40. 奇跡
「トシオ、無事か?」
「ああ、だが死ぬかと思ったぜ...斬っても斬っても際限無く増えやがるもんだ」
台詞の割に調子の良いサムライ、トシオ。彼の背後には、大量の悪魔の死骸が積まれている。見慣れた光景なのか、仲間達はそれを見ても驚きはしなかった。
「しかしエーコよ、何を起こしたんだ?」
目の前のモンスターが突然ぱっと消滅した、という奇妙な出来事に対してバナンは彼女に聞いた。
「あいつらは死んだ訳じゃないわ、どこかへテレポートさせただけよ。もっとも、何体かは“石の中”だろうけど」
曰く、“モンスターのテレポート”はこの呪文が引き起こせる効果の一つであり、一定の選択権こそ与えられるが、唱えるまで何が起きるのかは分からない。高位の呪文使いでもその存在すら知られておらず、名称も定かではない。
なので彼女は、その不確定要素と、絶大な威力から『神の奇跡』と名付けている。
「しかも、呪文抵抗貫通ときたか、恐ろしく強いな...」
「今回の冒険じゃ、もう撃てないけどね」
三人が感心している中、ヴァンパイアロードによって、痺れて動けなくさせられている司祭は、今にも動きそうなくらい震えていた。
「おーい! 早くおれを治してくれよーっ!」
「おおっと、忘れていた」
バナンはわざとらしく言って、治癒の呪文をかけた。自由になったヨクは血の気の引いた頭を抱えている。
「くそ...いつもより力が入んねーや」
「あんたも大丈夫? 吸血貰ったんでしょ?」
「何かを忘れた訳じゃねーから大丈夫だが...二、三クエスト分イかれたぞこれ」
「あのヴァンパイアもやられてりゃいいんだがな」
パーティは戦闘後の回復を済ませ、魔力を使っている事を除けば無傷同然の状態で再び集う。彼らは小さくも恐ろしいダンジョンマスターを退ける事に成功した。後は奥地に行き、奪われたアミュレットを回収するだけの消化試合である。
「さぁ、先を急ぐぞ」
「ええ」
トシオの合図で、四人は早足になって迷宮の奥へ進んだ。
ーー
「マジか...」
迷宮の何処かへ飛ばされたヴァンパイアロード、アルカルド。彼女は先程、自らの位置を確認する“明瞭”を使ったが、頭に浮かんだマップが、自身の所有する五つの階層の構造のどれにも該当しなかったのだ。つまり、今まで戦っていた所よりも、また異なったダンジョンへ旅行している状態である。
「(しかも、ホームポイントからかなり座標が離れている...随分とデカいもんを許してしまったもんだ)」
アルカルドはとんだマヌケをやらかしたと思った。魔術師には、“転移”という、自分と仲間をワープさせる呪文を憶えるが、遠い場所である程、思った位置よりもブレやすくなる。彼女の感じた程度だと、五〜十メートルくらいの誤差が生じると考えている。身体の一部から全体が石に埋まる事があるので、ダンジョンへの転移において、これは自殺行為に等しい。
しかし、もっと確実な帰還方法を彼女は知っている。




