2. 吸血鬼の王
「ふむふむ...」
部屋の書物を読みふけっているアンドレ。見た事も無い魔道書も数多くあり、彼の好奇心は加速する。
「こんなもの、一体どうやって持ってきたんだろう?」
あの『ペンタグラム』といい、こちらも相当希少なものだ。調べるたび、彼女が何者かわからなくなってくる。
ガラッ
「待たせたの。じっとしていたか?」
彼女の眼前には、人様のソファーに掛けながら悠然と人様の本で読書をしているクソガキの姿が見えた。
「おのれ、儂の住処で楽しそうにくつろぎおって。」
「ごめんごめん、ていうかその背負ってる奴はなんだ?」
「わからんか?」
滴り落ちるものを見て、何が背負われているのかをアンドレは悟った。
これは死体だ。二人程持っている。
「これは一体..」
少女は乱暴にそれをやると、何の死体かもわかった。
これはトランレーゼ兵の装備だ。硬いはずの装甲が貫かれており、最早誰の仕業なのかは明らかだった。
「これをお前がやったのか...?」
「そうだ。こいつらが迷宮の浅い所でうろちょろしてるのを見てな。」
「ちょっかいをかけてやった」
突っ込みたい所だが、この少女が何か別のものに変貌したように見え、それどころで無くなった。
王国兵士もやわな身体ではないし、こんな華奢な腕で鎧ごと乱暴にブチ抜くなんてとても普通じゃあない。
すぐに気付くべきであった。
「こいつら、何か人探しをしていたみたいでの。」
「それはお前の事だな?」
「..!」
何を言えば、と一瞬息が詰まるがどちらにしてもアレだ。正直に言おうか。
「ああそうだよ。僕はトランレーゼ王国に追われている身なんだ。」
「でも僕自身は何もやっちゃいな」
「そんな事は儂の知った事ではない。」
「何をした、とされたのだ?」
「...アミュレットを盗ったと疑われた。」
「アミュレットだと...?」
少女の眉がぴくりと動いた。
「ああ、だがそんなものは持っちゃあいない。」
「じゃろうな。そんなものを持てばお前でも無双できるわ。」
「で、犯人に心当たりはあるか?」
アンドレはすぐにあの顔が頭に浮かんだ。近しい存在でありながら、一番やっつけてやりたい顔だ。
「恐らく、近衛騎士のマーカスって人だと思う。優しい人だったのに、ある時、人が変わったように僕を糾弾して...」
「ふむふむ...」
「ならばそいつが”アミュレット”を持っているという事になるな。罪を他になすりつける事で誤魔化したんじゃろ。」
「一体どうして...」
彼がアンドレを貶める動機は未だわからないままだ。だが、僕は彼の懇意で何度か王宮を訪れた事がある。そのせいだろうか...?
「...何故お前に矛先を向けたかはともかく、”アミュレット”を奪い取る理由なら掃いて捨てる程あるからの。」
「儂も狙ってたんじゃがの。あの時もう少し追いかけていれば...」
少女は栓の無い話を切り、次の話に移った。
「だが、王宮は未だその秘宝が奪われたものだと扱っている。」
「これがどういう事か分かるな?」
...アミュレットは王国の無敗を維持するのに絶対必要とされるもの。執心の国王は如何なる手段を辞さないだろう。という事はしつこく書いた筈だ。
「僕を討伐する為に、軍隊を派遣するくらいやってくるに違いない...そうなると僕は疫病神じゃないか。」
「大方合ってるが、少し違うな。」
「向こうの見解では恐らく、儂がお前を殺して、そのアミュレットを奪いとった、と見ておる。」
「!」
身体が震え上がる。何故か、彼女の言葉に冗談が混じっているとは思えなかったのだ。
「何を驚いておる?お前よりは的を射た意見だとは思うがな。この儂が言うのだ。」
「...」
「それに、お前は疫病をバラまいてはおらんぞ。むしろ、儂に大量の食糧をもたらしてくれる福の神と言っても良い。」
「?」
「福の神?食糧?何を言ってるんだ?あんたも国から狙われてるかもしれないって事なんだぞ?そんな余裕こいてる場合じゃあーー」
「儂を誰だと思っておる?」
少女がこちらを睨み付けた。
「貴様は少々外見を信用し過ぎていないか?何も知らぬようじゃから、この際自己紹介をしておいてやろう。」
「へ?」
「儂は、ヴァンパイアロードのアルカルド。種族については知っておるじゃろうな?」
「ヴァンパイアロードだって⁉︎」
ヴァンパイアロードと云えば伝説上の大悪魔だ。人をも食糧とし、永遠の若さを保つ魔界の貴族。信じたくは無かったが、先程の状況やあの傲慢な態度を見て、そうでもないと辻褄が合わないーーー
「は、ははーっ!」
「遅いわ莫迦垂れが!」




