32. 怪獣達と魔王
「ていうかアルカルド、そいつらを連れ...て」
急に僕は全身の冷たくなる感覚を覚え、口が途切れた。心当たりは無いが、理由はすぐに分かった。
そびえ立つ『デーモンロード』の底知れぬ瞳に睨みつけられていたからだ。
「大丈夫ですか、アンドレ君?」
シェリダンさんの僕を案ずる声が聞こえたが、それに応える事が出来ない。言葉だけでなく、仕草でもだ。得体の知れない恐怖によって今、僕は縛り付けられている。
「おい、大人気ないからやめておけ」
「...」
そんな時、アルカルドがデーモンロードに声をかけてくれたおかげなのか、奴は視線を外した。その影響で緊張が解けた僕はそのまま床にへたり込んでしまった。
「ハァ...何だったんだ今の...」
「...強大な魔力を持つデーモンロードは、見るもの全てを恐怖を植え付けます。常人なら、良くて今のアンドレ君のようにですが、最悪の場合...心臓が止まると言われています」
「こ...怖過ぎだろ...」
「まぁ、ションベンをチビらなかっただけマシだと褒めてやってもよいぞ」
...そんな皮肉はさておき、何もしなくたっても人を殺せるとシェリダンさんから聞けば、アルカルドのしもべの中で、数の利を含めても、最も危ない奴であろう。そいつだけは、一体や二体で数えるべき存在ではない。
「で、アルカルドはどこへ行くつもりなんだ?」
「奴らは既に下準備を終えてこの迷宮に入っているかもしれん、早々に迎え撃たねばならぬ」
「まさか、もう来ているというのか?」
「決まった訳では無いが、奴らが来るまで迷宮に籠るつもりだよ」
アルカルドはそう言って、迷宮部へ歩いていったが、更に吐き捨てるように言葉を続ける。
「お前達は儂が帰ってくるまでここを出ず、いつも通りにしていてくれ、いいな」
グルルォン!
シャーッ!
そして、返事を聞かずに彼女は出ていった。僕とシェリダンさんは怪獣達の大行進をただただ見守るばかりだった。
「それが、彼女の最後の言葉であった...」
「勝手にあの人を殺さないで下さいー!」
しかしながら、オールスターズの強さは認知しているようだったが、「もし儂が死んだら〜」とか言わない辺り、帰ってくる気はマンマンであるようだ。これが油断でなければ良いのだが...
「あとアンドレ君、その女の子は?」
そういえば、彼女の事を知らないんだった。ならば、言っておくべきだろう。
「こいつは僕の友達のアルマっていって、これから一緒について来てくれる事になったんだ」
それを聞いてか、彼女は「友達ね...」と言って口元を緩めはじめた。
「へぇ...アンドレ君にガールフレンドがいたとは意外ですね」
悪戯っぽく微笑んで言われると、思わず部分的に否定したい気持ちに駆られた。
「いやいや、ガールフレンドなんてそこまでの仲じゃあ...」
「そこは「僕の女だ」って言ってもいいんですよ? 可愛い子なんですから」
ちょっとの返しでも、彼女は一層ニコニコ...いや、ニヤニヤしていた。最初は静かな印象だったけど、なんだか冗談も言ってくるようになってきたな。
「そりゃあ言いたくなるけどさぁ...」




