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ちょっと説明が足りないかもですが、次回以降で補って行きます。
「『《記録省》デノ取材終了セリ。13時ヨリ《情報審査会》へ向カフ』・・・・・・っと」
メモを伝書鳩の足にくくりつけ、真美はそれ行け、と放った。《記録省》の玄関口から放たれたそれは勢いよく大空へと羽ばたいていった。
「よしよし。ちゃんと行ってよね」
降り注ぐ太陽に目を細めつつ、真美はつぶやいた。
行動記録を逐次《オペレーション・ジャーナル社》の本社に送っているのは特別な義務というわけでもなく、彼女なりの防衛策だった。
彼女が現在取材しているネタは下手をすれば日本という国家の根幹を揺るがし、壊しかねない代物だ。もちろん真美自身もそれを自覚しているし、責任も感じている。それ故命を狙われるかもしれないという危険もわかっていた。
ただ、周りのものに話しても理解してはもらえないのだが。
「絶対おかしいんだから。《778号事件》は絶対過失事故なんかじゃないのに」
水野真美という名前は一時期日本社会を席巻していた。若き女性ジャーナリストがすっぱ抜いたネタはあまりにもセンセーショナルだったからだ。
『《778号事件》の真実~《真実書記官》のウソ~』
そう銘打たれた特集記事は瞬く間に人々の間に流布されていった。
《778号事件》。
二年前に起きた、荷馬車と会社員の男性が接触事故を起こした事件である。男性は轢死し、体はバラバラに飛び散ってそれは悲惨だったという。ただ不思議だったのが、その事件が起きた土地は開けており、視界もよく、道幅も広かったということだ。それでも夜のガス灯だけしか光源のない薄暗い中で起きた事件だというなら、真美も納得したはずだった。しかし事件発生時刻は日中。荷馬車の主が馬車を止めようとした痕跡もなく、男性はそのまま即死したということになる。
これは事故なのだろうか。
真美の疑いはある事実を持っていよいよ本格的に強まってきた。
馬車を引いていた主は、男性の妻だったのだ。これはどうもおかしい。彼女は本腰を入れて現場検証などを伴いつつこの事件を追っていった。そうしている内に真美の中にある確信が生まれた。
これは、殺人事件だ。
しかしその確信を持って情報を詰めていった彼女の元に、芳しくない状況が訪れた。裁判となった結果、殺人罪での起訴は退けられ、過失致死罪でのみの起訴となったのだ。結果は懲役三年、しかも執行猶予つきの判決だった。検察はそれ以上の追及をせず、控訴を諦めてしまった。裁判を傍聴していた真美は思わず抗議してしまったが、退廷を宣告されてしまったのは苦々しい思い出として今でも刻まれている。
そこまで裁判官の信用を得た、弁護側の証拠とは何だったか。
それこそが《真実書記官》の記録であった。どう考えても不自然な状況がまことしやかに記述されており、証言台に立たされた識別番号778号《真実書記官》はそれを全面的に事実だと告げた。その証言が得られた瞬間、弁護側の勝利と検察側の敗北が決まったと言っていい。裁判長は778号が男性の妻をかばう理由もなく、彼の証言が客観性に担保されたものであることを示唆し、厳粛にその判決を告げた・・・・・・つもりなのだろう。
だが真美からすればそれはあり得ない話だった。それ以降、真美は《審判の日》以降タブーとされていた《真実書記官》と《記録省》に疑いの目を向ける記事を書き始めた。記事は波紋を呼び、一時期は世論の矛先は《記録省》に向いた。そのとき水野真美という名前は体制を打倒するジャンヌ・ダルクのような響きを持って口にされていたことは正直真美自身も気づいてはいた。
しかしその後の論理の甘さや根拠不足を指摘され、《オペレーション・ジャーナル社》は公式に謝罪文を記事として掲載、《778号事件》はなかったものとして扱われることになってしまった。
それ以来、社内で真美は腫れ物扱いだった。安否のために居所を知らせている先である、肝心の本社の担当も、彼女のメモを読みもせずに放置しているくらいだった。
しかし水野真美という女はそれで止まるような人物ではなかった。
「絶対、暴き出してやる」
真美はそう改めて決意して前を見据えたのだった。




