雪の降る夜に
「よ~し、お前ら! クリスマスに鍋パーティーをやるぞ!」
いきなり野球部の元部長が大きな声でそう叫んだ。
俺はまたかと思いながらため息をついた。
「松、どうした? ため息なんかついて?」
部長はそう言いながら俺の方を見てきた。
「……あの~部長。なんでまたいきなり鍋パーティーをやろうと思ったんですか?」
俺は部長の方を見ながらなぜクリスマスに鍋パーティーをやるのかを聞いた。
……まぁ、部長の事だから絶対にこう言うだろう。
「松、何を言っているんだ! この時期に鍋パーティーをしない奴が居るか! そんな奴が居たら人生の楽しみを一つ、失っているぞ!」
部長は大きな声で俺にそう言った。
それを聞いた俺はやっぱりと思いながら部長の方を見ていた。
そして、部長の話は続いた。
「それにお前らも大学受験や就職活動の息抜きがしたいだろ?」
……確かに大学受験や就職活動で忙しいから息抜きがしたいっていう気持ちにも分かんなくもないな。
俺達、高校三年生はこの時期になると大学受験や就職活動で忙しい。
だから、受験やら就職の事を忘れて息抜きしたい時もある。
ちなみに俺は大学に進学する予定。
「……けど、なぜクリスマスにやるんですか?」
俺は一番気になっていた事を部長に聞いた。
息抜きだったら別の日にやってもいいと思うのだが。
「だって、お前ら。クリスマスはどうせ一人で過ごす予定だったろ?」
部長がそう言うと、俺以外の元野球部の部員達は悲しい気持ちになったのか空を遠く見始めた。
俺はクリスマスに一緒に過ごしたいと思っている人が居るのだが、それをこの場で言ったら俺は数分後には殺されているだろう。
「じゃあ、鍋パーティーの場所は俺の家だ! 日程はさっきも言った通り、クリスマスの日にやるぞ!」
部長が大きな声でそう言うとみんなもやけになったのか騒ぎ始めた。
……仕方ない。俺もみんなと過ごすか。
……一緒に過ごさないと後々、面倒なことになりそうだしな。
……本当はあの人と過ごしてあれを渡すつもりだったのに。
……まぁ、鍋パーティーが終わったら電話で呼び出してみるか。
そう思いながら俺は部長達の騒いでいる姿を見ていた。
※※※
十二月二十五日 午後十八時 自宅のリビング
「……んで、なんで俺の家に集まることになったんですか?」
俺は部長にそう言いながら鍋パーティーの準備をしていた。
「いや、悪い! 本当は俺の家でやるつもりでいたんだがちょっといろいろあってな……」
部長は俺にそう言いながら顔を俯かせた。
……また親と喧嘩でもしたのかな。
俺は部長の様子を見ながらそう思った。
実は部長は親との仲が上手くいっていないのだ。
そして、いつも部長が俯いている時は親と喧嘩して仲直りしてない時だ。
……ったく。しょうがないな。
「……まぁ、何があったか聞きません。話したい時に話してください。それより今日はいっぱい楽しみましょうよ」
俺は部長にそう言いながら鍋パーティーの準備を進めた。
「……松、ありがとうな! よ~し、今日はいっぱい楽しもうぜ!」
部長は俺の言葉に聞いていつものテンションに戻った。
そして、部長がいつものテンションが戻ったと同時に玄関の方から呼び鈴の音が聞こえてきた。
「おっ、誰かが来たみたいだな!」
部長がそう言うと、玄関がある方を見た。
……とりあえずここは俺の家だし俺が出迎えるか。
「部長は鍋パーティーの用意をしていてください。俺が出迎えますから」
「おう、分かった!」
俺は部長の返事を聞いた後、玄関へと向かった。
そして、俺は玄関までたどり着くと玄関の扉を開いた。
すると、そこには春に出会った女性が立っていた。
俺は彼女の姿を見た瞬間、驚きを隠せなかった。
「こんにちは。松君」
大きな紙袋を持った彼女はにっこり笑いながら俺にあいさつをした。
「……美穂さん? なんで家に?」
俺は驚きを隠せないまま美穂になぜここに居るのか尋ねた。
「今日は隆君に誘われたんです。一緒に鍋パーティーをやらないかって」
美穂は優しい声で俺にそう言った。
ちなみに隆君って言うのは部長の名前だ。
部長と美穂は昔からの知り合いだった。
正確に言えば部長の兄の知り合いでたまに部長と会っていたらしい。
あの花見の時は遠くからを見たせいで美穂だと分からなかったと部長は語っている。
花見が終わった後も俺は美穂との交流を続けた。
最初は興味本心だった。
けれど、だんだんと交流を続けていく内に俺は美穂に惹かれて行った。
だが、俺はまだ美穂に自分の気持ちを伝えられずにいた。
まぁ、今はこのままの関係でもいいと思う自分も居たりする。
そして、美穂の話は続いた。
「別にクリスマスに予定なかったのでお誘いに乗りました。けど、いきなり松君の家になるとは思いませんでした」
美穂はそう言いながら笑っていた。
……部長、ナイスです!
俺は心の中で部長に感謝をしながら美穂の方を見ていた。
……しかし、何時見ても綺麗な人だな。
「……松君、どうしたんです?」
美穂はそう言いながら不思議そうに俺の顔を見てきた。
俺ははっとした後、気持ちを落ち着かせながら美穂にこう言った。
「……いえ、何でもありません」
「なら、いいんですけど……あっ、そうです! 松君、先にこれを渡しておきますね」
「えっ?」
美穂はそう言った後、大きな紙袋に右手を入れた。
そして、やっと見つけたのか美穂は俺に渡したい物を紙袋から取り出した。
「はい。私から松君にクリスマスプレゼントです」
美穂は俺にそう言いながら新品のグローブを渡した。
美穂から新品のグローブを渡された俺は嬉しい気持ちでいっぱいになった。
ちょうど俺は新しいグローブが欲しかったのだ。
何より美穂からプレゼントされたのがとても嬉しかった。
「……あの、ありがとうございます。俺、大事に使いますね」
俺はにっこりと笑いながら美穂にお礼を言った。
すると、美穂もにっこりと笑いながら俺にこう言った。
「それを使って大学でも野球、頑張ってくださいね」
「……はい!」
……まぁ、まだ大学に入れるかは分かんないけどな。
俺がそう心の中で突っ込んでいると……。
「くしゅん!」
美穂が小さなくしゃみをした。
その後、美穂はくしゃみをした所を俺に見られたのが恥ずかしかったのか下を向きながら顔を真っ赤にした。
……何だが可愛らしいなぁ。
……って、そんな事を考えている場合じゃない!
このままだと美穂が風邪を引くかもしれない。
とりあえず、早く家の中へ入れよう。
「……まぁ、とりあえずここで立ち話もなんですし中に入ってください。今日はいっぱい楽しみましょうね」
「……はい、そうですね。じゃあ、お邪魔します……」
……それはそうと、後で自分の部屋からあれを持ってこないといけないな……。
俺はそう思いながら顔を真っ赤にした美穂を家の中へと招いた。
※※※
十二月二十五日 午後二十二時 自宅のベランダ
「……んで、なんでいつもああなるんだ?」
ベランダで缶コーヒーを飲んでいる俺は後ろで起きているカオス的な状況になっているリビングを見ない様にしていた。
それを見ると多分、ため息が止まらなくなるだろう。
けど、後片付けをやるのは自分と美穂だけだろうなと思うとやっぱりため息が出てしょうがない。
まぁ、明日まで親が帰って来ないのが救いか。
今、俺の後ろでカオス的な状況になっているリビングを親にでも見られたら俺達全員が怒られるだろう。
「……まぁ、美穂さんとクリスマスが過ごせたのは良かったかな」
俺はそう言った後、缶の中にコーヒーを飲み干した。
「……けど、これを何時渡せばいいんだ?」
俺はそう言いながら右ポケットの方を見た。
すると、空から白くて冷たい物が俺の手にゆらゆらと降ってきた。
俺はすぐにそれが雪だと分かった。
そして、俺が空を見上げると雪は段々と空から降ってきた。
「綺麗ですね」
「!?」
俺は驚きながら後ろを向くと美穂が俺の方へと歩いてきた。
そして、美穂は俺の隣に立つと俺の方を見てきた。
「今日はちゃんと息抜きできました?」
俺は頬を赤くしながら美穂の方を見て小さく頷いた。
「そうですか。それは良かったです」
美穂はそう言った後、空を見始めた。
「本当に綺麗ですね」
美穂は空から降ってくる雪を見てそう言った。
俺も缶ジュースを手すりの所に置いてまた空を見上げた。
確かにずっと見ていても飽きないぐらい綺麗だった。
けど、俺は隣に居る美穂の事が気になってしょうがなかった。
そして、俺は鍋パーティーの最中に自分の部屋からとってきた物が右ポケットの中にあるか確かめた後、勇気を振り絞って美穂に声をかけた。
「……あの、美穂さん」
「はい? 松君、どうしたんですか?」
俺が美穂の事を呼ぶと美穂はすぐさま俺の方を見た。
俺は美穂の顔を見た瞬間、心臓の心拍数が一気に速くなった。
……落ち着け!
……まだ何もしてないだろ!
俺は下を向きながら自分にそう言い聞かせた。
「……松君、どうしたんですか? 具合でも悪いんですか?」
美穂は心配そうな声で俺にそう言った。
けど、俺は自分の心を落ち着かせるのに必死だった。
すると、美穂が俺の左手を掴んできた。
「えっ!? 美穂さん!?」
俺は驚いた顔をしながら美穂の方を見た。
すると、美穂は心配そうな顔をしながらこっちを見ていた。
「松君、具合が悪いんだったら早く家の中に入りましょう。外に居たら余計に具合が悪くなります」
美穂は俺にそう言うと、俺の引きながら急いでリビングの方へと向かった。
……俺、これでいいのか?
……このままリビングに戻ってまた部長達に絡まれてクリスマスを過ごすのか?
……美穂に渡したい物があるのに……。
……そんなの……そんなの……嫌だ!!
「……美穂さん、ちょっと待ってください」
俺はそう言いながらその場で止まった。
「……松君?」
美穂も俺が止まったのに気付いてその場で止まりながら俺の方を見た。
そして、俺は美穂の方を見ながら右ポケットにある物を取り出した。
「……松君、それは?」
美穂はそう言いながら俺がポケットから取り出した物を見ていた。
「……俺から美穂さんにクリスマスプレゼントです。受け取ってください」
俺はそう言った後、美穂の方へとプレゼントの紙袋を近づけた。
すると、美穂は俺の左手を握っていた手を解いて両手でプレゼントの紙袋を優しく取った。
「……開けてもいいですか?」
美穂がそう言うと俺は小さく頷いた。
そして、美穂は紙袋を開けてプレゼントの中身を取り出した。
「……あっ、ペンダント……」
そう。俺が美穂にプレゼントをした物は鮮やかな緑色をしたエメラルドのペンダントだ。
「……綺麗です……」
美穂はそうつぶやきながら俺があげたペンダントを眺めていた。
「松君、ありがとうございます。このペンダント、大事にしますね」
美穂はとても嬉しそうな顔をしながら俺にお礼を言った。
……あぁ、この笑顔が見れるだけで俺は幸せだ。
俺はそう思いながら美穂の方を見ていた。
「ねぇ、松君……」
「はい、何ですか?」
「……来年もこうやって二人で過ごしたいですね……」
「えっ? 今、何て?」
「何でもないです。さぁ、早くリビングに戻りましょう。ここに居たら風邪を引いてしまいます」
「あっ、美穂さん。待ってくださいよ」
美穂は小さな声で何かを行った後、リビングの方へと走って行った。
俺も手すりに置いてあった缶コーヒーの缶を取りながら急いで美穂の事を追いかけて行った。
これから先の未来、何が待っているか俺には想像が出来ない。
けど、俺はいつまでもこの人の傍に居たいな。
俺はそう願いながらカオス的な状況になっているリビングに美穂さんと一緒に入っていた。