森、そして痴女との出会い
目覚めると、緑鮮やかに生い茂る木々と、とても綺麗な青空が視界いっぱいに広がっておりました。
「…ほわっつ?」
理解出来ない視界にもう一度目を閉じ、深呼吸をしてバクバクと過剰な運動をする心臓を落ち着け、再び目を開けた。
視界には、電線もビルも見えない綺麗な青空、街中では中々見ないようなレベルでガッシリと逞しくお育ちになられたらしい木々、そして下には土と草。
「…いや、いやいやいや。落ち着け私。現状を把握せよ。お姉ちゃんだってコズミックホラーなTRPGをプレイする時に言ってたし。そう、寝起き最初に見知らぬ場所に居たと把握したならば、とにかく現状と自分の記憶、そして持ち物を把握せよ、って!」
夢である可能性は凄く高いけど、でもこの土の土臭さとか、草の青臭さとかは本物だ。…現実かどうかを確かめるのに頬を抓ったりなんてしませんよ。痛いのは普通に嫌だし。
というか土を掴んだ時、爪の隙間に土が詰まった時点で現実だろう、これは。普通夢でそんな細かいリアルさ出さないでしょ。
「えーと、まず現状の把握。………森、以上」
以上じゃねーよ!
思わず手を勢い良く振り下ろし、横に落ちている私の通学カバンが良い音を奏でた。そして私の貧弱な手が少し痛くなった。やっぱこれ現実だわ。だって手の平がヒリヒリするもん。
しかし、森であるとしか言えない。周りには木と草むらしか無いし。何より私が今いる場所も道のど真ん中とかですら無い。普通に木々の間の空間だ。
「………まさか」
念の為に立ち上がって服を確認する。
いつも通りの少しモサいしスカート長めのセーラー服は草が付いてるくらい、靴下も靴も脱げていない、下着も何も異常無し。
確認を終えて座り直し、とりあえず安堵の溜め息を吐く。
誘拐されて性的なアレコレをされて森の中に捨てられた、とかは無いようで安心した。
もしされていたなら服には何らかの異常があっただろうし、服は無事でも腰とかその他もろもろに異常があるはずだもんね。あー良かった。
そして立ち上がった時に確認したが、周りに人間らしき姿も獣らしき姿も見えなかった。気配?一般的な女子高生に気配察知の能力なんざありませんがな。どうやって察知するんだろうねアレ。
「とりあえずイノシシとか熊に襲撃されてバリムシャアはされなさそうだし、まだ日も高いし、今度は記憶の確認かな」
集中して記憶を思い出してる時に襲われたりしたらアウトだからね!死ぬからね!
まず朝からの記憶を回想してみよう。
朝、起きてトイレ行って顔洗って歯を磨いて着替えてお姉ちゃん力作の天空の城風パンと言う名の卵焼き乗っけただけの食パンを食べて…あ、これちょいちょい飛ばさないと長くなるな。
えーっと、んで学校は?行った。お昼ご飯も食べた。んで下校……む?ここから記憶が途切れてるな。
学校の下駄箱で靴に履き替えた記憶はある。帰り道の商店街で友達とコロッケを買い食いした記憶もある。友達と別れた後、曲がり角を曲がった記憶は……無い、だと…?
「よーし落ち着け私。落ち着け私の心臓。よーし良い子だ私の心臓。あまりスピード出しすぎてポックリは勘弁だからスピードはゆっくりお散歩ペースでお願いします」
いまいち心臓さんは言う事を聞いてくれずに早足のままだが仕方あるまい。続きを思い出そう。
あの曲がり角を曲がった。曲がった記憶はあるんだ。ただ曲がった後の景色の記憶がブッツリと無い。仕事しろ私の記憶のスクロールバー!
まあ、うん、あそこで何かがあってどうにかなってここにハローしちゃった感じなんだろう、うん。
「とりあえずここに居る原因とかは不明、かあ。後ろから襲われたーみたいな記憶も無いし、誘拐して放置って事では無いんだよね?多分」
可能性としては誘拐かなと考えたけど多分これは無い。
だって誘拐して放置って意味わかんない。身代金目的ならもうちょっとわかりやすい場所だろうし、何にせよせめて雨風凌げる屋内だと思うんだよね。
そしてもう一つの可能性としては誘拐して放置、ピンチの状況で見知らぬ人が「大丈夫かい!?」と駆け寄ってくるコース。
このパターンだと駆け寄ってきた人が犯人で、吊橋効果を目的としたマッチポンプのストーカー男という展開が…いや、普通に無いわ。慌てすぎて妄想が暴走中かよ。
さて、現状に関してはどうしようも無いからさっさと思考を切り替えて、
「最後は持ち物の確認、かな」
髪型は首辺りでゆるく二つ結びにしてあるまま。触って確認したけどヘアゴムも問題無し。
そして私はカバンの中を確認する為、一個一個出すのは面倒だから逆さにしてザザーッと全部を吐き出させた。
確認の結果、ペンケース、化粧ポーチ、教科書、スマホ、ソーラータイプのスマホ充電器、ハンカチ、ポケットティッシュ、財布、裁縫セット、絆創膏、爪楊枝、飴が入っていた。
裁縫セットとか普通に出すの忘れて下の方に入ってたし、絆創膏も同じく忘れてた。爪楊枝に関しては本気で忘れていた。いや、調理実習でクッキー食べたりすると歯に詰まるじゃん?だから入れてたんだけどすっかり忘れてたよね。
そして飴。微妙に溶けて袋にくっ付いてるけど食べても問題は無い、と思う。くるくるーって端っこを閉じるタイプじゃなくてギザギザを開けるタイプの飴だったのが幸いだった。だって端っこをくるくるってしただけの奴だったら確実に虫がこんにちはしそうだし。
「とりあえずお日様出てるしスマホは問題無…あるな」
充電の心配は無いだろうと思ってスマホの電源を入れたけど、電波の部分は思いっきり圏外だった。
いや、うん、仕方ない。森の中で電波が入るなんてあり得ないんだ。少なくともスマホの中に入れてある曲とかは無事だし、メモや目覚ましが使えるだけ良しと思おう。
「…てか、これやっぱり現実だよね。夢だったらもうちょっとよくわかんない物が入っててもおかしくないのに持ち物がリアルだし。しかも電波通じないし」
とりあえず持ち物をカバンの中に入れて、スマホを充電器にセット。ソーラー部分がカバンの外に出るようにして、よしオッケー。
サバイバル術なんてさっぱりだし、まずは水場を見つけよう!とかも無理な一般ピーポーな私だ。無理せずに行けそうな木々の隙間を通って道を探そう。
葉っぱの状態や土の状態で水を探したりなんざ出来るか!ろ過の方法も知らんど素人だっての!一般人にそんなスキル求めんな!
今日中にどうにかなりますようにと神様に祈る。日本人なので別に○○様ーとか神様の特定はしない。その辺の石ころも含めて神様です。だから助けてねー。
「さて、と」
よいしょと声を出して立ち上がりスカートを軽く叩いて砂を落とす。体力少ないしキツいけど、頑張ろう!と思った矢先。
一歩目を歩き出す前に、目を疑うのが現れた。
いや、いやいや。ありえん。ありえてはいけない。あれはきっとおできとかその辺のできものだ。
歩き出そうとした私の目の前に現れたのはウサギだった。ただし、
「何で、普通のより大きくて額の部分に角なんて生えてんですかねー…」
おい、夢らしさをこんな時に発揮させんなよって気分だ。
しかも何?この寒気。目を逸らしたらアウトだって弱者の勘が言っている。そして腕だけじゃなく背中まで産毛が立った感触がする。これ全身に鳥肌立ってるじゃないですかやだー。
え、ちょ、待って。目の前のウサギが明らかにターゲットを私に定めてる。これ駄目だって。角はあかんでしょ。腹に穴開いたら死にますがな。
凄いなあ昔の人って。こんな状況で時世の句とか書いてたんかよ。現実逃避だとはわかってるけど、攻撃力たったの1もあるかわからない一般人だ。
もうこれ、諦めるしか無いわ。でもお願いだから最後の言葉だけは言わせてくれ。
「…せめて」
ウサギが動く。ああ、ジャンプする気だなあいつ。一瞬で決めてくれよ頼むから。
「せめて、もうちょっとラスボスっぽいのに殺されてドラマチックな演出の最期が良かった………!!」
「プフッ、なぁにソレ?面白い事を言う子ねぇ」
「え?」
知らない声が、後ろから聞こえた。
思わず閉じていた目を開くと、目の前のウサギは燃えカスになっている。焦げ臭い。
ん?え?今こいつ確かに私を殺そうとしてませんでしたっけ。確かにジャンプする気満々でしたよねこいつ。
「大丈夫だった?お嬢ちゃん♡」
語尾にハートマークが付いているような、蜂蜜のように甘ったるい声だった。
女性の声だ。どこかふわふわして現実味の無い、そうまるでアニメにしか居ないような極上の娼婦のような声。いや、未成年だからよく知らないけどさ。
何が起きたのかを把握する為、私は振り向く。
そこには、
「………痴女?」
アクセサリーを腕や首や足にジャラジャラ付け、大きいおっぱいなのに紐と少しの布でしか隠していない胸。そして下着のヒモが見えているアラビアンのようなズボンを履いた、褐色の美女がいた。
基本ギャグ寄りで行きたいと思っております。
あ、あと紹介し忘れましたが主人公の名前は三岡 美夜って名前です。
どうぞよろしくお願いいたします!