29. 良い事をしたわけではない
アルマの蘇生に成功させたその後、彼女は「一体どうなってるの」と聞いてきたので、僕は片頬を抑えながら今の状況を説明した。ここは迷宮の最深部である事、隣の少女はここの主である事、アルマは生き返ったという事など、彼女のわからないであろう事は可能な限り話した。ちなみにアルマの衣服は過去にやっつけた冒険者の『お下がり』を急いで用意している。
「...ゴメンチョットワケワカンナイ」
僕の話を聞いて彼女は、頭を抱えて混乱しているようであった。無理もない事である。僕が彼女の立場でも、理解するのに二度三度言い聞かされる必要があるだろう。話している僕も整理がついていないというのもあるし。
「もう一度説明してするか?」
「別にいいわ、話は覚えているもの」
一応、再度の状況説明を提案してみたが、もう少し時間を頂戴、と言わんばかりだ。
「アルカルドちゃん...だっけ?」
「ちゃん付けはやめろ」
「貴方本当に...あの『ヴァンパイアロード』なの? とてもそうには見えないんだけど...」
僕の話した事には、今見える光景しか根拠は無い。もうこれは本人が示してくれれば良いのだが...
「こいつの話したように、儂がそうだ。世間は若い男だとか中年だとか言うてるが、実際はこんな可愛い可愛い女の子だよ。悪かったな」
「(自分で言う事かよ)」
「証拠なら勿論見せてやるぞ。血液だって吸えるし、お前らより強い呪文だって使える」
アルカルドはそう言って、手のひらから魔力のようなものを帯び、彼女に向け始めた。
「わーっ! ストップストップ!」
それを見てか、アルマは慌てて制止しようとした。僕は彼女に便乗しなかったが、冷や汗がかなり湧いてきた。
「これ以上疑うならもう一度寝てもらう事になるが、分かったか?」
「わ、分かったわ」
腑に落ちなさそうだが、彼女もアルカルドの事をちょっとは理解出来たと思う。
「で、わざわざ生き返してやった事だし、貴様をどうしてやろうか...」
今度はアルカルドがアルマに声をかけたが、この先に何か強制的な事を言いそうな気がしたので、彼女が返答をする代わりとして、僕が言葉を挟んだ。
「待ってくれ、アルマに悪事の片棒を担がせたく無い。街に帰してやってくれないだろうか?」
「フン、この娘にはどの道まともな未来など用意されちゃあいないさ。貴様が一番分かっているだろう?」
「...ええ」
「でも」
「何が『でも』だ? 小僧、人を生き返す事自体は何も全部良い事では無いのだぞ?」
「...!」
悪い奴に何か言われているのに、すごい痛い所を突かれた気がした。罪の被せられた僕の側に付いてしまったアルマは、望まぬ穢れを持ってしまっている。今思うと、浅はかで自分勝手な考えだったのだ。
「儂としては、外に帰す事は勧められん。ここにいた方が断然、安心だと思うがな」
「...でもタダじゃないって言うんでしょ?」
「勿論だ、儂のもとで『手伝い』をする事。それが入居者に課す対価だ。さあどうする?」




