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絡まれて駒川

「くそっ!どこに行ったんだ!」

かなり遠くまで来たのだが、まったく姿を見つけることが出来ない。

しまった……義姉さんの携帯番号、聞いて置くんだった。

俺は迂闊な自分を呪いながら、

「義姉さん!返事してくれ!」

と叫びながら再び駆け出した時、


ピリリリリリリ!


と俺の携帯が鳴り出し、急いでディスプレイを見ると沙紀からの着信だ。

「もしもし、俺だ!」

「雅人!見付けたわ!でも、彼女がヘンな連中に絡まれてて……

 今、駒川ぞいの水位観測所の近くなの!早く来て!」

ヘンな連中?くそっ!急がなきゃ!

俺は、かつて俺や沙紀が通った通学路でも有る、駒川の堤防沿いの道を目指して駆け出した。


五分ほど全力疾走し、水位観測所が見えてきた所で一旦足を止めて深呼吸する。

目を凝らすと、ピンク色の振袖姿の義姉さんと巫女衣装のままの沙紀が

数人の男に囲まれているのが見える。

くそ!一体何だって言うんだ?

とにかく行かなきゃ!!

……しかし、俺は腕っ節にあんまり自信が無いんだよな……

とりあえず二人を逃がして人を呼んでもらうしかない。

俺はもう一回深呼吸をして、覚悟を決めて駆け出した。


「巫女の姉ちゃんには関係ないんだよ。俺達は舞奈に話が有るんだ」

ようやく話し声が聞こえる所までたどり着いた時、

男の一人が吐いた言葉に俺は戸惑ってしまう。

今、確かに舞奈、って義姉さんの名前を言ったよな。

なんで名前を知ってるんだ?義姉さんが教えたのか?

「そうだよ、久し振りに会ったんだ。ちょっと位付き合っても罰は当たらないぜ?」

もう一人、中でも一番チンピラチックな男がニヤニヤしながら義姉さんに向かって手を伸ばす。

「止めなさい!あなた達、高校生でしょう!?」

沙紀が男達をきっと睨みつけ、チンピラの手を払った。

「痛ぇ!あ〜、手首を痛めちまった!こりゃ、慰謝料でも貰わないとな!」

わざとらしく払われた手を痛そうに押さえながらチンピラが喚くと、

周りを囲んでいる男達がゲラゲラと笑い出す。

「舞奈だけじゃなく、巫女の姉ちゃんにも付き合ってもらおうぜ!

 舞奈一人じゃあ、待ち時間が長くてたまんねえぜ!」

……何の待ち時間だ?

そんな事はどうでも良いが急がなきゃ!

「お待たせ!遅くなっちまった」

俺は、なんでもない風を装いつつ、男達と沙紀の間に割って入った。


「雅人!」「雅人…さん」

俺の顔を見て沙紀と義姉さんの顔が安堵に綻ぶ。

義姉さんの顔は真っ青、沙紀の顔は怒りの為か真っ赤になっている。

だが、そんなに喜ばれても、あまり俺は頼りにならないぜ……

沙紀、お前は知ってるだろうに。


「なんだ、てめえ?」

手をブラブラさせていたチンピラが下種な眼つきで俺にガンを飛ばしながら吐き捨てる。

「俺はこの二人の保護者だ。君らは一体何なんだ?」

努めて冷静に、なるべくチンピラを刺激しない様に穏やかに話し掛ける。

「はぁ?保護者だあ?へえ、そりゃ凄ぇや!

 舞奈、お前いつの間にこんなおっさんを誑かしたんだ?」


先ほどからの様子を見ていると、コイツらは義姉さんと昔馴染みっぽいが……?

「義姉……舞奈さん、彼らと知り合いなんですか?」

俺が義姉さんを振り返りながら聞くと、真っ青な顔のままビクン!と大きく震える。

「あ、あの、あの……、昔の、知り合いなんです」

顔と視線は地面を向き、ガクガクと体を震わして掠れた声で答える義姉さん。

なんだか、様子がおかしいな。

「知り合いだってよ!冷てぇじゃねぇか!俺達とは散々愛し合った仲なのによ!」

チンピラの叫びが響き、他の連中も下卑た笑い声を上げ始める。

愛し合った、だと?どういう意味だ?

俺は、チンピラの小バカにした様な態度にイラつき、

「何がおかしい!舞奈さんが何かした訳じゃないのなら、俺達は帰らせてもらうぞ!」

と叫んで沙紀と義姉さんの手を握り、チンピラ共に背を向けて歩き出した。


「おい!待てよおっさん!久し振りに会った友達に冷たい態度を取った舞奈には

 ヤキを入れてやらなきゃならねぇんだ。ま、ヤキっつっても舞奈の大好きな事だがな」

再びぎゃははは!とバカ笑いし始めるチンピラ共は無視して歩き続ける俺の右手には、

ぎゅっと握った義姉さんの手から張り裂けそうな程に脈打つ鼓動が伝わってきている。

「それに、巫女の姉ちゃんにも俺の手首を痛められちまったしな!

 慰謝料を払うか体で払うか、選ばせてやるよ」

チンピラの声に、沙紀が思わず振り返りながら

「なんですってぇ!」

と叫びかけるのを

「放っておけ!帰るぜ」

と制止してグングンと歩く。

「おっさん!待てって言ってんだろ!!」

チンピラ共がダッと掛けてくる気配を感じ、

「沙紀、義姉さん!走れ!」

と声を上げて二人の手を放して叫びつつ振り返る俺。

「雅人!直ぐに人を呼んでくるから!!」

さすが沙紀、良く解ってるな。

「ああ!早いトコ頼むぜ!」

俺はそう言いながら、沙紀と義姉さんに掴みかかるチンピラの首根っこを掴んで振り飛ばした。


「痛ぇ!このオヤジ!」

転んだチンピラが悲鳴を上げると同時に、他の数人が俺に掴み掛かる。

「こういう時は、まずは弱そうなヤツを仕留めるんだっけ!?」

会社の先輩から習った護身術が本当に役に立つ時が来るとはね……

全く、物騒な世の中になったもんだぜ。

しかも、これでガキ共に怪我させたら俺が責められかねないなんて、

少年法なんて下らない法律を未だ維持するこの国はもう末期だよ、全く。

俺はブツブツとボヤきながら一番小柄なヤツ目掛けてダッシュし、ショルダーアタックで吹き飛ばす!

もんどりうって倒れ込んだガキに向かってジャンプし、鳩尾に手加減しながら爪先を叩き込むと

「げえ」

とカエルが潰れた時の様な声を上げて失神した。

「よし、次!」

俺が気合いを入れながら振り返った瞬間、

「殺してやんよ!!」

物騒な言葉を気楽に吐きながら掛けてきたチンピラの持った警棒が、俺の背中に振り下ろされた。



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