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見習い魔術師とちっちゃな真祖  作者: であぼろ
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28. 王国では 別視点 その②

こちらも前の話に続く内容になっておりますので、しばらく経てば同様に並び替えさせていただきます。

度々申し訳ございません。

 酒場は、宿屋と併設されており、建物の二階にある。もし酔い潰れても、すぐそこに寝床があるものだから便利などと、評判は良い。

 シェリダンは建物内に入ってすぐにある階段を登り、手前の両開きの扉をあけた。

 すると、がやがやとした喧騒は、水流のように廊下まで入り込んできたので、彼女はすみやかに入って閉めて、隅の席に腰掛けた。


「ご注文をうかがいます」


 酒場の店員は見逃さずに、シェリダンのもとにやってきている。


「じゃあ、エールを一杯お願いします」

「かしこまりました」


 注文の確認を終えた店員は立ち去っていった。その後彼女は真ん中の方で騒いでいる者達を見た。


「でさ、そこで俺様がドタマをカチ割ってやったワケよ!」

「すげぇーッ!」


 ガハハと武勇伝を語っているのは、ベテランパーティの戦士である。新米達を巻き込んで声を高くしており、その仲間達は静かに飲みながら聞いている。

 そんな時、その男は、頬杖をついているシェリダンに遠いながらも目が合ったので声をかけた。


「そこのネエチャンも折角だからこっちに来いよ! 隅っこじゃあ、酒がマズイだろ?」

「...」


 先程の賊と似たり寄ったりなアプローチをされた彼女だが、今度は無反応を示さず、席を立った。


「あっ、ご注文のエールでございます」

「ありがとう」


 ちょうど良いタイミングで現れた店員から、シェリダンはジョッキを受け取ってその代金を置いておくと、その男の隣席を譲ってもらった。

 このように他者とテーブルを共にするのも、彼女の情報収集手段の一つであるが、元々彼女は、自ら進んで人と接する事に向かない性格である。

 それを憂いたアルカルドは、あらかじめシェリダンに『魅了』と呼ばれる呪文を授けていた。この呪文を唱えると、周囲の興味が唱えた本人に向き、喋る口を軽くさせるというものである。

 要するに、男が彼女に声をかけたのも、席を譲ってもらったのもこの呪文のおかげ。これでシェリダンは、半受動的に接触が出来るという訳だ。


「(これはこれで抵抗がいりますけどね...)」


 まあ、彼女にとっては無いよりマシな程度である。


「お嬢さん、すっごく綺麗だけど、年いくつなんだい?」


 シェリダンが座った後に、デリカシーの無い質問をしてきたのは、男の仲間である盗賊だ。


「こら、初対面なのに失礼でしょ!」

「あいてっ!」


 その隣の女魔術師は立てかけている杖を持って、その盗賊にボカッと突っ込みを入れると、シェリダンへと向き直って、軽く頭を下げた。


「ごめんなさいねぇ、こんな奴がいて」

「いえいえ」


 このような歓迎ムードも、呪文によって作り上げられたものである。『精神操作』なんていずれ呼ばれるかもしれないが、そこまで心を捻じ曲げるものでは無い。ただ近い角度に逸らしてやっただけであるので、敵意がある場合は通用しない。

 それでも一応、回答は返してやろうとシェリダンは自身が人外と化した時点での年を指でこっそり数えて、


「えっと、年は26で、セリーヌっていいます」


 その時の年齢と、適当な偽名を名乗った。


「セリーヌ、ちゃんか...ふむふむ」


 にやにやする盗賊を余所に彼女は、すぐさま聞きたい事を聞こうとした。


「この頃、何か変わった事はありますか?」


 彼女の言葉にはサードの没による影響を調査している、という目的の一つもある。その返答は、盗賊がしてくれた。


「最近といったら...街の兵士が多くなってきた事くらいか」

「というと?」

「王サマが各地からここへ手下を集めているらしい。痺れを切らせば、あの迷宮へそいつらをブチ込むつもりだろうよ」

「そうですか...」


 彼女は、報奨金の引き上げがされているのは聞いていたが、王はやはり、すぐに解決したい気持ちもあったようだった。キッカケ一つで小戦争だと、真相アルカルドに伝えておこうと彼女は思ったが、“最近”という言葉を聞いてか、戦士が思い出したように、口を開いた。


「そういえば、ここに入った時にあらかじめ宿帳書いたんだけどな」

「そうそう! すごい名前があったのよね!」

「へぇ、何ですか?」


 魔術師の女の子が半ば嬉しそうだったのか、釣られてそれに期待をするシェリダンであったが、直後に誤りであったと気付く事になる。


「俺たちの書く枠の上に、『ヨク』って書いてあって、ページを戻して見れば、『トシオ』と『エーコ』に『バナン』と来たもんだ。間違いねぇ!」

「何ですって⁉︎」


 それを聞いたシェリダンは途端に青ざめた顔になった。いずれは現れるだろうと予想していたのだが、思ったより近い所にいると聞いたからだ。


「ど、どうしたんだい?」


 彼女の不意に漏れた真面目な声と表情から、ただならぬものと察し、心配する相手パーティだが、彼女は頼んだエールを残し、席を立った。


「ごめんなさい。私、急用を思い出して...」


 そう言ってシェリダンは、そそくさと酒場を飛び出していったが、急な勢いでぽかんとしていた者達は、「彼らの追っかけだったんだろう」と推測し、また談笑に戻った。

 最上位の冒険者となると、自身の正体を看破される危険性がある。そうなれば即、弱点である解呪(ディスペル)を貰い、殺される。そんな恐怖に駆られ、階段を駆け足で下っていると、ちょうど人と突き当たって足を止めてしまった。


「おおっと」

「す、すいません」


 シェリダンはぶつかってしまった人をよく見てみた。


「(聖なる...鎧⁉︎)」


 その男は、他の者とはまるで装備が違っていた。その白銀と黄金の意匠は、かの名高い防具であると彼女はすぐに分かった。そして、彼も名高い人物である事も。


「こちらこそ、失礼した」


 男は軽く謝ると、彼女を通り過ぎていったが、その彼に続く者が三人いた。

 エルフの魔術師、風変わりな得物を下げた剣士、そして、背の低いノームの僧侶。彼女は更にこの組み合わせを見て、彼らが最強軍団『オールスターズ』であると確信した。風変わり、というのも恐らく『ムラマサ』の刀だろう。


「(まさかこれ程早くやってくるとは...)」


 最早シェリダンは、運良く気付かれないよう祈るしか無かった。オールスターズの面々になるべく目を向けずに、引き続き、酒場から離れようとした。

 しかし、階段を下りた後も、何かされるような事は無かった。シェリダンは取り越し苦労だったとほっとすると、そのまま帰路についていった。


「...」


 その様子をノームの僧侶は振り返って見ていた。やがて足取りが止まっていると剣士の男に指摘されると、彼は向き直ってパーティのもとへ戻っていった。

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