18. 卑しい拳
「やっぱし...」
考え得る限りの最悪の事態だ。よもや最強のニンジャと出くわすとは。どうりで単独行動でも勝てない訳だ。
生殺与奪を握った“嵐卿”ロウは見下した眼差しでこちらを見ている。
「こんな子供が魔物を従えるとはな...『ペンタグラム』を使ったな?」
「うっ...」
ニンジャはじりじり近づいてくる。アンドレも後ずさりをしているが、比例するかのごとくしっかり距離を詰めてくる。
「ならば貴様も立派な造反者だ。可哀想だが死んで貰おう」
足音が力強くなり、血染めの剣が鋭く光った。奴の姿が消えた時、これまでかと悟り、目を瞑った。しかし...
ピタッ
意識の消える感覚は訪れなかった。傍らのヴィンクがアンドレに立ち塞がっていたからだったが、それだけでは無い。
剣はプルプルと震えて止まっている。それは、ヴィンクが刀身を指で摘んでいたのだ。
このモンスターの持つ最高の防御能力が盾になった結果であるが、これ程とは思わなかった。しかし、老人と相対する彼はアンドレのそれよりも大きな反応をしていた。
「馬鹿な...なぜ貴様がこいつを連れているのだ...」
これまでの表情の余裕は無くなり、途端に青ざめたものになっている。まるでこのショボくれたじーさんを恐れているかのようだ。
「僕が聞きたいくらいだよ...」
だがここからどうするというのか。武器も無い、ヒョロヒョロした腕、呪文も唱えられない。これではあのニンジャに傷一つつけられない。僕だって奴を倒せるだけの呪文の質も量も圧倒的に足りないのだ。
「くっ...」
そう考えているうちにロウは仕切り直しにと、軽い身のこなしでアンドレと距離を取った。
だが、逃げる訳で無く、再び武器を構えている。
「ならば今度は確実にアタマを落とす...!」
再び姿を消すと、大人げ無く、狭い迷宮内を超人的機動でアンドレの周囲を飛び回りながら詰め寄っていった。
「なんだこの動きは...⁉︎」
「....」
その速さのあまり、軌跡でしか彼の姿を見る事が出来ない。最早アンドレはその場に立ち尽くすしか無かった。
「覚悟!」
アンドレの背後についたロウはその頭部目掛けて、刺突を繰り出そうとした。ようやく殺気に気付き振り向いたが、時既に時間切れ...
しかし、またもや出現地点とヴィンクが重なった。
「何だと⁉︎」
手刀で剣の向きを逸らされ、そしてロウの伸ばされた腕は掴まれて、彼はとうとう捕まえられた。
「う、うおおぉぉぉ! 馬鹿な...⁉︎」
ヴィンクの突き立てた指が力強く握られる。それは勢いよく放られ、ニンジャの顔面に深く突き刺さった。
「ぐっはぁッ!」
メキメキメキ...!
何かが砕けた後に、迷宮の壁に叩きつけられる大きな音が響いた。砂埃が晴れた後でもロウは無造作に張り付けられ、動かぬままであった。
「や...やりおった...」
話が(良い意味で)違う。攻撃手段が無いなんてどの口が言ったんだよアイツは。




