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よしたかちゃんのほうき

作者: 向井孝雄

これは、テレビがまだ珍しかったころのお話しです。

2月にしては暖かい午後でした。よしたかちゃんは一人で縁側に干してある敷布団にすわってひなたぼっこをしていました。

となりの家の横の狭い路地から、一人のおばあさんがほっかむりをして、たくさんのほうきをせおってやってきました。

「ぼくは、ひといね?」(ぼくは、ひとり?)

「うん。」

「おかあさんは、おらんと?」(いないの?)

「うん、かいもんにいっちょる。」(かいものにいってる)

おばあちゃんは、すこしがっかりした顔をしました。

「そんげほうきをいっぺかかえち、なんしよっと。」(そんなにほうきをいっぱいかかえて、なにしてるの)

よしたかちゃんにはふしぎでした。

「ちょっとすわっていいいかね。」

おばあちゃんは、せおっていたほうきを下におくと、どっこいしょと、よしたかちゃんのよこにならんで縁側にすわりました。

「うちんげはね、にいがたちゅう、北のほうんさみーところにすんじょっとよ。ふゆになっとね、そらーもうゆきがふってふってかなわんとよ。のうぎょうもできんかい、こげんしてほうきを作って、うりにまわりよっちゃわ。」(わたしのところはね、にいがたという、北のほうの寒いところにすんでるのよ。ふゆになるとねそれはもうゆきがふってふってたいへんなのよ。のうぎょうもできないから、こうしてほうきを作ってうりにまわっているのよ)

よしたかちゃんには、よくわかりませんでした。

「そんげとおくからきちょっと?」(そんなにとおくからきてるの?)

「うん。汽車でふつかかかっとよ。」

おばあちゃんは、おおきなためいきをついて、縁側から立ち上がりました。

「そんなら、次のうちにいかんとな。」

おばあちゃんがせおったほうきはとても重そうで、よしたかちゃんはかわいそうに思いました。

「おばあちゃん、そのほうきはなんぼすっと?」(いくらなの?)

「一本500円じゃけど、ぼくは、おかねもっちょっと?」(おかねもってるの?)

いまの値段にして5000円くらいです。ずいぶんたかいほうきですね。

「うん。お年玉の残りがあっとよ。」

「ちょっとまっちょって。」(まってて)

よしたかちゃんは、おくのへやへいって、つくえのいちばん上の引ひきだしあけてみました。お年玉でもらったポチ袋をひっくりかえすと、ちょうど500円玉が一個ポロリと転がりだしてきました。これで、おとしだまは最後です。よしたかちゃんは、すこし考え込みました。

「はいこれ、500円。一本かっちゃるわ。」(一本かってあげる)

おばあさんは、ちょっとこまったようなかおをしました。

「ぼくは、お年玉がなくなるっちゃないと?」(お年玉がなくなるんじゃないの?)

「うん。でもいいとよ。おばあちゃん、とおくからきたっちゃろう。はようほうきうって帰らんと重いやろ。」

おばあさんは、涙が出そうになりました。

「じゃ、ぼくはまだちっちゃいから、おまけしてやるわ。」

おばあさんは、100円をおまけとしてよしたかちゃんに返しました。

「わー、ありがとう。おばあちゃんいいひとやね。」

「じゃね。ありがとね。」

おばあさんは、その場を逃げ出すように立ち去りました。

おばあちゃんが居なくなったあと、縁側に残された真新しいほうきを眺めながら、よしたかちゃんはなんか幸せな気分になりました。

「ただいま。」

お母さんが帰ってきました。

「留守中なんもなかったね?」(なにもなかった?)

言うなり、お母さんは縁側にかかっているほうきを見つけました。

「そんほうきはどんげしたと?」(そのほうきは、どうしたの?)

よしたかちゃんは、事情を話しました。

「ばっかじゃが。そんげたけーほうきをこうてぇ。それん、そんげとおくからわざわざうりんくるわきゃねーがね。だまされたっちゃが。」(ばかだね。そんなたかいほうきをかって。それに、そんなにとおくからわざわざうりにくるわけがないでしょう。だまされたんだよ)

よしたかちゃんはなみだ目になっていました。

「じゃけん、おばあちゃんがかわいそうじゃったちゃもん。」(だって、おばあちゃんがかわいそうだったんだもん)

おかあさんは、今にも泣き出しそうになっているよしたかちゃんをみて、ハッと気がつきました。

「ごめんごめん。お母さんが悪かった。よしたかはやさしい子じゃね。」

そういって、おかあさんは財布から500円玉をとりだすと、よしたかちゃんのてににぎらせました。半分泣きべそをかきながらキョトンとしているよしたかちゃんに、おかあさんは言いました。

「せっかくかったほうきやから、あしたからよしたかが、そのほうきで庭掃除をしなさい。これはおだちんだよ。」


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