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見習い魔術師とちっちゃな真祖  作者: であぼろ
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39. 残り10秒

「10秒間、私を守って貰えないかしら?」

「まだ使った事のないものなんだろう、大丈夫か?」


 仲間達は、エーコの使おうとしている呪文の名前、それが『核撃』と同等のランクである事はわかっているが、詳細の説明はこの冒険で一度きりしか使えない以外、本人でも出来ない。


「伊達に最強名乗ってないわ、やってやる...」


 彼女は自信を持って言った。


「ならば大丈夫だ。俺はあいつと違って、押し込むより、動かさない方が得意だぜ」

「トシオーーッ!ちょっと待ってろよなー!」


 ヨクはアルカルドより向こう側で戦っているサムライに呼びかけると、「俺は大丈夫だ!」と言葉が返ってくる。二人は、彼の健常を祈ってエーコを守る配置につき、彼女のタイマーが動き始めた。残り10秒。


「何をする気かは知らんが...お前ら! 出る前に潰すのだ!」


 ガォォン!


 アルカルドの命令により、二体の“ブラックドラゴン”が駆け、“デーモンロード”は、魔術師を邪魔する為の呪文を練ろうとした。

 その時、彼女は空間の歪みを感じた。


「あのビショップが作った『呪文封じの場(サイレンスフィールド)』か...」


 戦闘において、相手の呪文を妨害する手段は、『沈黙』呪文で黙らせるのが一般的であるが、これは呪文抵抗(レジスト)能力を持つ悪魔族などに対して有効でない。

 しかし、ヨクが使った呪文はモンスターを対象にしておらず、その周囲に、『沈黙』の効果を持った場を生成する事で、呪文抵抗持ちにも干渉する事が出来るのだ。勿論、相応の修練は必要とするが...

 残り7秒。“ブラックドラゴン”達はもう一度冒険者に燃え盛る息を吹きかけた。

 それに対しては、バナンの『聖楯(シールド)』呪文で強化した盾で一気に受けとめ、その態勢のまま、どすどすどす、とモンスターに近寄っていく。


「あばよ!」


 彼はブレスを切らした時を見計らい、ドラゴンの脳天に剣を突き刺し、すぐに引き抜く。


「お前もだ!」


 もう一方には、口元から斜めへ切り裂いて抜ける。


 カッ...⁉︎


 クリーンヒットに怯む一体のドラゴンだが、四肢にダメージはいかず、自らを傷付けたバナンを無視し、命令通り詠唱中の魔術師へ突き進んでいく。


 クル、グルルァァ!


「浅かったか...ヨク!」

「おうよ」


 残り4秒。モンスターに立ちはだかったヨクは一筋の稲妻を呼び、その覆い被さる程の大きな体躯を貫いた。一瞬の轟音を最後に、“ブラックドラゴン”は全滅した。

 残り3秒。今度は“デーモンロード”が腰に差してある剣を抜き、突っこんで来た。他のようにうるさくはないが、明確な殺意を見せている。


 ガキィッン!


 直ちにバナンが対処に当たった。アリとゾウに等しい体格差だが、力量はほぼ拮抗している。


「し、しまった!」

「しばらくそのオトモダチと遊んでいろ、マヌケ」


 しかし、彼が止められるのはこの一体のみであった。ほぼ同時にアルカルドが横切っていったのだ。さらに、呪文を唱えたばかりのヨクを通りすがりに引っ掻き、彼の僅かなレベルと身体の自由を奪った。


「(間に合うか...?)」


 この時点で、魔術師の言っていた“10秒”が経とうとしており、アルカルドは焦っていた。不浄なヴァンパイアなどを塵に帰す“解呪”能力を持つ司祭ヨクの隙を突いて彼女は行動に出る事が出来たのは良いが、時間が足りないかもしれないと彼女は思ったからだ。

 アルカルドは魔術師エーコに向かって、尖らせた腕を突き出そうとしたその時――


 カッ!


 突然、エーコの手を中心に強く光り出し、思わずアルカルドは目を瞑ってしまった。


「しかし、そんなもんでこの儂が...」


 これでアルカルドの動きは止まらなかったが、素手による突きは何も貫かなかった。それどころか、目の前には誰もいなかった。

 辺りを見回しても、先程までいた手下と冒険者さえも見られない。


「まさか!」


 彼女は迷宮の何処かにテレポートさせられたのだと気付いた。



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