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剥製世界  作者: 望月 朝日
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muse over memories of the past/the near future


ぼくが幼い頃、両親が博物館に連れて行ってくれたのを覚えている。そこで見たものは、剥製にされた動物たちだった。多くの動物たちを直ぐ目の前まで見ることが出来るのだ。

見たことない動物も数え切れないほどいて、動物園よりも楽しかった。


ぼくは、その博物館で疑問に思った。

動物たちは何故動かないのだろうと。


母にそのことを訊ねた。動物たちは死んでいるから動くことはもうない、と言われた。


当たり前だ。仕方ない、ぼくは幼かったから、まだ死と言う言葉、概念を知らなかった。


そして、飾られた動物たちがとても冷たい目で、ぼくを見つめているように見えてきた。


死んだ目でぼくを見つめている。

恐怖を感じた。

死の恐怖。

生まれたら必ず死がやってくる。

それが命というものだ。


もうひとつ疑問に思った。


ぼくは父にこう聞いた。

「何故人間の剥製はないのか」


その時父は、将来この子は世界で有名な殺人鬼になるかもしれないぞと笑った。



博物館に行ったその夜、ぼくは眠れず、泣いた。隣で母が寝かしつけてくれても眠れなかった。

死の恐怖がぼくを、襲ったのだ。


このことを母に言うと優しくこう答えた。

「ライオンに追われるシマウマは、いつも死ぬのを恐れ、涙を流すか。豚は食べられる為に死ぬことを恐れ、涙を流すか」



死の恐怖を、一生背負い続けなくては生きることなんてできない。



その言葉を聞いて、ぼくは少し気が楽になった気がして、眠りにつくことができた。


その夜、夢を見た。

両親の皮膚が剥がれ落ちていく夢だ。はじめに顔から、父は筋肉の繊維がむき出しになり、母は目玉が落ちていった。

そして段々と、2人の全身の皮膚が剥がれていき、骨と化してしまった。

ぼくはただ、呆然とその光景を見つめていた。



3日後、両親は死んだ。


乗っていた飛行機が、テロの標的とされて。たった5歳のぼくを置いて、死んだ。


ぼくの親権は、祖母が引き取ることになった。祖母はとても厳しく、優しかった。本や映画が好きになったのも祖母の影響が大きかった。



そんな祖母も、14歳の時に死んだ。


9年間という、両親よりも長い間ぼくを見守ってくれた祖母も、十字架の下で眠りにつくことになってしまった。



死の恐怖は知っている。とても幼かった頃から。



愛犬が死ぬ、ずっと前に。


両親が死ぬ、ずっと前に。


祖母が死ぬ、ずっと前に。


友人が死ぬ、ずっと前に。


ルーニーが死ぬ、ずっと前に。



ぼくが死ぬ、ずっと前に。



世界のありとあらゆる生命が未来永劫、地球という博物館が消えるまで飾られ続ける未来は、そう遠くないはずだ。


喜びも、悲しみも、何も感じない。

死と言う概念も忘れ去られることだろう。



剥製となった世界では。



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