11. 今日から悪の魔術師
敵襲って訳では無いが、向こうから動いてくれるならば、待ち伏せの形で『奇襲』になりそうだ。こちらの声が今まで聞こえて無ければの話だが。
まずは隊列を整えなくては、ゾンビとウサギは前、僕とプリーストは後ろで射撃と援護をする。あとは...
「(シェリダンさんはどうします?)」
「(折角なので貴方におまかせしましょうか)」
こっちが動かすとか言った責任なのか、ニコニコと押し付けられてしまった。まあ彼女は何やらせても文句無しの仕事をしてくれるだろう。
「(前衛のフォローと、僧侶がいたら優先してやっつけてくれ)」
「(分かりました)」
このメンツで先制攻撃を仕掛けられれば、勝てる可能性は高い。
しかし、格下でも一番厄介なのが、駆け出しから持っている僧侶の“解呪”能力だ。これでゾンビ共が落とされてはたまらない。
次は、奇襲の体勢を作らないとならない。
こつん、こつん、
だんだんと、足音が大きくなっていった。このタイミングで始めよう。
「(僧侶の皆はもう“苦痛”呪文の詠唱を頼む)」
ボソボソと指示した後、アンドレも小声で“火炎”呪文の詠唱を始めた。
「ーーー...」
体勢は整ったが、最後にもう一つ。
覚悟を決めなくてはならない。口元の震えをかき消さなければならない。
これをもって僕は完全に悪鬼に身を落とす事になる。
魔物を率い、
人を殺め、
人の死を冒涜する。
今日から僕は悪の魔術師。
全ては奴を倒すため、要らぬ善のタガを取り払うのだ。
「(....来た!)」
とうとう階段から降りて来た者が見えた。
予想通り、冒険者の一団であった。構成は戦士、僧侶、魔術師が2人ずつ。
そして運のいい事に、脇道に潜むこちらにはまだ気付いていない。
ならば、一生分の驚きをくれてやる。
「(行くぞお前達)」
腕を上げて指示を出し、詠唱済みの三つの呪文を列のシッポへと射出する。
狙いは魔術師の一人。
「...え?」
ボフッ!
熱源に思わず振り向いた標的は顔面に火の玉を直接受けてしまった。
「ぐわっ...」
そして、炎上している魔術師に追撃の呪いの言葉達でダメージを加速させる。当たり所が悪くてもしばらくのたうち回るだろう。
「がっ、ぬあああぁぁ!」
「いつの間に魔術師Aが...」
「敵襲ッ!敵襲ぅぅ!」
ようやく襲撃に気づいたパーティは咄嗟に隊列を整えようとしたが、まだ奇襲は終わってはいない。
「お前達のご飯は向こうだ!僧侶やれ!」
「「「オ"オ"オ"オ"!」」」
静かな彼らもひとたび獲物を見つければ牙を剥き出しにして雄叫びをあげる。
「ゾ、ゾンビまで⁉︎」
ゾンビの腕が伸び、僧侶の肩を掴んだ。
「は...離せ!」
全力で抵抗をした僧侶はなんとか、一体のゾンビを振り払う事が出来た。
しかし、
「何だと⁉︎」
続いてもう一体、二体目もなだれ込み、一人の僧侶に覆い被さった。
「う、うわぁぁ!」
「僧侶A⁉︎」
対処しきれず、僧侶はその爪にかかった。やがて彼は痺れて動けなくなるだろう。
「貴様ら!僧侶Aから離れろ!」
戦士の二人がゾンビを引き剥がそうとした。しかし、大したダメージは与えられず、離脱を許してしまった。
更に続いてヴォーパルバニーのグループも飛び出した。
その静かな脚付きは、ゾンビに気をとられた戦士の首元に前歯を食い込ませられるまで誰も気付かなかった。
「へ?」
間抜けな声だが、残りの冒険者達はその戦士にひと時の間釘付けになっていた。
勿論、声のせいでは無いが。
「戦士Aぇぇ!」
「あ....あ....」
スライドした首が滑り落ちていく様に、誰もが震え上がった。
これが、ヴォーパルバニーが猛獣と呼ばれる所以だ。
「ふふっ、すっかり恐慌状態ですね」
二人の戦闘不能により、前衛へと躍り出た僧侶をシェリダンは不敵に微笑んで狙いを定める。
次々と仲間が落とされ、士気がどん底の冒険者達は最早ただのカカシだ。
すんなりと噛みつきが通った。
「ああっ...!あぅ....」
吸血鬼と呼ばれる者達は全て、対象の生命力や経験を奪い取る『エナジードレイン』能力を備えている。
これによって全ての経験が吸い尽くされたらどうなるかは言わずもがな。
脱力に呻く声はやがて消えた。
「ふぅー...」
「僧侶Bが...なんて姿だ....」
彼女の表情は人一人殺害した後とは思えない、爽やかなものだった。
そこで冒険者達は彼女が何者なのかを理解した。
「ヴァンパイアだと...?」
「嘘でしょ?どうしてそんなヤツがここに...?」
残った戦士と魔術師はあとずさった後、こちらに背を向け、
「に、逃げろー!」
一目散に逃げ出した。横たわった者達を置き去って。




