強力援軍到着す!
ガッ!!
「ぐっ!」
背中に熱い感触が広がり、じーんと痺れが襲ってくる。
「おらあ!死ねやコラ!」
再び警棒を振り上げるチンピラ。
腕を振り上げてカバーしようとしたけど、もう間に合わない!
「うらあ!!」
チンピラは明らかに俺の頭を狙っている。
あんなモノで殴られたら……!
俺は、半ば諦めながらもぐっと目を閉じて衝撃に備えた。
「ぐえ!」
……自分が発したんではない、妙な呻き声が聞こえ、ドサ、と誰かが倒れる音がし、
そおっと目を開けると、警棒を持ったチンピラが頭部から血を流してひっくり返っている。
「おー、お見事。さすが元野球部」
「っていうか、今のモロに当たってるわよ?大丈夫かしら」
「お前らが挑発するからだぞ。まさかあんなにモロに当たるとは思わなかったよ」
ガヤガヤと騒がしい声が聞こえ、そちらに目を向けるとぞろぞろと男女四人組が近付いてくるのが見えた。
その後ろには、沙紀と舞奈義姉さんが泣きながら付いて来ているが……
って、あれは!
「ハル姉!なんでここに?」
俺は四人の中に、昨年結婚したばかりの従姉妹の遥の姿を見付けて思わず叫んでしまった。
「へっへー、まーくんご無沙汰っ!!
やっと日本に帰って来たのね〜!三年振りかしら?」
にぱっとした、アヒルの様な独特の唇をしながらたたたと掛けて来るハル姉に、
「なんだてめえら!?ぶっ殺すぞゴルァ!!」
と、我に返ったチンピラの一人が掴み掛かる。
「ハル姉!」
俺はチンピラとハル姉の間に入ろうと走り出したが、背中の痛みで動きが止まってしまう。
「人の女房に手を出すと、高いもんにつくぜ、坊主」
だが、ハル姉にチンピラが掴み掛かる寸前、さっと移動した男性がチンピラの手を掴んで捻り上げた。
「痛え!放せゴルァ!!」
「ほいよ」
とん、と押すように放されてどだああ!とすっ転ぶチンピラ。
「てめえ、マジ切れたぞ!殺してやんよ!!」
再び物騒なセリフを吐きながら三人程で男性に襲い掛かるチンピラ共。
「ショウ!気を付けて!」
ハル姉が叫ぶが、言葉ほど心配していないみたいだな……
「そー、れっと!」
ドン!と重い踏み込み音を響かせながら、突き出した両腕の掌で二人のチンピラを吹き飛ばす男性。
「がっ!」「ぎゃあっ!!」
二人は五メートル程も吹き飛ばされ、転がったまま動かなくなった。
「て、てっめええええ!!」
残った一人が叫びつつ懐からナイフを取り出し、ダッと襲い掛かる!
「危ない!」
思わず叫んだ俺の視界に、もう一人の男性がピッチャーの様なモーションで振り被り、
チンピラに向かって何かを投げ付ける姿が映った。
ひゅっ!
空気を裂きながら猛スピードで飛んでいった石は、
ガッ!「ぎゃあっ!」
見事にチンピラのナイフを持った手に命中し、チンピラはナイフを取り落とす。
「サンキュ、深見!」
ショウと呼ばれた男性が一飛びにチンピラへと飛び掛りながら、
ドン!と良い音を立ててチンピラの胸元に肘打ちを叩き込んだ。
「す、凄い……」
その連携の見事さとショウと言う男性の強さに驚いたのか、沙紀があんぐりと口を開けて呟く。
「さっすが、あたしの旦那様!でも、ちょっとやり過ぎなんじゃない?」
ハル姉がショウと言う男性に抱き付きながら、少し哀れみの篭った目で倒れ伏したチンピラを見る。
「ああ、俺もちょっとやりすぎたかも知れないが、こういうバカガキには
少しお灸を饐えなきゃダメさ。亜由美、警察は呼んだのか?」
「ええ、一応ね。それにしても電波の入りが悪いわね」
そりゃ、こんな田舎じゃね……
まだまだ携帯電話も普及して無いからな。
「大丈夫、雅人?」「雅人さん、ごめんなさい……」
沙紀と義姉さんが心配そうに俺に近付いて来て声を掛ける。
「ああ、大丈夫だよ。それより、ありがとうございました」
俺はハル姉達に向かって頭を下げながら礼を言った。
「良いの良いの!それよりまーくんに怪我無くて良かったわ!」
相変らずの元気の良さでにっこりと笑うハル姉。
「始めまして、雅人くん。噂は遥から聞いてます。
俺は遥の旦那の……」
「あたしの最愛の旦那様、ショウよ!仲良くしてね。
それとあたし達の親友の、亜由美と深見くん!
今年は順ちゃんの結婚祝いとあたし達の結婚報告と、ついでにスキーを纏めて来たってワケ!」
ハル姉の勢いに押され、苦笑しながら挨拶をしてくれる三人と話ていると、
サイレンの音を響かせながらパトカーがやって来るのが見えた。
「雅人、大丈夫か?」
警察署での事情聴取が終わり、みんなで一緒にぞろぞろと出て来ると
待合所には急いで駆け付けた親父と兄貴が心配そうにしていた。
とりあえず全員で家に戻り、先に帰っていたお袋にお茶を淹れて貰って一息つく。
「ショウくんも遥も、お友達のお二人にもご迷惑をお掛けして……」
「いえ、気になさらないで下さい」
親父と兄貴が改めてショウさん達に頭を下げ、お礼を言う。
ハル姉達は昨日から本家に泊まっていて、今日はたまたまブラブラ散歩していたら
沙紀と義姉さんが血相変えて走ってきて助けを求めたそうだ。
「沙紀ちゃんとは昔、子供の頃来た時に一緒に遊んだから覚えてたのよ」
ニコニコと嬉しそうに笑いながらハル姉が言い、
「それにしても、遥の旦那さんは強いんだな。
刑事さんが感心していたよ。ま、あの連中は評判の悪ガキ共だから良い薬だろう」
親父もニコニコしながら答えている。
だが、俺の中でちょっと気になる事が有る。
あのチンピラ共は義姉さんを知っている様だった。
一体、義姉さんとあいつ等の間には何が有ったんだろうか……?
「雅人、ちょっと顔貸してくれ」
ポン、と肩を叩きながら兄貴が突然声を掛けて来た。
その後ろには顔を伏せたままの義姉さんが寄り添っている。
「あ、ああ」
俺は和やかに談笑する座を離れ、兄貴の部屋へと向かった。