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見習い魔術師とちっちゃな真祖  作者: であぼろ
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27. 王国では 別視点

前のお話とは時間軸の異なるものとなっておりますので、しばらく経てば、23の後ろに挟ませていただきます。

申し訳ございません。

「これと、これを下さい」

「はい、全部で120G頂戴するよ」


 パン売りが合計を言うと、買い物に来た女の人は紙袋を抱えながら、小袋から相応の貨幣を取り出し、差し出された掌の上に置いた。


「毎度ありがとう。嬢ちゃん、可愛いからこれもおまけしちゃうよ!」


 売上金をしまうと、パン売りは彼女の抱えている紙袋に、更にバゲットを一本挿した。


「また来てくれよ!」

「あ、ありがとうございます」


 挨拶を交わして、彼女は店を立ち去った。

 店を出た後、こっそりと取り出したのは『黒い立方体』である。彼女はパンの詰まった紙袋をその立方体に入れようとすると、明らかに収納出来るサイズで無いにも関わらず、するすると吸い込まれていく。

 超収納アイテム『ブラックボックス』。国によっては宝物扱いをされかねない代物であり、人前で使うには憚られる。

 それを扱う彼女、シェリダンも元々は、人目に憚るような存在である。しかし、真相アルカルドへの情報伝達役も請け負っているため、少し危ないが、時々こうして外に出て来なくてはならない。


「さて、買い出しも終わった事だし、酒場でも行きますか」


 酒場には、彼女の外敵である冒険者達が集まるが、そういった者達を知るのも、後々生き残る為に必要な事である。また、冒険者の方が、色々ものを知っているのだ。なので、彼女はそこへ出ようとした。しかし...


「あの人は...?」


 路地裏の方にちらりと人が通っているのが見えた。他愛の無いものとして見過ごすつもりであったが、あれが前にアンドレから『濡れ衣を着せられた』と聞かされたあの騎士の姿である事は知っていた。

 誉れある騎士とはいえ、薄汚い闇の中を歩くのは、治安を守る行為であると納得出来る、とシェリダンは思ったが...


「(もしかしたら別の目的なのかもしれません)」


 あの騎士が『アミュレット』に関わっているとするならば、何か良い手がかりが得られるかもしれない。そう考えた彼女は騎士を追う為に、狭い路地裏に寄り道をしていった。

 消えていった方を曲がったが、幸い、姿はまだ見えており、まだ追跡が出来る状況だ。なので細心の注意を払い、目立たないように行動していた。しかし、そこに隠れている者の目を惹いたようだった。


「そんな暗い所で一人散歩とは随分と余裕だな、ねぇちゃんよぉ〜」


 野太い声と一緒に、他に隠れていたガラの悪い男達がぞろぞろとシェリダンを取り囲んだ。


「(面倒臭い事になりましたね)」


 人が立ちはだかったせいで、騎士の姿が隠れて見えなくなってしまう。彼女はその事を残念に思っていた。


「大人しくしていれば、優し〜くしてやるぜ?」


 シェリダンの目の前にいる男は気味の悪い笑みを浮かべている。恐らく彼らは彼女の身ぐるみを剥ぐついでに、不純な行為を働くつもりなのだろう。


「(下手に騒げば追跡を悟られる。仕方ありません...)」


 彼女は男の言う通りに、抵抗せず彼らの隠れ家に連れていかれる事にした。男達の行き先は、騎士の通った方向とは違っていた。

 中に入ると、いくつかのテーブルに申し訳程度に積まれている酒樽と、集まりの場としては最低限な施設であった。そこに腰掛けている三人程の賊らが彼らを迎える。


「女を一人捕まえてきましたぜ!」


 そして、扉が閉められ、かんぬきがされた。これで逃げ場が無くなったようだ。


「ほほーう、たまには良い仕事をしてくれるじゃないか野郎共...」


 奥のリーダーらしき男が機嫌の良さそうに彼女に歩み寄った。


「しかも、外見も良いときたもんだ」


 そう言って彼はシェリダンの頬を撫でようとした時、その手は急に彼女によって弾かれた。


「⁉︎」


 シェリダンは男が敵意に気付くまでに懐からすぐさまナイフを取り出し、

 首元にザックリと突き刺した。


「んなっ⁉︎」

「ぎょ...ほ...」


 彼女はナイフを引き抜くと、リーダーらしき男は鮮血を垂れ流しながら倒れた。


「上等じゃねーか...」


 しかし、その程度で怖気づくような賊ではなく、皆、己を奮い立たせて得物を構えた。


「やっちまえぇーッ!」


 各々が鈍器や刃物で彼女一人に襲いかかっていく。(かしら)を殺害された以上、女性であろうと関係ないようだ。


「後悔させてやるぜッ!」


 それでも賊共の攻撃はシェリダンに届く事は無かった。彼女は次々と刺突や打撲をかわしていき、部屋の奥へと逃れた。


「水は固まり...」

「馬鹿め、自ら出口から離れやがった!」


 賊の罵りに構わず、シェリダンは何かを呟いていた。一人がそれを邪魔してやろうと突っかかったが、彼女は気にも留めないように身体をずらし、


「ほげっ!」


 上段に蹴りを入れて吹き飛ばした。


「火は沈み...」

「この女をブチのめせぇぇッ!」


 怒りが最高潮に達した賊共が椅子を乱暴にどけて、再びシェリダンに詰め寄っていく。


「渇いた叫びもかき消す風よ...!」


 その言葉から呟く事を終えた彼女は、締めの言葉として、呪文名を力強く言い放った。


「“吹雪(ブリザード)”ッ!」


 その時、彼女の突き出された掌から、冷たい豪風が吹き荒れる。それは、怒りの炎を言葉通り無理矢理沈めようとしていた。


「うおぉぉぉ...何だこれは...!」

「勢いが、削がれるぅ...」


 吹雪の勢いは次第に増していき、彼らはこれ以上、彼女に近付く事は出来ない。

 勿論、それだけでは無く、この呪文による超低温の風は、対象者の熱と感覚を全て奪い取る。既に賊の半数以上が意識を失っていた。


「怯むな...! まだ数の利ではこっちが勝ってんだ!」


 風が止むと、残った賊がふらつきながらも彼女に切りかかろうとしたが、彼女の方も積極的に賊のもとへ向かっていった。


「(後は適当にやってれば片付きますね)」

「うぼっ...」


 彼女は最初の一人の首筋を引き裂き、その隣の賊も器用に急所へナイフを突いて倒すと、もう彼女に向かってくる者はいなくなった。


「に、逃げなくては...」


 むしろ彼らは彼女から逃げようと、閉めたばかりの扉を開けようとしている。


「ぎゃ...!」


 それを見た彼女はすぐにそいつへ目を向け、ナイフを投擲していた。


「逃がしませんよ」


 そして、シェリダンは出口を抑えた。逃げ場が無いのは、賊達の方であった。


「ま、待ってくれ! 金なら持ってるだけならいくらでもやる! それで見逃してくれ!」


 命乞いをしたのは、先程シェリダンを拐おうとした男であった。


「...」

「お...俺も! 俺もお願いします!」


 彼に続いて、残った者も降伏の意を表しはじめた。


「なぁ、頼むよぉ〜、こう見えても結構持ってんだぜ?」


 男は小袋の中身を見せながら、勝手に話を進めている。その時、後ろの賊はこの男が今、何をやろうとしているのかを察した。


「今回だって仕方な〜くやったことさ...」

「何だって言う事を聞く、な? この通りだ...」


 そう言って男は更に詰め寄り...


 ドスッ!


「...」


 衝撃を感じ、シェリダンは自分の腹部を見た。すると、ナイフが男によって突き刺されていたのだ。


「と...油断させといて...バカめ... 死ね!」

「や、やった...」


 男はナイフを引き抜くと、目の前の女が崩れ落ちる様を眺めようとした。


「はは...大人しくしてなかったからこうな...あれ?」


 しかし、シェリダンは倒れるどころか、ダメージを受けた素振りを全く見せなかった。


「不浄なる者が私を滅ぼす事は出来ませんよ」


 男は彼女が微笑みかけたと認識した時には、自身の顔面はめり込み、身体は奥の方までぶっ飛ばされていた。


「ば...化け物...」


 腹部が衣服を通して赤く染まっているにも関わらず、依然変わらない動きに、ようやく彼女という者を理解し始める賊達。だが、どんな種族であるかははっきりしていないのか、一人の賊がこんな事を尋ねた。


「お前は...一体何なんだ...」


 コツコツと反響する足音が次第に大きくなっていくように聞こえる。しかし彼女は彼の最後の質問を聞いていた。


「貴方がたと同じ、悪いやつですよ」


 それが、残った賊達が聞いた最後の言葉であった。


 全ての始末を終え、隠れ家を後にしたシェリダン。ヴァンパイアである彼女にとっては、盗賊の処理など造作も無い事である。高い身体能力と広範囲の魔術師呪文を備えており、切り傷や刺し傷についても、再生される。

 しかし、衣服までは元に戻らないので、血で汚れたローブは隠れ家を出る前に着替えていた。


「(寄り道をしましたが、改めて酒場へ行きましょうか)」


 身の回りを確認したシェリダンは、再び光の当たる路地へと出て行った。

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