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見習い魔術師とちっちゃな真祖  作者: であぼろ
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26. 囁・詠・祈・念

「本当かアルカル」

「ただし」


 浮き足立った僕を、アルカルドが遮った。


「儂の創り上げたこの呪文は失敗する可能性がある事を事前に言っておく」

「失敗すると...どうなるんだ?」


 その問いかけに対し、彼女は当然のように告げた。


「そいつは灰になる。そうなってしまえば、二度と術をかけてはやれん」


 その答えに僕は息を呑んだ。きっと、頭の中では確実であると錯覚してしまっているせいだろう。


「チャンスは一度きり、という訳か...」

「そういう事だ。結果に対する文句は一切受け付けんぞ」

「...わかった」


 流石の大悪魔も、これに関しては奢らなかった。だから、蘇生は本当にバクチなんだろう。僕の頭も、失敗する前提で切り替えていかねばならない。


「ちなみにお前、今から持って来れるのか?」

「うん」

「ならば、行くがよい」


 ――


 回想は以上である。アルカルドが蘇生呪文を完成させたのだ。あいつ、もっと時間がかかる風に言っていたが、それからあと一日跨いだだけで世紀の大発見だ。『ヴァンパイアロード』というモンスターは語られる以上に頭がぶっ飛んでいる。

 という訳で、僕は一旦、迷宮の外に出ようとしていた。そこには、逃げ込む際に置き去りにしてしまった僧侶アルマの死体があるのだ。


「(もっとも、無くなっている可能性もあるんだけどね...)」


 それでも、見に行く価値はある。僕はモンスター達に入り口付近にて待機を命じ、出口へ通じる梯子を登った。


「久々のシャバだな...じゃない」


 迷宮を抜けると、青い現世が僕を迎えた、なんていう御託はすぐに放り捨て、『彼女』のもとへ向かった。


「...あった」


 なんという幸運か。僕は亡骸を見つける事が出来た。仲間にこんな感想を述べるのはどうかと思うが、かなりの時間放置してしまったせいか、変色は進んでおり、これまで匂った事の無いような異臭がしている。一刻も早く持ち帰らねばならない。彼女の運搬については、ありがたい事にアルカルドが『棺桶』を貸してくれている。


「よい、しょ...」


 棺桶に亡骸を入れ終わった後は、長めのロープで棺桶を縛って、迷宮の穴にゆっくり吊るして降ろす。その後はまた一から五階層まで棺桶を引きずるのみだ。倍以上辛いだろうが、二度と会えない筈の仲間と、また一緒にいる事が出来ると考えると、階層を降りる毎に急ぎ足になっていく。


「か...帰ったぞ...」


 そして何事も無く、アルカルドのもとへ辿り着いた。


「ご苦労だった。小僧」


 アルカルドは僕を迎えると、モンスターの担いでいるものを後回しにし、棺桶の中身に目を通した。


「こいつがお前の友達か」

「ああ、頼む」


 彼女は棺桶からアルマの亡骸をそのままの態勢で出し、それに両手をかざした。

 すると、かざされた所からボフッ、と炎が湧き出てきた。そして、それはあっと言う間に全身へと燃え広がった。


「おい、大丈夫なのかそれ!」

「騒ぐな、この炎が元の人体を再構築させるのじゃ」


 言われてみると、めらめらと燃え盛っているにも関わらず、彼女の亡骸はそのまま...


「なんか崩れ始めてるんですけど...」

「...」


 アルカルドは何も言わなくなった。術の大事な部分だったり、これ以上口を開けば縫い合わされるかもしれないので、僕は、彼女の後ろで両手を合わせ、ただ祈って、念じた。


「(お願いします神様...じゃない悪魔様...)」


 しばらくすると、燃えている音はおさまった。人体が崩れ始める様を見てから怖くなって目を閉じていた為、その間の状況はどうなっていたかはわからない。

 一コマ一コマ、灰になった時を考えながら、おそるおそる、目を開けた。


「ああ...」


 なんという事だろうか。広がった光景は僕の心を大きく揺さぶるものだった。

 斑らな色はすっかり消えており、彼女は元の綺麗な姿になっていたのだ。


「術は無事成功した。喜ぶがいい」

「う、うーん...」


 再び動き始めた彼女はとうとう起き上がり、一番はじめに、僕の顔を見てくれた。


「アン...ドレ...?」

「奇跡だ...」


 もう二度と、生きてアルマと再会出来ないと思っていたが、彼女は僕の目の前にいるのだ。なのに何故だろうか、彼女が霞んで見える。今にも消えそうだ。


「もう、何泣いてるのよ」


 彼女がこちらの表情を指摘していて、ようやく気付いた。僕は今、くしゃくしゃになるまで涙を流しているのだ。


「あーあー、感極まっている所悪いが、お前を生き返すのに、衣服まで再構築出来てなくてな」

「...え?」


 アルカルドが気にしているのか、せっせとした感じで割り込んできた。彼女の言葉がどういう意味かは、少し顔を離してみればすぐにわかる事だった。


「要するに、スッポンポンって事じゃ。許せ」

「...へ?」


 今度はアルマも間抜けな声をあげた。そして、彼女は頭を少し下ろすと、ようやく気がついたのか、段々と顔中に熱がこみ上げてきていた。


「あ...ああ...⁉︎」

「い、いや、僕もさっき気付いたばっかでほんの少ししか...」


 火消しのつもりである言葉も、今の彼女には意味を成していない。否定しながら後ずさりをする僕だが、彼女はずかずか距離を詰めてきている。


「アンドレの...アンドレのバカーッ!」

「ほげっ!」


 行き場を失った熱量は、すぐ近くにいる僕に思いっきり向けられた。対象の外であるアルカルドは、「やれやれ」といった感じでこちらを静かに見つめているのであった。









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