第二話 覚醒
「君に全てを渡そう」
その言葉に僕は思わず目を見開いた。
お伽話でのギャンブラーは、自身の命すらも賭けて欲しいものを手に入れる、そんな人物だった。
だが実際見て見るとどうだ?いや、この人はギャンブラー本人ではないかもしれないが、僕の本能がこの人は本物だと言っている。
まあ無能の僕の直感なんて、クソに等しいんやけど。
自虐に思わず内心で笑ってしまう。
「なんやアンタ。昔本で見たギャンブラーっちゅう人物に似てんけど、本人かなんかか?」
僕が笑いながらそう言うと、目の前の人物は面白そうに僕を見つめてきた。
「へえ…?私のことを知っているとはね。それなら話が早い」
「へ?ほんまに本人やの?」
「そうだと言ってるだろう?」
案外無能でも直感は役に立つんか?
本当に当ててしまったことに驚きながら、ギャンブラーさんを見る。
「そんで?アンタの力を僕に渡したいんやっけ?そんなら僕以外にする方がええで」
「…?それは何故だ?」
「だって僕、無能やから」
ギャンブラーは僕の、無能という言葉にピクリと反応する。何か思う節があるのだろうか。それとも無能と聞いて力を渡すのをやめたくなったのか。
まあ僕としては後者の方がええねんけど。
「僕はな?無能って言われた日から虐められてたんや。やからその力をとやらは僕に渡さへんで別のやつに渡してや」
「…………」
「なんや?期待ハズレやったか?……まあええわ。どうせ僕はここで死ぬつもりやったしな」
僕は木を背に寄りかかると、ギャンブラーさんを無視して目を瞑る。
楽に死ねなくはなったが、ここでずっと、こうしていれば時期に餓死する。
「だったらその命。私にくれてみないか?」
そうして寝ようとしていたその時、ギャンブラーさんの声が再び耳を震わせた。
僕はその言葉に少々驚きつつ、目を開いた。
「ふうん?まあ別にええけど。なんや?生贄かなんかをここに連れてくればええんか?」
ギャンブラーさんは静かに首を横に振る。
そしてニヤリと笑いながら僕を指さした。
「だから言っているだろう?君に、私の力を上げたいんだ」
「おいおい、ほんまかいな」
▽
断ろうとした矢先、ギャンブラーさんは僕の意思を無視して力を与えてきた。
君は死のうとしていたから、別に力の一つや二つ与えたっていいじゃないか。そんなことを言いたげな目で、僕に力を渡したのだ。
「ふう…ようやく、私は成仏ことができるよ」
力を渡したことを確認したのかギャンブラーさんは優しく笑う。
「いやいや何勝手に消えようとしてんねん。せめて力の説明くらいしてくれや」
「あー…そういえばしてなかったね…」
折角成仏しようとしてたのに…と文句を言うギャンブラーさんを睨むと、ギャンブラーさんは冗談だよ、と力の説明を始めた。
「私のことを知っている君ならもうわかっていると思うが、私の能力は運を上昇させることだ。簡単に言うと、だけどね」
「それで?運が良くなってどうなるんや?」
「君はダンジョンに潜ったことはあるかい?」
首を横に振る。
「そうか。ダンジョンには魔物っていうのがいてね?その魔物が死ぬ時に落とすアイテムが落ちる確率や、クリティカルヒットの確率が大幅に上がる」
それだけじゃない、とギャンブラーさんは言葉を続ける。
「後は魔力を消費してなんだけど、六分の五の確率で魔物に致死量のダメージを与えることが出来るんだ」
「じゃあ後の六分の一はなんや?」
「君が死ぬ」
淡々と言うギャンブラーさんの様子にゾクリと身を震わせる。
もしかしたら、とギャンブラーさんを見ると僕が考えていることを見透かしたように頷いていた。
「そう、私はその六分の一を引いて死んだんだよ」
「そ、そうなんや」
「まあ大体の説明はこんなもんかな。それとステータスプレートって持ってる?」
「持ってるけど…何に使うんや?」
「いいから見てみて」
ギャンブラーさんに乗せられステータスプレートを開く。
「は、はぁ!?」
僕のステータスプレートは天職がある皆んなとは違い、職業の欄に『無職』と表示されていた。
それなのに、今の僕のプレートには、
レキ=クラシス
職業:ギャンブラー
Lv1
そう表示されていた。
「ぼ、僕に天職?…どういうことや?」
「ふふっ驚いた?君に会った時から君が無職なのは知っていた。記憶を見たからね。だからこそ君に私の力を受け取って欲しかったんだ」
「なんで僕やったんや?別に他に優秀なやつに渡した方が良かったとちゃうんか」
「いや、このギャンブラーっていう職はね、無職にしかなれないんだ」
「…ちゅうことは?」
「そう。私も最初は無能と呼ばれ、蔑まれていたんだよ」
「………」
「さて、時間だ」
悲しそうに笑ったギャンブラーさんは、僕に身体を見せてきた。よく見ると、最初にあった時より身体が透明になってきている。
「それは…?」
「私は本来ならば随分と昔に死んだ人間。なぜここにいるのか最初は分からなかったけど、本能が私の能力を私と同じ無能と呼ばれ、蔑まれる子に渡したいと言っていたんだ。だからだろうね、私がここにいれた理由は」
「そうやったんか……そのありがとうな」
「ふふっ、いいってことさ」
ギャンブラーさんは僕に近づくと、僕の頭を撫でてくる。
「頑張れよ」
一言。
それを最後にギャンブラーさんは消えていった。
「そうやな。あんたに貰った力で頑張るで」
それは久々に心の底から笑えた瞬間だった。