泣きじゃくりエスケープ!
「ん……」
義姉さんの小さな喘ぎ声に思わず心臓の鼓動が一オクターブ跳ね上がる。
柔らかな唇が少し開き、暖かい舌がそっと俺の唇に触れた。
どうする、俺。俺の唇をチロチロと舐めているこの舌を受け入れるのか?
ってか、そうじゃなくて!どうなってんだこの状況は!
なんで俺は俺の実家で兄貴と昨年末に籍を入れた十七歳の義姉さんと
デイープキスをするかしないかで心揺らせてんだよ!
「にゅん……」
あ。舌が入ってきた。
そ、そうだ!押し戻すんだ!
舌を出して、押し戻す……
「はん……」
にゅる、とした感触と共に義姉さんの舌が俺のそれに絡み、
脳天が痺れるような快感に襲われる。
俺は義姉さんの舌を義姉さんの口の中に押し戻す。
「ひゃうん……」
可愛らしく喘ぐ義姉さんの声に興奮し、今度は義姉さんの中で義姉さんの舌を味わい始めた……
って。をい。
何やってんだ俺はああああああ!!
キスも状況も仲良く濃厚に、いや違った混乱させてどうするんだ!
こんな所誰かに見られたら、言い訳も何も有ったもんじゃ無ぇだろうが!
言い訳なんてしてもいいわけ?
はっはっはっはっは……
待て。おちけつ。いや落ち着け。
と、とにかく唇を離さなきゃ!
「んっ、んちゅ……はあうん……」
なぜ離す方向じゃなくもっと深い方向に行っている?
そうだ、せーのー、それっ!!
で離そう。そうしようそうしよう。
いくぜ!
「へーのー!」
……ダメだ!義姉さんが上に乗っている限り、いくらせーのーしても離せない!
な、何か良い手は……!
とにかく、目を開こう。
せーのー!
パチっ!
おお、世界が明るい。そりゃまだ昼だからな。
俺の前には目を瞑ったままの義姉さんが居て、おでこに汗を掻きながら一生懸命、
って感じで俺にキスをしている。
ん?義姉さんの向こうにもう一つ顔が見える……様な……
って、誰だあ!!
ガバッ!ゴチッ!
「きゃん!」「痛ぅっ!」
キスをしている俺達を覗き込んでいる女の顔に気付き、驚きの余り顔をすごいスピードで上げ
義姉さんの歯と俺の歯が良い音を立ててぶつかった。
「ひゃう〜、痛いですぅ〜!」
義姉さんが唇を両手で押さえながら半泣きになっている。
俺も相当な痛みに涙目だが、それ所じゃない!
「ひゃ、ひゃれひゃ!?」
だ、誰だ、と言った積りだがなにがなんだか良く解らない発音になっちまった。
「何やってんのよ、バカ雅人!!」
そこには、さっき別れて来たばかりの沙紀の怒りに燃えた真っ赤な顔が有った。
「信じられない!お兄さんの奥さんとキスしてるなんて!!」
俺と義姉さんを正座させて見下ろしながら腕を組み、プンプンと怒りまくっている。
「いや、その、誤解だ沙紀」
恐る恐ると嘘っぱちな言い訳を言い掛けた俺をギン!と睨みつけ、
「五階も六階も無いわ!どうすればアレが誤解になるワケぇっ!?」
「えーとだな、実はちょっとフザけていて義姉さんが俺の上に倒れてきて、
んでもって位置が丁度合っちまって偶然お口とお口がピッタンコ、みたいな」
ふん!と鼻を鳴らしながらせせら笑い、
「へー。んでそのまま偶然にも舌が入っちゃって、更に偶然にも絡んじゃったってワケ」
……いつから見てたんだお前は……
「とにかく!大問題ですからね!順ちゃんに何ていう積り?」
っていうか、お前が黙っててくれれば良いんだが、そんな事言った日にゃあ
沙紀大魔神の怒りモードが更に更にエキサイトするのは自明の理。
一体、どうすりゃ良いんだよ……
俺が途方に暮れたその時、隣で俯いていた義姉さんが
「えっ、えっ、えっ……ふえええ〜ん……」
と、突然声を上げて泣き出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい!何でもしますから……
もう苛めないで!許して……」
あーんあんあん、と子供の様に泣き出した義姉さんを見てぶったまげてしまう俺と沙紀。
涙をボロボロと零し、鼻水まで流しながら泣きじゃくっている。
「ね、義姉さん!大丈夫!?」
はっと我に返った俺は義姉さんの肩をやさしく掴んであやすように話しかける。
が、まったく泣き止む気配は無く、
「ひ〜ん……ああ〜ん!」
と声が枯れそうなほどの勢いで泣きじゃくるばかり。
「ちょ、ちょっと雅人!何とかしてよ!」
さすがの沙紀も相当焦り、俺を困り果てた目で見ながら言ってくるが、
一体どうすればエエっちゅうねん!
こっちが泣きたいわ!
と。突然立ち上がった義姉さんがダッ!と駆け出し、
泣きながら玄関から飛び出していった。
一瞬何が起こったのか解らず、俺と沙紀は目を合わせてポカン、と口を開く。
「……雅人!追い掛けて!」
最初に我に返った沙紀が叫び、「あ、ああ!」俺も正気に戻って義姉さんを追って家を飛び出す。
だが、もう既に義姉さんの姿は影も形も見えない。
「くそっ!どっちに行ったんだ!?」
俺が玄関を出た所でキョロキョロしていると、沙紀が続いて家から出て来て
「何やってるのよ!早く追いなさいよ!」
と怒鳴る。
「どっちに行ったか解らないんだよ!」
俺の叫びに一瞬迷った沙紀だが、
「じゃあ、私は右に行くからあんたは左ね!見つけたら携帯で連絡して!」
と言い放ちダッと駆け出していく。
ってアイツ、巫女衣装のまま何やってんだよ。と言うより、何しに来たんだ?
そんな事を考え始めたが、
「そんな場合じゃないだろ、俺!」
と口に出して叫んで俺も駆け出す。
義姉さん、どうしちまったんだ?
俺は先ほどの義姉さんの尋常ではない様子を思い出しながら、ピンクの振袖姿を探して駆け続けた。