第一話 無能と呼ばれた少年
「レキくん…君は『無能』だ。何の能力もない」
申し訳なさそうに告げる神父さんを尻目に、僕は呆気にとられていた。
え…無能?
無能。
それは普通なら着くはずの天職が存在せず、何もできない、文字通り無能な存在のこと。
つまり、無能と呼ばれたということは、僕に何も才能がないということ。
「うそ…やんな…」
震える声でなんとか応える。
錯乱して、頭もぐちゃぐちゃになって、それでも。それでももしかしたら神父さんの悪ふざけじゃないのかと。
だが、神父さんの言葉はいともたやすくその期待を崩した。
「本当のことだ……君には、なんの天職もない」
神父さんの僕を見る目が憐れみから、蔑むよう目に変わっていることを証拠に、僕はその日『無能』となった。
▽
それからは最悪だった。
『無能』と呼ばれる人間は、役立たずでクズで死んだ方がマシな存在。そう言われ続けている。
だからこそ、友人は僕を虐めるようになり、婚約を約束していた幼馴染も僕から離れていった。
暴力。罵倒。罵声。悪意。嘲笑。
悪という感情のあらゆるモノを受けた。
当然、僕は周りの者たちを怨んだ。
あんなに仲良くしていたのに、僕が無能だとわかると直ぐに手のひらを返してきた連中を。
「でも、もう終わりやなぁ…」
僕は大穴と呼ばれている崖の端に立っていた。
下の風景を見ると、死というものを覚悟していても身が竦んでしまう。
僕は頭をかきながら精一杯笑った。
最後は、最期は笑って死ねるように。
「ほな、さいならやな」
崖から一歩足を踏み出し、身を重力に任せる。
ふわりと浮くような感覚。そして身体を突き刺すような風。
死ぬんや。
落ちながら、思わず呟いてしまった。
そうして、僕は人生を終えた。
…………
……?
いつまで経っても衝撃が来ない。
恐る恐る目を開き、周りを見渡すと、
「なんやここ」
そこには、まるでお伽話に出てくる森のような、幻想的な風景が広がっていた。
▽
淡い光が木々を照らしている。結晶石の類いだろうか。
レキは周りを警戒しながらも、一本だけある大きな木に近づいていく。
(にしてもなんやここは。こんな場所聞いたことあらへんで)
尤も、レキのいた村には崖に降りるともう二度と戻って来れないという話が伝わっているので、好き好んでここに来ない限りこの風景を知ることはできないのだが。
レキは風景を楽しみながら、大きな木に辿り着いた。なるほど、やはり目の前で見ると迫力がまるで違う。
レキはその景色に更に惹きつけられ、思わず木をそっと触れてしまった。
(眩しッ…)
急な発光。
木が爛々と輝く様子は、周りから見れば可笑しな風景だったのだが、それを眼前で直接受けたレキは咄嗟に目を瞑った。
「よくぞここにきた。意思を継ぐものよ」
そして、光が収まった頃、低く渋い声がレキの耳を震わせた。
レキはここに落ちてきた時と同じように、恐る恐る目を開けた。
「其方に私の全てを渡そう」
そこには、以前レキが呼んだお伽話に出てきた、
『ギャンブラー』
そう呼ばれていた登場人物そっくりの格好をしていた。