空の軌跡
眠たい目をこすり、朝焼けに染まる空を見上げた。
気の早い鳥たちが羽を広げ、焦点の定まらない陽光を切るように滑空していく。
鳥たちは空に思い思いの軌跡を描き、私は寝ぼけた頭の裏にその軌跡をぼんやりと写していた。
半分ほど開いた窓からは乾いた風が吹き込み、部屋の隅で小さく渦を巻いた。
「秋が行くね」
少女は名残惜しそうな声で部屋の隅を見て言った。
「すぐに冬がやって来るよ」
私は答えた。
コーヒーメーカーからはふんわりと温かい香りが立ち、部屋の隙間を埋めるように広がっていく。
私はマグカップを2つとり、コーヒーを注いだ。
ミルクとスティックシュガーを添えて、1つを少女に手渡す。
少女はマグカップだけ受け取ると、後はいらないと言った。
「それで、これからどうするんだい」
少女はマグカップを両手で持ち、唇に触れるかどうかというところで、息を吹きかけていた。
息を吹きかけながら、私の目を上目遣いに覗き込む。
薄茶色の瞳の奥では、窓から差し込む朝陽が時折きらめいた。
「どうするって」
1Kの狭い部屋には、使い古したTVと使い古された万年筆、束になった紙の山、少女の座っているベッド、足元には真新しい寝袋が転がっていた。
「今日は天気がいいから、どうするってこと。
それとも、私が将来どうなりたいかってこと」
少女はコーヒーを一口飲むと、顔をしかめた。
私はミルクを差し出す。
少女は少し考えてから、ミルクを受け取った。
「そうだな、まずは朝食の心配でもしようか。
今日は天気も良さそうだ。
朝食を食べたら、どこか外へ出掛けよう。
どこへ行くかも考えないとな。
確かに、『どうする』にも色々とありそうだ」
少女は僅かに微笑んだ。
年齢にそぐわない、大人びた影が少女の傍らで揺れていた。
朝陽の差し込む音まで聞こえてきそうな静寂が、肌から身体の中心に向かって染み込んでくる。
「どこへ行くかはもう決まってるよ」
少女はもう一口、コーヒーを口に含む。
今度は十分に味わってから、名残惜しそうに小さな音を立てて飲み込んだ。
「それで、どこへ行くんだい」
少女はベットから立ち上がり、私の手を握った。
過去の記憶の陽炎が心の琴線を揺らす。鼓動が少し高鳴った。
「決まってるじゃない。冬を迎えにいくのよ」
少女は私の手を引きながら、薄暗い玄関のドアを勢いよく押し開けた。
勢いを増した朝陽が、少女の華奢な身体を透かして、部屋に飛び込んでくる。
急な光に私は目を細める。
ふいに、少女の姿が光に溶けてしまいそうな、ひどく頼りなく恐怖が私を襲った。
少女の手は、なおも私の手を先へ先へと引いていく。
私は少女の手を少しだけ強く握り返した。
目はまだ開かない。
瞼の裏では鳥たちが、青空に隠れた冬を探して舞っていた。




