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試験前



「いくやまいまい、おやいかさかさか……」


 やおてはたかやき、と続けそうになったオレは、コンクリートから背中を持ち上げて、マシュマロの方に眉をひそめてやった。

 近くでパンくずをついばんでたカラスが飛び退くくれぇのしかめっ面。

 だってのに、あさっての方向に目をさまよわせてるマシュマロの目には映らなかったらしい。

 意味不明の呪文は止まらなかった。


「…ひはこひあよ、こことこ……」


 エンドレスで続くそれは、最近マイブームになったスーファミのセーブ用のメモに良く似ている。

 30文字くらいあるひらがなを打ち込むあれだ。

 「ぱ」と「ば」と「は」を間違えて入力しただけで二度とコンティニューできねぇ、いやがらせみてぇなやつ。最終ステージでセーブしたはいいがコンティニューできなかった一昨日を思い出して、オレはためいきをついた。

 あれもなかなか嫌がらせだったが、目の前のコイツはもっと嫌がらせだ。

 なにしろ、1週間くれぇ前からずっと、このワケのわかんねぇ呪文がオレのBGMなのだ。

 もうすぐ中間だとかで、覚えなおしだとか言ってるヤツのせいで。

 なんかイライラすんのは、意味不明すぎるからなんじゃねぇかと思う。

 ってーか、意味不明なのはコイツの行動だ。


「なぁ」


「……でやすだにかた……うん、何? …ひがしでやすだに」


「お前、何でこんなとこにいんの?」


「かたあし…え?」


 ぱったりと呪文が止んで、マシュマロの視線が戻ってくる。


「ここ、なんか悪い噂でもあんの?」


 きょとん、と首を傾げられて、ため息が出た。

 お前マジで高校生か、と問いただしたくなる答えだった。


「場所じゃねぇよ、お前の行動の理由を聞いてンだ」

「試験勉強してる」


 即答。

 あいかわらず肥満気味な顔は、毎日のように陽をあびているにもかかわらず、白い。

 その白さに、気が抜けた。


「勉強、なぁ」


「とにかく歴代首相を全員暗記してこいって・・・」


 しゅしょー、って何だっけ。主将? 柔道部とか?


「おまえのがっこ、わっけわかんねぇな」


 いくやまいまいって、どんな名前だよ、というつっこみは入れないことにして寝転がる。


「う・・・うるさい?」

「いちいち聞くなよ。嫌ならこねぇだろ、真夏に人んちの屋上とか」


 言い放って目を閉じる。しばらく何も言わずにいたら、またあの呪文。マシュマロは案外図太い。

 柔道部のしゅしょーを全員覚えたからって、何なんだ。

 こっちは、道交法覚えなきゃ原付乗れねぇんだっつーの。

 まったく、イラつく話だ。

 大事なことは覚えらんねぇのに、何の役にもたたねぇことは忘れらんねぇなんて。

 家のカギだって置いた瞬間に失くすくれぇ、昨日の晩メシも思いだせねぇくれぇ、忘れっぽいオレが。

 いったい何の呪文なんだか良くわかんねぇそれを、覚えちまっている。

 あの忌々しい道交法ですらなくて!


「いくやまいまい・・・あれ? 順番以外まだ覚えてなかった!」


 唐突にあがった叫び声の意味はよく分からなかった。

 もしかして、いくやまいまい、なんて人物はいないのかもしれない。

 マシュマロはたいていそうだ。しっかりしているようで、どこか抜けてる。

 

「いとうひろふみ、くろだ・・・きよたか?、やまがた・・・やまがた、ありとも・・・・・」


 蒼白になった顔が目に浮かぶような声が、のろのろと続く。

 中間、明日からだっけ?

 バッカでー、と声をかけてやろうと思った瞬間、気づいた。

 ・・・原付の試験、明日じゃね?


はじめまして、もしくはこんにちは。

水音灯あらため、篠原ひなたと申します。

この物語を読んでくださってありがとうございます。

楽しい時間を過ごしていただければ、さいわいです。

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