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見習い魔術師とちっちゃな真祖  作者: であぼろ
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8. 紋章と迷宮

 拠点の外に出た途端、重苦しい雰囲気に変わった。そもそもここはダンジョンの最深部であるので当たり前ではあるのだが...


「これ、他のモンスターと出会ったらどうすんの...?ここってメチャクチャ強い奴ばかりなんじゃ...」

「その点については問題はありません」


 そう言ってヴァンパイアのシェリダンは手鏡を取り出し、こちらの顔を写した。何故そんなものを持っているかは知ら...何だこれは?


「僕の額に変な模様があるぞ?」


 一体いつから僕はこんなイタズラをされたのか。心当たりがあると言えば、確か『流し込む』とかでアルカルドに額を触られたくらい...


「も し か し て」

「はい、これは真祖様の眷属である事を示す『紋章』です。あの方に額を触れられたのであれば、そういう事でしょう」


「そ...そうなのか...」


 まあ既に『部下になる』宣言はしちゃってるワケだから今更震え上がる事は無いのだが、こうやって烙印が目視出来るとなると、二度とまともに地上には戻れないだろうなぁ...


「...で、それがどういうこ」


「...ッ!」


 言葉が途切れた。何故なのかというと、不意にも強烈な腐敗臭が漂ってきたのだ。思わず鼻を塞いだ。


 ヒトの死体が近いのかと思ったが、臭いに伴い、獣の様な唸り声も聞こえてきた。絶対違う。


 にも関わらず、彼女は意に介さず構内を闊歩している。流石は異種と言った所だが、関心している場合では無い。


「そう言えば、”明かり”つけてませんね?お願い出来ますか?」


 しかもこんな事を言ってきたぞ。


 とはいえ、僕より物を知ってるのだから、彼女を信用する事にした。


「プリーストさんは”明かり”の呪文をお願い出来ますか?」


 指示対象を腕で指し示してそう言うと、プリーストの一人はその通りに詠唱のち、周囲を明るく照らしてくれた。


 すると、道の先に巨躯がその光に晒された。

 そしてこちらを振り向いた。


「ギャーーッ!」


 ドラゴン。しかし鱗や翼膜はグズグズに崩れ落ち、骨格が見え隠れしている。その姿で倒れていれば死体と見間違えるほど損傷率の高い肉体にも関わらず、こいつはしっかり脚で巨躯を支え、グルグルと唸っている。


 言うならば『ドラゴンゾンビ』。はっきり言って、生きたドラゴンよりヤバイ奴だ。何気が付けば僕の手足胴体は極限の緊張状態となっている。

 奴の目があった箇所は、底無しの瞳となってこちらを縛り付けているようだ。


「あわわわ...」

「大丈夫ですよ。襲ってきたりはしませんから」


「...え?」


「....」


 言われてみれば、ドラゴンゾンビはこちらを見たまま何もしてこなかった。やがてモンスターは視線を外すと、立ち去っていった。


「何だったんだ...」


「これが『紋章』の影響です。これにより、ダンジョンで出会うモンスターは貴方を外敵扱いしません」

「そ、それは本当か」


 本当ならば、かなりズルーいものになるな。その代わり冒険者が敵扱いにしてくるんだろうけど。


「問題無いのはそういう訳です」

「あと、次はこちらの壁を『通って』下さい」


 ん?壁の中は通れないと思うのだが...


 半信半疑でその壁に触れると、なんと、すり抜けたのだ。


「うわぁ、正規ルートでこんな仕掛けされたらお手上げだろうなぁ...」


 幻影で出来た壁の内部はあんのじょう、真っ暗であった。パーティが転移呪文に失敗し、石の中に飛ばされたという話を聞くが、このような景色なのだろうか。


「ダンジョンの構造は覚えておいて下さいね。帰れなくなりますから」

「うん」


「...それにしても、シェリダンさんて、妙に僕に対して親切そうにしてくれるけど、不満とかは無いのかな?」

「?」

「その...僕って人間だし、何かシェリダンさんの気に障るような事って無いのかなって...」


 アルカルドはストレートにヒトを見下したような性格をしている。それは力の強い異種であるからこそだと僕は推測する。ならば彼女も同じでありそうだが...


 しかし彼女は慌てて両手を振って否定するような素振りを見せた。


「そんな事は無いです!私、そういうのあんまり気にしない性質(タチ)なので...」

「...」


「むしろ、初めての”後輩”ですからちょっと...嬉しいかな、って」

「こ、後輩?」


 異種の発言にしては随分と可愛い言葉であったのでキョトンとしてしまった。アルカルドの前では厳しそうな印象であったが、今の彼女はそれとは違って柔らかい。


「私...変な事言いましたか?」


「いやいや!そんな事無いよ!思ったより優しい事を言ってくれたもんだからつい...」


 そう言うと僕は先程の彼女と同じ仕草をとっている事に気付いた。


「つい...」


 なんだか恥ずかしくなり、口が進まなくなっていると、シェリダンはクスクスと笑い始めた。


「ふふっ、なんだか似た者同士みたいですね」

「...言われてみるとそうかもな」


 この時僕はどんな顔をしていたかは分からないが、きっと彼女と同じような表情だろうか。



 と、そんな風に立ち止まっている二人は、こちらに視線を集中させているモンスター達に気付くと、急ぎ足で再び歩を進めた。


「....皆が急かしてるから先進もうか...」

「ええ」


 変な気持ちにさせられたが、そのせいもあってか緊張は少しほぐれた。まだ冒険者は見られないけど気を引き締めて探索を続けねば。



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