニーに食べさせつつそう返すと、アイリスは拍子抜けしたのかきょとんとした顔になった。



「…良いんですか?」


「まあ、断る理由無いしね。私としてはうちの嫁の料理の腕を褒められて気分がとても良いわけだし」



 グッとサムズアップしてそう言うと、アイリスは小さく吹き出した。



「でも、料理なら普通に作れるんじゃないの?皆でやってるんだよね?」


「あー…と、その……」



 目を逸らし、アイリスは答える。



「…私達は皆、ミーク姉さんより年下で……神父様が亡くなられたのは、私が来る前で……」


「うん、ゆっくりで良いよ」


「…ありがとうございます。…それで、ミーク姉さんは来たばっかりで、文字の読み書きが出来るようになったばっかりで、あの、他の家事なんかはまだ教わってなかったらしくて……」



 ん?という事は、



「ミークさんは家事の仕方がわからない人?」


「はい。…だから、私達も最低限しかわからなくて……」



 「ここに来る子は赤ん坊の時に捨てられた子も多いから、そういった知識がある子は殆ど居なくて…」とアイリスは続けた。



「それもあって、年長の兄さん達が冒険者になって稼ぐしかなかったんです。掃除や料理が出来ない孤児を店が雇ったりはしてくれないので……」


「成る程」



 だから冒険者になる以外に稼ぐ手が無い、と。教会特有の治癒も駄目、料理も掃除も駄目、お手伝いなら出来るだろうけど小さい子の面倒を見る必要もあるし……ううむ、これは厳しい。

 寄付金を横領されてなければ光魔法を教わる事が出来て、もうちょっと色々な事に対して余裕があっただろうにと考えると中々に罪が重いぞ件の貴族め。



「ですが、その話を聞くと色々と腑に落ちますね」


「ハニー」



 フルーツを食べていて話を聞いていないかと思ったら、ちゃっかりしっかり聞いてたらしい。ハニーが話に混ざってきた。



「通りで壁や床がカビているわけです。水拭きの後の乾拭きを知らなかったのですね」


「……乾拭き?」


「ミーヤ様、後で掃除の仕方を皆様に教えたいのですがよろしいでしょうか」


「うん、お願い」



 乾拭きという言葉に首を傾げたアイリスに対し、ハニーは懇願するような目で私を見てそう言った。複眼だからわかりにくいけど、ハニーの目は見慣れてるから大体わかる。掃除好きの称号も持ってるし、今の状態のまま放置するのは耐えられなかったんだね、ハニー。

 まあ掃除が出来て困る事は無いだろうし、ハニーが教えたがってるなら良いかな、と思いオッケーを出す。お掃除なら腰を痛めたご老人の代わりにとか、ちょっとしたお小遣い稼ぎが出来そうだしね。



「あ、なら俺大工仕事教えれるぞ」



 今までまったく話に入ろうとしなかったコンが肉を食べながら会話に入って来た。



「マジで?」


「マジだ。親父が大工の真似事するの好きだったしな。俺も教わったんだ。……べ、別に俺は大工仕事も教えた方が良いんじゃないかって思って言ったわけじゃなくて、ただ俺の親父が教えてくれたお陰で俺は大工仕事だって出来るんだぞっていう自慢をだな」


「よーしよーし、そう畳み掛けて言い訳しなくて良いから。コンが老朽化してるこの教会を心配してるのもガルガさんの事が大好きなのもよくわかったから落ち着けー」



 恥ずかしくなったのか必死にツンを取り繕おうとするコンの頭をわしゃわしゃと撫でて落ち着かせる。ふかふかさらさらなコンの毛並みは触っていて気持ちが良い。出会った頃のボサボサはもう見る影も無いね。

 ふむ、でもこれで料理と掃除を大工を教えれるわけだ。料理は子供が居る以上出来た方が良いし、就職にも強い。掃除もお屋敷とかで働くのに良いかもしれないし、というかまずカビさせない為にも覚えた方が良いと思う。そして大工はとても重要だ。壁に大胆過ぎる穴が開いてるし、忍者育成所かと思うレベルの老朽化を考えると一刻も早く覚えて欲しい。体重の分散のさせ方を覚えるのは便利だと思うけど、ミスったら床が抜けるとかお客さんに優しくないにも程があるからね。

 ……あ、そういえばラミィは毒に関しての知識が結構豊富だし、アレクは政治や歴史とか全方位の知識が多い。ハイドは言わずもがな縫い物系が得意だし……これは、役立つのでは?



「よし、アイリスのお陰で良いアイディア思いついたわ。後でミークさんに話を通してみる」


「……!はい!お願いします!」



 初めて笑顔を見せたアイリスに笑い返しながら、私は脳内で説明の仕方を考えていた。



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