20. 信仰無き死体漁り
「返事が出来ない...けど身体はぴくぴく動いているという事は...」
横になっているアンドレの反応を見て、彼の状態を把握したシェリダンは、ゴブリンシャーマンの一匹に命令を発した。
「この子に“柔軟”の呪文をお願い」
「キ!」
シャーマンの個体には、魔術師呪文と僧侶呪文両方の心得がある。頷いたゴブリンは再び杖をつつき、彼に治癒を施した。“柔軟”というのは、麻痺で固まった者を元の柔らかさに戻すという意味でそう名付けられている。
「ありがとうシェリダンさん。来てくれなかったら一体どうなっていたことか...」
「やっぱりまだ一人では厳しそうでしたか...モンスターはどうしましたの?」
アンドレは、全滅の原因を説明するように、すっかり壁から剥がれ、マネキンのようにだらんと垂れているニンジャのもとへと戻り、それを指差した。
「ロウ・ザ・サードに襲われたんだ。おかげで部隊は壊滅だよ...」
「あの動かないのが...嵐卿?」
「少なくともこいつはそう名乗っていた」
嘘臭い、ととれる反応であったが、まあ当然だろう。そんなヤツ相手に番狂わせとは思うまい。
「もしかしたら間近で見たらはっきりするかもしれないな」
そう言ってアンドレは顔面がひしゃげ、くたびれたニンジャのもとに歩み寄り、シェリダンへと引きずって運び、見せた。
「何かわかるかな?」
「私は話でしか聞いた事がありませんし、顔がイカれてるせいでこの人の事は判断出来ませんが...」
彼女は懐から一本のナイフを取り出し、
「こうすれば確実です」
ロウの眉間に思い切り突き立てようとした、が...
ガギィン!
「うそん⁉︎」
刃は金属音と共に弾かれてしまう。窪みを付ける事すらかなわなかった。
「確かに...本物ですね。お手柄じゃないですか!」
「そうやって判別するのか...」
それはともかく、明らかに異質な結果であった。コイツは一体何を食べたらこんな全身鎧人間になるのか。
「アンドレ君は一体どうやって嵐卿を...?」
「...ヴィンクっていうじーさんのモンスターがやっつけてくれたんだ。何故か」
「なんと!」
彼女もあのモンスターに対する認識はアルカルドと変わらずであり、それだけびっくりした声をあげていた。
「かの放浪者は『どこのどいつにでも弱点はある』と仰っていましたが、本当に例外は無いんですね...」
「アルカルドやあんただって日光に弱い訳だしねぇ...こんな奴は人間とは別物な筈だからきっと天敵だったんだろう」
勝手にそう解釈したが、根拠なんてこれっぽっちも無い。
「まあ、詳しい事は真祖様のもとへ持ち帰ればわかるかもしれませんね」
「そうだな。これくらい強い奴だったらあいつよろこ..いやなんでもない」
とりあえずこの遺体は持ち帰る事にしよう。ヤツの遺品もこの際に剥ぎ取っておかなくては。
「とはいっても大したもん着てないんだよな...」
「あんな鋼鉄の皮膚とニンジャでは必要ないですよね...んっ」
その中で衣類やカバンを漁っているシェリダンは何かを見つけたようだ。
「ブラックボックスを持っています。中身は...」
片手サイズの黒箱に腕をまさぐらせると、乾いた感触がした。動かしてもそれは変わらなかった。
「多分食料ですねこれ」
「一般的ーッ!」
この後も物漁りは続いたが、結局他を探しても、ブラックボックス以外の収穫は見られなかった。
「収穫はこんな感じですね」
「高レベルにしては結構しけてるが...そうだ」
「?」
彼は得物を握っていたはずだ。アンドレは壁の亀裂をもとに、ロウの落とした武器を探してみた。すると、明かりの中で光る刀身を見つけた。
「おっ、これだこれだ」
「何を探してましたの?」
アンドレは、拾った短刀を彼女に見せた。それは所々血に染まった刀身から、美しい琥珀色の光沢がのぞかせた。
「『ドラゴンの爪』じゃないですか⁉︎ 流石に武器は良い物を持ってましたね」
「知ってるのか?」
「ええ、元々は聖塔に納められていた宝剣なんです。まさかこれを彼が持っていたとは...」
という事は、世に一つの超激レアではないか。しかも携帯性も良く、魔術師の僕でも身につける事が出来る。なんと素敵な一品だ。それ故、彼女も欲しがるかもしれないので、念入りに聞いてみよう。
「使うかな?」
しかし、シェリダンは笑顔で首を横に振った。
「いえ、これはアンドレ君の戦利品ですので、貴方が持つべきですよ。ブラックボックスも」
「本当か、じゃあありがたく頂戴するよ」
所有の確認を済ませたアンドレは短刀と箱を懐に忍ばせた。刃物の扱いには疎いが、父やマーカスから最低限の手ほどきは受けているので、ある程度は近距離でも戦えそうだ。あくまで本職は魔術師であるのだが。
『ドラゴンの爪』の獲得で、死体漁りはこれにて終了だ。そういえば、彼女はどんな成果をあげたのだろうか?
「僕はこいつ一人だけだが、シェリダンさんは何か見つけた?」
「さっきのパーティ含め、二つ潰しましたね」
ニコニコしながら言う事なのか? 聞いたの僕だけど...
「そうだ、あのパーティの分の死体漁りもしないと。アンドレ君も手伝ってくれます?」
「言われてみればそうだったな。手伝うよ」
一応、最初の冒険にもこっそりと済ませてある。ちなみに魔物側にも有利な点だってある。『死体』という宝箱には罠が仕掛けられていないのだ。誰のものであろうが、なんだって使ってやるぞ。




