13. ロードアルカルドの野望
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「真祖様、ただいま帰って参りました」
「お前達か、ご苦労だったな」
行きでは散々歩き回ったので最短ルートを組む事は容易であったが、それでも数時間はかかってしまった。
しかし、たった数時間と考えるべきか。その時間で迷宮を制覇出来るとなると、今までの努力を嘲笑うかのようだな。
「しっかりと回収してきたのだろうな?」
「ああ、一パーティ分だけだが...」
アンドレはゾンビ達に一言注意を加え命じると、死体などが並ばれる。
その内のミイラ僧侶を見ると、眉を潜めた。
「...まぁよいわ」
「アルカルドはこいつらをどうするつもりなんだ?」
「この死体共をか」
「ああ」
他愛の無い質問だが、ヴァンパイアとしての用途を考えると、中身は高貴な彼女らしく無いのが少し気になる点だ。
「“魔導研究”に使う」
「魔、導?」
全ての呪文を極めた、と豪語する彼女が今更何を覚えるというのか。もしかしたらもう少し上位の魔法が存在するのかもしれない。
「大陸でも吹き飛ばしたいのか?」
「それも面白いかもしれんが、儂がやろうとしてる事はその『逆』じゃ、逆逆」
「...逆?」
またさりげなく怖い事を言ったが、彼女の言う『逆』って....
「回復系?」
「近い、がそれを超越したものだ」
「...それって」
「『蘇生』だよ」
.......
....
「え?」
今なんて言ったかな、聞き違いかな?『そせい』なんて言うすごい単語が聞こえたような気がするぞ。
「そ、その、『そせい』って....」
「ああ、お前の想像する通りだ」
「.....」
「えぇぇぇっーーーー⁉︎」
「そう騒ぐでない」
「ふふっ」
この世の中には死んだ者を生き返らせる呪文は存在しない。そんなものを唱えられる者がいるとすれば、神様しかいないだろう。
しかし、そんなものが実現出来るならば...
「古来より死者の蘇生に関する研究は行われておった」
「しかしそれらの実験は非、人道的とされたおったが故に碌に進められておらぬ」
「そこで儂が、ヒトのくだらない道徳や戒律なぞに縛られぬこの真祖アルカルドがたっぷりと掘り下げて、」
「魔術界に大センセーショナルを叩き付けるワケよ!」
「素敵ですわ真祖様」
彼女は左手をグッと握りしめてそう弁じたてた。
「はぇー...すっごい情熱的...」
平たい胸を張って「ふふん」と鼻を鳴らすアルカルド。
「...本当に、出来るのか?」
「それを証明するのじゃ。まぁ、出来るまで何十年だってやってやるがな」
「.....」
そんな都合の良いようにいく訳が無いのはわかってるのだが、あの時殺された仲間達と再び会えるかもしれないと思うと、落ち着きがつかない気分になった。
「じゃあ...」
「.....」
“殺されていつまでのものが有効なのか”、と聞きたい。
しかし、それを言えば『彼女に甘える』事になってしまう。そうなれば、どんな無茶を言われるかわかったもんじゃない。
「...どうせ、『友達を生き返らせて欲しい』とかじゃろ?」
「ぎくっ!」
見透かされていた。
「分かっていたか...」
「ヒトの考えなぞお見通しだ。馬鹿者め」
その後は「ふふ〜ん」と悪い笑みを浮かべ始めた。これからどんなブラックな事を言われるのやら。
「とはいってもどっちみち無茶はさせるから一緒か」
「なんじゃそりゃ...」
「まぁ、もし可能ならば考えてやらんでもないが、かれこれ何十年も研究をしている故、術が完成する頃には綺麗な白骨だ」
「そう..だよな....」
「そんな訳で儂はその被験体となる死体を必要としておる。お前の頑張りで完成時期は早まるかもな」
落ち込む様のアンドレを尻目にアルカルドは二人の死体を造作も無く担ぎ、踵を返した。
「儂はこれから自室に籠る故、失礼するよ」
「あと、用があるならノックしろよ!」
そう言ってアルカルドは彼女の自室に戻っていった。
迷宮主が去り、部屋にはアンドレとシェリダンと物言わぬモンスター達が残された。
「...それにしても、大悪魔が『人を救う』事に執心とは意外な一面だな」
「元々、呪文というのは全て、人が創り出したものなのはご存知ですか?」
「へぇ、言われて見ると確かになぁ...でもそれがどうかしたのか?」
「あの方はその事に対抗意識を持ってしまって...『人間共に負けないような凄い魔法を生み出すぞー!』って感じで...」
「成る程、結局そういう傲慢な考えからくる訳か」
そう言った途端、閉まったばかりの扉が動き、しかめっ面が一つ覗かせた。
「なんだコラ、どつき回すぞ」
「げっ...」
「い、いやぁ、とても偉大なお考えですごく関心しちゃうなぁ〜...はは...」
「次このドアを開けさせたら、最後の指まで一気に折り曲げて13レベルドレイングーパンチをぶちかましてやるからな...」
その後力強く扉が閉められた。
「...私からも、あまり真祖様への軽口を叩かないようにして下さいね?」
「ご、ごめんなさい」
すごく優しい言い方なのだが、彼女も彼女でアルカルドとはまた違った怖さがある。
逃げ場が無くなるというか、疲れが溜まった勢いでベッドに飛び込んだと思ったら鉄の板に叩きつけられたという感じに近いと思う。
そして彼女はまたもや黒い立方体を弄りこの前見たような肉のようなものを摘んで取り出した。
「(前も見たけどおかしい、肘まで腕が入っても突き出ないぞ。どういう箱だよアレ)」
「ブリーブ肉、焼いて食べます?」
「....」
「やっぱり嫌ですか?」
「あ、いやごめん、箱の方に見入っちゃって...」
「これですか?」
シェリダンはその黒い箱をアンドレに差し出した。
手に取って見てと言わんばかりなので、彼はそれを受け取ると、体感すべく、早速中に手を突っ込んだ。
「うわっ、何コレすげぇ」
底に手が当たらない。するすると腕が吸い込まれるように入っていくぞ。
「見た目通り、これは“ブラックボックス”って言うマジックアイテムなんです」
「でも見た目以上にモノをいっぱい入れられる保存容器なんですよー」
「へぇー」
「肩まで浸かりそうだな、まるで四次げ...むっ」
何かに引っかかった。薄い、紙のようだが....
「何だろうか?」
引っ張りあげてみると、スペースいっぱいに文字の書き連ねられた紙面が見えた。
「新聞?」
「はい、私は外界からの情報を持って来る事を主にしておりますので」
「...それ大丈夫なの?新聞を買うお金だってあまりバカにならないぞ?」
「それに、吸血鬼は日光を浴びるとチリになるって言うじゃんか」
寺院が発行する聖書には、悪魔の一つとして描写されている吸血鬼の苦手なものも記されていた。アルマに貸してもらって覗いた所だったな。
「確かに私も日光は苦手なのですが、消滅してしまう程ではないです。ただ、その間は力の行使が出来なくなる程度です」
「ちなみに資金は冒険者の遺品を売り払って調達しています。もう一つ役目があるとしたら食料品の買い出しですね」
「やっぱり剥ぎ取りはするのね...」
彼女は種族がこうであると言う先入観を除けば、普通の人間女性と変わりは無い。
外敵であるヒトの生息域に無防備な状態で飛び込んでいるが、普段の仕事と言うまでに何事も無くやってきたのならば、心配は要らないだろう。
「それよりも新聞だ。どんな記事が書いてあるかな...」
この国で売られている新聞には、どんな法案が通っただとか、何処其処とどんな取引をしたのかなどの国家や大きな団体の活動だけでなく、世間話やウワサなどの小さな話も書き綴られている。
アンドレとしては、その後者の記事が目当てである。中には耳寄りなものや面白い話があるので結構ハマるのだ。
「げっ...」
ある一文を見てギョッとした。
「あんな化け物までここに来るのかよ...」
一文にはこうかかれてあった。
『かのスーパーニンジャ、“ロウ・ザ・サード”が御触れ文を聞き付け、この国にやってくるそうだ。大悪魔の首さえ刎ねる彼の実力を持ってすれば、必ず穴ぐらからアミュレットを持ち帰り、凱旋するだろう』
「...さっきのカエル肉、貰える?」
「きっとお口に合いますよ」




